SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume8 No.2

SPring-8 Section A: Scientific Research Report

糖鎖含有両親媒性オリゴマー保護金ナノ粒子の構造解析
Structural Analysis on Gold Nanoparticles Protected by Sugar-Based Amphiphilic Oligomers

DOI:10.18957/rr.8.2.191
2012B1201 / BL40B2

吉村 倫一, 矢田 詩歩

Tomokazu Yoshimura, Shiho Yada

奈良女子大学

Nara Women’s University

Abstract

 本研究では、末端にアルキル鎖を有し、糖のモノマーを重合した単鎖型多糖オリゴマー(C12-mGEMA、m は重合度で 3.0~7.1)の単鎖型両親媒性オリゴマーを保護剤として用いて、金ナノ粒子を調製し、その構造を TEM および SAXS により評価した。金ナノ粒子は、保護剤の濃度や重合度に関係なく粒径 10 nm 以下のサイズで得ることができた。さらに、金属ナノ粒子を用いた p‐ニトロフェノールの還元反応における触媒活性は、金ナノ粒子の粒径に依存し、粒径が小さいほど高い活性を示すことがわかった。


Keywords: 両親媒性オリゴマー、金ナノ粒子、X線小角散乱


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背景と研究目的:

 界面活性剤を保護剤に用いた金属ナノ粒子は、融点、電子比熱、磁化率、光吸収特性など、バルク金属とは異なる性質をもつことが知られている。金属ナノ粒子は比表面積が非常に大きく、酸化されやすいため、化学的に安定なものが注目されている。なかでも金のナノ粒子は、バルクの状態では化学的に不活性で触媒には不向きであるが、数ナノメートルの粒子サイズになると、表面原子の電子状態の変化と大きな表面積により高い触媒活性を発現することが知られている。これまでに、フコイダン、アルギン酸、ヒアルロン酸の生体高分子を保護剤に用いた金ナノ粒子が、老化や癌などの病気の原因となっている活性酸素の一つであるヒドロキシルラジカルの消去活性に対して、一般の抗酸化物質として知られるアスコルビン酸よりも高い活性を有することが報告された [1]。

 低分子量のポリマーであるオリゴマー(テロマー)は、ビニルモノマー(タキソゲン)と連鎖移動剤(テロゲン)のモル比によって重合度を調節することができる。この反応と生成物はテロメリゼーションとテロマーとして知られている。オリゴマーは低分子と高分子の中間的な大きさを有するため、低粘度、高溶解性、混和性、揮発性など一般の不溶性高分子にはない特徴を発揮することが知られている。なかでも、一分子内に疎水基と親水基を有する両親媒性オリゴマーは、一般に低分子界面活性剤に認められる表面張力低下やミセル形成能などの特性と高分子界面活性剤に認められる乳化や分散などの特性の両方を併せもち、合成が比較的簡単で構造決定も容易である。

 本研究では、末端に1本のアルキル鎖を有し、糖のモノマーを重合した単鎖型両親媒性多糖オリゴマーを保護剤に用いた金属(金)ナノ粒子を調製し、その構造を紫外可視分光(UV–vis)やX線小角散乱(SAXS)などの測定により評価した。また、p–ニトロフェノールの還元反応および 1,1–ジフェニル–2–ピクリルヒドラジル(DPPH)ラジカルの消去反応における金ナノ粒子の触媒活性について検討した。

 

実験:

 金ナノ粒子の保護剤として用いた両親媒性オリゴマーの構造を図1に示す。両親媒性多糖オリゴマーで保護した金ナノ粒子の UV–vis の測定は、光源に重水素ランプおよびタングステンランプを用いた島津製作所の UV–2500PC により行った。金ナノ粒子の形状観察は、日本電子株式会社製の透過型電子顕微鏡(TEM)JEM–1011 により加速電圧 80 kV で行った。両親媒性多糖オリゴマーで保護した金ナノ粒子の SAXS の測定は、SPring-8 に設置されたビームライン BL40B2 のX線小角散乱装置を用いて行った。得られた散乱プロファイルを一次処理した後、Guinier 近似によって回転半径を算出した。

 

              

    図1.単鎖型両親媒性多糖オリゴマーの構造(m = 3.0、4.0、5.1、7.1)

 

 p–ニトロフェノールの還元反応の評価は、金ナノ粒子と p–ニトロフェノールの混合水溶液に水素化ホウ素ナトリウムを加え、UV–vis により 400 nm における吸光度の時間変化を測定することにより行った。

 

結果および考察:

 両親媒性多糖オリゴマー C12-mGEMA(m = 3.0、4.0、5.1、7.1)と塩化金酸の混合水溶液に水素化ホウ素ナトリウムを加えて還元すると、水溶液は薄黄色からワインレッド色に変わった。単鎖型 C12-mGEMA を保護剤に用いて調製した金ナノ粒子([C12-mGEMA] = 0.01,0.05 mg mL–1)の UV–vis スペクトルは、いずれも金ナノ粒子特有のプラズモン吸収が 520 nm 付近に見られた。C12-mGEMA の金ナノ粒子([C12-mGEMA] = 0.01 mg mL–1)の TEM 写真と粒径分布を図2に示す。金ナノ粒子の粒径は、TEM 画像より画像処理ソフト Image J を用いて求め、表1にまとめた。いずれも保護剤の濃度や重合度に関係なく、粒径 10 nm 以下の安定な金ナノ粒子を得ることができた。また、保護剤の濃度が高い方が標準偏差が小さくなり、単分散な金ナノ粒子を得ることができた。C12-mGEMA で保護した金ナノ粒子の SAXS 曲線を図3に示す。SAXS 曲線より Guinier 近似を用いて算出した回転半径を表2に示す。保護剤の濃度およびオリゴマーの組成に関係なく、いずれも回転半径は TEM から算出した粒径とほぼ一致することがわかった。

 

   

   

    図2.C12-mGEMA の金ナノ粒子([C12-mGEMA] = 0.01 mg mL–1)の TEM 写真と粒径分布

       (a) C12-3.0GEMA、(b) C12-4.0GEMA、(c) C12-5.1GEMA、(d) C12-7.1GEMA

 

表1.TEM 写真から求めた C12-mGEMA の金ナノ粒子の平均粒径
  concentration / mg mL–1
0.01 0.05
C12-3.0GEMA 6.0 ± 3.9 5.2 ± 2.8
C12-4.0GEMA 5.0 ± 3.6 3.7 ± 1.8
C12-5.1GEMA 5.0 ± 2.7 4.3 ± 1.4
C12-7.1GEMA 7.3 ± 5.4 4.4 ± 2.8

 

   

    図3.C12-mGEMA の金ナノ粒子の SAXS プロファイル((a) [C12-mGEMA] = 0.01 mg mL–1,
       (b) [C12-mGEMA] = 0.05 mg mL–1: ; m=3.0, ;m=4.0, ;m=5.1, ◇;m=7.1)

 

表2.Guinier 解析より求めた C12-mGEMA の金ナノ粒子の平均粒径
  concentration / mg mL–1
0.01 0.05
C12-3.0GEMA 9.0 8.8
C12-4.0GEMA 4.8 3.1
C12-5.1GEMA 5.1 4.6
C12-7.1GEMA 6.3 4.0

 

 ナノ粒子が存在しない両親媒性多糖オリゴマー C12-mGEMA の水溶液(0.01 mg mL–1)を用いて触媒活性を調べたところ、p–ニトロフェノールの吸収に基づく 400 nm の吸光度の時間変化は見られなかったことから、ナノ粒子非存在下では触媒活性を示さないことを確認した。C12-mGEMA を保護剤として用いたナノ粒子の p–ニトロフェノール水溶液に水素化ホウ素ナトリウムを加えると、溶液は黄色から還元反応の進行とともに退色した。この反応の進行度合いは、p–ニトロフェノールの吸収に基づく 400 nm の吸光度の減少から評価することができる。C12-mGEMA で保護した金ナノ粒子を触媒に用いた p–ニトロフェノールの還元反応における 400 nm の吸光度の対数と初期の時間との間にはいずれも直線関係が見られた。この直線の傾きから見かけの反応速度定数を算出した(表3)。C12-4.0GEMA で調製した金ナノ粒子が最も高い触媒活性を示した。これはナノ粒子の大きさの違いによるものと考えられる。すなわち、ナノ粒子が小さくなるほど粒子全体の表面積が大きくなるため、ナノ粒子の粒径が小さい方が触媒活性は高くなると考えられる。また、糖を有するジェミニ型界面活性剤を保護剤に用いた金ナノ粒子(粒径 21.5 nm)の反応速度定数は 44 × 10–4 s–1 であり[2]、両親媒性多糖オリゴマーで保護した金ナノ粒子の方が高い触媒活性を示すことがわかった。

 

表3.金ナノ粒子を用いた p–ニトロフェノールの還元反応における反応速度定数
  rate constant × 10–4 / s–1
C12-3.0GEMA 234
C12-4.0GEMA 268
C12-5.1GEMA 160
C12-7.1GEMA 196

 

今後の課題:

 得られた両親媒性多糖オリゴマー保護金ナノ粒子の SAXS プロファイルより、初めはモデル解析により粒子の構造を解析したが、粒子の多分散性や凝集の性質などを理由にうまくいかず、Guinier 解析により粒子の粒径を求めた。今後、モデル解析による構造解析を再検討したい。

 

参考文献:

[1] S. Akiyama, T. Yoshimura, K. Esumi, J. Jpn. Soc. Color Mater., 78, 112 (2005).

[2] T. Yoshimura, K. Ishihara, K. Esumi, Langmuir, 21, 10409 (2005).

 

 

 

 

(Received: March 31, 2020; Early edition: June 26, 2020; Accepted: July 6, 2020; Published: August 21, 2020)