SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume2 No.1

Section A : Scientific Research Report

UCu2Si2のメタ磁性転移の軟X線磁気円二色性による研究
Study of Metamagnetic Transition of UCu2Si2 Using Soft X-ray Magnetic Circular Dichroism

DOI:10.18957/rr.2.1.1
2012A3825 / BL23SU

竹田 幸治, 岡根 哲夫

Yukiharu Takeda, Tetsuo Okane

(独)日本原子力研究開発機構

Japan Atomic Energy Agency


Abstract

 (独)日本原子力研究開発機構(JAEA)の専用ビームラインである重元素科学ビームラインBL23SUのRI実験棟では、軟X線を利用した角度分解光電子分光および内殻吸収磁気円二色性を相補的に利用し、ウラン化合物の電子状態および磁気状態の研究を進めている。ウラン化合物は超伝導と強磁性の共存という特異な物性を示し、その起源の解明は固体物理学の重要な課題である。メタ磁性転移を示す物質について、元素選択的磁気プローブである軟X線磁気円二色性(以下、XMCD)を利用して元素ごとの磁性を詳細に調べることはウラン化合物における強磁性の起源の知見を得るうえで重要な研究テーマである。


キーワード: 5f電子系、ウラン化合物、メタ磁性転移、国際規制物資計量管理


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背景と研究目的:

 超伝導と強磁性の共存はウラン化合物が示す特異な物性の一つである。一般的には、超伝導と強磁性は相容れない物性であり、固体物理学において解明すべき重要な課題である。ウラン化合物の物性はU 5f電子が支配していると考えられているが、U 5f電子状態については、d電子系や4f電子系に比較して、理解が進んでいないのが現状である。強磁性ウラン化合物の磁性を理解するうえで、元素・軌道選択的磁気プローブであるXMCDを用いた研究は、強磁性へのU 5f電子の寄与およびそのリガンド元素の寄与をそれぞれ分離して把握でき、通常の磁化測定とは異なるユニークなアプローチである。

 本研究では、温度だけでなく外部磁場の印加によって強磁性が発現するメタ磁性転移をターゲットにする。メタ磁性転移を示すウラン化合物としてUCoAlとUCu2Si2などが知られている。2011B期まではUCoAlにおけるUとCo磁性の分離の研究を行ってきた[1]。この研究成果を踏まえ、2012A期ではUCu2Si2のXMCDによる研究を計画した。

 UCu2Si2はキュリー温度TC ~ 100 Kよりもわずかに高い温度領域100 K < T < 106 KにおいてH ~1 kOe (H // c-axis)で反強磁性から強磁性へのメタ磁性転移を示す(Fig.1)[2]H > 1 kOeで磁化が飽和せず磁場増大に対して磁化が増大する。本実験課題では、UとCuがそれぞれどのような磁気的な振舞いを示すのかを調べることを目的とし、U N4,5(4d-5f)およびCu L2,3(2p-3d)吸収端におけるXMCDの温度・磁場依存性を測定することを計画した。この物質に対するXMCD実験は岡根らにより行われており、U N4,5吸収端だけでなくCu L2,3吸収端においてもXMCDシグナルが観測されている。その結果から、U N4,5吸収端のXASとXMCDスペクトル形状はウラン化合物の典型的な形状であることが分かっている。一方、Cu L2,3吸収端のXMCDスペクトルはL2,3ともに同符号のシグナルが観測されているが、ほかに報告例がなく[3]、再現性を検証する必要がある。


実験:

 吸収強度の測定方法の一つに全電子収量法(TEY)がある。BL23SUのXMCD測定装置においてはTEYを採用している。軟X線領域のTEYによる吸収測定でバルク電子状態を調べたいときには、表面の電子状態の影響を極力抑えるために、試料の清浄表面の準備が必要不可欠である。今回の実験では、清浄表面は超高真空槽内で試料を破断する方法を選択した。一方で、ウラン化合物は国際規制物資であるので、重量管理が義務付けられている。そこで、Fig.2に示すように試料下部をキャリアーに取り付けたホルダーに接着し、さらに試料の上部に番号付きポストを接着し、全重量(Fig.2 A)を計量記録する。そのうえで装置の超高真空槽に導入し、ポストに撃力を加えることで試料を破断する。この際、番号付きポストと試料の一部は専用の回収皿に落下するが、ポストの番号からどの試料の片割れかを判別することができる。実験終了後、キャリアーとホルダーおよび試料(Fig.2 C)、および番号付きポストと試料(Fig.2 B)の計量を行い、その合計(Fig.2 B + C)と破断前の全重量(Fig.2 A)との一致(A = B + C)をもってウラン化合物の全量回収を確認している。この作業については、大型放射光施設RI 実験棟国際規制物資計量管理規定実施要項の第19条第1項に定められた国際規制物資に関する作業手順を記載した「国際規制物資計量管理作業手順書」に詳細がある。Fig.3 に、ウラン化合物試料の破断前の写真を示す。番号付きポストを接着したウラン化合物試料をホルダーに接着固定し、そのホルダーをキャリアーにネジで固定している。

 上記、試料破断を無事終えたのちに、U N4,5およびCu L2,3吸収端でのXMCDスペクトルおよび、XMCD強度の温度・磁場依存性を測定する予定であった。


結果および考察:

 今回、ポストに撃力を加えた際、試料が破断されるのではなく試料とホルダーとの接着が剥がれてしまった。よって、ホルダー側に試料片が残らず、本ビームタイムでは実験データを一切得ることができなかった。

 UCu2Si2単結晶試料は育成が難しく貴重であったため、過去に実験で用いた試料を再利用した。つまり、既にホルダーに接着された試料に対し、ポストを再接着し準備した。その際、ホルダーと試料の過去の接着部も新たに補強した。しかしながら、破断時の撃力により、ホルダーから接着剤もろとも試料が剥がれてしまった。過去の実験では十分な強度を保っていた接着が劣化していた。これは接着剤の経年劣化あるいは今回の試料準備における再加熱による劣化が原因ではないかと考えている。

 回収した試料のさらなる再利用のためには、試料に付着している接着剤を削り落とし、新たなホルダーに接着する必要がある。しかしながら、この作業では接着剤の削り落とした粉に国際規制物資が混ざる可能性が生じ、計量管理の観点から断念せざるを得なかった。一方、研究の重要性に鑑み、新たな試料の育成をJAEAの先端基礎研究センターのアクチノイド物質開発研究グループに依頼したが、XMCD実験に必要な試料サイズ(0.5 mm角、長さ1 mm程度)の単結晶試料の入手には至らなかった。さらに、試料育成担当者の異動により当面の試料調達の見通しが立たなくなった。以上により、本研究の継続を断念した。


今後の課題:

 試料の入手が可能になれば、研究を再開するべきだと考えている。試料は可能な限り、比較的弱い力でも破断ができるように細長く整形したものを準備するように努める。現在では、ホルダーと試料の固定強度を増強させるため、ホルダーに試料の大きさに合わせた穴や溝を設け、そこに試料を埋め込むような工夫を施すようにしている。その一方で小さい試料でも測定位置を効率よく調整できる装置を整備していく必要がある。


参考文献:

[1] Y. Takeda et al., Phys. Rev. B 88, 075108 (2013).

[2] T. D. Matsuda et al., J Phys. Soc. Jpn 74, 1552 (2005).

[3] Cu L2,3吸収端でのXMCDスペクトル例としてT. S. Herng et al., Phys. Rev. Lett. 105, 207201 (2010).



Fig.1 UCu2Si2の磁化の磁場・温度依存性[2]

   225×141 mm(72×72 DPI)



Fig.2 測定試料の準備方法および破断による試料の清浄表面の取得方法の概略

   76×45 mm(300×300 DPI)



Fig.3 破断前のウラン化合物試料の写真

   73×59 mm(300×300 DPI)



ⒸJASRI


(Received: April 14, 2014; Accepted: July 3, 2014; Published: July 10, 2014)