Volume8 No.2
SPring-8 Section A: Scientific Research Report
隕石中のコンドリュールの形成過程解明のための、加熱・溶融/結晶化過程の4Dイメージングによるその場観察
In situ Observation by 4D-imaging of Chondrule Formation Process
(公財)高輝度光科学研究センター
JASRI
- Abstract
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隕石中に含まれるコンドリュールの特徴的な結晶組織を再現し、その物理化学条件から形成環境の制約条件を得るために、加熱/溶融・結晶化過程の4次元観察によるその場観察を行った。Ca を含む輝石の 0.5 mm 程度の液滴で、樹枝状結晶が形成される様子が、2D、3D いずれのその場観察でも観察する事が出来た。結晶成長は試料がホルダと接している部分からだけでなく、試料上面からも結晶化が起こっている様子が確認された。試料上面の結晶成長と試料下部の結晶成長はその形態が異なり、温度条件によって複数の結晶成長形態が共存することがわかった。しかし、実際に隕石に含まれる Ca や Fe を含まない輝石の組成では結晶化が全く起こらなかった。これは非常に小さい試料を観察しているため、結晶化過程において、無容器実験と同じ条件になっていることが示唆される。
Keywords:コンドリュール、その場観察、4D-CT
背景と研究目的:
隕石中に含まれるコンドリュールは 1 mm 程度の Mg、Fe 等を含む Si の酸化物(珪酸塩)から成る球粒物質で、太陽系形成の最初期に何らかの高温イベントを経験し、珪酸塩が溶融・再結晶化を経験した後、隕石母天体に取り込まれたと考えられている。コンドリュールは放射性同位体を用いた年代測定により、平均として 45.65 億年前程度という太陽系形成の最初期に形成されたことがわかっている。このことから地球などの固体惑星形成に重要な関連を持っている可能性が指摘されているが、その形成過程は1世紀以上にもわたる議論が続いている中、未だに解明されていない [1]。このコンドリュールは、様々な特徴的な結晶組織を示すことがわかっているが(図1)、その組織を地上の実験で完全に再現することに、未だに成功できていない。この原因として、コンドリュールを形成した環境と実験室環境の物理化学条件の違いが挙げられる。例として、宇宙空間では無重力状態で、基本的に放射冷却によって冷却される。しかし、地上では試料は容器と接触するなど、かならず内部に温度勾配が発生する環境にあり、これによって対流や結晶成長などが支配されてしまうが、それが最終的な結晶組織にどのような影響を与えるのかはわかっていない。また、加熱の熱史もよくわかっておらず、結晶間にガラスを含むことから高温状態から急冷を経て固化したと考えられているが、冷却速度が早すぎると結晶が全く成長しないガラス玉になってしまう。このため、なぜこのような微妙な温度制御が初期太陽系で起こったのかは不明である。このほかに、コンドリュールは全体を平均すると太陽系の平均的な化学組成にきわめて近いが、Fe をはじめとし、Ni、Ir、Co など、親鉄性元素だけが大きく欠乏している。これは鉄が物理的に排除されたためであると考えられるが、どのような過程で珪酸塩と金属鉄が分離されたのかわかっていない。このように、多くの謎が未だに解明されていない [2]。
図1.隕石の薄片写真に見られるコンドリュール(丸みを帯びた包有物)。中央のコンドリュールが Barred olivine と呼ばれる、特徴的な組織。棒状の組織の周囲を殻のように丸い外殻が取り囲んでいる。
高冷却速度での珪酸塩の結晶成長や金属鉄の分離過程については非平衡現象であり、これを理解するためにはその場観察を行なって、現象の物理的過程を時系列で把握することが重要である。しかし、これまでの実験では可視光によるその場観察が主だったため、分解能が悪く、試料内部の情報も得られなかった。このため、金属鉄の分離、結晶の成長様式、成長速度や結晶の発生過程など、多くの過程を明らかにすることができずにいた。
本研究ではこの問題を解決し、珪酸塩の結晶成長過程を放射光X線による4次元観察を用いてその場観察を行うためのシステムを開発し、コンドリュールの形成過程を調べることを目的とする。
実験:
図2に本実験で開発したその場観察加熱装置の概略図を示す。加熱には赤外線イメージ炉を用い、炉心管を用いずに加熱する手法をとった。これにより、試料周りに大きなスペースを確保することができ、その場観察の際に視野を妨げるものを排除できる。また、試料は回転ステージに固定されるため、炉体を上げ下げすることで試料を加熱部に導入した。イメージ炉は、小型でも高い温度を実現できるため、本実験には有効である。加熱中は窒素を 1 L/min で炉内に導入し、炉内の酸化反応を抑えた。試料は鉱物を 50 µm 以下の粉末状にして、グラファイトペレットの上に少量設置した。試料サイズは、溶融して液滴になった時点で 0.5 mm 径程度とした。グラファイトは珪酸塩とのぬれが悪いため、珪酸塩が溶融した際に球粒状の形を保つことができる。温度は金線を用いてキャリブレーションを行い、補正した。昇温は透過X線像を観察しながら 10℃/sec 程度で行い、試料が完全溶融した温度を融点として記録した。冷却速度は 5 ℃/sec 程度とした。この冷却速度は冷却開始から冷却終了までの温度を線形で近似した値であり、実際には放冷によって連続的に変化している。冷却速度は事前検証でデンドライトによる結晶化が起こるのを確認しながら決定した。これよりも早いと結晶化が起こらない事が多く、遅いと、デンドライトとは違う結晶成長過程が起こった。
図2. 加熱炉の概略。炉はZステージで固定され、上から試料台に覆い被さる。X線の光軸は紙面垂直方向で、この光軸上にはカプトンの窓が設置してある。熱電対は試料のすぐ横に設置してあり、温度は金線を使ってキャリブレーションを行った。窒素ガスは上から導入して、試料台脇を抜けて下から抜ける。また、試料上部から顕微鏡で試料の状態を観察し、復熱反応などを見ることが出来る。
透過像による2次元+時間経過の観察する場合は、加熱・冷却しながら透過X線を試料後部に設置された検出器で観察した。検出器は浜松ホトニクス製 AA50 を用いた。200 µm 厚の GAGG 蛍光体でX線を可視光変換し、sCMOS カメラで像を取得した。sCMOS カメラは浜松ホトクニス製 OrcaFlash4.0 を使用した。画素数は 2048x2048 で、ピクセルサイズは 0.5 µm とした。露光時間は 150 m sで統一した。CT を用いた4次元観察(4D-CT)を行う場合は、2次元と同様のセットアップで、撮影中に試料を時計回りに連続的に回転させた。半回転分の画像を用いて、CT データを再構成した。画像を補正するため、実験前後に試料を垂直方向下側に退避させた状態でX線画像を取得し、両者を線形補完してX線の強度ムラや時間変化を補正した。また、X線を遮断した暗視野像を取得し、カメラの暗電流補正を行なった。露光時間は 6 ms で、半回転で 1000 枚の透過像を取得した。従って CT データ1セットの取得時間は 6 s で、これが 4D-CT のフレームレートになる。この CT データを連続的に取得して、時系列の三次元データを取得した。この露光時間では光量が足りないため、2x2 ビニングを行い、ピクセルサイズを 1 µm とした。またZ方向(垂直方向)の視野は半分に狭めて、データの取得速度を上げた。この結果、4D-CT の際の画素数は 1024x512 となった。表1に実験条件をまとめる。
実験 | ピーク温度(℃) | 冷却温度 | 露光時間 | ピクセルサイズ | フレームレート | |
図3 | 2D+time | 1480 ℃ | 4.8 ℃/s | 150 ms | 0.5 µm | 150 ms |
図4 | 3D+time | 1480 ℃ | 4.8 ℃/s | 6 ms | 1 µm | 6 s |
結果および考察:
図3に、2次元観察を行なった例を示す。試料は融点が 1400℃ 程度と低く、その場観察が比較的容易な珪酸塩である輝石、diopside(CaMgSi2O6)の粉末を、まず使用した。試料下部から一気にデンドライト結晶成長が起こり、試料全体をおおった。発生から結晶成長完了まで 70 秒程度である。同じ輝石でも Ca を含まない Mg リッチな Enstatite(Mg2Si2O6)を用いた浮遊法による先行研究では1秒以内に結晶化が終了しており[3]、これ比べて非常にゆっくりと結晶化が起こっている。これは化学組成の違いの他、先行研究ではレーザー加熱によって一桁以上高い冷却速度で実験を行っていることによる違いが影響していると考えられる。一方で試料の上面からも結晶が成長している様子が確認される。試料下部から温度勾配(試料垂直方向)に対して並行に成長するデンドライト結晶成長とは違い、温度勾配に対して垂直な方向に結晶が成長している。このように、珪酸塩液滴中の結晶成長は複数のモードが同時に進むことが本実験でわかった。
図3.溶融後の結晶化過程の2次元時間経過観察。透過X線を補正し、輝度を反転している。右上の数字は経過時間(秒)。(1)1404℃, (2)1354℃, (3)1329℃, (4) 1270℃ 結晶化開始から終了まで、70秒程度。
図4に、4D-CT のよる結晶成長の観察結果を示す。4D-CT の結果からも、上記の試料上部から起こる結晶成長は確認された。これらはデンドライト組織と比べてより細かく、最終的には結合してより大きな結晶になっている。一方でデンドライト組織はそのままの形を保ったまま固化している。このように両者は異なる組織を最終的に形成することがわかった。
図4.Diopside の結晶化過程の 4D-CT 観察結果。液滴の中心で半分に切った、断面の時間発展を示している。4枚のフレームの間隔は18秒程度。高速撮像のために視野を削っているため、(1),(2),(3)では試料上部がやや欠けている。(1)が冷却開始時の状態。CT 中に温度が大きく変化しているため、温度の表記はしていない。
考察:
本研究で用いた Diopside のような Ca リッチな輝石から成るコンドリュールは実際の隕石中には存在しない。隕石中の輝石をふくむコンドリュールは、ほぼ Enstatite から成る。これは、太陽系の平均的な化学組成では、Ca は Mg、Fe、Si 等と比べ一桁量が少ない上に、Ca を含む輝石は融点が 1400℃ 程度と低いため、高温から急冷した場合、1570℃ 程度と融点が高い Enstatite が先に結晶化し、Ca は溶け残った残液に濃集後、ガラスになるためである。従って、今回の実験は天然のコンドリュールの特性を反映していない。
本研究では、diopside の結晶化過程を確認後、同様に、実際の隕石中のコンドリュールに含まれる Enstatite を用いた実験もいくつか実施した。しかしこれらは冷却速度にかかわらず、すべて全く結晶化せず、ガラス化している。またメルトの粘性が高いため非常に結晶化しにくく、特に無容器の実験ではどれだけゆっくり冷却しても結晶化しないことが先行研究から指摘されている [3,4]。本研究では、グラファイトペレットの容器を使っているため、十分に結晶化することが予想された。しかし、予想に反して結晶化が起こらなかった。この理由として、先行研究では 3 mm 程度の大きな試料を用いているのに対して、本研究では 0.5 mm 程度と非常にちいさな試料を用いている事があげられる。著者がその場観察を伴わない加熱実験で行った先行研究では、試料をグラファイトペレットのホルダに置いた際、重みで試料下部がゆがみ、ホルダと試料の接触面積が大きくなっていた。このため、この接触点から核形成が起こり、Enstatite でも結晶化が起こっていた [5]。しかし、本研究では試料が小さいため、試料が溶融した際の表面張力の影響が先行研究に比べて非常に強く、試料が真球に近くなった。このため、接触面積がきわめて小さくなり、容器の影響を受けにくくなったことが、無容器実験と同じ条件になったことの理由と考えられる。本研究で用いた Diopside は Enstatite と比べて比較的グラファイトとよくぬれるため、ホルダとの接触面積が大きく、結晶化過程を観察する事が出来たと考えられる。
今後の課題:
現在までの所、コンドリュールの形成過程を再現する事には成功していない。本研究では、Ca を含む輝石である、diopside を使って実験を行い、結晶過程を観察する事には成功したが、一方で、Enstatite はこのセットアップでは結晶化しなかった。これまでの浮遊法を用いた無容器実験の先行研究では [3,4]、Enstatite の結晶化実験では、冷却時に種結晶を人工的に溶融した試料に接触させ、結晶化を促している。これは実際のコンドリュール形成においては、細かいダストが試料に衝突する事を模擬しているとされている。このような実験は本セットアップでは現状では不可能であるため、今後装置を改良し、加熱中に試料同士を衝突させるなど、より複雑な実験を行う事を目指す。
また、Forsterite (Mg2SiO4)等、違う化学組成のコンドリュールの再現実験にも取り組む。Forsterite は 1890℃ 程度と融点が非常に高く、現在の炉では出力不足であるため、これを溶かすことが出来ない。今後、実験ハッチに 200V60A の電源装置を導入し、新規に導入したより高い温度が達成できる高出力イメージ炉を用いる事で、Forsterite を用いた再現実験を計画している。
また、Forsterite は Enstatite とは逆に非常に結晶化しやすく、ホルダを用いた実験ではホルダとの接触点からすぐに結晶成長が起こる。このため過冷が起こらず、過冷却が必要なコンドリュールの周囲を覆う殻状組織(図1)の形成が起こらないことが過去の研究から示唆されている [6]。しかし、本研究の結果から、きわめてちいさな試料を用いた場合、無容器実験条件に近くなることが示唆されている。このため、容器を使用したまま、この殻状組織の形成過程を4次元観察する事が出来る可能性がある。また、これまでグラファイト容器と激しい反応が起こるため、観察が不可能だった金属鉄の放出過程など、これまでには難しかった実験も可能になる可能性がある。
今後は、以上のような課題を考慮し、コンドリュール形成の再現を目指す。
参考文献:
[1] R. Jones et al., in “Protostars and Planets IV”, E. H. Levy and J. I. Lunine eds, 1993, pp. 927-962.
[2] M. Uesugi et al., Meteorit. Planet. Sci. 43, 717-730 (2008).
[3] K. Nagashima et al., J. Cryst.. Grow. 293, 193-197 (2006).
[4] K. Nagashima et al., J. Min. Pet. Sci. 103, 204-208 (2008).
[5] 上椙他、日本惑星科学会秋期講演会、311, (2008).
[6] 塚本勝男他、遊星人、8, 261 (1999).
(Received: March 2, 2020; Early Edition: May 27, 2020; Accepted: July 6, 2020; Published: August 21, 2020)