SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume1 No.3

Section B : Industrial Application Report

窒化酸化物ペロブスカイトのPDF解析
PDF Analysis of Oxynitride Perovskites

DOI:10.18957/rr.1.3.94
2011B1194 / BL04B2

隼瀬 幸浩, 掘露 伊保龍, 猪口 真志, 檜貝 信一

Yukihiro Hayase, Ivoyl P. Koutsaroff, Masashi Inoguchi, Shin'ichi Higai

(株)村田製作所

Murata Manufacturing Co., Ltd

Abstract

 ペロブスカイト型酸化物の一つであるチタン酸バリウムストロンチウムの酸素部を窒素置換した窒化酸化物ペロブスカイトは印加電圧に対する誘電率の変化が非常に大きい、誘電損失が低いといった、誘電体材料として優れた特性を有するが、これは窒素置換によるTiO6八面体の歪みが原因と考えられる。今回、PDF(atomic Pair Distribution Function)解析[1]を行い、この歪みについて調査したところ、Ti-Oの原子対によるものと考えられる約2 Å付近のピークは認められたが、フーリエ変換の打ち切り誤差の影響もあり歪みの存在を確認するまでには至らなかった。


キーワード: 窒化酸化物、PDF、原子対相関関数

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背景と研究目的:

 窒化物材料や窒化酸化物材料は、一般的かつ比較的簡便に合成できる酸化物材料とは異なる物性を発現し、様々な分野で利用されている。例えば窒化ガリウムは青色LED材料に、窒化チタンは高強度の金属被膜材料に、サイアロン(シリコン・アルミ合金の窒化酸化物)は特殊鋼に代わる新材料や高輝度蛍光体材料として利用されている。その他の酸化物材料においても窒化物や窒化酸化物とすることで、物性の向上や新機能の発現が期待できる[2]。また、金属酸化物の一つであり誘電体材料などに利用されているペロブスカイト型酸化物については、この酸素部を窒素置換した窒化酸化物ペロブスカイトが、従来の材料にない光学特性、光触媒特性、磁気抵抗特性を有し様々な応用につながると期待されている。

 このような状況の中、(株)村田製作所は近年、一般的なペロブスカイト型酸化物の一つであるチタン酸バリウムストロンチウム((Ba, Sr)TiO3)に関し、その窒化酸化物((Ba, Sr)TiO3-γNγ、以下BSTONと略す)が、印加電圧に対する誘電率の変化が非常に大きい、誘電損失が低いといった、誘電体材料として優れた特性を有することを見い出した[3]。この優れた特性は窒素置換による結晶構造の歪みに起因していると考えられ、社内で行った第一原理計算においても窒素置換によりTiO6八面体に歪みが生じる結果が得られている(図1参照)[4,5]。今回、PDF解析を行い、この歪みについて調査した。




図1.第一原理計算結果



実験:

 試料はBSTONと、比較用として固相法により作製した(Ba,Sr)TiO3仮焼粉(以下BSTOと略す)を用いた。なおBSTONは以下の方法で薄膜状態から採取した。

 (1)Siウェハ上に約1 μmのZnO薄膜を成膜

 (2)その上に約1 μmのBSTON薄膜を成膜

 (3)ZnO薄膜を酸により化学エッチング

 (4)得られたフレーク状のBSTON薄膜を乳鉢により粉砕処理


 得られた粉末試料は内径1 mmの石英キャピラリーに充填し、SPring-8 BL04B2にて測定を行った。なおX線のエネルギーは61.48 keV、検出器はGe半導体検出器を用い、角度範囲0.3〜39°、ステップ幅0.005°で測定を実施した。


結果および考察:

 得られた測定結果を図2に、ここから算出した格子定数の結果を表1に示す。いずれの試料もピークパターンから立方晶と考えられた。また、BSTOに比べて窒素置換したBSTONの格子定数は大きく算出された。




図2.測定結果



表1.格子定数算出結果




 次に、Q=4πsinθ/λを用いて横軸を散乱角2θから波数ベクトルQに変換しS(Q)を得た。Q[S(Q)-1]より得られる干渉関数Qi(Q)を図3に示す。さらにS(Q)を原子数および散乱長で規格化し、Qの範囲0.2〜25(Å-1)でフーリエ変換しPDFを得た[6]。結果を図4に、拡大図を図5に示す。図4、図5を見るとBSTOに比べてBSTONのピーク位置がやや動径距離rの大きい方にシフトしていることがわかる。(rの大きい方がシフト量も多くなっている。)これはBSTOに比べてBSTONの方が格子定数が大きくなっていることによるものと考えられる。

 今回、PDFにより確認したいのは窒素置換によるTiO6八面体の歪みである。この歪みの影響は図5中に矢印で示したTi-Oの結合距離に相当する約2 Å付近のピークに表れると考えられる。しかし、BSTOと窒素置換したBSTONとで、このピークの位置やブロードさにおいて明確な違いは認められなかった。本ピークは他のピークに比べて強度が弱い他、フーリエ変換の打ち切り誤差によると考えられる振動の影響もあり、詳細な解析は困難であると判断した。




図3.Q[S(Q)-1]より得られる干渉関数Qi(Q)




図4.PDF結果




図5.PDF結果(拡大図)



今後の課題:

 Ti-Oの結合距離に相当する約2 Å付近のピークは、フーリエ変換の打ち切り誤差によると考えられる振動の影響があり、詳細な議論は困難であった。今後は、より大きなQまで測定が可能でありフーリエ変換の打ち切り誤差の影響が少ないと考えられる中性子回折を用いた実験が望まれる。


参考文献:

[1] 樹神克明, セラミックス,43 ,909(2008).

[2] Amparo Fuertes, J. Mater. Chem.,22,3293(2012).

[3] Ivoyl P. KOUTSAROFF,日本セラミックス協会 秋季シンポジウム講演予稿集,24,354(2011).

[4] 檜貝信一, セラミックス,46 ,495(2011).

[5] 檜貝信一, 日本物理学会2011年秋季大会講演概要集, 4,1013(2011).

[6] Valeri Petkov, Chem. Mater.,18,814(2006).



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(Received: July 9, 2012; Accepted: November 1, 2013; Published: December 10, 2013)