SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume1 No.3

Section A : Scientific Research Report

両親媒性有機半導体化合物の単成分および混合単分子膜における分子配列構造のX線反射率解析
A X-ray Reflectivity Study on Molecular Arrangement in Pure and Mixed Monolayers of Amphiphilic Organic Semiconductor Compounds

DOI:10.18957/rr.1.3.89
2011B1684 / BL37XU

赤羽 千佳a, 宇留賀 朋哉b, 谷田 肇c, 豊川 秀訓b, 寺田 靖子b, 飯村 兼一a, 尾形 葵a, 三浦 隆博a, 豊田 彩a

Chika Akabanea, Tomoya Urugab, Hajime Tanidac, Hidenori Toyokawab, Yasuko Teradab, Ken-ichi Iimuraa, Aoi Ogataa, Takahiro Miuraa, Aya Toyodaa

a宇都宮大学, b(公財)高輝度光科学研究センター, c京都大学

aUtsunomiya Univ., bJASRI, cKyoto Univ.

Abstract

 両親媒性のp型,n型有機半導体分子にLangmuir-Blodgett法を適用し、水面上単分子膜の分子レベルでの構造をX線反射率法によって解析した。疎水性と親水性のバランスが異なる3種類のフラーレン誘導体の中で、親水性が比較的強い化合物に関して、最も良好な製膜性が示された。また、この化合物単分子膜に対して、表面圧を変化させることで、より分子の配列性が向上した単分子膜形成が可能となった。


キーワード: Langmuir-Blodgett(LB)膜、有機半導体分子、気/水界面、X線反射率法


背景と研究目的:

 近年、有機半導体分子の持つ自己組織化能を利用して作製した有機薄膜素子が注目を集めている。これらの素子のキャリアの伝導性に関しては、活性層である有機薄膜層内の分子の自己組織化構造と配列・配向が大きく影響することが知られており、特に変換効率向上の技術開発が急がれる太陽電池分野にとって、これらの制御の重要性が高まっている。しかしながら、この分子の自己組織化を制御することは容易ではない。そこで本研究では、分子配列・配向を能動的に制御する手法として、Langmuir-Blodgett(LB)法を採用した。この方法では、水面上の展開単分子膜の分子レベルでの分子配列・配向を、可動式のバリアによる圧縮という巨視的な操作によって連続的に変化させることができることから、有機半導体分子の自己組織化構造を分子レベルで制御できる可能性がある。また、構造解析の手法として、薄膜・多層膜の深さ方向の内部構造、特に各層の膜厚、電子密度、界面のラフネスを非破壊的に求めることができる解析技術の1つであるX線反射率法(X-ray Reflectometry,以下、XR)を採用した。単分子膜は、有機半導体の分子構造と配列・配向、光電流特性の相関を検討するのに適した最もシンプルなモデル系であり、一連の研究から得られる成果は、有機薄膜太陽電池の高性能化や実用化に向けた極めて有意義な知見を与えるものと考えられる。現在は、p型半導体分子であるPoly[2,1,3-benzothiadiazole-4,7-diyl[4,4-bis(2-ethylhexyl)-4H-cyclopenta[2,1-b:3,4-b']dithio-phene-2,6-diyl]](PCPDTBT)とn型半導体分子である両親媒性フラーレン誘導体との単分子膜の分子配向・配列の制御により、更に高い光電変換能をもつ新規な有機薄膜構造の構築を目指した研究が進行中である。その一環として、本研究では、膜構造と半導体特性の相関を見出すことを最終目的とし、これら有機半導体分子の単分子膜の分子配列・配向構造をXRによって詳細に検討した。


実験:

【装置】SPring-8 BL37XUの実験ハッチ内に設置した溶液表面用XR装置(図1)を用いて測定を行った。検出器には、二次元ピクセル検出器PILATUS 100Kを用いた。使用するX線は、15 keVの単色X線とし、ビームライン輸送系の水平偏向ミラーを用い高調波除去を行った。試料台上に置かれたLangmuir水槽の水面(単分子膜試料)へのX線の入射角度は、試料上流のサブステージ上の回折計に設置されたGe結晶を用いて調節した。反射光路上に検出系を移動させ、Qz = 0 ~ 0.8 Å-1で測定を行った。入射角度により反射X線強度は10-8程度変動するので、Al減衰板を組み合わせて広い強度測定レンジに対応した。




図1 溶液表面用XR装置



【膜物質】p型有機半導体分子としてPCPDTBT、n型有機半導体分子として異なる親水基−疎水鎖構造を有する3種の両親媒性フラーレン誘導体(図2)を用いた。水面上にこれらの単分子膜を展開し、可動式のバリアによる圧縮に伴う分子の配列・配向構造を検討した。本実験で使用した両親媒性フラーレン誘導体は、C60 ピロリジントリカルボン酸(PTA)を基本骨格としており、疎水基としてドデシル鎖(導入した鎖の本数:m = 1〜3)、親水基としてカルボキシル基(官能基数:n = 3−m)を有する化合物を用いた。




図2 本実験で用いた(左)PCPDTBT、(右)両親媒性C60 PTA誘導体の構造式



【方法】ハッチ内の試料台上にLangmuirトラフを設置し、トラフの超純水上に揮発性有機溶媒に溶解させた膜物質を展開し、単分子膜を作製した。この膜を可動式のバリアによって任意の表面圧(分子密度)まで圧縮し、XR測定を行った。


結果および考察:

 PCPDTBT膜の反射率プロファイルにおいては、低角度からXR強度が急激に減少する傾向が見られた。これは、今回の実験範囲である表面圧10 ~ 50 mN/mで認められた。この減衰は、大きなラフネスによって説明することができる。30 mN/mで固体基板上に移行したPCPDTBT膜の原子間力顕微鏡イメージ(図3)を見ると、粒状凝集体が寄せ集められるようにして形成されており、大きなラフネスが確認されていることから、XRプロファイルの解釈を支持する結果であると考えられる。PCPDTBTは強い分子間相互作用を示すと考えられ、溶液中または薄膜作製時にすでに何らかの会合状態をとっていることが紫外可視吸収スペクトルより示唆されていることから、大きなラフネスはこの会合体形成に起因するものと思われる。




図3 PCPDTBT膜のAFM画像 (5 × 5 μm2)

 図4には、炭化水素鎖の導入数が1~3本のフラーレン誘導体(導入した炭化水素鎖が1,2,3本の化合物をそれぞれmonododecyl C60 PTA,didodecyl C60 PTA,tridodecyl C60 PTA と称する)の30 mN/mにおける単分子膜のXRプロファイルを示す。図中のプロットが実験値、各色の実線が解析結果である。フィッティング解析では、単分子膜が、炭化水素鎖とPTAの複合層およびC60層の2層からなると仮定した[1]。なお、解析パラメータの妥当性を検討するために、解析で得られた電子密度,層の厚さ,分子占有面積の3つを掛け合わせたものを実験から得られた電子数とし、各層を構成する元素の種類とそれらの数から見積もられる理論電子数と比較した。また、ここではC60が水面側、複合層が空気側に配列した単分子膜モデルを仮定した。解析によって得られた電子密度プロファイルを図5に示す。また、解析によって得られたベストフィットパラメータを表1に示す。表中のd,ρ,σはそれぞれ各層の厚さ,電子密度,界面のラフネスを表している。得られた解析結果をみると、どの化合物においてもC60層に関しては、フラーレンがとりうる結晶構造[2]から見積もられる電子密度よりも高い値をとることが示された。また、それぞれの単分子膜の複合層とC60層に関して、解析で得られた電子数と理論電子数を比較すると、複合層では前者が後者よりも小さく、C60層では大きかった。これらの結果は、C60層内に側鎖が入り込んでいることを示唆するものとして解釈できる。monododecyl C60 PTA単分子膜においては、炭化水素鎖層が最も厚く、電子密度が高い。これは、可動式のバリアで圧縮することで親水基が水に接した状態で、炭化水素鎖が空気側に配列したことを示している。一方、炭化水素鎖の導入数が2本以上の誘導体に関しては、炭化水素鎖の数が多くなるほど、複合層の厚さ,電子密度共に低下する傾向が見られた。なお、ドデシル鎖がオールトランス状態で伸長している場合の長さは約16 Å[3]であり、その状態で分子占有面積を20 Å2/molec.[4]と仮定した場合の電子密度は0.3 Å-3である。解析によって得られたドデシル鎖の鎖長と電子密度は、これらの値よりも小さかったことから、didodecylおよびtridodecyl C60 PTA単分子膜内では、ドデシル鎖が乱れた状態で充填されているものと予想される。また、炭化水素鎖の付与数が多くなるにつれて、複合層とC60層における解析で得られた電子数と理論電子数を比較した際の差(過不足分)の絶対値が大きくなったことから、複合層のC60層への侵入の程度がより大きくなったものと考えられる。このことは、XRフィッティング解析において、ドデシル鎖の付与数が多くなるほど、計算上の分子占有面積がより大きな値を示したことからも確かめられた。




図4 炭化水素鎖の導入数が異なるC60 PTA誘導体単分子膜のXRプロファイル




図5 解析によって得られた電子密度プロファイル



表1 C60 PTA誘導体単分子膜のXR解析パラメータ




 図6,7には、monododecyl C60 PTA単分子膜のXRプロファイルとフィッティング解析によって得られた電子密度プロファイルの表面圧依存性を示す。圧縮に伴って、各々の層で厚さと電子密度の増加がみられた。表面圧30 mN/mにおける単分子膜に対しては、炭化水素鎖が空気側に配列する単分子膜構造が示唆されたが、低い表面圧では、複合層がよりフラーレン層に侵入した単分子膜構造が示唆された。これらのことにより、低い表面圧では水面上で分子がランダムな方向で存在していたのに対して、高い表面圧においては、炭化水素鎖が秩序性良く空気側に配列するようになると推察された。XR解析パラメータの詳細を表2にまとめた。




図6 monododecyl C60 PTA単分子膜のXRプロファイルの表面圧依存性




図7 解析によって得られた電子密度プロファイル



表2 表面圧が異なるmonododecyl C60 PTA単分子膜のXR解析パラメータ




今後の課題:

 本研究では、n型半導体分子であるC60 PTA誘導体の水面上単分子膜を作製し、これらの分子配列・配向に関する精度の高い直接的な情報を得ることができた。比較的親水性が強いmonododecyl C60 PTAで、配向性が高く良質な単分子膜の形成が確認された。また、疎水基と親水基の立体的な配置が、製膜性には重要なファクターであることも示唆された。

 測定対象がたった1分子程度の厚みしか持っていないことに加えて、測定対象が常に揺らぎのある水面上に存在することから、研究室レベルのX線源を用いて水面上単分子膜のXRをその場測定することは容易ではなく、シンクロトロン放射光を利用した測定でのみ可能である。今回の実験で得られたデータにより、PCPDTBTやC60 PTA誘導体などの有機半導体分子による展開単分子膜の構造や薄膜における半導体特性の分子レベルでの理解がより一層進展するものと期待される。ここで得られた知見は、効率的なデバイス作製の重要な足掛かりになると思われる。


参考文献:

[1] E. Mouri, T. Nakanishi, N. Nakashima, H. Matsuoka: Langmuir, 18, 10042 (2002).

[2] V. V. Tsukruk, Langmuir, 10, 996 (1994).

[3] Spartan'10ソフトウェアを用いたab intio 法の3-21G基底系の計算により算出.

[4] H. E. Ries, Sci. Amer., 244, 152 (1961).



ⒸJASRI


(Received: March 11, 2013; Early edition: July 30, 2013; Accepted: November 1, 2013; Published: December 10, 2013)