Volume2 No.1
Section B : Industrial Application Report
トバモライト合成への低結晶質シリカの活用(5)
Use of Low Crystalline Silica for the Synthesis of Tobermorite (5)
a旭化成(株), b旭化成建材(株)
aASAHI KASEI. CO. LTD., bASAHI KASEI CONSTRUCTION MATERIALS CO.
- Abstract
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軽量気泡コンクリート(ALC)の主成分であるトバモライト(tobermorite 化学組成:5CaO・6SiO2・5H2O)の量と質は、その性能と密接な関係にあり、その反応過程を制御したALCの改良研究が、日本および欧州で活発になされている。そのような中で、我々はフライアッシュ(火力発電所から排出される石炭灰)など低結晶質シリカ源の利用検討を行っている。今回は、通常トバモライトを生成しない微結晶シリカを使い、その系に水酸化リチウム(LiOH)を添加し、トバモライト生成の促進効果を調べた。今回、Li添加水準を変えて検討した結果、添加量が多い方がより大きな反応促進効果が認められた。
キーワード: 水熱反応、トバモライト、低結晶質シリカ、軽量気泡コンクリート、
水酸化リチウム
背景と研究目的:
フライアッシュは石炭火力発電に伴い発生する灰(低結晶質シリカ)で、日本では石炭利用率の増加に伴いその発生量は年々増加している。2008年の統計では1,230万トンもの量が発生している。フライアッシュ(以下、FA)の大部分は、セメント原料としてリサイクルされているが、セメントの国内生産量は、最盛期の約1億トンから現在4千万トン台まで大きく減少しており、今後もセメントリサイクルへ回されるフライアッシュ量の減少が余儀なくされる。このような中、我々はFAをはじめとした低結晶質シリカを使いこなす技術を開発すべく検討を行っている。しかしながら、目標物性を得るための技術的障壁は高く、反応メカニズムの解明を含めた基礎レベルからの検討が必要不可欠である。幸い我々の研究グループは、今までの検討において得られた珪酸質原料の反応性の水熱反応への寄与、アルミニウム化合物添加がトバモライト生成を促進する等の知見[1-6]および、予備検討による知見(LiOH添加効果)を活かすことにより、FAをはじめ低結晶質シリカを原料とした高品質のALCを実現できる可能性を検討中である。今回の課題ではトバモライト生成促進効果が認められた核材添加として、LiOHの添加量を変化させ、in-situ XRDによりその反応過程を明らかにしたい。
実験:
今回の実験では、原料としては反応および生成物を単純化するためセメントを使わない高純度原料系による実験を行い、微結晶珪石(SIL5、平均粒径2.2 μm)、高純度酸化カルシウム、水、LiOHの混合物(水/固体比は1.7)を予備養生したものを、Be窓を有する水熱反応計測用のセルに入れ、それを加熱用の電気炉内にセットする。電気炉を架台上にセットし、Be窓を通してX線を入れる[1]。または、室温からトバモライトが熱力学的に安定な190°C(1°C /min)まで加熱し、その温度で保持することによりトバモライトを合成し、その過程を透過法in-situ X線回折(X線エネルギー30 keV)により追跡する。粗大粒子の影響を平均化するために試料の搖動を行いながら、計測を行う(実際には電気炉ごと上下動を繰り返す)。LiOH添加の意図は、液相中のSiイオン濃度の制御にある。
今回の実験は、予備検討(Li:1, 3, 5, 10, 14%添加)の結果から、添加効果が異なると推定されたLiOHの添加量を3%および14%に決めて実験を行った。検出器は大面積で必要な角度範囲を一回で測定でき、かつデバイリングの平均化が可能なPILATUS-2Mを使った。PILATUS-2Mは珪石のような粗大粒子の存在する不均一な反応系の追跡にも非常に有効である。なお、PILATUS-2Mのデータを1次元化するソフトはIgor Proを使って自作しており、長時間にわたって取得される多量のデータを処理するマクロも作っている。各測定での温度、圧力(1.1 MPa)は、実験ハッチ内からケーブルでデータロガーに転送、収集した。低結晶質シリカ源としては、通常はトバモライトを生成しないシリカ原料(平均粒径2.2 μm)を使った。また、実験後において、試料を持ち帰り、実験室系でのX線回折測定を行った。
結果および考察:
まず、図1に今回の実験で得られたX線回折パターンを示す。X線回折パターンは、最終生成物を室温に冷却後に実験室で測定したものである。測定は、ガラス試料台に粉末を充填してCu-Kα線で行った。散乱角2θ=21°付近のハローは資料保持に使用したガラス試料台由来のものである。X線回折測定は、試料厚みと面積を一定にして測定している。これより、LiOH14wt.%添加(その他の原料全体に対して14wt.%)の方がトバモライト生成量は多い(T(002)ピークが大きい)ことがわかる。
図1 最終生成物のX線回折パターン、T(hkl)はトバモライトの回折線
図2に本測定で得られた代表的な1次元回折パターンの時間変化を示す。ここで、図中、Q:石英、P:水酸化カルシウム、T:トバモライトである。ここで回折角は30 keVにおけるものではなく、Cu-Kα線による角度に変換して表示している。
図2 本測定で得られた代表的な1次元回折パターンの時間変化(Li3wt.%の例)
次に、図3および図4にそれぞれLiOH3wt.%および14wt.%添加した場合のQ, P, T量(図2に示したX線回折プロファイルの積分強度、ただしTはT(002)を使用)の時間変化を示す。これより、LiOH14wt.%添加の方がトバモライトは早く生成し始めることが分かった。そして、そのタイミングはどちらもPが消失するタイミングに一致(Pの強度がほぼ0になる時にTが生成し始める)している。また、いずれもQの減少が2段(図中の↓)になっており、この理由は今後明らかにしていきたい。
図3 LiOHを3wt.%添加した場合のQ, P, Tの時間変化
図4 LiOHを14wt.%添加した場合のQ, P, Tの時間変化
まとめと今後の課題:
今回の実験で、LiOHをより多く添加した場合(LiOH14%の場合)に、通常トバモライトを生成しない珪石を使った場合でも、より多くのトバモライトを生成することがわかった。その理由として、LiはSiと不溶性の酸化物を生成することから、LiSi酸化物生成による液中Siイオン濃度の抑制を推定している。継続して、低結晶質シリカの活用を検討していくために、Li添加による反応系の解明、またトバモライト生成挙動との関係を詳細に解明していく。特に予備検討において効果のある添加物に対してSPring-8におけるin-situ計測実験を行い、得られるデータをもとに深く考察していきたい。そして、FAなど低結晶質シリカ系における反応メカニズムを深耕し、今まで利用できていないシリカ源を使ったALC生産プロセスの確立を図っていきたい。
参考文献:
[1] J. Kikuma, S. Matsuno, et. al., J. Synchrotron Rad. 16, 683-686 (2009)
[2]菊間 淳、松野 信也、分析化学, 4, 287-291 (2010)
[3]菊間 淳、松野 信也、分析化学, 6, 489-498 (2010)
[4] J. Kikuma, S. Matsuno, et. al., J. Am. Ceram. Soc. 93[9] 2667–2674 (2010)
[5] K. Matsui, S. Matsuno, et. al., Cement and Concrete Research, 41, 510–519 (2011)
[6] J. Kikuma, S. Matsuno, et. al., J. Solid State Chemistry, 184, 2066–2074 (2011)
ⒸJASRI
(Received: January 16, 2014; Accepted: July 3, 2014; Published: July 10, 2014)