SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume1 No.3

Section B : Industrial Application Report

S K-edgeにおけるXAFS測定の検討
Feasibility Study of S K-edge XAFS Measurement

DOI:10.18957/rr.1.3.150
2012A1628 / BL27SU

金子 房恵a, 岸本 浩通a, 為則 雄祐b

Fusae Kanekoa, Hiroyuki Kishimotoa, Yusuke Tamenorib

a住友ゴム工業株式会社, b(公財)高輝度光科学研究センター

aSUMITOMO RUBBER INDUSTRIES, LTD., bJASRI

Abstract

 ゴム材料は、硫黄を用いてポリマー同士を橋掛けする架橋構造を形成することで、強度、機械疲労、粘弾性など特異な物理特性を発現する。しかし、その詳細な構造と物性の関係は未だ解明されていない。そこで我々は、硫黄架橋の詳細な構造を分析するためにS K-edge XAFS(X-ray Absorption Fine Structure)法に着目し、実験方法の検討を行った。


キーワード: S K-edge、XAFS、ポリマー

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背景と研究目的:

 ゴム材料は、硫黄を用いてポリマー同士を橋掛けした架橋構造を形成することで、強度、機械疲労、粘弾性など特異な物理特性を発現している。ゴム材料はこのような特徴を示すため、我々の生活にとって広く使われ、欠かすことができない材料となっている。このように、古くから硫黄架橋は重要な役割を担っていることは知られているが、その詳細な構造と物性の関係は未だ解明されていない。その為、ゴムの強度や機械疲労特性などを向上させるには、硫黄架橋構造を詳細に調べることが重要となる。

 従来、硫黄架橋構造の解析は、試料に化学的処理を施し溶媒膨潤法によって求められてきたが、間接的な架橋構造情報しか得られず詳細な解析が困難であった。また、NMR(Nuclear Magnetic Resonance)、FT-IR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy)やラマン分光を用いた研究も行われてきた。しかし、13C-NMRはポリマーと硫黄の結合点の解析は可能であるが、ポリマー間を橋架けする硫黄の構造情報を得ることができない。また、FT-IRはS-S結合の感度が低いという問題がある。一方、ラマン分光はS-S結合の感度が高いが、可視光〜遠赤外レーザーを用いるため試料ダメージや蛍光が発生するなど阻害因子が多く実用的には利用できない。このように従来の分析装置では、複雑な硫黄架橋構造の解析を行うことが困難だった。

 そこで我々は、硫黄架橋構造を詳細に分析することが可能だと考えられるS K-edge XAFS法に着目した。S K-edgeにおけるXAFS測定は、これまで様々な分野で実施され成果が挙げられている[1-3]。しかし、S K-edge XAFS法を用いて硫黄架橋構造を詳細に解析するためには、エネルギー分解能とX線強度を向上させる必要があった。そこで、我々はSPring-8 BL27SUのアンジュレータ光源を利用し、既存の回折格子を用いた分光器から結晶分光器に変更しS K-edge XAFS検討を行っている。これまで、フォトダイオード検出器を用いた透過法およびSDD(Silicon Drift Detector)検出器を用いた蛍光法の検討を行ってきた。その結果、透過法では、試料中の硫黄量が少ないためΔµt(エッジジャンプ)が小さく、精度の良い測定が難しいことが分かった。SDD検出器を用いた蛍光法の場合、十分な蛍光X線強度を得ることはできるが、XAFSスペクトルが歪む問題や十分なS/N比が得られないなどの問題があった。原因を調査したところ、以下の問題が明らかとなった。

  ①入射X線強度(I0)測定に用いていたフォトダイオード検出器とSDD検出器のX線感度におけるエネルギー依存性が異なる。

  ②フォトダイオード検出器の強度揺らぎが大きくXAFSスペクトルのS/N比が悪くなる。

 今回、入射X線強度(I0)測定について検討することを目的とし実験を行った。

 

実験:

 実験は、SPring-8 BL27SUのBブランチに設置されたSi(111)の結晶分光器を用いて実施した。結晶分光器はチャンネルカット結晶を用いているため、X線エネルギーを変更するとビーム位置が変動する問題がある。そこで、チャンネルカット結晶によるビーム高さの変化に同期させ試料位置を変えることで定位置出射条件にて測定を行った。試料は入射光に対して45°傾けた配置とした。試料からの蛍光X線強度(I1)はSDD検出器を用い、入射X線強度(I0)測定に下記の方法を用いて検討を行った。

 方法① 試料上流のミラードレイン電流を測定する。

 方法② チャンバー内の試料上流側に設置した金属薄膜(Sn:厚み数100 nm)のドレイン電流を測定する。

 方法③ 試料位置に設置したAl板の蛍光X線強度をSDD検出器を用いて測定する。


図1.各検出器を用いた場合の測定システム概略図

 

結果および考察:

 方法①、②は、入射X線強度(I0)と蛍光X線強度(I1)が同時に計測することができるという利点がある。I0とI1は同時計測するべきだと考えられるため、まず方法①、方法②について検討を行った。検討の結果、方法①のミラードレイン電流測定については、このエネルギー領域で十分な電流量を得ることができなかった。これは、S K-edgeはイオン化断面積が小さいことに起因していると考えられた。

 次に、方法②の金属薄膜のドレイン電流測定について検討を行った。その際、S K-edge付近において吸収を持たないSnを選択し、入射光が十分透過する厚み数100 nm程度の薄膜を使用した。その結果、流れる電流が小さく、使用できない事が分かった。原因は、厚みが薄くX線吸収量が少ないためと考えられた。そこで、Sn薄膜を3枚セットして測定を行った。その結果、測定時間と共に電流量が減少する現象が見られた。原因を調査するために、Sn薄膜を取り出して観察したところ、X線ダメージにより薄膜が壊れて電流が時間と共に流れなくなったと考えられた。

 そこで、SDDを用いた方法③を検討した。この方法は、入射X線強度(I0)と蛍光X線強度(I1)の同時計測はできないが、検出器におけるX線感度のエネルギー依存性が同じになるというメリットがある。そこでI0測定を、清浄なAl板を用いた部分蛍光X線測定することによって行い、試料とは別々に測定を行った。

 その結果、入射X線強度(I0)と試料からの蛍光X線強度(I1)の測定間隔が比較的短時間の場合、スペクトルに大きな問題はなかった。しかし、測定間隔が長い場合、図2に示すように、光学系のドリフトに起因する入射X線強度(I0)の変化が見られた。

 以上の結果を踏まえ、試料からの蛍光X線強度(I1)測定を実施した直後に、I0としてAl板の蛍光X線強度の測定を行い、できるだけ光学系のドリフトが少ない状態でS K-edge XAFS測定を行った。試料は、硫化亜鉛を窒化ホウ素で1%程度に希釈し、厚み0.1 mm程度のものを使用した。また、試料は液体窒素で77 Kに冷却した。その結果を図3に示す。図からわかるように正常なスペクトルが得られていると思われるが、図2のように測定する時間によってI0の形状が異なるため、より精度の高いデータを得るためには、I0とI1の同時計測が必須だと考えられる。


図2.SDD検出器で測定した入射光強度。

(赤線:マシンタイム開始時に測定、緑線:10時間経過時に測定)


図3.硫化亜鉛のS K-edgeにおけるXAFSスペクトル

 

今後の課題:

 今回、入射X線強度(I0)の測定を種々検討したが、課題が残る結果となった。今後、検出器感度のエネルギー依存性や効率性を検討し、最適な検出方法を検討する予定である。

 

参考文献:

[1] S. Yagi et al., Nucl. Instr. and Meth. in Phys. Res. B, 199, 244-248 (2003).

[2] R. Chauvistre et al., Chemical Physics, 223, 293-302 (1997).

[3] B. Gilbert et al., Physical Review B, 66, 245205 (2002).

 

ⒸJASRI

 

(Received: November 16, 2012; Accepted: November 1, 2013; Published: December 10, 2013)