SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume2 No.1

Section B : Industrial Application Report

硝酸アンモニウム水溶液浸漬による低アルカリ性セメントの劣化過程の経時観察
Temporal Observation of the Degradation Process of Low Alkali Cement Immersed in Ammonium Nitrate Solution

DOI:10.18957/rr.2.1.94
2012B1884 / BL19B2

人見 尚

Takashi Hitomi

(株)大林組

Obayashi. Co. Ltd.



Abstract

 供用状態における低アルカリ性セメントの促進劣化試験法の確立を目的として、練混ぜ直後から30時間経過後までのX線回折チャートの取得を行った。カルシウム溶出促進効果を有する硝酸アンモニウム水溶液に普通ポルトランドセメントと低アルカリ性セメントを接触させ、X線回折の接触部からの距離を0.4 mmずつ変えた5点について、時間変化として30時間まで観察を行った。この結果に対しイオン交換水に3年間浸漬した試料と比較を行った。Caイオンの除去に関係する結晶の変化から、硝酸アンモニウム水溶液は非常に大きな劣化促進効果を持つことを確認した。しかし、硝酸アンモニウム水溶液の浸漬による新たな鉱物の生成も確認し、促進効果だけでない試験体の変化を捉えた。


キーワード: 低アルカリ性セメント、X線回折、時分割観察



背景と研究目的:

 放射性廃棄物処分場に用いられるコンクリートは粘土鉱物であるベントナイトに接する形での施工が検討されている。コンクリートのうち結合材として用いられるセメントは普通ポルトランドセメント(OPC)を主成分とする。OPCはカルシウムを高含有するため、水に触れると高いアルカリ性を示す。そこで、セメントが遊離カルシウムを生じないようにした’低アルカリ性セメント’が検討されている。低アルカリ性セメントのコンセプトは、OPCを減らし、代わりにフライアッシュ(以下、FA)とシリカフューム(以下、SF)を用い、ケイ素分を増すことでカルシウムをケイ素と結合させ難溶性のカルシウムシリケート水和物を生成させ、アルカリ分を抑えることにある。高レベル放射性廃棄物処分場においては、低アルカリ性セメントのうちOPCの4割をFAに置換し、2割をSFに置換したHFSC(Highly Fly-ash contained Silica-fume Cement)の使用が検討されている。

 長期健全性の担保のため、放射性廃棄物処分場に用いるコンクリートは地下水の接触による材料変化の予測が求められている。地下水への接触によってコンクリートからのカルシウム(Ca)イオンの溶出による劣化範囲の予測がそれにあたる。劣化の長期的評価を目的とした地下水接触試験は実験室レベルでは高々数年の実施が限度であり、何らかの促進試験が必要とされている。Cardeら[1]によって提案された硝酸アンモニウム水溶液にセメント硬化体を浸漬する方法ではセメント硬化体中のCaイオンが急速に除去され、その速度は、OPCの場合でイオン交換水浸漬の100倍となり、これまでに知られている促進試験よりも非常に高速であるとされている。

 しかし、この方法によってもたらされる溶脱現象が空間的および時間的にどう進行するか、それぞれ詳細に測定された例は存在せず、これまでに得られている水接状態下での現象と水和物の構成[2]が異なっている可能性が懸念される。このため、時間的な溶出速度の把握や接触側からの空間的な変化の把握が必要な状況にあり、本課題では、時分割測定による促進効果の確認と変質に伴う鉱物相の詳細観察を目的とした。


実験:

 試料は、HFSCおよび参照用のOPCのセメント硬化体とした。表1に使用材料の一覧を示す。試料の材齢は4年9ヶ月で十分に水和は完了したものと推測される。測定に供するにあたり、それまで水中養生に供していたものを取り出し、縦横10 mm 厚さ0.7 mmの平板状に加工した。

 試料は、上端をプラスチック製の桟に接着し、図1に示すようにアクリル製の容器の上にさし渡すように設置した(左側:HFSC,右側:OPC)。容器の下部には硝酸アンモニウム水溶液が貯めてあり、硝酸アンモニウム水溶液はフェルト(図1の赤および青色部分)を介して常に試料の下端に接触させた。


表1.使用材料の一覧



図1.接触装置に据え付けた試料



図2.試料および周囲の外観


 試料を固定したアクリル容器は、BL19B2のステージの上に固定され、図2に示すように、上流からX線を試料に照射し、透過したX線を測定器(PILATUS 300K)で受光した。

 試料厚さは、透過したX線量が十分に得られる条件から1 mm以下と定めた。またX線のエネルギーはセメント硬化体試料を透過することのできる17.6 keVとした。照射したビーム形状は、高さ方向は0.12 mm、水平方向は3 mmの楕円形状とした。試料には、毛細管の効果で硝酸アンモニウム水溶液が下端より浸透する。硝酸アンモニウム水溶液に触れている位置では試料中でのCaイオンの分離が発生し、濃度勾配に従い拡散によってフェルトへとCaイオンは移動するものと考えられる。このため、試料中のCaイオンの溶出は下端が顕著で、上部に行くほどCaイオンの溶出程度は少ないと考え、測定点は、水平方向は試料の中心とし、下端より0.4 mm刻みで5点(0.4,0.8,1.2,1.6,2.0 mm)とした。ステージ全体を移動させることで測定点にX線を照射した。データは、1/4円のデバイリングとして取得した。観察対象とした角度領域(2θ)は0〜25°とした。図3にOPCの実際の2次元測定データを示す。PILATUSの仕様により、8°付近と17°付近にデータの欠損がある。X線の照射時間は5分とし、OPCとHFSCの各試料の0.4 mm刻みの5点ずつ計10点の測定(合計51分)を繰り返し、およそ30時間の連続測定を行った。



図3.OPCの2次元測定データ


 併せて、3日ごとに全量更換を行いながらイオン交換水に3年間浸漬したOPCおよびHFSCについても同様の測定を行った。測定間隔は地下水接触面から1 mmごととした。


結果および考察:

 図4にOPCの下端より0.4 mmの位置のX線回折の測定結果を示す。鉱物の特定はICSDの鉱物データベースを用いた。全ての鉱物種を特定できていないが、OPCでは一般的なX線回折装置では特定が困難なカルシウムシリケート水和物(C-S-H)に含まれるJennite,Tobermoriteなどの存在を示唆する結果も得た。一方で、一般的にOPCに含有されるポルトランダイト等が観察されなかった。図5にHFSCの下端より0.4 mmの位置のX線回折の測定結果を示す。HFSCでは、原材料であるFAに含有されるQuartz,Mulliteなどが確認され、概ねその量に変化が生じていないことを確認した。

 いずれの試料でも、未水和のセメント成分であったC2S(Larnite)やEttringiteの消失が5時間程度で顕著となった。Ettringiteはイオン交換水の浸漬で消失には数ヶ月~数年を要するため、硝酸アンモニウム水溶液は、Caの溶出を極めて急速に促進する効果があることを確認した。

 図6にOPCの硝酸アンモニウム水溶液接触30時間経過後の深さ方向の測定結果を示す。接触による変化はもっとも水接部分に近い0.4 mmの領域で顕著であり、その他の部分の変化は少ないことがわかる。図7にHFSCの硝酸アンモニウム水溶液接触30時間経過後の深さ方向の測定結果を示す。こちらもOPCと同様に、0.4 mm領域において変化が顕著である結果を得た。また、OPCの13°およびHFSCの16°付近で時間の経過に伴い増加している物質も確認され、新たな化合物も生成したと考えられる結果も得た。現在この物質の特定が完了していない。これらの物質の特定を行い、硝酸アンモニウム水溶液による促進効果以外の影響も明らかにする。

 図8にイオン交換水に浸漬したOPCについて、浸漬面から深さ方向に1 mm~3 mmの結果を示す。図4との比較によりEttringiteがゆっくりと減じていることが分かる。また3年程度の浸漬ではEttringite等は消滅していないが、硝酸アンモニウム水溶液への接触では5時間程度の浸漬でほぼ消滅しており、促進効果がきわめて大きいことが示唆される結果を得た。図9にイオン交換水に浸漬したHFSCについて、浸漬面から深さ方向に1 mm~3 mmの結果を示す。深さ1 mm付近の結果では、Calciteなどの増加が見られるがほとんど変化が生じていない結果となった。これらの結果と図4および図5の結果をあわせるとOPCと同様に硝酸アンモニウム水溶液の劣化促進の効果が大きいと示唆される結果となった。



図4.OPCの硝酸アンモニウム水溶液接触後のX線回折の時間変化

 (試料の測定位置は硝酸アンモニウム水溶液接触下端から0.4 mm上方)



図5.HFSCの硝酸アンモニウム水溶液接触後のX線回折の時間変化

 (試料の測定位置は硝酸アンモニウム水溶液接触下端から0.4 mm上方)



図6.OPCの硝酸アンモニウム水溶液接触30時間後の試料の深さ方向のX線回折測定結果



図7.HFSCの硝酸アンモニウム水溶液接触30時間後の試料の深さ方向のX線回折の測定結果



図8.OPCのイオン交換水水溶液浸漬3年後の試料の深さ方向のX線回折の測定結果


まとめ:

 低アルカリ性セメント硬化体について硝酸アンモニウム水溶液に接触させ、硬化体の30時間に及ぶX線回折チャートの変化を時分割測定により取得した。3年間イオン交換水に浸漬した試料に比べ、様々な成分が失われ、硝酸アンモニウム水溶液の劣化促進効果が大きいことが確認された。しかし、浸漬により新たに生成した物質も見られ、その特定にまでは至っていない。今後、物質の特定を行い、促進効果の有効性や促進倍率を定量的に求める方法を検討する。



図9.HFSCのイオン交換水水溶液浸漬後3年後の深さ方向のX線回折測定結果


今後の課題:

 上記、特定できていない物質の確認、リートベルト法などの導入による定量分析を通じ、促進効果の定量化を行う。また、今回の測定は試料を乾燥状態で開始した。このため、試料上部では乾燥状態にあり、これを解消できていないため、浸漬方法などの改善を検討する。


参考文献:

[1] Carde C. et.al, Mag. Concr. Res., 49, 295-301(1997).

[2] Burlion, N. et. al, Cem. Concr. Res., 36, 346-357(2006).



ⒸJASRI


(Received: June 10, 2013; Early edition: April 25, 2014; Accepted: July 3, 2014; Published: July 10, 2014)