SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume2 No.1

Section B : Industrial Application Report

低アルカリ性セメントの初期水和における反応過程の経時的観察
Temporal Observation on Hydration Process of Low-alkali Cement

DOI:10.18957/rr.2.1.37
2011B1979 / BL19B2

人見 尚

Takashi Hitomi

(株)大林組

Obayashi. Co. Ltd.



Abstract

 放射性廃棄物処分場に用いられるセメントは、環境要件より低アルカリ性であることが求められる。このために、産業副産物であるフライアッシュやシリカフュームの混和が行われている。本研究では、普通セメントに産業副産物を混和した低アルカリ性セメントの改善を目的とし、撮影条件の設定や時分割による測定を試みた。X線回折を用い最適な実験条件の設定を行ったうえで、低アルカリ性セメントと普通セメントの差異の確認、さらに低アルカリ性セメントの練混ぜ後1時間ごとの反応の経時変化が観察できることを確認したが、試料の保水性に課題があることを見出した。使用量を減らしても従来のセメントと比較しても遜色ない結果を得ることを確認した。


キーワード: 低アルカリ性セメント、粉末X線回折、初期水和度評価


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背景と研究目的:

 放射性廃棄物処分場に用いられるコンクリートは粘土鉱物であるベントナイトに接する形での施工が検討されている。コンクリートは、セメントと水および砂と岩石を混練りして作製される。このうちセメントは結合材の役割を果たし、ケイ素やカルシウムを主成分としている。このためコンクリートはカルシウムのため水に触れると高いアルカリ性を示す。一方で、ベントナイトはカルシウムイオンの作用で変質を起こし、防水等の期待される機能を発揮できないことが懸念されている。

 そこで、コンクリートに用いるセメントが硬化の際に生成する鉱物は難溶性のものを主成分とし、アルカリ性の原因となる水酸化カルシウムをなくすように変化させた’低アルカリ性セメント’が検討されている。低アルカリ性セメントのコンセプトは、普通ポルトランドセメント(以下、OPC)に産業副産物である石炭火力発電所から発生するフライアッシュ(以下、FA)やフェロシリコンの精錬の際に発生するシリカフューム(以下、SF)などケイ素を主成分とする材料を混和し、カルシウムをケイ素と結合させ難溶性のカルシウムシリケート水和物を生成させることにある。本研究では低アルカリ性セメントのうちOPCの4割をFAに置換し、2割をSFに置換したHFSC(Highly Fly-ash contained Silica-fume Cement)を対象とする。

 しかしながら、現在のHFSCは、いまだ水酸化カルシウムを消費し尽くすまでには至らず、また試験的に作製された水酸化カルシウムを含まないセメントは強度が十分でない現状がある。この原因として、FAの反応活性度が低いのに対し、SFの反応活性度は極めて高いという混和する材料の活性度のアンバランスにあると考えている。特にSFは、練混ぜ開始より48時間程度で反応が終了すると考えられ、この期間における短い時間感覚での観察が必要と考えられる。本研究は、強度を確保したうえで、アルカリ性を下げたセメントの開発を目的とし、特にこれまで用いていたFAの改質によって効率的な水酸化カルシウムの消費を目指すものである。このような水和物の生成の分析には、X線回折が最適であり、1時間ごとの反応の経時変化を観察できるSPring-8 BL19B2の装置が最適と判断した。今回は、まず試験が可能であること、さらに試験器具を含めた試験の最適条件を定めることを目的とした。


実験:

 最適な実験条件の選定を目的として、1)試料を封入する材料の影響の把握、2)OPCとHFSCとの回折チャートにおける違いの確認、3)観察材齢に応じた回折チャートの変化の把握を実施した。

 まず1)においては、セメントに水を加え、水和の進行に伴う鉱物相の変化を追うことが目的であるため、封入材であるガラスキャピラリーの回折チャートへの影響を評価した。2)においては、セメントに水を加え、練ったものをキャピラリーに封入し両端を粘土でシールし、測定系への固定を行った。練混ぜから測定までの時間は1時間とした。回折チャートに現れる水和相の違いがどの程度現れるかを把握した。3)においては、1時間ごとの測定とした。材齢に伴う鉱物相の変化が主目的であるが、水の進行に欠かせない水分が保持されるかの確認も行った。

 粉末X線回折の条件は、BL19B2の大型デバイシェラーカメラ、X線検出器としてイメージングプレート、照射X線の波長は0.7 Åとし、キャピラリーはHildenbergの低吸収ガラスのφ0.8 ㎜、各測定の露光時間は5分とした。


結果および考察:

 封入材の候補であるHildenbergおよびBolocapからなる低吸収ガラスの測定を行った。図1にキャピラリーの分析結果を示す。参照試料として水酸化カルシウムの結果も併せて示す。いずれも鉱物の測定に影響のない範囲であることを確認し、特に吸収の少ないHildenbergのものを用いることとした。次いで、封入直後のOPCとHFSCの測定結果を図2に示す。表示の角度範囲は14~16°とした。この範囲では、ICSDの結晶データベースによると14.3°付近に未水和のセメント鉱物であるエーライト、14.7°付近にはビーライトのピークが卓越して存在し、前者は反応性が高く、後者は反応性が低いが、水和により水酸化カルシウムやカルシウムシリケート水和物に転ずることが知られており、HFSCでは、その消費が始まっていることが分かる。また、15.8°付近にはHFSCのみピークが表れており、OPCとは異なる反応が起きていることが分かる。また極めて細いキャピラリーに封入した少量の試料でも十分な情報が得られることを確認した。

 図3にHFSCの封入後からの1時間ごとの分析結果を示す。時間の進行に伴い、未水和のセメント鉱物が水和により消費されていく様子や、15.3°付近で新たなピークが形成される様子が分かる。セメント鉱物に関しては、現れる鉱物相が多岐にわたり、現状ではこのピークにあたる鉱物は特定できていない。この後は、回折チャートに変化が見られず、調べたところ試料の乾燥が発生しており水和が停止したことが確認された。またこの傾向は、実験期間を通じて改善せず機密性に関し改善が必要であることが分かった。


今後の課題:

 今回の測定では、低吸収ガラスキャピラリーに試料を封入したが、封入のシール性が低く試料の乾燥が避けられず、水和による経時的変化を追うところまでは到達できなかった。この課題に対し、現在はサンプルホルダーの仕様を詳細に把握し、シール性を高めた測定治具の開発に取り組んでいるところである。また、鉱物データを拡充し鉱物相の特定を可能な限り進める。



図1. キャピラリー(HildenbergとBolocap)、水酸化カルシウムの粉末X線回折



図2. 混和直後のOPCとHFSCの粉末X線回折(OPC:普通ポルトランドセメント、HFSC: 低アルカリ性セメントのうちOPCの4割をFAに置換、2割をSFに置換)



図3. HFSCの粉末X線回折の混和後の経時変化



ⒸJASRI


(Received: May 7, 2012; Early edition: April 25, 2014; Accepted: July 3, 2014; Published: July 10, 2014)