SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume8 No.2

SPring-8 Section C: Technical Report

BL39XUにおけるOn the Fly 走査型XAFS/XMCDイメージング法の開発
Development of On the Fly Scanning XAFS/XMCD Microscopy at BL39XU

DOI:10.18957/rr.8.2.453
2014B2046, 2015A1292, 2015A2050 / BL39XU

鈴木 基寛, 河村 直己, 関澤 央輝, 保井 晃, 大沢 仁志, 宇留賀 朋哉

Motohiro Suzuki, Naomi Kawamura, Oki Sekizawa, Akira Yasui, Hitoshi Osawa, and Tomoya Uruga

(公財)高輝度光科学研究センター

JASRI

Abstract

 BL39XU ナノ分光ステーションでの 100 nm 集光ビーム利用に関して、試料位置の連続走査とそれに同期したデータ収集を行う On the Fly 法の開発と導入を行った。ダイヤモンド移相子による偏光スイッチングを測定シーケンスに組み込むことで、On the Fly 走査型の XMCD イメージングが可能となった。従来のステップスキャンによる方法と比べ、得られた XAFS 像および XMCD 磁区像の統計精度は同程度であり、一方で測定時間は XAFS 像では数十分の1、XMCD 像では数分の1に短縮された。


Keywords:X線ナノビーム、走査型イメージング、顕微XAFS、顕微XMCD、蛍光X線イメージング


背景と研究目的:

BL39XU ナノ分光ステーション (実験ハッチ2) では、100 nm 径の円偏光硬X線集光ビームを用いた走査型 XMCD イメージング、XAFS および蛍光X線による元素イメージング測定が行われている [1,2]。BL39XU での走査型イメージングでは、これまでステップスキャンと呼ばれる方法を用いてきた。ステップスキャンでは、測定ピクセルごとに試料位置を移動させ、試料ステージが停止した後に信号の計測を行う。そのため、正味の計測時間に加えて、試料ステージ移動の待ち時間やパルスモーターコントローラとの通信時間を余分に必要とする。現状で、このオーバーヘッドは1ピクセルあたりおよそ2秒である。測定条件によってはオーバーヘッドが、正味の計測時間以上になる場合があり、明るいナノビームが利用できるにもかかわらず、広視野・高分解能のイメージング測定には長時間を要するという問題があった。

 

そこで、本研究では、連続走査 (On the Fly) 法 [3] によるイメージング測定を開発し、測定時間を短縮することを目的とした。On the Fly 法では、試料位置を連続的に移動させながら信号の計測を行う。検出器からの計数値と試料位置エンコーダ値を同期計測することで、試料位置と計数値の正しい関係を保証する。このために、同期計測用のカウンタボードと試料位置エンコーダ読み取りのための機器を導入した。また、多素子蛍光X線検出器に対応可能な xMap による信号処理回路の制御と連続スキャンプログラムへの組み込みを行った。この On the Fly 方式を XMCD イメージング測定に適用可能とすべく、ダイヤモンド移相子による円偏光切り替えのスキャンシーケンスへの組み込みを行った。これらの開発により、ステージ移動や通信時間のオーバヘッドを短縮した高速な On the Fly XMCD 磁気イメージング測定を可能とした。

 

実験:

測定試料として、Ta 製テストパターン (最小ライン&スペース 100 nm)と、Cu を微量添加したネオジム焼結磁石試料 [2] (Nd2Fe14B:Cu、以降 Nd-Fe-B と表記) を用いた。実験は BL39XU 実験ハッチ2で行った。光学ハッチの輸送チャンネルスリット1を仮想光源とし、KB ミラーによる集光径 107(水平)×112(垂直) nm2 の集光ビームを得た。

測定系のダイアグラムを図1に示す。水平(X)・垂直(Z)方向の試料並進ステージには、シグマテック社製 2軸 10 nm フィードバックステージ (FS-1020PXY)とコントローラ (FC-601A) を用いた。ステージに内蔵されている光学式リニアエンコーダからのパルス信号を同社製パルスユニット (PU-42) を介して、ナショナルインスツルメンツ製カウンタボード (PCI-6602) に入力した。カウンタボードの他のチャンネルにはイオンチェンバー検出器からの信号を入力することで、信号とステージ位置の同期収集を行った。蛍光法での走査型蛍光マッピング測定には4素子 SDD 検出器を用いた。SDD 検出器信号の処理回路として、XIA 製 xMap デジタルプロセッサーを用いた。蛍光法での走査型 XMCD 磁気イメージング測定はダイヤモンド移相子を用いた偏光反転法により行った。

 

 

図1 On the Fly 走査型 XAFS/XMCD イメージングのための測定系。

 

結果および考察:

図2(a),(b)に、従来のステップスキャン方式と、本課題で導入した On the Fly 方式による、Ta テストパターンの透過顕微像の結果を示す。X線のエネルギーは 11 keV である。観察領域は 10×10 μm2、測定ステップは 200 nm、1ピクセルあたりの積算時間は 100 ms であり、On the Fly scan と従来のステップスキャンとを同じ測定条件で比較している。On the Fly Scan でも従来のステップスキャンと分解能、精度ともに遜色ない結果が得られた。試料位置の移動を含めた総計測時間はステップスキャンでは64分に対して、On the Fly Scan では6分であった。測定時間は十分の一以下に短縮された。図2(c) には、より細かい 50 nm ステップでの On the Fly スキャンの結果を示す。1ピクセルあたりの積算時間は 25 ms、水平方向1ラインの計測時間は5秒とした。総ピクセル数およそ4万ピクセルに対して測定時間は23分であった。このうち、試料移動や通信によるオーバヘッドは6分である。ステージの連続移動による画像の劣化も見られず、最も内側の間隔 100 nm のパターンも分離できている。

 

    

図2 Ta テストパターンの透過像。中心部パターンの最小線幅は 100 nm、観察視野は 10×10 µm2。(a) 200 nm 走査ステップでの従来のステップスキャンによる結果、(b) 200 nm 走査ステップでの On the Fly スキャンによる結果。(c) 50 nm 走査ステップでの On the Fly スキャンによる像。

 

図3に示すのは、Nd-Fe-B 焼結磁石の蛍光X線イメージング測定の結果である。On the Fly スキャンを用いて、Fe、Nd、Cuの明瞭な元素マップが得られた。30×30 μm2 の領域を 100 nm ステップ、1ピクセルあたりの計測時間 20 ms の条件で測定することで、総ピクセル数約9万点の画像を40分で取得した。同じ条件でステップスキャンで測定した場合には50時間を要する計算である。すなわち、75倍の高速化に成功した。On the Fly scan 方式に起因する空間分解能の低下は見られなかった。

 

 

図3 Nd-Fe-B:Cu 焼結磁石試料の破断面に対して得られた、On the Fly 走査法による蛍光X線像。(a) Fe Kα、(b) Nd Lα、(c) Cu Kα線の強度分布。測定視野 30×30 µm2、走査ステップ 100 nm。(d) Fe, Cu, Nd 強度を RGB 三原色にそれぞれ割り当てて表示した元素マッピング像。

 

つづいて、蛍光モードでの On the Fly XMCD イメージングの試験測定を行った。蛍光モードでの XMCD 高速スキャンにおいては、水平方向の試料位置1ラインを走査する間、円偏光ヘリシティを固定し、偏光反転したのちに同じラインをスキャンするようなシーケンスによる測定ソフトを作製した。図4に示すのは、交流消磁状態での Nd-Fe-B 焼結磁石の破断面の XMCD 像である。X線のエネルギーは Nd L2 吸収端に相当する 6.725 keV とした。観察領域は 30×30 µm2、測定ステップは 200 nm、総ピクセル数は約2万3千ピクセルである。積算時間は1ピクセルあたり1秒 (右円偏光 0.5 秒、左円偏光 0.5 秒) とした。総測定時間は6時間30分であった。XMCD コントラストは ±3% と比較的小さいが、明瞭な磁区構造が観察できている。画像の品質についても従来のステップスキャン方式 [2] と遜色ない結果が得られた。従来のステップスキャンで同じ測定を行った場合、19時間を要する計算である(ステップスキャンでの測定は実際にはより小さい領域でのみ行い、測定時間を評価した)。

 

          

図4 Nd-Fe-B 焼結磁石の破断面における、On the Fly 走査型 XAFS/XMCD イメージングの結果。(a) Nd Lβ 線のマッピングによる Nd の元素分布。(b) Nd L2 吸収端での XMCD イメージングによって得られた磁区構造。

 

今後の課題:

本研究で開発した On the Fly scan による XAFS/XMCD マッピングを、ユーザー利用に提供していくことで、ミクロからサブミクロンスケールの組織構造を有する磁性体試料のイメージング測定の効率やスループットが格段に向上することが期待される。On the Fly XMCD イメージングに関して、本課題では水平方向の試料位置スキャンにおいて、右円偏光と左円偏光で同じラインを2度測定し差分を取る方法を用いた。今後、ダイヤモンド移相子による高速偏光スイッチングとカウンタを同期させることで、XAFS イメージングと同様に1ラインのスキャンで XMCD を取得する改良型の On the Fly XMCD イメージング測定の開発を行う [4]。さらに、透過試料に対する偏光変調 XMCD On the Fly イメージング測定の開発もすでに行っており、走査型磁気トモグラフィー測定 [5]での XMCD 投影像の測定に活用されている。

 

参考文献:

[1] M. Suzuki et al., J. Phys. Conf. 430, 012017 (2013).

[2] M. Suzuki et al., Acta Mater. 106, 155 (2016).

[3] T. Tsuji et al., J. Phys. Conf. 430, 012019 (2013).

[4] 大沢仁志 他、第33回日本放射光学会年会・放射光化学合同シンポジウム、12P069、2020年1月10日〜12日、ウインクあいち(愛知県産業労働センター).

[5] M. Suzuki et al., Appl. Phys. Express 11, 036601 (2018).

 

 

 

(Received: March 30, 2020; Early edition: May 27, 2020; Accepted: July 6, 2020; Published: August 21, 2020)