SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume1 No.3

Section B : Industrial Application Report

NiZnフェライトの微細構造が磁区構造およびコアロスに与える影響に関する研究
Study for the Micro-Structure Effect on the Magnetic Domain and Core Loss in Polycrystalline NiZn Ferrite

DOI:10.18957/rr.1.3.107
2012A1111 / BL17SU

河野(大竹)健二

Kenji Kawano

太陽誘電株式会社

TAIYO YUDEN Co. Ltd.

Abstract

 NiZnフェライト焼結体表面での磁区を光電子顕微鏡(Photo Emission Electron Microscope; PEEM)を用いて観察を行い、微細構造が磁区構造にどのような影響を与えているのかを理解することを目的に実験を行った。実験の結果、フェライトの磁区構造を観察することができ、粒径が小さい方が、磁区も小さく、複雑な構造を取ることを確認し、また、磁壁は粒界部分に局在しているわけではなく、粒内にも多数存在していることが確認された。このような磁区構造は、透磁率、コアロス等のバルク体の特性から予想されるものとは異なっており、今回の結果は、フェライトの磁化過程と磁区の形成に関して、新たな知見を与えるものである。


キーワード: フェライト、磁区観察、光電子顕微鏡、PEEM

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背景と研究目的:

 インダクタに代表される磁性部品の損失は銅損と鉄損に分けられ、そのうちの鉄損は部品に用いられる軟磁性材料の損失(コアロス)である。高周波用の磁性材料として最も一般的な材料は、NiZnフェライト材料(NiZnフェライト)であり、NiZnフェライトのコアロス低減も求められている。本研究は、NiZnフェライトのコアロスの発生機構を理解する上で重要な磁区観察を行うものであり、材料の低損失化ひいては省エネルギー化に大きく貢献するものである。

 これまでの研究から[1,2]、材料中の微細構造を制御し、粒径を単磁区サイズ以下にすることによって、磁壁移動による磁化が抑制され、コアロスが大幅に低減することが報告されている。このことは、粒径を単磁区サイズ程度にまで小さくすることで、粒内での磁壁生成および移動が抑制され、磁化過程が回転磁化成分だけで支配され、外部磁界の大きさが異方性磁界の半分以下であれば、コアロスが低減されることを示唆している。

 しかしながら、材料はセラミックス焼結体であり、材料中の粒径は大きく分布しており、特定の粒径でコアロスが大幅に低減する振る舞いについては十分には理解できていない。このようなコアロスの振る舞いを理解し、更に低損失なフェライト材料を開発するために、フェライト焼結体中の磁区構造と微細構造の関係を理解することが重要であり、今回フェライト焼結体中の磁区構造を、放射光を用いた光電子顕微鏡(PEEM)で観察することを目的に実験を実施した。


実験:

 試料は、通常の固相合成法を用いて作成した[1]。焼成温度を変更することで、粒径を調整した。PEEM測定には、表面を鏡面研磨し、その後、焼成温度よりも低温で熱処理することで、研磨時の残留応力を除去したサンプルを用いた。

 NiZnフェライトは絶縁体なので、PEEM測定時に表面がチャージアップするという問題がある。この問題を解決するために、表面にはストライプ状に金を蒸着し、電子のパスを形成することで、チャージアップを回避しつつ、金ストライプ周辺において観測を行った[3]。実験には、SPring-8 BL17SUに設置されたエネルギー分光型光電子顕微鏡(SPELEEM)を用いた。SPELEEMは高い空間分解能をもち、3種類の分光モード(イメージングモード・回折モード・分散モード)を切替えながら観察・測定することができる。また、円偏光軟X線、電子線、水銀ランプの3種の光源を用いることで、試料形状だけでなく、磁気状態を直接スクリーンに拡大投影できる。磁区観察では、高輝度円偏光を酸化鉄の吸収端に設定して実施した。なお、全ての測定は室温、ゼロ磁場下で実施した。


結果および考察:




図1: PEEM測定で得られた平均粒径(a) 4.5 μm, (b) 6.4 μm, (c) 10.5 μmの磁区構造

 図中の白い線はX-ray absorption(XAS)測定から得られた粒界の位置を示す。



 図1に、平均粒径が(a) 4.5 μm, (b) 6.4 μm, (c) 10.5 μmの磁区イメージを示す。図が示すように、平均粒径が小さくなることで、磁区の大きさも小さくなることがわかることから、微細構造が磁区構造に影響を与えていることが強く示唆される。また、いずれの粒径においても、粒界と磁壁の位置が一致しているところもあるが、一方では、粒界をまたいで存在する磁壁も多数認められることから、粒界が必ずしも磁壁のピンニング点にはならないということが推測される。

 これまでのコアロスや透磁率等のバルク物性結果から、平均粒径が6 μm以下の場合、全ての結晶粒は単磁区として振る舞い、磁壁は粒界にしか存在せず、しかも非常に強くピンニングされていることから、磁化過程は回転成分しかなく、一方、6 μm以上の場合には、粒内に磁壁が形成され、磁化過程にも粒内磁壁が影響するということが示唆されている。

 しかしながら、今回の結果は、微細構造が磁区形成に影響を与えていることは明らかだが、粒径の大きさに関わらず、磁壁が必ず粒界に存在しているわけでなく、粒界を横断して磁壁が存在し得ることを示している。

 これまでのバルク物性の議論は、粒界に存在している非磁性層により粒同士の相互作用は十分に小さいということを前提にしているが、今回粒界をまたぐような磁壁の存在が確認され、この事実は、粒同士の相互作用の存在を示唆している。粒同士の相互作用が存在し、今回得られた磁区構造を前提とした場合、バルク物性をどのように理解すればよいかについては、現時点では十分には理解されておらず今後の課題である。


参考文献:

[1] P.J. van der Zaag et al., Appl.Phys.Lett. 69, 2927 (1996).

[2] K.Kawano et al., J.Mag.Mag.Mat. 321, 2488 (2009).

[3] T. Ohkochi et al., submitted to J. Synchrotron. Radiat.



ⒸJASRI


(Received: November 16, 2012; Early edition: August 30, 2013; Accepted: November 1, 2013; Published: December 10, 2013)