SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume1 No.3

Section B : Industrial Application Report

X線光子相関分光法を用いたシリカ充填加硫ゴムのダイナミクスに関する研究
Dynamics of Vulcanized Rubber Filled with Silica Studied by X-ray Photon Correlation Spectroscopy

DOI:10.18957/rr.1.3.109
2012A1121 / BL40XU

篠原 佑也a, 岸本 浩通a,b, 雨宮 慶幸a

Yuya Shinoharaa, Hiroyuki Kishimotoa,b, Yoshiyuki Amemiyaa

a東京大学大学院新領域創成科学研究科, b住友ゴム工業株式会社

aGraduate School of Frontier Sciences, The University of Tokyo, bSumitomo Rubber Industries Ltd.

Abstract

 本研究では、加硫ゴム中でのシリカ粒子のダイナミクスを解明するために、X線光子相関分光測定を実施した。実験の結果、未加硫ゴムと比較してダイナミクスが極めて遅くなっていることが明らかになった。一方で未加硫ゴムにおいて観察されたように、ダイナミクスが試料の扱いに敏感であるため、より再現性のあるデータ取得に向けて、実験時の試料の取扱いを今後工夫していかなければならないことが明らかになった。


キーワード: X線光子相関分光法、加硫ゴム、ダイナミクス

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背景と研究目的:

 ゴムにカーボンブラックやシリカなどのナノ粒子を充填すると、破壊強度や粘弾性特性などの力学物性が向上する「補強効果」が観察される。この補強効果は、タイヤなどにゴムを用いる際になくてはならないものとなっているが、その機構に関しては未解明な点が多い。我々のグループではこれまでにSPring-8 BL20XU, BL40B2,BL03XUでの時間分割2次元極小角・小角X線散乱[1]を用いたゴム延伸時のナノ粒子凝集構造変形過程の観察[2]や、BL47XUでのX線CTを用いたナノ粒子凝集構造の3次元実空間配置の解明[3]などを実施し、ゴムを大変形した際のナノ粒子凝集構造の変形や、力学物性との相関について明らかにしてきた。しかし、周波数依存する力学物性とナノ粒子充填との解明を明らかにするためには、ゴム中でのナノ粒子のダイナミクスに関する知見を得なければならない。

 そこで、我々のグループではこれまでBL40XUにおいてX線光子相関分光法(X-ray Photon Correlation Spectroscopy: XPCS)[4-6]を実施してきた。XPCSとはいわばX線を用いた動的光散乱である。実験的には(準)コヒーレントなX線を生成し、それを用いて散乱像の時間分割測定を実施し、得られたスペックル像(図1)の強度相関から系のダイナミクスに関する知見を得る手法である。X線を用いているため、ナノ粒子充填ゴムのような可視光に対しては不透明な試料に対しても適用することができ、また波長が短いためミクロスコピックな揺らぎを測定するのに適している。


図1 ナノ粒子充填ゴムからのスペックル像[11]

 

 これまでに我々は、主に未加硫ゴムにシリカやカーボンブラックなどのナノ粒子を充填した系を対象に研究を進めてきており[7]、例えばゴム練りからの経過時間でナノ粒子が示すAging挙動[8]や、加硫過程におけるナノ粒子ダイナミクス変化[9]を明らかにしてきた。

 本研究では以上の背景をもとに、タイヤなどに実際に用いられるゴム材料の物性解明を目指して、シリカ充填加硫ゴムへとXPCSを適用した。

 

実験:

 XPCS実験はSPring-8のBL40XUにて実施した。実験に関してはこれまで本グループで実施してきたもの[7]と同様に、ヘリカルアンジュレーターからの10.5 keVの準単色X線を5ミクロン程度のピンホールに通して準コヒーレントなX線を生成し、それをLINKAM社製の温度制御ステージ中に設置した試料に照射し、小角散乱領域のスペックル像を3 m程度下流においた検出器で0.1 Hzの読み出し間隔で時間分割測定した。検出器としてはXPCS用のImage Intensifier[10]と組み合わせたCCD型X線検出器(C4880-80)を用いた。試料としてはシリカ粒子をスチレンブタジエンゴムに5-30%程度の体積分率で練り込み、硫黄架橋したものを用いた。実験時には試料温度を室温から150°Cの間で数点選び、測定を実施した。

 

結果および考察:

 図2にはシリカ充填スチレンブタジエンゴムのXPCS実験で得られた強度相関関数を示す(q = 0.08 nm-1)。シリカの体積分率は5%、試料の温度は30°Cであった。強度揺らぎの時間相関関数について方位角平均をとることで、実効的なアンサンブル平均を実施した。図から明らかなようにおおよそ1000秒程度の緩和を示す。これは未加硫ゴムで観察された数秒から数十秒のダイナミクス[7-9]と比較すると極めてゆっくりとしたものであり、ゴムが架橋したことによる影響だと考えられる。


図2 アンサンブル平均した時間相関関数

 

 一方で、よりダイナミクスの詳細について検討するためには温度やナノ粒子の体積分率を系統的に制御した際の結果の比較が必要であるが、今回の実験では測定毎に観測される緩和時間が異なるなど、再現性のあるデータを得ることができなかった。これは、未加硫ゴムのXPCSと同様に、試料に僅かでも触れると系のダイナミクスが大きく変化してしまうことや、試料架橋からの経過時間によるAgingなどが関係していることが考えられる。XPCSの場合にはデータ量が膨大になるため、全てのデータをビームタイム中に処理して確認することができない。

 したがって、どのデータもおおよそ1000秒程度のゆっくりとした緩和をしていることは生データから確認していたが、十分な定量性のある再現性の確認まではビームタイム中に実施することができなかった。

 

今後の課題:

 前項で述べたように、今回のデータでは加硫により緩和時間が大幅に長くなることは明らかになったが、試料の種類や温度に対する依存性を明らかにするほどの再現性は得られなかった。未加硫ゴムの際と同様に、これに関しては試料の取扱を工夫することで克服することができると考えている。2012B期でも課題が採択されたので、今回の結果をもとにより試料の取扱を工夫することで、加硫ゴム中でのナノ粒子ダイナミクス解明を目指す。

 

参考文献:

[1] Y. Shinohara,H. Kishimoto,K. Inoue,Y. Suzuki,A. Takeuchi,K. Uesugi,N. Yagi,K. Muraoka,T. Mizoguchi,and Y. Amemiya, Journal of Applied Crystallography, 40, s397-s401(2007).

[2] H. Kishimoto,Y. Shinohara,Y. Amemiya,K. Inoue,Y. Suzuki,A. Takeuchi,K. Uesugi,and N. Yagi, Rubber Chemistry & Technology, 81, 541-551(2008).

[3] H. Kishimoto,M. Naito,Y. Shinohara,A. Takeuchi,K. Uesugi,Y. Suzuki,and Y. Amemiya, Polymer Journal, 45, 64-69(2013).

[4] M. Sutton, Comptes Rendus Physique, 9, 657-667(2008).

[5] R. L. Leheny, Current Opinion in Colloid & Interface Science, 17, 3-12(2012).

[6] 篠原佑也,高分子. 60, 178-181(2011).

[7] Y. Shinohara,H. Kishimoto,T. Maejima,H. Nishikawa,N. Yagi,and Y. Amemiya, Japanese Journal of Applied Physics, 46, L300-L302(2007).

[8] Y. Shinohara,H. Kishimoto,N. Yagi,and Y. Amemiya, Macromolecules, 43, 9480-9487 (2010).

[9] Y. Shinohara,H. Kishimoto,T. Maejima,H. Nishikawa,N. Yagi,and Y. Amemiya, Soft Matter, 8, 3457-3462(2012).

[10] Y. Shinohara,R. Imai,H. Kishimoto,N. Yagi,and Y. Amemiya, Journal of Synchrotron Radiation, 17, 737-742(2010).

[11] Y. Shinohara, Doctoral Dissertation, The University of Tokyo (2011).

 

ⒸJASRI

 

(Received: November 16, 2012; Early edition: August 30, 2013; Accepted: November 1, 2013; Published: December 10, 2013)