SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume1 No.3

Section B : Industrial Application Report

放射光蛍光X線法による酸化ジルコニウム中の微量遷移元素分析
Analysis of Trace Transition Elements in Zirconium Oxide Using Synchrotron Radiation X-Ray Fluorescence Spectrometry

DOI:10.18957/rr.1.3.129
2012A1320 / BL37XU

國貞 泰一a, 寺田 昌生a, 野井 浩祐a, 関 隼人a

Taichi Kunisadaa, Masao Teradaa, Kousuke Noia, Hayato Sekia

a第一稀元素化学工業株式会社

aDaiichi Kigenso Kagaku Kogyo Co., Ltd.

Abstract

 酸化ジルコニウムの不純物の多くは原鉱石由来である。主な原鉱石であるジルコンサンド中には主成分のジルコニウム以外にハフニウム(Hf)が約1.5〜2%含有されているが、ハフニウム以外にも極微量不純物が含有されていることが多い。本試験では放射光を用いた蛍光X線分析により酸化ジルコニウム粉末中の遷移元素の高精度分析を目指したが、主成分のジルコニウムピーク、ハフニウムピーク、それらサムピーク及び連続X線の影響により、精度の高い定性・定量はできないことがわかった。


キーワード: 酸化ジルコニウム、ジルコニア、不純物、遷移元素、蛍光X線分析

pdfDownload PDF (609 KB)

1.背景と研究目的:

 当社は自動車排ガス触媒用及びファインセラミックス用のジルコニウム(Zr)-希土複合酸化物を主力とするジルコニウム化合物の国内トップメーカーである。また当社はジルコニウム原鉱石から最終製品を製造する技術を有しており、大半のジルコニウム化合物の製造が可能である。あらゆるジルコニウム化合物のニーズに応えることが当社の使命と考えており、ジルコニウム化合物の詳細な特性把握は、必然の課題である。

 ジルコニウム製品の主な中間体にオキシ塩化ジルコニウム結晶(ZrOCl2・8H2O)がある。オキシ塩化ジルコニウム結晶には原鉱石であるジルコンサンド由来のハフニウム(Hf)が含有されている。Hfはジルコニウムと唯一連続固溶体になると考えられており、約1.5〜2%が含有されているが、オキシ塩化ジルコニウム結晶にはHf以外にも原鉱石由来の極微量不純物が含有されていることが多い。また、これらの極微量不純物はジルコニウム製品の機能に影響することがある。

 一般的に、酸化ジルコニウム中の不純物定量は原子吸光装置、誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP)等も使用して行われており、これらの検出下限はppmオーダーである。これらの化学分析法は有用であるが、溶液化や主成分の分離など煩雑な前処理操作と長時間を要する。また、実験室の蛍光X線装置では、検出下限が10 ppm以上であり、微量分析が困難となっている。

 放射光は輝度が高く指向性に優れているという特性を持ち、SPring-8等の第三世代の放射光施設では20 keV以上の高エネルギーX線[1]を励起光に用いることができる。この励起光を用いたシンクロトロン放射光蛍光X線分析(SR-XRF)によって、酸化ジルコニウム粉末中の遷移元素について非破壊でありながらも化学分析法以上の高精度分析ができる可能性を検討することとした。さらに、定性分析による未知不純物の検出も期待した。

 本試験のBL37XUでの遷移元素分析と合わせて、より高エネルギー励起光が得られるBL08Wにおいて課題番号2012A1318で希土類元素及びアクチノイドを分析し、総括的に不純物の定量を行うことを目指した。


2.実験:

2-1.試料調製

 定量には検量線法を採用した。定量を試みた元素はV、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Nb、Moの8種とした。標準試料用高純度酸化ジルコニウムは、精密分析用塩酸(キシダ化学製)を用いて中間体であるオキシ塩化ジルコニウムの再結晶を繰り返すことで得たもので、今回の分析対象元素の含有量が1 ppm以下となっている。調製及び希釈に用いた純水は、すべて超純水製造装置(アドバンテック製)で製造した。使用器具のうち石英ビーカーとPFA(パーフルオロアルコキシアルカン)製器具は精密分析用硝酸(キシダ化学製)で洗浄し、その他の樹脂器具は不純物を含有しないディスポーザブル品を用いた。

 検量線用標準試料は、目的の元素を含む金属標準液(原子吸光分析用(1000 mg/l) 和光純薬工業製)を標準試料用酸化ジルコニウムに既知量添加し、焼成後、得られた酸化物を粉砕し得た。検量線用標準試料の各元素の添加濃度を表1に示す。添加濃度は金属標準液の添加量より算出した。得られた検量線用標準試料粉末をそれぞれポリプロピレンフィルム(蛍光X線分析用フィルム リガク製CH425 Polypropylene 6.0 μm)にポリシーラー(富士インパルス製)を用いて封入し、試料の飛散や汚染を防いだ。それらフィルムを30 mm径の孔を開けた40 mm角、厚さ1 mmのアクリル板に両面テープで保持し、測定に供した。



表1.検量線用標準試料の各元素の添加濃度




 次に、測定用試料として製造者が異なるオキシ塩化ジルコニウム4種を選択した。これらオキシ塩化ジルコニウムを焼成し酸化ジルコニウム粉末にした後、ICP(HORIBA製ULTIMA-Ⅱ)により不純物分析した。ICP検量線用標準溶液は前記の高純度化したオキシ塩化ジルコニウムと金属標準溶液を使用して調製した。表2にその結果を示す。測定用試料酸化ジルコニウム粉末A〜Dにおいても検量線用標準試料と同様に封入処理等し、測定に供した。



表2.測定用試料の不純物分析値




2-2.測定条件

 入射X線のエネルギーを、8種の目的元素のKαを励起するために十分な30 keVとした。入射X線のエネルギーをSi(400)モノクロメーターにより単色化した。ビームサイズは四象限スリットにより100 μm×100 μmとし、試料に垂直入射とした。蛍光X線の検出には、Ge半導体検出器(キャンベラ製HUL0055p)を用いた。主成分Zr、副成分Hfも励起され、図3,4に示されたように強い蛍光X線が発生し検出器が飽和しやすいため、試料の希薄部分を選んで測定した。測定は大気中で行った。1試料あたり測定時間は、まず600秒でブランク及び検量線用標準試料の検量①〜⑦を測定した。次に1800秒でブランク及び検量線用標準試料の検量⑤〜⑦と測定用試料A〜Dを測定した。

 得られたスペクトルについて、目的とした元素の蛍光X線の自己吸収等による強度変化をHf Lα1ピークによって規格化し、各元素のピークの積分面積強度を算出し、添加濃度との関係から検量線作成を試みた。



3.結果および考察:

3-1.検量線用標準試料

 図1に測定時間600秒の4〜10 keV領域のスペクトルを、図2に測定時間1800秒の4〜10 keV領域のスペクトルを示す。V、Cr、Mn、Fe、Co、Niの6種のピーク位置を矢印で示した。

 近接する強いHf Lα線により分析元素スペクトル位置のバックグラウンドが高いため検出感度が悪くなっている。Fe、CoはK線ピークが見えているように思えるが、ブランク試料との差異が見られなかった。

 検出感度が十分得られなかったのは、上述の共存元素によるバックグラウンド上昇と共存元素からの蛍光X線による検出器飽和の問題のため十分な信号強度を得られなかったためと思われる。




図1.測定時間600秒、4〜10 keVのスペクトル




図2.測定時間1800秒、4〜10 keVのスペクトル



 次にNbとMoのKαピークであるが、主成分であるジルコニウムのKαと重なり、NbとMoのKαピークを判別することはできなかった。図3に測定時間600秒の5〜30 keV領域のスペクトルを、図4に測定時間1800秒の5〜30 keV領域のスペクトルを示す。




図3.測定時間600秒、5〜30 keVのスペクトル




図4.測定時間1800秒、5〜30 keVのスペクトル



 また20.8 keV及び24.0 keV付近にピークが見られた。しかし、それら蛍光X線に該当する元素はなく、ジルコニウムやHfのサムピークでもないため、どのような要因でこれらのピークが出現したかについては今後も調査が必要であると考えられる。


3-2.測定用試料

 図5に測定用試料A〜Dの4〜10 keVにおけるスペクトルを示す。




図5.測定用試料A〜Dのスペクトル



 測定用試料A〜Dにおいても検量線の結果と同様に検出感度が得られなかった。

 今回の実験により、酸化ジルコニウム粉末中の微量遷移元素(V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Nb、Mo)を30 keVの励起光を用いて蛍光X線分析を行うことは共存元素の妨害などで難しいことが判った。今後この共存元素への対処法について検討したい。


参考文献:

[1] 寺田靖子、中井泉、放射光、17(6), 323 (2004).



ⒸJASRI


(Received: October 22, 2012; Accepted: November 1, 2013; Published: December 10, 2013)