SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume1 No.3

Section B : Industrial Application Report

X線回折によるNb添加したLiFePO4の結晶構造解析
Crystal Structure Analysis of Nb Doped LiFePO4 by Using X-ray Diffraction

DOI:10.18957/rr.1.3.160
2012A1743 / BL19B2

岩堀 禎浩, 野口 博司

Yoshihiro Iwahori , Hiroshi Noguchi

株式会社 村田製作所

Murata Manufacturing Co., Ltd

Abstract

 リチウムイオン電池の正極材料に用いられるようになってきたLiFePO4は、Nb元素を添加することによりイオン電導率が向上する。しかし、このNb元素がLiFePO4結晶中でどのように結晶構造を安定しているのか明らかになっていない。そこでRietveld解析[注1]により結晶構造を究明した結果、Nb5+がLi+サイトに固溶し結晶構造を安定化していることが明らかとなった。これら2元素は4配位の時、類似のイオン半径を取ることから、解析の結果は物理化学的に妥当なものであった。


キーワード: Li電池正極材、LiFePO4、Nb2O5、粉末X線回折、結晶構造解析、Rietveld法

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背景と研究目的:

 リチウムイオン電池(LiB)は電気自動車(EV)の本格的な普及に向けて需要が高まっている。LiBの正極材料としては、既にLiCoO3が使用されていたが、Coの価格上昇や毒性などの点でより安価で毒性のないLiFePO4(以下、LFPと略す)が使用されるようになってきた[1]。本来LFPはイオン伝導率が低いためセラミックス粒子にカーボンコートを施し、伝導率を向上させ電極として使用されている。しかしながら、LFPのカーボンコートは電極性能を大きく左右する一因であるため、カーボンコートの均一分散性(凝集体を減らすこと)に性能が左右される不安定さが残る。そこで我々は、母材であるLFPの改良を行うことによりLFP自体の伝導率を向上させ、使用するカーボン量を低減することで問題の解決を図ろうとしている。カーボンコートされたLFPは広く知られている材料であり、製造におけるノウハウが多いが、構造物性から伝導率の本質を議論した文献はあまり見られない。加えてLFPの作り込みにより性能が異なるため、各社個別に解析方法を確立する必要がある。本課題ではイオン電導率と電流密度向上を目的にLFPにNbを添加した正極材料の結晶構造変化を調べることを目的とする。添加材としてNbに注目したのは、S. Chung、J. T. Bloking、Y. Chiangの論文[2]で、Nb添加によりイオン電導率が著しく向上したという報告がされているためである。

 また、この結晶構造解析には、X線散乱能が低いLiやPのような軽元素のX線回折パターンを取得する必要があるため、フォトン密度が高いSPring-8のX線源を用いることが不可欠である。

 我々は、Nb添加して電気伝導度が向上したLFPの結晶構造の解析によりNbの固溶サイトとメカニズムの推定を行い正極材料デザインの指標を確立することを目指す。


[注1] Rietveld解析法:

 粉末回折パターンから非線形最小二乗法を用いて格子定数と結晶構造パラメータ{原子位置、原子変位(温度因子)、格子占有率、etc.}を精密化する手法。


実験:

 実験試料は固相法により作製した。原料はLi2CO3(99.99%)、FeC2O4·2H2O(99.9%)、NH4H2PO4、Nb2O5(99.99%)を使用し、所望の化学組成比になるようNbを添加した(表1を参照)。イオン交換水とボールミルで粉砕混合を24時間行った後、400˚Cで2時間焼成して仮焼粉末を作製した。

 仮焼粉末にバインダーと導電材のカーボンを混合したスラリーを800˚Cの造粒機で乾燥させ、測定用の微粉末を得た。Li/Nbのモル比評価はLiをICP-AES、Nbを蛍光X線で分析を行い決定した。



表1.粉末X線回折測定用の試料名と組成比




 粉末化した試料は内径φ0.2 mmのリンデマンガラスキャピラリーの先端約1 cmに充填し、充填口を接着剤で密封した。

 粉末X線回折の測定はSPring-8のBL19B2に設置してある大型Debye-Scherrer計を使用し、検出器は散乱角2θが高角度の回折線まで捉えられるImaging-Plate (IP)を用いた。測定に使用した波長は0.6999 Åであり、測定は室温にて行った。

 試料の入ったガラスキャピラリーは測定中に自転させ、回折線に与える粉末粒子の選択配向や粗大粒子の影響が最小限になるようにした。積算時間はIPのサチレーション・タイムと試料数を考慮して5分とした。

 測定終了後、IPに記録した回折線の強度と位置を読み取り、回折線位置と回折線強度の2次元回折パターンデータを得た(2θ / 強度データ)。


結果および考察:

 粉末X線回折から得られた回折パターンを図1に示す。横軸はピーク強度変化が分かり易い低角度側の範囲を選択して描画した。




図1.Nb添加量と粉末X線回折のパターン変化



 Nbの添加量に対し、x = 0.001ではx = 0とピーク強度比に顕著な差が認められないが、x = 0.005からx = 0.010では、2θ = 12ºから16ºのピーク強度比に僅かな変化が認められる。

 また、x = 0.005と0.010には極微少量な異相ピークが認められ、Nb2O5とNbPO5と同定できた。以下の解析ではこれらの微少量相も考慮して行った。

 次に、Rietveld解析により格子定数と構造パラメータを精密化した。(1-x)LiFePO4+xNbは典型的なオリビン型構造であり、結晶系は斜方晶で空間群は、Pnma(No.62)であることが報告されている[3]

 Rietveld解析にはRIETAN-FP[4]を用いた。Rietveld解析の結果を図2に、Rietveld解析の信頼性因子(R-factor)を表2に示す。




図2.LiFePO4 ( Nb content : [A]0%、[B]0.1%、[C]0.5%、[D]1% )のRietveld解析結果



表2.Rietveld解析結果の信頼性因子(R-factor)




 Rwpは全回折プロファイルに対して、RIは回折線の積分強度に対して、RFは計算された構造因子に対しての信頼性因子を表す。Rexpは統計的に予想されるRwpの下限値、Sは非線形最小二乗法の収束程度を表す指標で、経験的に放射光を使った場合は2を下回れば、計算初期の結晶構造モデルが正しく、かつ正確に構造を精密化している。表2よりSが十分に小さいため、解析は正確に終了したと判断した。

 続いて表3にRietveld解析で精密化した格子定数と構造パラメータを示す。


表3.Rietveld解析により精密化した格子定数と構造パラメータ




 gは格子サイト占有率、(x,y,z)は相対座標、Uは等方性原子変位パラメータである。原子変位は精度良く精密化することが困難であったので参考値として示した。Li/Nbのモル比は分析値に固定した。何故なら占有率と原子変位は相関が強いため、占有率の精密化は誤差の“掃き溜め”になる可能性がある。

 Rietveld解析からNbがLiサイトを占有していると仮定して計算すると他のサイト(Fe、P)に固溶を仮定した構造モデルに対して最も良い信頼性因子が得られた。ゆえにNbはLiサイトに固溶していると判断した。電気特性との比較は今後行うが、今まで固溶しているか否かがラボ用装置では不明であったことから意義のある結果が得られた。なお、Li+は4配位であり、この時のイオン半径は0.59 Åである。他方、Nb5+は4配位でイオン半径は0.64 ÅでLi+と近いため、物理化学的な視点からもLiサイト固溶に矛盾しないと考えるのが妥当である。Nb5+の固溶によりLi+の充放電においてNb5+が完全ではないかもしれないが電荷補償を行うことでイオン電導率の向上に寄与していると推測する。


まとめ:

 リチウム電池の正極材料である(1-x)LiFePO4+xNbについて、放射光X線回折からRietveld解析を行うことによりNbの固溶サイトを決定し、イオン電導率との関係について以下のように推測した。

1)Rietveld解析結果よりNbはLiサイト(4配位)に固溶している。FeとPサイトへの固溶の可能性は極めて低い。

2)Li+の充放電時にNb5+がLi1-xNbxPO4の電荷補償を担うことでイオン電導率向上に寄与していると推測する。


参考文献:

[1] 八田直樹,稲葉俊和,三井造船技報, No. 188 (2006).

[2] S. Chung, J. T. Bloking and Y. Chiang, Nature Mater., 1, 123 (2002).

[3] Peixin Zhang, Yanyi Wang, Muchong Lin, Dongyun Zhang, Xiangzhong Ren, and Qiuhua Yuan, Journal of The Electrochemical Society, 159, 4, A402-A409(2012).

[4] F. Izumi and K. Momma, Solid State Phenom., 130, 15-20 (2007).


* 補足事項

 課題申請の際に計画していた(Ba,Ca,Sn1-x)(TiSnx)O3も測定を行ったが、良好なデータが得られず構造解析できなかったため、解析結果が得られた(1-x)LiFePO4+xNbについてのみ記載した。



ⒸJASRI


(Received: October 4, 2012; Accepted: November 1, 2013; Published: December 10, 2013)