SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume8 No.2

SPring-8 Section A: Scientific Research Report

D-DIA型高圧変形装置を用いたMA6-6型AE測定システムの開発
Development of MA6-6 Type AE Monitoring System in D-DIA Apparatus

DOI:10.18957/rr.8.2.214
2013B1495, 2014A1483, 2014B1764 / BL04B1

岩里 拓弥a, 久保 友明b, 肥後 祐司c

Iwasato Takuyaa, Tomoaki Kubob, Yuji Higoc

a新日本非破壊検査(株), b九州大学, c(公財)高輝度光科学研究センター

a Shin-Nippon Nondestructive Inspection Co., Ltd., b Kyushu University, cJASRI

Abstract

 高温高圧下で変形している試料の放射光X線分析と AE 計測を目的として、D-DIA 型高圧変形装置に MA6-6 型 AE 測定装置を組み込んだシステムを新たに開発した。それを用いて antigorite 多結晶体と forsterite 多結晶体の変形実験を行った。本システムにより、高温高圧下で変形する試料の反応カイネティクス、応力-歪み曲線、AE 活動のその場同時観察が可能となり、それは反応誘起のせん断不安定化プロセスと深発地震の実験研究に必要不可欠なものである。


Keywords:Acoustic Emission 計測、高圧変形実験、相転移、せん断不安定化、深発地震


背景と研究目的:

 地表の比較的浅い領域で発生する地震の主要な要因は、既存断層面のすべり運動や、地盤を構成する岩石の脆性破壊に起因すると考えられる。一方で、地震観測の結果から、深さ約 680 km の地球深部領域まで地震が発生することが知られている。これらの地震は(稍)深発地震と呼ばれている。この深さ領域は高圧環境下であるため塑性流動が卓越し、前述の地球浅部での地震発生メカニズムを適用することは困難である。深発地震の発生メカニズムを解明するためには、高圧下における鉱物の力学的挙動と相転移や脱水反応との相互作用の実験研究が不可欠である。

 筆者らのグループでは、D-DIA 型高圧変形装置と放射光単色X線を使用して、高圧鉱物の変形挙動と相転移反応のその場同時観察実験を行い、それらの相互作用について検討を行ってきた[1]。地球深部環境下における断層形成メカニズムを解明するためには、従来の実験システムに加えて、せん断不安定現象が検出可能な Acoustic Emission(以下、AE とする)計測を取り入れる必要がある。このようなシステムはいくつかのグループで構築されているが[2][3]、比較的安価で必要に応じて発展的な改良が容易に行えるシステムを独自に開発したので、その結果について報告する。

 

実験:

 実験は SPring-8 の BL04B1 に設置された D-DIA 型高圧変形装置に、新たに開発した MA6-6 型 AE 測定システムを組み込んで実施した。開発したシステムは、従来の MA6-6 型加圧装置[4]に AE センサを装着した試料加圧部と、AE 波形と弾性波速度を切り替えながら測定する AE/Vp 測定ユニットで構成される。システムの全景と高周波測定回路の概要を図1に示す。

 

    

   図1 MA6-6 型 AE 測定システムの全景(左)と高周波測定の概略図(右)

 

 D-DIA 型高圧変形装置の1段目アンビルにより生じる外力は、試料加圧部を構成する2段目アンビルを介して、試料部へと作用する。図2に試料加圧部の概要を示す。本システムでは、従来可能であったX線透過像および二次元X線回折パターンの取得に加え、試料部で生じた AE をアンビル型 AE センサにより検出する。このセンサは、MA6-6 型加圧装置の2段目に使用する超硬製アンビルの底面に共振周波数 6-7 MHz の圧電素子(富士セラミックス PZT C-6、直径 3.0 mm、厚さ 300 µm)を取り付けたもので、AE により生じた弾性波を電圧信号に変換する。2段目の超硬アンビルは先端切り欠きサイズが 6 mm のものを用いた。

 

    

   図2 MA6-6 型 AE 測定システムの試料加圧部(左)と sample assembly の詳細(右)

 

 AE/Vp 測定ユニットは、アンビル型 AEセンサ、高周波トランス、プリアンプ、PC ベースのデジタルオシロスコープ、回路切り替えスイッチ、ファンクションジェネレータで構成され、必要に応じて AE 計測回路と弾性波速度測定回路を手動で切り替えることができる(図1)。AE 計測回路では、アンビル型 AE センサを用いて検出したアナログ信号を高周波トランスに通しプリアンプで 20 dB 増幅した後、後続のオシロスコープでデジタル信号に変換する。AE の検出はトリガーモードにより行い、2CH のオシロスコープを3台同期して使用することで全 6CH の AE 波形データを取得し、PC へ転送して内蔵 SSD に保存した。サンプリング周波数は 50 MHz、データ長は 10k で、連続する AE イベントを検出する際の不感時間は PC の性能に依存するが、現状で 0.5 sec 程度である。弾性波速度測定回路では、ファンクションジェネレータを用いて試料部を介して対向するアンビル間で弾性波の送受信を行う。送受信する弾性波の通過時間とX線透過像から計測する試料部の全長から、試料部の弾性波速度を測定する。

 高温高圧変形実験に用いた試料部のセル構成を図2右に示す。試料部内の出発物質には forsterite 多結晶体[5]および antigorite 多結晶体を円柱状に加工したものを用いた。この例では、出発物質の一軸応力環境を実現できるが、セル構成を変えることで単純せん断変形場を再現し、大ひずみ領域での変形実験を行うことも可能である。50 keV の単色X線を入射光として二次元X線回折パターンとX線ラジオグラフィー像を約5分毎に時分割測定し、応力と歪みおよび相転移速度のデータを得た。その手法は過去の研究[1]と同様である。グラファイトヒーターの抵抗加熱は直流電源を用いて行った。まず常温下で目的の圧力まで加圧した後、目的の温度まで昇温し、そこで定歪み速度条件での変形実験を行った。弾性波速度測定時以外はトリガーモードで待機し AE 計測を行った。

 

結果および考察:

 弾性波速度の測定は antigorite 多結晶体を用いて行った。測定結果を図3に示す。試料部の弾性波速度 Vp は、対向する圧電素子間を弾性波が伝搬する時間 t1 と、超硬製アンビルを往復伝搬する時間 t2、X線透過像より求める試料部の長さ l を用いて から求められる(図3左)。室温での加圧過程において試料部の弾性波速度は上昇し、上下方向で若干遅いが方向による大きな差異は認められない(図3右)。この試料部弾性波速度の圧力依存性を AE の発生位置決定に使用した。

 

    

図3 MA6-6 型 AE 測定システムによる試料部の弾性波速度の測定例。左に測定波形、右に弾性波速度の圧力依存性を示す。

 

 AE 活動について、antigorite 多結晶体ではその発生頻度が小さかったため、ここでは forsterite 多結晶体試料で得られた結果を中心に報告する。本実験ではまず室温下で試料を 8 GPa 程度まで加圧して 400°C まで昇温した後、高温高圧下において歪み速度 4.6x10-5 s-1 で歪み量 13% 程度まで変形実験を行った。本システムにより計測した AE 波形と初動到達時刻の解析例を図4に示す。ビームラインハッチ内の測定では電気的ノイズの除去が肝要となるが、接地を確実にし得られたAE波形をバンドパスフィルタにより、良好な SN 比を有する信号を計測できた。AE をトリガー検出するしきい値は通常 10-30 mV に設定している。

 

    

  図4 実験中に検出した全6CH の AE 波形(左)と AIC-picker による初動到達時刻の検出例(右)

 

 全 6CH の AE 信号データから、各 AE 信号の初動到達時刻を検出し、三次元の A E発生位置を求めた。初動到達時間の決定は、AIC-picker により行った[6]。これは抽出した信号を定常区間と AE 信号区間に分割する最良点を求める手法であり、これにより初動到達時刻の検出を自動化することが可能である。求めた初動到達時刻と上記で求めた試料部の弾性波速度から、 の関係を用いて対向するアンビル毎に直交座標系の各軸における一次元の AE 発生位置(∆X)を求めた。ここで V および ∆T は、それぞれ実験中の弾性波速度および向かい合うセンサ間で得られる到達時刻差を示す。三軸それぞれの一次元位置をもとに、三次元の AE 発生位置を決定した。

 本実験中に生じた AE の三次元発生位置を図5に示す。室温圧縮時に検出した AE を青で示し、昇温・変形時はそれぞれ赤と緑で示している。室温圧縮時の早期の段階で、振幅強度の高い AE が試料部に密集して非常に多く発生した。一方で、室温圧縮時の後半から昇温、変形時においては、試料部の外部で発生しており、密集した AE 発生は認められなかった。室温圧縮時の特に低圧下において forsterite 多結晶体から数多く発生した AE は、脆性破壊に起因するものと考えられる。高温高圧下での変形時には差応力が約 3 GPa に達していたが、試料由来の AE は検出されなかった。これは、試料が塑性流動の卓越する変形であったことが考えられる。

 

    

図5 forsterite 多結晶体の加圧、昇温、変形実験における AE 発生位置の決定例(図2右の sample assembly に重ねてプロットした。詳細は本文参照)。

 

今後の課題:

 放射光単色X線と D-DIA 型高圧変形装置に本研究で開発した MA6-6 型 AE 測定システムを組み合わせることにより、高温高圧下で変形する試料の反応カイネティクス、応力—歪み曲線、AE 活動のその場同時観察が可能になり、それは深発地震の実験研究を行う上で必要不可欠な手法であると考える。既製品の AE 測定システムに比較し、ここで報告したシステムは比較的安価に導入でき、また必要に応じて部分的な改良が容易である。本研究結果をふまえ、現在では AE/Vp 測定ユニットを一体化して改良し、またデジタルオシロスコープの高度化、AIC-picker の高速化を図ることで、ノイズの低減、不感時間の改善、プリアンプのゲインや AE/Vp 測定スイッチの実験ハッチ外からのリモート切り替え、震源位置決定の高速化などに取り組んでいる。また切り欠きサイズのより小さいアンビルを用いたより高圧下での実験にも適用している。一方でアンビル底面に貼り付ける素子サイズの制限から、素子の卓越周波数が一般的な AE 測定に比較して高いことが問題であり、ベースプレートの形状を改良し、より厚い圧電素子の利用を検討する必要がある。

 

謝辞:

 本研究は JSPS 科研費 JP25247089, 18H05232 の助成を受けたものです。forsterite 多結晶体は東京大学地震研究所の小泉早苗氏から提供を受けました。

 

参考文献:

[1] N. Doi et al., Earth Planet. Sci. Lett., 388, 92 (2014)

[2] A. Schubnel et al., Science, 341, 1377 (2013)

[3] T. Ohuchi et al., Nature Geoscience, 10, 771 (2017)

[4] N. Nishiyama et al., High Press. Res. 28, 307–314(2008)

[5] S. Koizumi et al., Phys. Chem. Miner., 37, 505 (2010)

[6] N. Maeda, Jishin, 38, 365 (1985)

 

 

 

(Received: January 27, 2020; Early edition: May 27, 2020; Accepted: July 6, 2020; Published: August 21, 2020)