SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume1 No.3

Section B : Industrial Application Report

タイヤの耐久性向上のための黄銅/ゴムの接着結合様式の解析 -ゴム中の硫黄の化学状態解析
Analysis of the Adhesion Binding Style of Brass/Rubber for Durable Improvement of the Tire -Analysis of the Chemical State of Sulfur in Rubber Compound

DOI:10.18957/rr.1.3.138
2012A1377 / BL27SU

清水 克典, 鹿久保 隆志, 網野 直也

Katsunori Shimizu, Takashi Kakubo, Naoya Amino

横浜ゴム株式会社

The Yokohama Rubber Co., Ltd.

Abstract

アブストラクト:

 タイヤ中のスチールコードとゴムを接着させることで耐久性が維持される。金属接着用ゴムには有機酸Coが含まれるが、ゴム中のCo塩の化学的情報はこれまであまり知られていない。そこで我々は加硫中におけるCo塩の経時変化ついて調査を行い、加硫初期にSと化学反応を起こしていると推測した。更なる分析としてCo塩配合コンパウンドにおけるSの反応メカニズムを軟X線を用いるXAFS測定より調査を行った。隣接する化合物の動径構造関数よりSは加硫初期においてCo及びCuと化学結合している可能性があることを見出した。


キーワード: タイヤ、ゴム、接着、コバルト、XAFS、XANES、EXAFS

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背景と研究目的:

 ブラスとゴムの接着性向上にはCo塩の添加が有効であるとされている[1]。しかしながらCo塩の触媒作用については未知な点が多く、反応メカニズムについて解明できれば更なる接着層の強化が期待できると考えられる。だが、ラボ分析機器では微量に配合されているCoの検出及び反応メカニズムを調査することは困難である。そこで、これらの問題を解決する手法として高輝度であり時分割測定による分析が可能なXAFS測定が有効である。

 前回の課題(課題番号2011B1794)にてBL14B2を用いて加硫中におけるCo塩の経時変化ついて調査を行った。結果より観察されたCo-K吸収端のピークは加硫時間増加に伴い変化した。大幅なピーク変化は加硫時間6 minまでにほぼ収束したことから、加硫によるCo塩の化学変化は加硫時間6 minの間に活発に行われていることが分かった。またEXAFS領域より求めた動径構造関数より、加硫処理によりCoに隣接する化合物の原子間距離がわずかに遠くなったことが確認された。得られた原子間距離の変化よりCo塩は加硫により解離して、Sと結合すると推定した。

 これらの結果からCoの反応挙動を解明するためには、加硫時のSの反応挙動についても調査する必要があると考えた。Co塩配合におけるSの反応挙動はこれまで観察したことがなく、今回観察することができれば、接着層の開発において大変有意なデータが得られる。

 

試料:

 ゴム試料をブラス板上に少量添加した後、170 °Cで1、3、5、10、50 min加硫した。その際にブラス板上にゴムが50 μm程度の厚さになるようにサンプルを調製した。

 ゴム試料には天然ゴムに酸化亜鉛、硫黄、加硫促進剤とステアリン酸Coが含まれる。

 

実験:

 分析には軟X線領域の照射が可能であるSPring-8 BL27SUを用いた。モノクロ結晶面方位はSi(111)を用いて、蛍光法でXAFS測定した。検出器はSSD検出器を使用した。スペクトルの解析にはIfeffitのAthenaを用いた。測定したS化合物を特定するため、基準試料としてブラス及びゴムとの反応時に生成が予想されるCoS、ZnS、CuS、Cu2Sの測定を透過法にて行った。基準物質と熱により化学変化したS化合物のS-K吸収端のピーク形状を比較することにより、ゴム中に存在するSの化学状態を解析した。

 S1s エネルギーは2472 eVであるため、2400〜3500 eVの範囲で測定を行った。S-K吸収端のエネルギー変化をより明確に解析するため、2460〜2510 eVでは0.2 eV刻みとした。また2400〜2460 eVでは0.5 eV、2510〜3500 eVでは3.0 eV間隔で測定した。

 

結果及び考察:

 実験結果から以下のことが観察された。XANES領域におけるS-K吸収端のピーク形状を図1に示す。Co塩配合の有無を比較すると、Co塩配合サンプルは加硫時間が増加するにつれて吸収端ピークが高エネルギー側にシフトする傾向が見られる。基準物質との比較により、ZnS、CuS化合物由来の吸収端ピーク(2473 eV)に近づく傾向が見られる。すなわち、Co塩配合サンプルのSは加硫初期から加硫終盤においてS(0)からS(-Ⅱ)に変化していることが確認できた。


図1 S-K端XANESスペクトル(a:Co塩未配合サンプル b:Co塩配合サンプル)


図2 k3χ(k)-XAFSスペクトル

 

 図1に示したXAFSスペクトルのEXAFS領域を波数変換した時のk3χ(k)-XAFSスペクトルを図2に示す。8 Å-1以降はノイズとみなし除去した。図2で行った補正成分を基に2 Åから8 Åの範囲でフーリエ変換して得た動径構造関数を図3に示す。図3はS原子に隣接する化合物の原子間距離を示している。


図3 EXAFS領域より求めたS原子に隣接する化合物の動径構造関数(a:Co塩未配合、b:Co塩配合)

 

 まずCo塩配合有無に関わらず両者に共通する1.5 ÅのピークはS8由来のSであると推測できる。Co塩配合有無を比較すると、Co塩配合サンプルは加硫時間1 minのサンプルにおいて既に約2 ÅにおけるRSF値がCo塩未配合サンプルより高い。予め測定した基準物質から、約2 ÅのピークはCoS及びCuSと推測でき、Co塩配合により、硫化反応が促進されることが示唆される。Co塩未配合サンプルに見られる2.5 Åに見られるピークはZnSに由来するピークと推測した。Sは加硫反応の際にZnと化学結合するが、Co塩配合の場合はCo及びCuとの硫化反応が促進されると推測できる。

 前回のXAFS測定にてCo塩の反応は加硫時間6 minにて収束する傾向であったが、Sの測定結果では加硫時間の増加に伴い反応が進行する。硫化反応はCoに限らずブラスやコンパウンド中に含まれる加硫促進剤など様々な化合物と加熱の間反応するためと考えられる。

 

今後の課題:

 SPring-8におけるXAFS測定により、加硫初期にゴム中のSの化学状態変化が起こり、また隣接する化合物の距離が変化することが分かった。これらの結果より、加硫中においてS8からSが解離し、CoあるいはCuと反応することが推測された。

 ただし、詳細な化学構造変化、隣接化合物の推定、酸化物の定量等は行っていない。今後、種々の基準物質を追加測定やスペクトルの詳細解析を行い、さらに詳細な化学状態を把握することで接着層形成におけるCoとSの役割について調査を行う。

 

参考文献:

[1]平川弘, 石川泰弘, 日本ゴム協会誌, 45巻, 10号 (1972)

 

ⒸJASRI

 

(Received: November 16, 2012; Early edition: August 30, 2013; Accepted: November 1, 2013; Published: December 10, 2013)