SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume1 No.3

Section B : Industrial Application Report

小角X線散乱法を用いたバイオプラスチックの加熱時のナノ構造評価
Study on Nanostructure of Bio-Based Plastics in Heating Process Using Small-Angle X-ray Scattering (SAXS) Technique

DOI:10.18957/rr.1.3.146
2012A1608 / BL19B2

八木 康洋a, 小林 栄司a, 松葉 豪b, 乳井 樹b

Yasuhiro Yagia, Eiji Kobayashia, Go Matsubab, Tatsuki Nyuuib

a日立化成工業(株), b山形大学

aHitachi Chemical Co., Ltd., bYamagata University

Abstract

 バイオプラスチックであるポリ乳酸/ポリプロピレン複合材のサブミクロン構造と結晶構造の加熱・融解とその後の冷却過程による変化を、極小角X線散乱測定および小角X線散乱測定を用いて分析した。複合材は融解すると可視光波長領域の大きさを有する微小球晶が消失し、試料は白色から透明に変化することが分かった。また、急冷によってポリプロピレンの結晶性が低下し、徐冷では結晶ラメラ構造の層間距離が広がることを確認した。


キーワード: 小角X線散乱、極小角X線散乱、バイオプラスチック、球晶、結晶構造評価

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背景と研究目的:

 近年、環境問題への取り組みの中でバイオプラスチック(植物由来樹脂)が注目されている。ポリ乳酸(PLA)はその代表的なものであり、自動車用部材などの構造材料への利用が進められている[1]。当社でもバイオプラスチックに注目して、PLAをポリプロピレン(PP)に混合した複合材料を用いた機能性プラスチックの研究開発に取り組んでいる。PLA/PP複合材はPP単独の使用に比べて取り扱いが困難であり、プロセスの管理が重要である。他方で近年の放射光利用技術の発展により、時間や温度による変化を評価対象にした材料分析が可能となっており、我々もプロセス管理の観点から放射光利用の研究を進めることにした。本研究では、加熱時のPLA/PP複合材のナノ構造変化を調べることを目的として小角X線散乱(SAXS)測定と極小角X線散乱(USAXS)測定を行った。PLA/PP複合材は加熱・急冷により白色から透明に変化する。この変化に伴う可視光領域の構造変化と数ナノの領域の結晶構造の変化を調べた。

 既に我々は2011B期の課題研究(課題番号2011B1845)において、テトラフルオロエチレン・ペルフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)を用い、その融解/冷却プロセスの条件を変えた試料のUSAXS測定を行った。この実験で、降温速度を小さくした試料は白濁しており、そのUSAXSプロファイルにおいて微小な球晶に由来するピークが現れること、降温速度を大きくした試料は透明でUSAXSの領域に光を散乱する構造がないことを確認した。これと同様なUSAXSプロファイルの差異がPLA/PP複合材の系でも確認できると期待し、本実験を行った。

 また、本実験ではSAXS領域における結晶構造(PPの結晶ラメラ構造)の変化にも注目した。課題申請時には加熱しながら測定することを提案し9シフトを要求したが、割り当てられたのは6シフトであった。そこで本実験では良質なデータを得ることを優先することにして加熱しながらの測定を行わず、融解・冷却済みの試料を用いて長時間露光の測定を行った。本研究でPLA/PP複合材の融解におけるサブミクロン領域の球晶の変化と冷却過程における結晶構造の変化を調べ、今後さらに継続して両者の関連性を議論することによって、一連の成果をプロセスの管理に役立てようと考えている。


実験:

 市販のPLA/PP複合材を射出成型し、厚さ1 mmの板状の試料を作成した。PLA/PPの割合は重量比で7/3および3/7である。これら板状の試料をホットプレート上で加熱し、融解を確認した後に水中で急冷した試料と、融解した後にホットプレート上で徐冷した試料を作成した。徐冷における降温速度は3 °C/minである。ビームラインBL19B2にてSAXS測定とUSAXS測定を行った。測定に用いたX線の波長は0.69 Å(18 keV)である。カメラ長はSAXS測定が2.7 m,USAXS測定が42 mであり、いずれもコラーゲンを用いて較正した。試料を透過したX線をPILATUS-2M検出器[2]により計測し、SAXSおよびUSAXSプロファイルを得た。露光時間はSAXS測定の時が10分,USAXS測定の時が30分である。SAXS,USAXSともにバックグラウンドの測定を行い、透過率を考慮して測定データからバックグラウンドを差し引いた。

 SPring-8にて測定した試料と同じ試料で広角X線回折(WAXD)測定を行った。WAXD測定はリガク製X線回折装置ATX-Gを用いて行い、使用したX線は人工結晶によって単色化されたCu Kα1線である。試料を反射したX線をNaIシンチレータにより計測し、プロファイルを得た。


結果および考察:




図1.PLA/PP複合材(7/3)のSAXS,USAXSプロファイル




図2.PLA/PP複合材(3/7)のSAXS,USAXSプロファイル



 PLA/PP複合材のSAXS,USAXSプロファイルを図1および図2に示す。図1はPLA/PPの比率が7/3である試料の未加熱品,急冷品,徐冷品の結果であり、図2はPLA/PPの比率が3/7である試料のそれである。図1と図2のいずれの結果においても未加熱の試料でUSAXS領域全体にわたって(q < 0.08 nm-1)ブロードなピークが存在する。これは微小な球晶による散乱に起因すると考えられる。融解した試料では急冷,徐冷いずれにおいてもこのピークが消失しており、PLA/PPの比率が7/3の試料ではUSAXS領域で強度がq-3.4で減衰し、比率が3/7の試料では強度がq-3.6で減衰している。急冷,徐冷のいずれの試料においても微小な球晶が消失し、PLAとPPのミクロンオーダの相分離における滑らかな界面を反映した結果と考えられる。




図3.PLA/PP複合材(7/3)のWAXDプロファイル




図4.PLA/PP複合材(3/7)のWAXDプロファイル



 SAXS領域に注目するとPLA/PPの比率が7/3,3/7のいずれの試料においても未加熱品と急冷品でqが0.5 nm-1付近と1.0 nm-1付近に1次と2次のピークを示しており、これらは12 nmおよび6 nmの面間隔の値に対応している。これらのピークはPPの結晶ラメラ構造[3]における12 nmの層間距離に相当するものと考えられる。未加熱品と急冷品でこのピークを比較すると、PLA/PPの比率が7/3,3/7のいずれの試料においても急冷品でピーク強度が減少しており、融解によりPPの結晶性が低下したと考察している。徐冷品ではPLA/PPの比率が7/3の試料でqが0.42 nm-1(面間隔の値では15 nm),3/7の試料でqが0.35 nm-1(面間隔の値では17 nm)にピークが現れている。未加熱品に比べて融解・徐冷によるこれらピークのシフトは、高温でPPの結晶化が始まったために高温での結晶ラメラ構造を維持したまま再結晶が進行した結果であると考察している。

 未加熱品,急冷品,徐冷品の結晶性を評価するため、ラボ装置によりWAXD測定を行った。結果を図3および図4に示す。いずれの試料もPPのα構造の結晶構造によるWAXDプロファイルを示している。未加熱品と急冷品を比べるとPLA/PPの比率が7/3,3/7のいずれの試料においても急冷品の強度が低下しており、WAXDの結果からも融解・急冷によりPPの結晶化度が低下したことを確認した。未加熱品と徐冷品を比べると徐冷品で見られた21°と22°付近の2本のピークが未加熱品ではPLA/PPの比率が7/3の試料で1本に、比率が3/7の試料で分離の悪い2本になっている。図3および図4の結果からPPの結晶化度は未加熱品よりも徐冷品の方が向上していることが分かった。

 図1から図4までの実験結果から得られた考察の結果を以下に記す。USAXSの測定結果は、PLA/PP複合材を加熱・融解すると微小な球晶が消失し、PLAとPPの相分離における滑らかな界面が形成されると解釈した。この構造変化は、目視において白色から透明になる現象をうまく説明することができる。一方SAXS,WAXDの測定では、融解の後に急冷するとPPの結晶ラメラ構造,結晶構造のいずれも結晶性が低下することがわかった。融解の後に徐冷すると結晶化に十分な時間が与えられ、PPの結晶構造における結晶化度が向上する。徐冷の時には高温でPPの結晶化が始まり、層間距離が広い高温での結晶ラメラ構造を維持したまま結晶化が進む。


今後の課題:

 本研究では加熱・冷却済みの試料を用いて加熱時の変化の様子を評価したが、今後は加熱・冷却しながらUSAXS,SAXSおよびWAXD測定を行い、どのように球晶や結晶構造が変化するのか詳細に調べようと考えている。加熱・冷却過程における球晶の消失と生成を時分割測定で観察する実験や、複合材中のPPの結晶構造変化を同様に時分割測定で観察する実験を企画している。これらの一連の実験結果をまとめ、PLA/PP複合材のプロセス管理に役立てたい。

 また、今回は結晶構造を示さないPLAの構造に関して特に注目せずに実験を進めたが、相分離構造の観察などからPLAに注目した研究も進めたい。これらの経験をもとに結晶構造を有しない高分子材料の系でも同様な実験を行い、サブミクロン領域の密度揺らぎ等の変化を調べる予定である。これらの一つ一つの成果を集めることで放射光利用によるプラスチック製品のプロセス管理を行った実績を作りたいと考えている。


参考文献:

[1] 稲生隆嗣、高山晃文、三宅裕一、自動車技術、65, 47 (2011).

[2] 豊川秀訓、SPring-8利用者情報、14, 300 (2009).

[3] G. R. Strobl, The Physics of Polymers 3rd Ed., Springer-Verlag, NY, 2007.



ⒸJASRI


(Received: September 6, 2012; Accepted: November 1, 2013; Published: December 10, 2013)