SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume2 No.1

Section B : Industrial Application Report

接着強度におよぼすニッケルめっき構造の影響
Influence of the Nickel Plating Structure to Cause to Adhesive Strength

DOI:10.18957/rr.2.1.61
2012A1752 / BL14B2

岡本 泰志

Yasushi Okamoto

(株)デンソー

DENSO Corp.



Abstract

 近年自動車部品のエレクトロニクス化が進展しており、これに伴い電子デバイスにおけるニッケルめっきとエポキシ樹脂の密着性の向上が課題となっている。そこで本課題ではニッケルめっき表面の化学構造をXAFS測定により解析し、エポキシ樹脂の接着性との関係について検討した。その結果、ニッケルめっき表面の構造はめっき条件によりNiまたはNi3Pの構造を有していることが明らかになったが、接着性との相関は認められなかった。


キーワード: ニッケルめっき、エポキシ樹脂、接着、X線吸収、転換電子収量法


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背景と研究目的:

 近年の自動車業界では、環境に適応する製品開発が進められており、省エネ(燃費向上)のための軽量化や排気ガス浄化のためのエレクトロニクス化が進展している。このため用いられる材料は金属から樹脂に変わり、製品形状は小型化している。これに伴い接合方法も従来の金属接合から接着が多用されるようになってきた。一方で自動車用途では高度な信頼性が要求され、樹脂材料および接着接合でもばらつきを低減して強度を向上し、かつ長寿命を達成する必要がある。本研究は自動車部品の接着接合の信頼性向上に関するものである。

 最近自動車で多用される電子デバイスは、リードフレームのベッドに半導体チップを接着し、さらにワイヤによりチップとリードを接続し、これらを一体のものとして熱硬化性樹脂により封止することによって作製する[1]。リードフレームには耐食性やハンダ特性の向上のためニッケルめっきが施される場合が多い。封止用樹脂には成形作業性、価格などで優れているエポキシ樹脂が多用されている。樹脂封止は、主としてパッケージ内への水分の進入防止(耐食性)とチップやワイヤ、ハンダ付け部の固定による回路の断線防止を目的としているが、自動車用途ではデバイスが使用される環境が厳しく(高温~低温、高湿、振動等)、リードフレーム(ニッケルめっき)と封止材(エポキシ樹脂)との界面の接着性が低下することが懸念される。ニッケルめっきは、めっき液組成(リン濃度、添加剤等)やめっき条件(前処理、pH、温度等)等により表面状態が異なり接着性も大きく変化するがその詳細は不明な点が多い。そこで本課題では転換電子収量法によるXAFS測定で種々のめっき液組成およびめっき条件で作成したニッケルめっきサンプル表面の化学構造を明らかにしてエポキシ樹脂/ニッケルめっき界面の接着強度との関係について検討することを目的とする。


実験:

 ニッケルめっきサンプルは、60×10×0.5 mmのリン青銅基板に無電解ニッケルめっき(めっき厚約5 µm)を施したテストピースを用いた(表1.ニッケルめっきサンプル、表2.参照)。

 ニッケルめっき/エポキシ樹脂界面の接着強度は、テストピース2枚をエポキシ樹脂で接着させ、引っ張りせん断試験により評価した(図1.参照)。接着剤には三菱化学社製エポキシ樹脂(主剤:828、硬化剤:ST15)を当量混合して接着面積10×10 mm2となるように1枚目のテストピースに塗布し、2枚目のテストピースを貼り合わせて100°Cで2時間硬化した。引っ張りせん断試験はインストロン社製引っ張り試験機を用いて、接着したテストピースの両端を室温で引っ張り速度5 mm/min.で上下(図1.矢印方向)に引っ張り測定を行った。

 XAFS測定用サンプルは、テストピースを10×10 mm2にカットしたものを用いた。また標準サンプルは高純度化学研究所社製の試薬(表1.標準サンプル参照)を適切な吸収係数および吸収端変化量となるよう窒化ホウ素(BN)で希釈して錠剤(10 mm径×1 mm厚)に成型したものを測定に供した。

 ニッケル原子のK吸収端XAFS測定はSPring-8の硬X線ビームラインBL14B2を使用して行った。結晶分光器にはSi(311)を用いて、標準サンプルは透過法で、ニッケルめっきサンプルは転換電子収量法で測定を行った。


結果および考察:

 [H2PO2] → [PO2] + 2H             (1)

 Ni2+ + 2H → Ni0 + 2H+             (2)

 [H2PO2] + H → P0 + OH + H2O         (3)

 無電解ニッケルめっきは(1)(2)式に示すとおり、ニッケルイオンを次亜リン酸で還元してめっき膜を析出させるが、副反応(3)で生成するリン(P)とNiが金属間化合物Ni3Pを生成することが知られている[2]

 図2にニッケルめっきサンプルの接着強度を示した。めっき条件により接着強度および破壊形態は異なっていた。メーカー品および市販めっき液(ブルーシューマー(BS)、LPH、TOM、NAC)を使用したサンプル(6種類)はニッケルめっきとエポキシ樹脂の界面破壊であったが、自社配合しためっき液を使用したサンプル(3種類)は銅基板とめっきの界面で破壊しており、めっき/エポキシ界面の接着強度は得られた値よりも大きいと考えられる。

 これらの接着性の差を接着前のニッケルめっき表面構造の比較により検討した。図3に標準サンプルの、図4にニッケルめっきサンプルのNi K端X線吸収スペクトルを示した。標準サンプルには、ニッケルめっき液中に存在すると推定されるニッケル化合物と、めっき膜成分としてNi、NiOおよびNi3Pを用いた。ニッケルめっきサンプルと標準サンプルのスペクトルを比較した結果、ニッケルめっきサンプル表面のニッケルの構造は、市販のLPHおよび自社配合のBまたはCをめっき液に使用した場合はNi、それ以外はNi3Pの構造を有していることが明らかになったが、接着性との相関は認められなかった。


今後の課題:

 今回の検討でニッケルめっき膜中のニッケルはNiまたはNi3Pの構造を有していることが明らかになったが、接着性との関係を明らかにすることはできなかった。この理由としては、今回用いた転換電子収量法の分析深さが数十nmであることから最表面の情報が検出できなかった、またはめっき表面に存在する他の化合物が接着性に関与していることが考えられる。今後はニッケルおよび他元素の最表面の構造の解析を行い、接着性との相関を確認して接着性を向上するための指針を得る必要がある。


参考文献:

[1] 野村幸矢、坂本浩、神戸製鋼技報、48(3), 21(1998)

[2] 渡部孝、神戸製鋼技報、55(1), 60(2005)


表1.XAFS測定用標準試料およびニッケルめっきサンプル


表2.自社配合めっき液およびめっき条件



図1.接着強度試験用サンプル作成方法



図2.ニッケルめっきサンプルの接着強度



図3.標準サンプルのNi K端X線吸収スペクトル



図4.ニッケルめっきサンプルのNi K端X線吸収スペクトル



ⒸJASRI


(Received: October 5, 2013; Early edition: April 25, 2014; Accepted: July 3, 2014; Published: July 10, 2014)