SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume2 No.1

Section B : Industrial Application Report

X線回折によるL10型FeNiナノ粒子の結晶構造解析Ⅱ
Crystal Structure Analysis of L10– FeNi Nano-Particles by X-ray Diffraction II

DOI:10.18957/rr.2.1.151
2013B1714 / BL19B2

林 靖a, 水口 将輝b, 小嗣 真人c, 大坂 恵一c

Yasushi Hayashia, Masaki Mizuguchib, Masato Kotsugic, Keiichi Osakac

a(株)デンソー, b東北大学, c(公財)高輝度光科学研究センター

aDENSO CORPORATION, bTohoku University, cJASRI


Abstract

 自動車用高効率モーター用磁石としてL10型FeNi磁石の合成を試みている。プロセス中の結晶構造変化を調べることで高性能なL10型FeNi磁石合成の指針を得ることを目指した。今回は塩化物前駆体の還元反応過程をex-situ X線回折によって調べた。その結果、脱水、還元の順番で反応が進行していくが、途中で反応が停止することが明らかとなった。


キーワード: L10型FeNi、X線回折、異常散乱、反応過程、ex-situ


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背景と研究目的:

 自動車用高性能モーターとしてネオジム磁石が用いられているが、自動車環境における耐熱性を確保するためディスプロシウムなど重希土類元素が添加されている。重希土類は地球上で偏在しており、特定の地域から大部分が産出する。そのため、コストや安定供給の面で問題がある。このような問題がなく、より低コストなレアアースを含まない磁石としてL10型FeNiの合成に取り組んでいる。

 L10型FeNiは理論的に100°C以上でネオジム磁石に相当する保磁力が期待され、320°Cの相転移温度以上のキュリー点を有する。我々はこれまでにFeとNiを含む複合塩化物を水素化カルシウムを使って固相還元する“塩化物還元法”でFeNi合金としては非常に大きい700 Oe程度の保磁力を有する合金粉末を得ているが、理論的に期待される保磁力に対してはまだ1桁以上の乖離がある。特性向上のために還元過程で起きていることを明確にして、プロセス改良の指針を得ることを目的として還元過程のex-situ X線回折試験を実施した。


実験:

 測定試料は複合塩化物に水素化カルシウムを式1で示される化学量論比に対して25%過剰に混合し、Ar雰囲気中300°Cで所定時間熱処理することで得た。水素化カルシウムを25%過剰に添加する理由は前駆体の結晶水量を完全に制御することが困難で、式1より多くの結晶水を含むためであり、実験で最適量を決定した[1]


     (Fe,Ni)Cl2・2H2O + 2CaH2 ⇒ (Fe,Ni) + CaCl2 + Ca(OH)2 +3H2  (式1)


 これらの試料をグローブボックス内でφ0.3 mmリンデマンガラス製キャピラリーに封入した後、吸水による変質を避けるために大気中に出して直ちにガスライターで封止した。

 BL19B2設置のカメラ長286.5 mmのデバイシェラーカメラを用いてX線回折測定を行った。Feの規則性を強調する目的でX線のエネルギーはFe-K吸収端近傍の7.11 keVとした。積算時間は100 minで実験を行った。尚、課題申請時にはL10構造に特有の回折線が観測された場合は7.20 keVで測定をする予定であったが、還元剤や還元生成物が混在する状態でのFeNi合金の回折線は弱いもので、超格子構造に由来する回折は確認できなかったために実施していない。また、6時間還元処理したものも持ち込んだが、測定途中でキャピラリーが折損したため、最封止して再測定を試みたが、大気暴露で吸水したために明確な回折パターンは得られなかった。


結果および考察:

 図1にXRDの実験結果を示す。前駆体は結晶水を2水より多く含んでおり、多くの回折線が見られた。水素化カルシウムと混合すると脱水されて、回折パターンは2水塩のものと一致した。続いて300°Cまで加熱することにより回折パターンは無水のものとなった。300°Cまでの昇温過では還元による生成物の塩化カルシウムが生成していないため、この時点では還元反応がほとんど進行していないことが分かる。300°Cに保持すると徐々に塩化カルシウムが生成してきており、還元が進んでいることが分かる。しかし、合金相の回折線は12時間時点で弱く、未反応の塩水素化カルシウムの残存が認められた。還元率が低いことが分かる。

 塩化物還元法においてNiリッチな合金しかできないという問題がある。無水塩試薬を機械的に混合した前駆体を同様な方法で還元すると、Niのみが還元される。我々の用いる塩化物前駆体は混合水溶液をスプレードライヤで噴霧乾燥したもので、機械混合した前駆体に比べて混合度は高く、結晶水を含む。このような違いが還元反応に及ぼす影響としては例えば以下のようなことが考えられる。

 現在のプロセスである塩化物還元法は固体還元剤を用いた固相還元である。還元生成物である塩化カルシウムや合金は前駆体と還元剤の界面に生成して動かないため、還元反応の立体障害となることが懸念される。事実、合成される粒子はナノ粒子であり、大きな粒子は合成できない。また、今回の実験は300°Cで3時間あるいは12時間処理しても塩化カルシウムの生成がほとんど変わっていないことから、還元反応が途中で停止していることが示唆された。塩化カルシウムが反応温度で融解すれば立体障害が緩和されることが考えられるが、塩化カルシウムの融点は高く、300°C程度では融解しない。しかし、もし水と酸素の存在で前駆体の塩化鉄(II)が塩化鉄(III)に酸化されるとすれば融点が低下することが期待される。塩化カルシウム-塩化鉄(III)混合塩は低温溶融塩であり、300°C以下でも溶融する。一方で塩化鉄(III)は金属を酸化する性質があり、多すぎると還元された金属を再酸化して還元反応を妨げることが考えられる。最適な生成量が存在する可能性があり、メカニズムの検証も含めて更なる検討を要する。



図1 ex-situ XRD試験の結果

 水素化カルシウム(CaH2)と混合するだけで2水まで脱水が進んでいる。昇温により無水まで脱水し、その後徐々に還元が起きている。12時間では未反応物が多く存在している。合金相はNiリッチなFeNi合金である。


今後の課題:

 L10型FeNiの含有率は生成合金のうち10~20%であり、これを増加させる必要がある。そのためには FeとNiの還元速度を合わせこみ、還元速度を規則配列に必要な拡散時間に合わせて調整する必要がある。これを実現する手段を考えるために還元過程の中身を知ることが重要である。還元過程のさらに詳細な解析と理解が必要である。


謝辞:

 本研究は経産省未来開拓研究プロジェクト「次世代自動車向け高効率モーター用磁性材料技術開発」事業の支援を受けております。


参考文献:

[1] Y. Hayashi et al., J. Magn. Soc. Jpn., 37 (2013) p19.



ⒸJASRI


(Received: April 23, 2014; Accepted: July 3, 2014; Published: July 10, 2014)