SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume1 No.1

Section B : Industrial Application Report

水熱条件下でのトバモライト生成過程のその場X線回折(12)

In-situ X-ray Diffraction Analysis on Formation Mechanism of Tobermorite under Hydrothermal Condition

DOI:10.18957/rr.1.1.20
2011B1942 / BL19B2

松野 信也1, 東口 光晴1, 石川 哲吏1, 松井 久仁雄2

Shinya Matsuno1, Mitsuharu Higashiguchi1, Tetsuji Ishikawa1, Kunio Matsui2

1旭化成㈱, 2旭化成建材㈱

1ASAHI KASEI. CO. LTD., 2ASAHI KASEI CONSTRUCTION MATERIALS CO.

Abstract

 軽量気泡コンクリート(ALC)の主成分であるトバモライト(tobermorite 化学組成:5CaO・6SiO2・5H2O)の量と質は、その性能と密接な関係にあり、その反応過程を制御したALCの改良研究が、日本および欧州で活発になされている。そのような中で今回は、我々が2009年および2010年の検討で得た知見(Alの添加効果など)の現場プロセスへの応用を念頭にAlを含有するフライアッシュ(FA、火力発電所から排出される石炭灰)の再利用検討を行った。その結果、主成分が非晶質であるFAの減少を明確に検出できた。また、トバモライト生成量は原料中の石英(Quartz)量に相関しており、それがトバモライト生成に寄与していることが推定された。


キーワード:水熱反応、トバモライト、カルシウムシリケイト、フライアッシュ、軽量気泡コンクリート、in-situ XRD

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背景と研究目的:

 フライアッシュは石炭火力発電に伴い発生する灰で、日本では石炭利用率の増加に伴いその発生量は年々増加している。2008年の統計では1,230万トンもの量が発生している。フライアッシュの大部分は、セメント原料としてリサイクルされているが、セメントの国内生産量は、最盛期の約1億トンから現在4千万トン台まで大きく減少しており、今後もセメントリサイクルへ回されるフライアッシュ量の減少が余儀なくされる。他の用途も建設路盤材等の土木用途が主であり、大きく増加が見込めないことから、フライアッシュの有効利用が環境問題を絡めて大きな課題となっている。フライアッシュは、SiO2を約60%、Al2O3を約20%程度含む非晶質の微粉末である。組成面だけで見ると、軽量気泡コンクリート(ALC)の原料として可能性があると言える。しかしながら、目標物性を得るための技術的障壁は高く、反応メカニズムの解明を含めた基礎レベルからの検討が必要不可欠である。このような中で、我々の研究グループは、今までの検討において得られた珪酸質原料の反応性の水熱反応への寄与、アルミニウム化合物添加がトバモライト生成を促進する等の知見(参考文献、1)から6)および、過去に提出した本報告書2008B1864, 2008B2031,2009B1788等を参照)を活かすことにより、フライアッシュを原料とした高品質ALCの実現可能性を検討することを本研究の目的とした。

 

実験:

 原料となる予備養生体をセル(参考文献1を参照)に入れ、室温から190℃(1℃/min)まで加熱し、最高温度で8時間程保持(水熱反応)することによりトバモライトを合成する。今回の実験では、フライアッシュ(JIS 2級品)を珪石(SiO2)原料の一部として用いる。

 すなわち、SiO2量一定(55 mass %)の下で、珪石とフライアッシュ(FA)の比率を3水準変え(珪石/FA=80/20, 40/60, 0/100)、混合率によるトバモライト生成反応の差異を評価するために、水熱反応過程をin-situ XRDにより追跡した。他の原料としては、一般的なALC原料、すなわち、珪石、セメント、酸化カルシウム、水、を用いた。測定に使用するX線エネルギーは30 keVとし、検出器としてはPILATUS-2Mを用いて露光時間は120secとした。検出器のピクセルサイズが大きいので、角度分解能を上げるため、カメラ長は、780 mmとした。実験は、室温から190℃まで昇温し、190℃で保持する。その途中100℃到達後以降、3分間隔でデータを取得した。

 

結果および考察:

 図1に、本実験で取得される典型的なX線回折パターンの時間変化(下から上に時間変化している)を示す。なお、横軸の2θは30 keVではなくCu-Kαの角度にして表示した。

 

 

図1 典型的なX線回折パターンの時間変化(FA60%の場合)

 

 

 図2 にFA=0, 20, 60%の各系における原料および生成物のX線回折強度の時間変化を示す。ここで、Q:石英、CH:水酸化カルシウム、CSH:CSH ゲル(トバモライト前駆体)、T:トバモライト、FA:フライアッシュである。図中の○はトバモライトの生成開始を示す。我々のAl添加の研究から、FA量が増えるとトバモライト生成のタイミングが早くなるのはFA中のAlの効果と推定される。また、特筆すべきは、今回の実験で難しいと考えられた非晶質FAの減少を検出できたことである。すなわち、FA0%では変化がなく、仕込みFA量が多いほど減少量が多くなることで、その妥当性を判断した。非晶質FA量の変化は、あらかじめ実験室においてFA単体のX線回折を測定(Cu-Kα線を使用)し、そのハローパターンのトップ付近の強度変化によって検出した。図3にFA単体のX線回折パターンを示す。これより、2θ=23°(Cu-Kαの角度)における強度をFA量の指標とすることにした。また、FAは少量のムライト(図中の赤線、なお緑線は結晶性のQuartzである)を含有していることもわかる。一方、CSHゲル量の指標は、以前から2θ=30°(Cu-Kαの角度)における強度を採用している。

 また図2 より、Qの減少量とCSHの生成量とトバモライト(T)の生成量が相関しており、Tは、ほぼQから生成していると推定される。

 

 

図2 FA=0, 20, 60%の各系における原料および生成物のX線回折強度の時間変化

 

 

図3 実験室において測定したFA単体のX線回折パターン

 

 

今後の課題:

 今後、FAの利用を検討していくために、その溶解挙動とトバモライト生成の関係を明らかにしていく。また、FAの粒度を変えた場合の実験やFAの溶解を制御する方法を考案し実験に組み込んでいく予定である。それらにより、今までなされていないFAを使ったALC生産プロセス確立を図っていきたい。

 

参考文献:

1) J. Kikuma, S. Matsuno, et. al., J. Synchrotron Rad. 16, 683-686(2009)

2) 菊間他、分析化学, 4, 287-291 (2010)

3) 菊間他、分析化学, 6, 489-498 (2010)

4) J. Kikuma, S. Matsuno, et. al., J. Am. Ceram. Soc. 93 [9] 2667‒2674 (2010)

5) K. Matsui, S. Matsuno, et. al., Cement and Concrete Research, 41, 510‒519 (2011)

6) J. Kikuma, S. Matsuno, et. al., J. Solid State Chemistry, 184, 2066‒2074 (2011)

 

©JASRI

(Received: April 5, 2012; Accepted: June 20, 2012; Published: February 28, 2013)