SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume2 No.1

Section B : Industrial Application Report

部分蛍光収量測定による窒化物半導体中MgドーパントのXAFS解析
XAFS Analysis of Mg Dopant in Nitride Semiconductors Using Energy-Selective Fluorescence Yield Measurement

DOI:10.18957/rr.2.1.125
2013A1658 / BL27SU

榊 篤史a, 川村 朋晃a, 吉成 篤史a, 宮野 宗彦a, 為則 雄祐b

Atsushi Sakakia, Tomoaki Kawamuraa, Atsushi Yoshinaria, Munehiko Miyanoa, Yusuke Tamenorib


a日亜化学工業株式会社, b(公財)高輝度光科学研究センター

aNICHIA Corporation, bJASRI


Abstract

 GaN中Mgドーパントの局所構造を解析するため、SPring-8のBL27SUを用いた軟X線XAFS測定を実施した。試料はMg:GaN(0.4 μm)/GaN(1.6 μm)/Sapphireで、Mg濃度は2E20程度である。GaN中MgのXAFS測定における大きな妨害要因である、マトリックスからのGa_L線(1.10keV)の影響を抑えるため、エネルギー毎に蛍光スペクトルを測定し、ピークフィッティングによりMg_K線(1.25 keV)のみの信号を取り出した。この結果、Mgの明確なEXAFS振動を得る事に成功するとともに、FEFFによるMg:GaNのシミュレーション計算結果と比較したところ、Mgドーパントは主としてGaサイトに存在している可能性が高い事を明らかにした。


キーワード: 窒化物半導体,白色LED,軟X線XAFS,FEFF


pdfDownload PDF (658 KB)

背景と研究目的:

 LEDは低消費電力の照明として実用化され、普及の一途を辿っている。LED照明には窒化物半導体チップが搭載されており、p型半導体として通常Mg-doped GaNが用いられる。p型半導体層はキャリア層として働くが低抵抗化が困難という問題がある。ドーピング特性やメカニズムを原子レベルで把握し制御する事で、より低消費電力の照明を実現する事が期待できる。

 従来、p型半導体層のホール活性化を阻害する要因としては、水素パッシベーションによる効果が提唱されており、アニール処理による水素脱離・ホール活性化メカニズムをSIMSやホール測定等により詳細に調べた[1]。しかしながら、Mgドーパント自身のクラスタリングや置換サイトについて解析した事例は過去に無い。

 一方、米村らはMCAスペクトルのROI設定によりMg信号を抽出する事でMg:GaNのXAFS測定を行い、アニール処理によるGaN中Mgの化学状態変化を報告している[2]

 本課題では、測定した蛍光スペクトルをフィッティングしMgのみの信号を正確に分離し取り出すことにより、XAFSスペクトルの測定を試みた。併せてMgの置換サイトが異なる結晶モデルのRSFプロファイルを計算し測定値と比較することにより、Mgの局所構造に関する情報が得られるかどうかの検討を行った。


実験:

 実験はSPring-8のBL27SUを用い、軟X線を用いたXAFS測定を以下の要領で行った。

 試料ホルダ用にカットしたウエハー状試料を測定室に導入し、放射光を試料に照射する。この時、蛍光X線の収量を稼ぐために、適当な配置に傾斜させた。1100〜1800 eV程度の領域で入射エネルギーを変化させながら、Mg_K蛍光X線(1.25 keV)の測定を行った。蛍光X線の検出には軟X線用SDD検出器を用い、マトリックスであるGaからの蛍光(1.10 keV)の影響を除去するため、入射エネルギー毎に全蛍光スペクトルを測定し、ピークフィッティング法によりMg原子のみの信号を抽出する事を試みた。FEスリットのサイズは、H × W=1 mm × 0.3 mmとした。

 試料は、サファイヤ基板上に下地としてノンドープGaNを約1.4 μm成膜し、その上にMg-doped GaNを約0.6 μm成膜したものを用いた。SIMS測定により、この試料のMg濃度は、約2.0E20 atoms/cm3である事を確認している。Fig. 1にサンプル構造模式図を示す。Mg-doped GaN層の厚さは0.6 μmあり、蛍光収量法で問題となる自己吸収効果は無視できる。当初は、Mg濃度が18乗程度の低濃度試料についても測定を予定していたが、今回試みたピークフィッティング法では、Mg信号ピークを明確に分離できるまで信号を積算する必要があり、従来よりも長時間の測定を行う必要があった。故に割り当てられたビームタイム(3シフト)では当初予定していた2試料を測定する事はできず、Mg高濃度試料のみを測定した。



Fig. 1 Schematic drawing of the measured sample


結果および考察:

 Mgの吸収端前後でMCAスペクトルを取得した結果をFig. 2に示す。入射光のエネルギーが1300 eVの条件では観測されなかったMgのピークが、1310 eVの時には現れている事が判る。尚、Cuは試料ホルダからのL蛍光X線を検出しているものと考えられる。次に、Fig. 3にMgピーク強度を積分した結果を示す。積分範囲は305 CH〜325 CHとし、Fig. 2にその範囲を示してある。

前述の通りGaピークの裾がMgピークに被っているため、

     a) 単純に積分した場合、

     b) ピークフィッティング法によりGaの裾部分を除去した場合、

     c) さらにスムージング処理を施した場合、

の3ラインを示す。

 その結果、単純に積分するのみの処理a)に比べ、ピークフィッティング処理b)を施す事で吸収端より低いエネルギー領域でのGa_L蛍光X線によるバックグラウンドの低減を確認できた。さらに、スムージング処理c)を施す事でE>1500 eVにおけるS/B比が若干ではあるが改善している事が確認できる。また、Mg吸収端の位置が1303 eVとなり、理論値とほぼ一致している事が確かめられた。



Fig. 2 MCA spectra from the sample in case the energy is 1300 eV and 1310 eV



Fig. 3 EXAFS spectra of Mg from the sample by performing some processes


 次に、スムージング処理c)を施した結果をREX2000(リガク社製)にて解析した。解析手順をFig. 4に示す。ノイズが大きいためEXAFS振動はk2として処理を行った。局所構造の解析にはk rangeができるだけ大きなところ(kmax = 12 - 16 Å-1)までのデータを取得すべき[3]ではあるが、今回の実験ではk=10 Å-1の動径構造関数においても弱い信号強度しか得られず、単独のデータでは判断を誤る恐れがある事から、複数のk rangeにおいてそれぞれ動径構造関数を求め、k rangeの変化に対する挙動を調べた。また、その時の動径構造関数そのままでは変化を捉える事が困難であった事から、RSFの1.5 Å付近(第一近接)のピーク強度と3 Å付近(第二近接)のピーク強度の比(RSF強度比)を指標に用いた。



Fig. 4 Explanation of an analysis procedure


 次に、ここで用いた解析手法と局所構造モデルの関係の妥当性を、FEFFによるXAFSスペクトル計算にて検討した。通常ドーパントのMgがアクセプタとして働くためには、その大半のMgがGa位置に置換して存在すると考えられる事から、ここでは吸収原子Mgのサイトにのみ着目し、以下2つのケースについてFEFFによるXAFSシミュレーションを行った。


 1) 吸収原子MgがNサイト,散乱原子MgがGaサイトのケース・・・Fig. 5



Fig. 5 The relationship between k range end and RSF intensity ratio in case 1


 k rangeの変化に対するRSF強度比の挙動を各モデルにて調査したところ、Fig.5に示す通り、実測値と計算値が大きく異なる傾向であった。尚、モデルは代表的なものを示し、Mg*2,Mg*3については、同様に実測値と計算値の傾向が異なっていたため割愛した。


 2) 吸収原子MgがGaサイト,散乱原子MgがGaサイトのケース・・・Fig. 6



Fig. 6 The relationship between k range end and RSF intensity ratio in case 2


 一方、Fig. 6に示すように2) のモデルではk rangeの変化に対するRSF強度比の挙動が、実測値と計算値の間で良く一致している傾向であった。更にMgのクラスタリング度合いによっては、実測値と非常に近い値を取っている事が確認できる。こちらについてもモデルは代表的なものを示し、Mg*2,Mg*4,Mg*5,Mg*7については、同様の傾向であったため割愛してある。

 尚、実際の計算にはFig. 7に示す77原子モデルを用いた(Mgの配位環境については中心の17原子の中で表現した)。



Fig. 7 The figure of 77 atoms model used for calculation


 これらの結果から、今回測定した試料におけるMgの局所構造は、2) のモデル、すなわちMgはGaサイトに置換しており、更にはMg-N-Mg-N-Mgの様なcomplexとして存在している可能性が高い事が実験的に示された。


今後の課題:

 今回の結果では、マトリックスであるGaの蛍光X線強度が想定以上に大きく、用いた検出器の分解能(約130 eV)ではMg_Kα(1.25 keV)と、Ga_Lα,β(1.10 keV)を十分な精度で分離することができていない。よりエネルギー分解能が高いプローブ、或いは検出器を用いる事で、両元素からの信号の分離を図ると共に、S/B比の良いMgのXAFS測定にトライしたい。


参考文献:

[1] Y. Nakagawa, et al. Japanese Journal of Applied Physics, 43, 23-29, (2004)

[2] T. Yonemura et.al: SPring-8/SACLA 利用研究成果集, 1[2], 43-45, (2013)(課題番号:2011B1795)

[3] 太田俊明編著,X線吸収分光法-XAFSとその応用-,(株)アイピーシー,(2002),P60



ⒸJASRI


(Received: October 2, 2013; Accepted: July 3, 2014; Published: July 10, 2014)