SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume1 No.3

Section B : Industrial Application Report

トバモライト合成へのフライアッシュの利用(2)
Use of Fly Ash for the Synthesis of Tobermorite(2)

DOI:10.18957/rr.1.3.156
2012A1732 / BL19B2

松野 信也a, 東口 光晴a, 石川 哲吏a, 松井 久仁雄b

Shinya Matsunoa, Mitsuharu Higashiguchia, Tetsuji Ishikawaa, Kunio Matsuib

a旭化成㈱, b旭化成建材㈱

aASAHI KASEI. CO. LTD., bASAHI KASEI CONSTRUCTION MATERIALS CO.

Abstract

 軽量気泡コンクリート(ALC)の主成分であるトバモライト(tobermorite 化学組成:5CaO・6SiO2・5H2O)の量と質は、その性能と密接な関係にあり、その反応過程を制御したALCの改良研究が、日本および欧州で活発になされている。そのような中で、我々が2009年および2010年の検討で得た知見(Alの添加効果など)の現場プロセスへの応用を念頭にAlを含有するフライアッシュ(FA、火力発電所から排出される石炭灰)の再利用検討を行っている。今回は、仕込み原料組成のCa/Si(C/S)比を変えることによって液中のイオン濃度の影響を検討した。

 その結果、トバモライト生成のタイミングへの影響(C/Sが大きい方が生成タイミングが遅い)およびトバモライトの(002)面回折と(220)面回折の生成タイミングと成長速度に違いが明らかになった。


キーワード: 水熱反応、トバモライト、フライアッシュ、軽量気泡コンクリート、in-situ XRD

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背景と研究目的:

 フライアッシュは石炭火力発電に伴い発生する灰で、日本では石炭利用率の増加に伴いその発生量は年々増加している。2008年の統計では1,230万トンもの量が発生している。フライアッシュ(FA)の大部分は、セメント原料としてリサイクルされているが、セメントの国内生産量は、最盛期の約1億トンから現在4千万トン台まで大きく減少しており、今後もセメントリサイクルへ回されるフライアッシュ量の減少が余儀なくされる。他の用途も建設路盤材等の土木用途が主であり、大きく増加が見込めないことから、フライアッシュの有効利用が環境問題を絡めて大きな課題となっている。フライアッシュは、SiO2を約60%、Al2O3を約20%程度含む非晶質の微粉末である。組成面だけで見ると、軽量気泡コンクリート(ALC)の原料として可能性があると言える。

 しかしながら、目標物性を得るための技術的障壁は高く、反応メカニズムの解明を含めた基礎レベルからの検討が必要不可欠である。幸い我々の研究グループは、今までの検討において得られた珪酸質原料の反応性の水熱反応への寄与、アルミニウム化合物の添加がトバモライト生成を促進する等の知見、原料組成による溶液中のイオン濃度の影響に関する知見[1-9]を活かすことにより、フライアッシュを原料とした高品質のALCを実現できる可能性を検討する。

 

実験:

 実験は、SPring-8産業利用ビームラインBL19B2にて行った。測定X線エネルギーは30 keVであり、検出器はPILATUS-2Mを使った。測定セルは、温度センサー(2個)と圧力センサーを連結した内容積35 mlのX線透過部(Be窓)を持つ角形セルである。Beを窓材に用いることで、窓材からの回折ピークやバックグラウンドの影響を全く受けずに良好な回折パターンを得ることが可能である[1-3]。原料スラリーをセルに入れ、室温から190°C(1°C /min)まで加熱し、最高温度で保持することによりトバモライト合成反応をその場計測した。フライアッシュ(JIS 2級品)は珪石(SiO2)原料の一部として用いる。

 今回は、FA量一定(珪石/FA = 40/60:FA60)の下で、カルシウムと珪石の比率を2水準変え(Ca/Si= 0.84:これまでの通常条件,およびCa/Si = 1.2)、トバモライト生成反応の違いを評価した。なお、水/固体比W/Sは3とした。今回は、セメントを使わない高純度原料系による実験を行い、原料しては、珪石、高純度酸化カルシウム、FA、水、を用いた。

 

結果および考察:

 図1にC/S = 0.84の場合のX線回折パターンの時間変化を示す。図2と図3に、それぞれC/Sが0.84, 1.2の各系における原料および生成物のX線回折強度の時間変化を示す。ここで、Q:石英、P:水酸化カルシウム、T:トバモライトである。図2と図3の比較から、C/S = 1.2とCaリッチにした方がT生成は遅くなった。

 しかしながら、実験終了時でもT生成は継続しており、反応時間を延ばせばT生成量は同程度か逆転する可能性がある。更に、今回100分(100°C到達時を0分としている。その後、1°C/minで昇温)あたりからTの強度が上昇を始めていることが注目された。今まで、Tの量としてはT(002),T(220), T(222), T(400)(Tの(002), (220), (222), (400)面からの回折)の強度の和を採用してきたが、今回、T(002)とT(220)強度の時間変化を個別にプロットした。その結果を図4に示す。

 その結果、最初のT強度の上昇はT(220)によるものであることがわかった。これまで、T(002)とT(220)は同じタイミングで生成していたが、今回は、まずT(220)が生成し、その後T(002)が生成した。これは、まず面内の秩序が形成され、その後に層間の秩序ができることを示している。


図1 C/S = 0.84の場合のX線回折パターンの時間変化


図2 C/S = 0.84の系における原料および生成物のX線回折強度の時間変化


図3 C/S = 1.2の系における原料および生成物のX線回折強度の時間変化


図4 2つの系におけるT(002)およびT(220)のX線回折強度の時間変化

 

今後の課題:

 今後、FAの利用を検討していくために、その溶解挙動と中間生成物(特にKA)の挙動、そしてトバモライト生成挙動の関係を詳細に解明していく。視点として、セメント原料系と高純度原料系における反応生成挙動の違いをC/SやW/Sを変えて検討考察することにより、FA利用系における反応メカニズムを深耕し、今までなされていないFAを使ったALC生産プロセス確立を図っていきたい。

 

参考文献:

[1] J. Kikuma, S. Matsuno, et. al., J. Synchrotron Rad16, 683-686 (2009).

[2] 菊間 淳、松野 信也、分析化学, 4, 287-291 (2010).

[3] 菊間 淳、松野 信也、分析化学, 6, 489-498 (2010).

[4] J. Kikuma, S. Matsuno, et. al., J. Am. Ceram. Soc93[9] 2667-2674 (2010).

[5] K. Matsui, S. Matsuno, et. al., Cement and Concrete Research41, 510–519 (2011).

[6] J. Kikuma, S. Matsuno, et. al., J. Solid State Chemistry184, 2066–2074 (2011).

[7] 松野 他、平成20年度重点産業利用課題成果報告書(2008B)2008B1864.

[8] 松野 他、平成20年度重点産業利用課題成果報告書(2008B)2008B2031.

[9] 松野 他、平成21年度重点産業利用課題成果報告書(2009B)2009B1788.

 

ⒸJASRI

 

(Received: November 16, 2012; Early edition: August 30, 2013; Accepted: November 1, 2013; Published: December 10, 2013)