SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume2 No.1

Section B : Industrial Application Report

X線吸収分光測定によるアルミニウムおよびニッケルめっき表面構造の解析
Analysis of Surface Structures of Aluminum and Nickel Plating by X-ray Absorption Spectroscopy

DOI:10.18957/rr.2.1.78
2012B1279 / BL27SU

岡本 泰志

Yasushi Okamoto

(株)デンソー

DENSO Corp.

Abstract

 近年自動車業界では、燃費向上のための軽量化やエレクトロニクス化が進み、材料に樹脂やアルミニウム合金、ニッケルめっきが多用される一方で、樹脂と金属間の接着信頼性の向上が重要な課題となっている。そこで本課題では、ニッケルめっきおよびアルミニウム表面の化学構造をX線吸収分光測定により解析した。その結果、ニッケルめっき表面はNi3P、アルミニウム表面はAlの構造であることを確認した。


キーワード: ニッケルめっき、アルミニウム、全電子収量法、X線吸収分光測定


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背景と研究目的:

 近年の自動車業界では、環境に適応する製品開発が進められており、燃費向上のための軽量化や排気ガス浄化のためのエレクトロニクス化が進展している。このため用いられる材料は鉄から樹脂やアルミニウム合金に変わり、電子基板等ではニッケルめっきが多用されている。また材料の変化に伴い、接合方法も接着接合が多用されるようになってきている。一方、自動車用途では高度な接着信頼性が要求され、接着強度のばらつきを低減して初期の接着信頼性を向上し、かつ長寿命の接着性を達成する必要がある。本研究は自動車用材料の接着信頼性向上に関するものである。ニッケルめっきでは、めっき液の組成やめっき方法により、生成するめっき膜と樹脂との接着性が変化する。またアルミニウム合金は添加元素により樹脂との接着性が変化することが知られている。そこで本研究では全電子収量法によるX線吸収分光測定(XAS)によりニッケルめっきおよびアルミニウム表面の化学構造を明らかにすることを目的とした。


実験:

 ニッケルめっきサンプルは、10×10×0.5 mm3のリン青銅基板に無電解ニッケルめっきを施したテストピースを用いた。めっきメーカ2社(A社、B社)のテストピースの表面化学状態を比較した。

 アルミニウムサンプルはシリコンウェハ上に蒸着処理したものを測定に供した。

 標準サンプルは高純度化学研究所製の板状のニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)および粉末の一リン化三ニッケル(Ni3P)、酸化ニッケル(NiO)、水酸化ニッケル(Ni(OH)2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、ケイ酸アルミニウム(Al2SiO5)を導電性両面テープに固定したものを測定に供した。

 Ni-L吸収端およびAl-K吸収端のXAS測定は、SPring-8の軟X線ビームラインBL27SUを使用して全電子収量法で測定を行った。表1に分光器の光学素子パラメータを示した(SPring-8 BL27SU HPより引用)。Niの測定はG2、AlはG1の回折格子を使用した。測定は10-5 Paの真空環境で行った。エネルギー範囲はNi-L吸収端 890–840 eV、Al-K吸収端 1590–1555 eVで0.2 eV間隔で測定を行った。


結果および考察:

 ニッケルめっきの標準サンプルとしては、めっき液の成分であるニッケル塩(ハロゲン化物、スルファミン酸塩等)、めっき主成分としてニッケル、一リン化三ニッケル、一般的に金属表面に存在するとされているニッケルの酸化物および水酸化物等が考えられたが、表2に示したX線光電子分光(XPS)測定結果を考慮してニッケル(Ni)、一リン化三ニッケル(Ni3P)、酸化ニッケル(NiO)、水酸化ニッケル(Ni(OH)2)を選択した。図1にニッケルめっきサンプルおよび標準サンプルのNi-L吸収端XASスペクトルを示した。ニッケルめっきサンプルのスペクトルを、標準サンプルのスペクトルの線形結合としてフィッティングを行った結果を図2に示した。フィッティングの結果、Ni-AはNi(9%)とNi3P(91%)、Ni-BはNi3P(100%)となり、サンプル表面のニッケルの主構造はNi3Pであることを確認した。無電解ニッケルめっきでは還元剤に用いられるリン化合物がニッケルと化合物を形成することで知られており[1]、今回のサンプルでもNi3Pの生成が確認された。めっき液中のリン化合物濃度によりめっきの主成分は異なるが、A社品、B社品ともにめっきの主成分はNi3Pであると考えられる。

 図3にアルミニウムサンプルおよび標準サンプルのAl-K吸収端XASスペクトルを示した。標準サンプルとしては実験の部に示したとおり、アルミニウムの他に酸化アルミニウム(Al2O3)、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、ケイ酸アルミニウム(Al2SiO5) の測定を行ったが、Al以外は帯電のためか正常なスペクトルが得られなかったため、今回はAl標準サンプルとの比較を行った。サンプルのスペクトルはAl標準サンプルと同様の吸収を示すことを確認したが、通常Al表面に存在して接着性に影響するとされているAl酸化物や水酸化物の存在は確認できなかった。


今後の課題:

 今回の検討でニッケルめっき表面およびアルミニウム表面の構造が確認できた。今後はめっき条件を変えたサンプルおよび組成が異なるアルミニウム合金の表面構造を検討し、接着性との相関を明らかにしていく必要がある。


参考文献:

[1] 渡部孝、神戸製鋼技報、55(1), 60(2005)


表1.分光器の光学素子のパラメータ(SPring-8 BL27SU HPより)


表2.ニッケルめっきサンプルのXPSによる表面組成



図1.ニッケルめっきサンプルと標準物質のNi-L吸収端XASスペクトル



図2.ニッケルめっきサンプルのスペクトルをフィッティングした結果



図3.アルミニウムサンプルと標準物質のAl-K吸収端XASスペクトル


ⒸJASRI


(Received: April 18, 2013; Early edition: May 20, 2014; Accepted: July 3, 2014; Published: July 10, 2014)