SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume1 No.3

Section B : Industrial Application Report

XAFSを用いたV2O5-P2O5-MxOy系ガラスの物性予測のための構造解析
X-ray Absorption Fine Structure Analysis on V2O5-P2O5-MxOy System Glass towards the Prediction of Functional Properties

DOI:10.18957/rr.1.3.188
2012B1720 / BL14B2

青柳 拓也a, 藤枝 正a, 小原 真司b

Takuya Aoyagia, Tadashi Fujiedaa, Shinji Koharab

a(株)日立製作所日立研究所, b(公財)高輝度光科学研究センター

aHitachi, Ltd., Hitachi Research Laboratory, bJASRI

Abstract

 V2O5-P2O5系ガラスの構造解析を目的として、V原子周囲の局所構造をSPring-8 BL14B2のXAFS測定装置にて評価した。V-K吸収端のXANESスペクトルの結果より、ガラス中にはバナジル基(V=O)の存在が示唆された。また、P2O5量の増大に伴ってVの還元量が増加することが分かった。EXAFSの結果からは、V2O5-P2O5系ガラスではV-O間の結合距離が結晶と比較して短いものが存在することが明らかとなった。さらに、V-O間の結合距離は、P2O5量の増加と共に変化することが判明した。


キーワード: V2O5-P2O5、ガラス構造解析、XAFS、EXAFS、XANES

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背景と研究目的:

 V2O5-P2O5(-MxOy)系ガラス(M=Fe,Te等)は、低融点性、半導体性を有する特殊な酸化物ガラスである。これらの特性のうち、特に低融点性を利用して、電子部品(水晶振動子、MEMS、ICセラミックパッケージ等)を気密に封止できる鉛フリーの低温封止材料としての研究が行われてきた[1,2]。これまでの研究において、添加成分としてFe2O3やTeO2を添加することでガラスの耐湿性や熱安定性が著しく向上することを見出しており、350〜400℃の低温で封止できる低温封止材料として既に実用化されている。しかしながら、そのガラス構造と物性の関係に関しては不明な点が多い。

 そこで本研究では、これらのガラス構造をSPring-8のX線吸収微細構造(XAFS)解析、高エネルギーX線回折、J-PARCの中性子回折、及び逆モンテカルロシミュレーションを併用して明らかにし、ガラス構造と物性との相関を大規模理論計算により解明することを最終目的としている。

 本報告では、まずV2O5-P2O5二元系ガラスの構造解析を目的として、P2O5量が及ぼすVの微細構造変化をXAFSで評価した。

 

実験:

 ガラス原料としてV2O5とP2O5を用い、xV2O5-(100-x)P2O5x = 90, 80, 70, 60, 50)ガラスを溶融急冷法にて作製した。作製したガラスを粒径5 μm以下になるまで乾式ジェットミルを用いて粉砕を行い、BN(窒化ホウ素)粉末と混ぜてペレット化した。作製したペレットを、SPring-8 BL14B2にてV-K吸収端XAFSを透過法のクイックスキャンにて室温で測定した。二結晶分光器の分光結晶には、Si(111)を用いた。測定は1測定につき約5分の測定を3回繰り返し、スペクトルを積算した。

 また、比較材として、V2O5とV2O4の測定も行った。

 

結果および考察:

 作製したV2O5-P2O5系ガラスのV-K吸収端のXANESスペクトルをFig. 1に示す。吸収スペクトルの規格化は、XANES領域よりも十分大きな領域(5628〜6353 eV)で行った。測定したXANESスペクトルからは、5467 eV付近に強いプリエッジピークが観察された。このピークは、V 3dとO 2pの軌道から形成される混成軌道への遷移であることが提案されている[3-5]。さらにV2O5単結晶の偏光XAFSスペクトルと理論計算結果により、この強いプリエッジピークは主に短い結合距離のバナジル基(V=O)に由来する電気双極子遷移であるとされている[6]

 本測定において、V2O5-P2O5系ガラスからも強いプリエッジピークが観察されたことを考慮すると、ガラス中であってもバナジル基を有していることが推察される。また、V2O5-P2O5系ガラスにおけるプリエッジのピーク強度は、バナジウムの含有量が多いほど強いことが分かったが、これが配位数に起因するのか、d電子の数に起因するのか、対称性に依存するのかについては定かではない。

 V-K吸収端のエネルギーは、P2O5量の増大にしたがって、V2O5に近いエネルギーからV2O4に近いエネルギーにシフトした。ここで、V-K吸収端は、規格化後の吸収量0.5の位置を吸収端エネルギーとした。バナジウム化合物においては、吸収端のエネルギーは価数と比例関係であることが示されている[4]ことから、P2O5量の増大にしたがって、Vの還元が進んでいることが分かった。

 

 

Fig. 1.xV2O5-(100-x)P2O5ガラスのV-K XANESスペクトル

 

 Fig. 2には、k3-weighted EXAFS振動スペクトルを、Fig. 3にはそのフーリエ変換後の動径構造関数を示す。このとき、フーリエ変換はk = 3.0〜12.0 Å-1の領域で計算した。Fig. 3において、V2O5では1.5 Å近傍と、2.6 Å近傍に強いピークが観察された。FEFF6Lを用いた計算によって、1.5 Å近傍のピークはV-Oによる散乱、2.6 Å近傍のピークは主にV-Vによる散乱に起因することを確認した。

 V2O5-P2O5系ガラスにおいては、2.0 Å以下にV-Oの第一配位圏のピークが主に観察された。V-Oに起因するピークは、P2O5量が変化することによって複雑に変化した。P2O5を添加してガラス化することによって、V-Oの結合距離は減少することが分かった。

 さらに、P2O5添加量を増加していくことで、V-O結合距離が増加する傾向が見られた。

 

 

Fig. 2.k3-weighted EXAFS振動スペクトル

 

 

Fig. 3.xV2O5-(100-x)P2O5ガラスの動径構造関数 (k3-weighted)

 

今後の課題:

 今後は、同時に申請している高エネルギーX線回折(課題番号2012B1761)や中性子回折等で得られたデータを基に比較しながら、詳細なVの微細構造や全体のガラス構造について解析を進めていく。

 

参考文献:

[1] T. Naito et al, Jpn. J. Appl. Phys. 50, 088002 (2011).

[2] T. Naito et al, J. Ceram. Soc. Japan. 100, 685 (1992).

[3] T. D. Tullius et al, J. Am. Chem. Soc. 102, 5670 (1980).

[4] J. Wong et al, Phys. Rev. B. 30, 5596 (1984).

[5] T. Tanaka, J. Chem. Soc. Faraday Trans. 1. 84, 2987 (1988).

[6] O. Sipr et al, Phys. Rev. B, 60, 14115 (1999).

 

©JASRI

(Received: February 18, 2013; Accepted: November 1, 2013; Published: December 10, 2013)