SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume2 No.1

Section B : Industrial Application Report

異常分散X線回折による(Ni0.96-xZnxCu0.01Mn0.03)Fe2O4の結晶構造解析と磁気特性

Crystal Structure Analysis and Magnetic Property of Ferrite(Ni0.96-xZnx

Cu0.01Mn0.03)Fe2O4 by Using Anomalous Scattering X-ray Diffraction

DOI:10.18957/rr.2.1.100
2013A1073 / BL19B2

岩堀 禎浩, 今村 嘉也

Yoshihiro Iwahori, Yoshinari Imamura

株式会社村田製作所

Murata Manufacturing Co., Ltd.


Abstract

 放射光によるX線異常分散回折を用いてフェライト中におけるFeの占有率を、MEM/Rietveld解析法により推定した。Feの4配位サイトと6配位サイトの占有率は、フェライト中のZn添加量に対応し変化が認められた。そしてFeが特定の占有率を取るときにフェライト透磁率が高くなることが確認できた。この結果から我々は、透磁率が高い材料デザインの指標を見出した。


キーワード: フェライト、X線異常分散、電子密度分布、Rietveld解析



背景と研究目的:

 多層技術で製造する高周波用チップ型フェライトコイルは、電源などから放出される高周波電磁ノイズカットや、フィルタ回路に組み込まれており、汎用性が極めて高い。

 フェライト内部のコイルはAgが使用されているが、2004年頃からの価格高騰により安定入手が問題となりつつある。そこで、Cu(非貴金属)に置き換える研究が進められているが、Cuは酸化しやすいため、還元雰囲気での焼成が必要となってくる。現状、大気中焼成に匹敵する透磁率を持つフェライト組成は見出されておらず研究中である。評価・解析に至っては透磁率や比抵抗が調べられているにとどまっており、組成変化が物性に及ぼす影響を究明できていない。そこで、組成変化に対して結晶構造と電子密度分布をMEM/Rietveld解析法[1]注1)を用いて解析し磁気特性との対応を調査することを目的とする。


注1)MEM/Rietveld(メム/リートベルト)解析法:

 主にX線粉末回折パターンから非線形最小二乗法を用いて格子定数と結晶構造パラメータ{原子位置,原子変位(温度因子),格子占有率,etc.}を精密化し、構造因子Fから最大エントロピー法(Maximum Entropy Method : MEM)を用いて電子密度分布を求める一連の手法のこと。Rietveld解析ソフトにはRIETAN-FP[2]、MEM解析ソフトにはDysnomia[3]を使用した。


実験:

 試料作製は、Fe2O3、NiO、ZnO、MnCO3、Cu2Oを原料に使用し、(Ni0.96-xZnxCu0.01Mn0.03)Fe2O4(x=0、0.6、0.96)の組成比になるように固相法で作製した。焼成は途中まで内部電極がある場合を想定し酸化され難い還元雰囲気(酸素分圧:約1×10-5 atm)で行い焼結は大気中で行った。作製したセラミックペレットは乳鉢で粉砕した後、沈降法により粒度を整えて測定用の粉末とした。表1に測定試料名と組成式を示した。


表1. 測定試料名と組成式


 「NZMFO(x=0.60)air」は全ての焼成を大気中で行った。結晶構造モデルの基準試料とする。

 本実験のフェライト材料はFe、Ni、Znなど原子番号が隣接しているため、ラボ用のCu波長のX線回折では構造解析用の高精度データを得ることが困難である。そこで本実験ではFeのX線異常分散注2)[4]を利用し回折データを取得する。Fe-K吸収端を利用するために、事前にXANESの測定を行い、K吸収端エネルギーを正確に求めた。使用したX線異常分散のエネルギーは、7111 eVである。また、通常のX線回折の測定はK吸収端より100 eV低い7011 eVで行った。

 X線回折の測定はBL19B2に設置されているDebye-Scherrer cameraとImaging plateの組み合わせで行った。測定試料はφ 0.2 mmのガラスキャピラリーに密封し、測定時は自転させることにより選択配向と粗大粒が存在した場合の影響を極力無視できるようにした。今回使用する7000 eVのX線エネルギーは、輝度が比較的低くなるため、Imaging plateへの積算時間は150 min/lotで行った。


 注2)X線異常分散:励起状態の原子が固有の散乱因子を持つことを利用して原子を識別する方法。


結果および考察:

 検出物質について、測定した材料組成中にはCuが入っているが、測定した回折パターンからCuは還元反応物として析出していることが分かった。SPring-8で測定する前のラボ用XRDでは、Cuの析出を検出できなかった。このため、結晶中に存在しないことから(粒界に存在)Rietveld解析ではCuを除外して行った。その他、ZnOなどが検出されたが、こちらはフェライト相にも固溶し磁気特性との対応が考えられるため、Rietveld解析に複数相という形で反映させて解析を行った。X線異常散乱回折を行う前に、X線のエネルギーを30 keVにした回折パターンから、基準モデルにするフェライトの構造をMEM/Rietveld解析法で精密化した。解析したデータはNZMFO(x=0.60)airを用いた。MEM/Rietveld解析結果を図1に示す。



 図1. X線エネルギー30 keVのMEM/Rietveld解析結果。(a) d > 0.36 Åを用いたRietveld精密化結果。(b) MEMから求めた電子密度分布。<100>を描画している。等電子密度面は0.5 Å-3で描画した。イオン結合性のFeが確認できる。


 30 keVのMEM/Rietveld解析にはd(格子面間隔) > 0.36 Åの回折データ範囲を用いた。図1(a)にはRietveld解析の非線形最小二乗法によるフィッティング結果を示した。計算の信頼性を示すR因子は、Rwp =3.48%、RI =1.69%、RF =0.806%であることから、実測値を良く再現し、Rietveld解析が精度良く収束していると判断した。表2に原子種と精密化した座標を示す。

 フェライトの初期原子座標モデルは、International Centre for Diffraction Data(ICDD)から引用した。しかし、O以外の元素が占有するサイトが8aと16dのこの座標モデルでは、Rietveld解析により実測値の強度比を十分に再現することは困難であった。

 そこで、ICDDモデルからRietveld解析を行って得られた構造因子Fを用いてMEM解析を行ったところ、8aサイト、16dサイト以外にも電子密度分布が存在していた。この電子密度の位置はワイコフ位置注3)の8bサイト、16cサイト、48fサイトと一致することが分かった。このことから、ICDDモデルの原子座標に修正を加え、8bサイト、16cサイト、48fサイトにFeを追加しRietveld解析を行うと実測値を良く再現できることを見出した。

 図1(b)には、表2の原子座標を元にしたRietveld解析結果から求めた構造因子F(cal.)に基づきMEM解析より求めた電子密度分布を示す。等電子密度面は0.5 Å-3で描画した。Zn/Feの位置にはMnも含んでいるが微少量なため省略して描画している。Ni/Feサイトは6配位サイトでありOを共有して八面体が結合している。そしてZn/Feサイトは4配位でありOを共有して八面体と結合している。

 一方、今回MEM/Rietveld解析で見出した3つのFeサイトは電子密度分布からイオン結合性が強いことが分かった。以上の解析からフェライトの基本的な構造モデルを構築することができた。X線異常分散におけるRietveld解析の初期構造モデルは表2の座標を用いて検討を行った。


表2. Rietveld精密化による原子座標


注3)ワイコフ位置:

 空間群に記載されている原子位置のこと。対称操作に対して等価な位置(等価点)の集合を表すワイコフ位置は一般位置と特殊位置に分けて記載される。対称性が最も高い特殊位置から対称性の低い一般位置へ対してアルファベット(aから始める)と多重度を組み合わせて書き記したもの。例えば8a、8bなど。現在はweb上で230個の空間群に対して閲覧することが可能である。


 次にNMFO(x=0) 、NZMFO(x=0.60) 、NMFO(x=0.96)の構造解析結果と磁気特性の関係について記述する。Feのサイト占有率を正確に求めるため、X線異常分散回折を用いて行った。代表としてNMFO(x=0)のX線回折データをRietveld解析した結果を図2に示す。

 図2(a)はX線異常分散を使用していない場合の結果で、信頼性因子はRwp=5.40%、RI=2.66%、RF=1.76%と良好であった。

 図2(b)はFeのX線異常分散を使用した場合の結果である。信頼性因子は、Rwp=1.96%、RI=29.8%、RF=20.4%である。実測データはFeの蛍光X線のためBackgroundが(a)に比べ非常に高い。このため回折線積分強度誤差を示すRIが大きくなっている。ゆえに構造因子の誤差を示すRFは参考値である。



図2. Rietveld精密化結果。(a) X線異常分散無しの場合。(b) X線異常分散を使用しFeの検出感度を高めた結果。


 Rietveld解析から原子位置を精密化したのち、原子変位パラメータを固定して各ワイコフ位置のFeの占有率パラメータgを精密化した。8aサイト(4配位)はFe(g)8a=1、16dサイト(8面体) は、Fe(g)16d=0.59(1) 、Ni(g)16d=0.40(1)、Mn(g)16d=0.01(fix)となった。Mnは微少量なため組成値に固定した。

 今回見出したFeの各サイト(8b、16c、48f)について述べる。占有率はそれぞれ、Fe(g)8b=0.03(1)、Fe(g)16c=0.163(9)であった。48fはFeが占有しておらず空孔であった。48fサイトについては、図2(a)の解析結果に加え電子密度分布も求めたが48fの位置に電子密度分布は存在しなかったため、空孔で確からしいと考える。残る他の2試料についてもMEM/Rietveld解析を同様に行い、4配位と6配位のFeと他の原子の占有率を精密化した。全試料のFe占有率解析結果を図3の円グラフに示す。



図3. Rietveld解析による4配位(左列)と6配位(右列)におけるFeの占有率。(a)と(b) NMFO(x=0)。(c)と(d) NZMFO(x=0.60)。(e)と(f) ZMFO(x=0.96)


 Mnは微少量のため調合組成に固定して解析を行った。ただし、図3(d)の6配位サイト中は計算値の誤差を考慮すると、Mnはゼロと推定されるため、Mnは除いてRietveld解析を行った。

 図3(a)(b)について、NiサイトにもFeが固溶しており、NiFe2O4に比べるとFe-richと言える。 精密化した格子定数は、a=8.35504(4) Åであった。このNMFO(x=0)は異相としてNiOが3 wt%検出されており、解析結果(ZnサイトへのFe固溶)と矛盾しない結果となった。

 図3(c)(d)について、ZnサイトとNiサイトに存在するFeの占有率が従来予想されていた量より多いと推定された。精密化した格子定数は、a=8.40536(3) Åであった。特にZnの占有率が低下すると透磁率が低下する現象と、本解析結果は良く合っている。NZMFO(x=0.60)は一般的に(Ni,Zn,Mn)Fe2O4[5]になると考えられていたが、Feの割合は1.5倍程度多いと考えられる。それゆえ、ZnOの析出が増えていることと矛盾が無い。なお、ZnとNiの占有サイトについては、すでにZnが4配位サイト、Niが6配位サイトを占有することが報告[6,7]されているため、これら陽イオンの占有サイトについて議論は行わない。

 図3(e)(f)について、解析結果から(e)のZnサイトにFeが存在すると言える。精密化した格子定数は、a=8.44887(7) Åであった(Zn量が多いため格子体積も一番大きい)。

 ZMFO(x=0.96)は一般的に(Zn,Mn)Fe2O4[5]になると考えられていたが、4配位サイトへのFeの固溶によりFe-richと言える。

 以上の解析から得られたFeのサイト占有率の結果と、セラミックス透磁率との対応を図4に示す。4配位では61%、6配位では89%のFe占有率の時、透磁率が高い対応を認めることができる。



図4. フェライトの4配位および6配位のFe占有率と透磁率の関係。4配位では61%、6配位では89%のFe占有率の時に透磁率が高い。


 一方、Feの占有率が高くても透磁率が低い理由は磁気構造(スピン配列)を反映させて考察しなければならないが、今回の実験のみで磁気構造について言及するのは難しい。

 Feが6配位サイトを占有することで透磁率が向上した報告[8]もあるが、Feの寄与だけから合理的な説明は難しい。ただ、X線回折からは、上述したFeの占有率を同時に満たし、4配位サイトにZnを、6配位サイトにNiを含むような材料デザイン(組成比調整など)を行えば透磁率の向上が期待できることを見出した。


参考文献:

[1] H. M. Rietveld, J. Appl. Cryst.. 2, 65 (1969).

[2] F. Izumi and K. Momma, Solid State Phenom., 130, 15-20 (2007).

[3] K. Momma and F. Izumi, J. Appl. Cryst., 14, 1272-1276 (2011).

[4] H. Nakazawa, et al., Acta Cryst. B, 39, 532 (1983).

[5] H. Eba and K. Sakurai, Adv. X-ray. Chem. Anal., Japan, 38, 109-119 (2007).

[6] K. Shinoda, et al., Shigen-to-Sozai, 111, 801-806 (1995).

[7] K. Shinoda, et al., Int. J. of The Soc. of Mat. Eng. For Resources, 44, 20-29 (1996).

[8] H. Eba, NSG Found. Mat. Sci. Eng. Report, 26, 39-47 (2008).


ⒸJASRI


(Received: August 29, 2013; Accepted: July 3, 2014; Published: July 10, 2014)