Volume1 No.1
発行にあたって
大型放射光施設SPring-8は、国内外の研究者に広く開かれた最先端の研究施設であり、平成9年の供用開始以降多くの研究分野において優れた研究成果を創出しています。また、我が国の国家基幹技術としてSPring-8に隣接して設置されたX線自由電子レーザー施設SACLAが平成24年より供用を開始し、ますます多くの優れた研究成果創出が期待されています。これらの研究成果は、科学技術の振興を図るための知的公共財として広く公開されることにより社会に還元されるべきものであることの重要性に鑑み、その一環として、今般、利用研究成果集(Research Report)を発行するに至りました。
最先端の研究施設利用研究を通じて創出される研究成果は、基本的に学術的・科学技術的価値を十分に有する情報が明解に記載された査読付き論文や報告書として公表することが重要です。しかしながら、SPring-8の供用開始後10年間以上の間、必ずしも十分な学術・科学技術情報が記載されているとは言い難い「利用報告書」の提出・公表をもって成果の公開と定義されていたため、当該「利用報告書」の提出後、査読付き論文等の発表に至らないケースも数多く見られました。また、平成21年度の事業仕分けにおいて、SPring-8のような先端大型研究施設の運営に多額の国費を要することに対する国民の理解(多額の国費に見合う研究成果の普及)の重要性がクローズアップされました。これらのことを背景に、利用研究課題の選定に係る諮問機関に位置づけられる選定委員会においての議論を経て、平成23年下期(2011B期)以降、SPring-8における成果非専有利用、すなわち、成果を公開する利用における研究成果は、
(1)査読付き論文(査読付きプロシーディングス、博士学位論文を含む)
(2)企業の公開技術報告書(JASRIで承認された報告書。産業利用のみ)
(3)利用研究成果集(十分な科学技術情報が記載されたもの。JASRIで査読を実施)
のいずれかの方法で利用研究課題実施期終了後3年以内に発表又は公表されることが義務付けられました。
その後、X線自由電子レーザー施設SACLAが完成し、その供用が開始されたことから、SACLAにおける成果の公開についてもSPring-8と同様な扱いをすることとなりました。
本成果集は、SPring-8/SACLAの利用研究成果集の初刊号となります。上記平成23年下期に行われた成果公開の制度の改訂は、チャレンジングな課題の申請を躊躇させるものではなく、チャレンジングな課題の実験が仮に不成功に終わった場合でも、SPring-8/SACLAの利用成果集に公表することにより、他の研究者にも有益な知見を提供することができるといった役割をSPring-8/SACLA利用成果集に持たせたものとなっています。このような役割も含め、本利用研究成果集が成果の社会への還元・その発展に貢献することを期待いたします。