SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume1 No.3

Section B : Industrial Application Report

水性有機半導体コロイドインクから形成した有機薄膜のGIXDを用いた界面ナノ構造解析
Grazing Incidence X-ray Diffraction (GIXD) Measurement of Colloidal Organic Semiconductor Thin-Films Formed by a Electrospray Deposition Method

DOI:10.18957/rr.1.3.134
2012A1336 / BL13XU

田島 右副, 折井 孝彰, 高久 英明, 木本 篤志

Yusuke Tajima, Takaaki Orii, Hideaki Takaku, Atsushi Kimoto

独立行政法人理化学研究所

RIKEN

Abstract

 有機薄膜太陽電池の活性層に用いられる導電性高分子やフラーレン誘導体を水性有機半導体コロイドインク化し、静電噴霧堆積(ESD)法によって薄膜を形成した。このコロイド薄膜の内部構造を解明するため、In-plane GIXD測定を行い、クロロベンゼン溶液からスピンコート法で製膜した薄膜と比較を行った。導電性高分子では成膜法に依存せず、分子の自己組織化能に依存した結晶構造が確認された。一方、フラーレン誘導体は化学構造によって成膜法の影響が異なり、結晶性の高いフラーレンでもコロイド薄膜ではアモルファス状態を取りやすいことが明らかになった。


キーワード: 有機半導体、コロイド、フラーレン、静電噴霧堆積法、GIXD

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背景と研究目的:

 軽量、柔軟性、低コストなどの特長をもつ有機薄膜太陽電池は、近年変換効率の飛躍的な向上が報告され、実用化への期待が一層高まっている。印刷法を利用した作製法は特長の一つであるが、一般に有機半導体材料はクロロベンゼンなどの有機溶媒に溶解させ、塗布および加熱アニールなどの結晶化プロセスを経てデバイスを作製する必要がある。

 我々は、有機半導体材料を水中でナノ粒子化した水性有機半導体コロイドインクと、それを用いたデバイスの製造技術を確立することによって、環境負荷を大幅に低減可能かつ高性能な有機エレクトロニクスの実現を目指している。これまで、インクの塗布プロセスのみで光電変換特性を発現することを確認しているが、キャリア移動度の観点から重要となるコロイド粒子および堆積膜の構造、結晶性、配向性等については十分な評価が行われていない。

 本課題は、有機薄膜太陽電池の発電層材料であるp型およびn型の有機物半導体の水性コロイド粒子堆積膜の高強度X線によるGIXD測定を行い、有機溶媒の溶液から成膜したキャストフィルムと比較することにより、コロイド粒子および堆積膜の結晶性について議論した。

 

実験:

 本測定では、p型有機半導体のP3HT(poly(3-hexylthiophene))、PCDTBT(poly [N-9 ''-hepta-decanyl- 2,7-carbazole-alt-5,5-(4',7'-di-2-thienyl-2',1',3'-benzothiadiazole)])[1]、およびn型有機半導体のフラーレン誘導体ICMA(indene-C60 monoadduct)、ならびにIndolino-C60[2]をそれぞれ再沈殿法により水分散性コロイド化インクを調整し、ITO透明電極付ガラス基板上にESD法により静電塗布した堆積膜を形成した。コロイド粒子の形状は概ね球形で、平均粒径サイズは動的光散乱(DLS)測定によるモード直径でおよそ30〜80 nmであった。

 また、比較のため、各有機半導体のクロロベンゼン溶液をスピンコートにより成膜し、一部はアニール処理を施した試料を用いた。GIXD測定は、SPring-8 BL13XUにおいて多軸回折計を用いて行われた。入射エネルギー12.4 keVのX線を1 mm(H)×0.2 mm(V)で切り出し、X線照射によるダメージを低減するためHeガス雰囲気下でサンプルに入射角0.15°で照射した。受光スリットを1 mm(H)×4 mm(V)とし、シンチレーション検出器により散乱角2θの測定範囲:2〜30°で、測定間隔:0.1°、積算時間1 sで観測した。なお、当初計画ではin-plane測定およびout-of-plane測定の実施を予定していたが、測定時間やデータ解析の都合上、有機薄膜中のナノ粒子測定で実績のあるin-plane測定[3]を優先し、out-of-plane測定は実施しなかった。

 

結果および考察:

 Fig.1にP3HTコロイド粒子(平均粒径:約60 nm)について、堆積膜のX線回折プロファイルをスピンコート膜の結果と共に示す。23°付近に見られるピークはITO膜に由来するものである。P3HTの場合、いずれの膜からもP3HTのラメラ構造に由来する回折指数(100), (200)、およびチオフェン環のπ‐πスタッキングに由来する(010)に相当するピークが観測された。スピンコート膜は150°Cによるアニール処理時間の増加(<30 min)によりいずれのピークも強度の低下が認められた。コロイド粒子堆積膜のピークはスピンコート膜に比べて(100), (200)のピーク強度が高く、(010)のピーク強度が弱い傾向が観測されたが、いずれのピーク強度もアニール処理後のスピンコート膜の同等程度かそれ以上であった。なお、コロイド粒子の粒径30〜60 nmの範囲で、膜厚に依存するピークの増減を除いて、線幅などに有意な違いは観測されていない。

 Fig.2にPCDTBTコロイド粒子(平均粒径:約80 nm)について、堆積膜のX線回折プロファイルをスピンコート膜の結果と共に示す。PCDTBTにおいては、いずれの膜からも明瞭なピークは観測されていない。これはPCDTBTが強い自己組織化能を持たないことによるものと考えられる。

 Fig.3にIndolino-C60(コロイド粒子の平均粒径:40 nm)とICMA(同:30 nm)について、堆積膜のX線回折プロファイルをスピンコート膜の結果と共に示す。Indolino-C60については成膜方法により顕著な違いが認められた。スピンコート法による薄膜で観測された鋭い回折ピークは、真空蒸着法によるC60薄膜[4]の回折ピークと良い一致を示し、類似した結晶構造を形成していることが示唆された。これはIndolino-C60の分子間相互作用が強いため、スピンコート成膜による溶媒蒸発過程で微結晶を形成したものと考えられる。

 一方、コロイド粒子堆積膜ではピーク位置のシフトと幅の増大が観測された。これは、コロイド調製時に用いた良溶媒がコロイド粒子中に残留している影響などが考えられる[5]。比較的結晶性の低いICMAではどちらの薄膜でも幅広いピークが観測され、アモルファス状態の膜が形成されたことを示した。n型半導体としてフラーレン誘導体を用いた場合、結晶性と配向性がキャリア移動度に大きく影響することが知られている[6]。本測定ではIndolino-C60はナノ粒子薄膜の状態でもスピンコート薄膜と同様の結晶構造由来の鋭いピークを観測しており、高い電子移動度が求められる有機薄膜太陽電池用n型半導体として有望であることを示唆している。

Fig. 1.p型有機半導体薄膜(P3HT)のGIXD測定.

 コロイド粒子のESD堆積膜(実線青),スピンコート膜(アニール処理なし:実線赤,アニール時間10分:破線赤,アニール時間30分:点線赤)

Fig. 2.p型有機半導体薄膜(PCDTBT)のGIXD測定.

 コロイド粒子のESD堆積膜(実線緑),スピンコート膜(アニール処理なし:実線橙)

Fig. 3.n型有機半導体薄膜のGIXD測定.

 Indolino C60コロイド粒子のESD堆積膜(実線青),スピンコート膜(アニール処理なし:実線赤),ICMAコロイド粒子のESD堆積膜(実線緑),スピンコート膜(アニール処理なし:実線橙)

 

参考文献:

[1] Blouin, N., Michaud, A., Leclerc M., "A Low-Bandgap Poly(2,7-Carbazole) Derivative for Use in High-Performance Solar Cells", Advanced Materials, 19, 2295-2300 (2007).

[2] Tajima, Y., Takeshi, K., Shigemitsu, Y., Numata, Y., “Chemistry of Fullerene Epoxides: Synthesis, Structure and Nucleophilic Substitution-Addition Reactivity”, Molecules, 17, 6395-6414 (2012).

[3] Kim, J., Nam, S., Jeong J., Kim H., Kim Y., “Effect of silicon-nanoparticle addition on the nanostructure of polythiophene: Fullurene bulk heterojunction solar cells” Journal of the Korean Physical Society, 61, 234-238 (2012).

[4] Ohashi, H., Tanigaki, K., Kimura, S., Kumashiro, R., Kato, K., Takata, M., “Low-glancing-angle x-ray diffraction study on the relationship between crystallinity and properties of C60 field effect transistor” Applied Physics Letters 84, 520-522 (2004).

[5] Masuhara, A., Tan, Z., Kasai, H., Nakanishi, H., Oikawa, H., “Fullerene Fine Crystals with Unique Shapes and Controlled Size” Japanese Journal of Applied Physics, 48, 050506 (2009).

[6] Pitliya, P., Singh G., Chapa, J., Karim, A., Raghavan D., “Dispersion-orientation effects of fulleropyrrolidine in zone annealed block-copolymer films toward optimizing OPV interfaces”, Polymer, 54(4), 1415-1424 (2013).

 

ⒸJASRI

 

(Received: November 16, 2012; Accepted: November 1, 2013; Published: December 10, 2013)