SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume8 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

マイクロX線回折による強誘電材料の電極/誘電体界面における歪み・結晶ドメイン分布の研究
Distribution of Strain and Crystal Domain on Electrode-dielectric Interface in the Practical Ferroelectric Materials Studied by Micro X-ray Diffraction

DOI:10.18957/rr.8.2.424
2019A1620 / BL40XU

木村 宏之a, 坪内 明b, 安田 伸広c

Hiroyuki Kimuraa, Akira Tsubouchib, Nobuhiro Yasudac

a東北大学多元物質科学研究所, b(株)村田製作所, c(公財)高輝度光科学研究センター

aIMRAM, Tohoku University, bMurata Manufacturing Co., Ltd., cJASRI

Abstract

 積層セラミックキャパシタ(MLCC)の実材料について、サブマイクロX線回折を用いて電極/誘電体界面と誘電体素子部分の構造を調べた。前回の実験時(2018A1545)よりも試料位置での集光を最適化し、更に高散乱角領域での測定を行うことにより、試料位置でのビームサイズを、前回課題実験時と比較して、縦方向で 1/4、横方向で 1/10 以下の、375 x 387 nm2 の微小領域での粉末回折パターンのマッピングに成功した。その結果、界面近傍で、格子定数の減少及び、BaTiO3 正方晶ドメイン分布の広がりをを発見した。見出された変化は Ni 電極からの応力を受けて、誘電体素子が歪んでいることを示す結果である。


Keywords:積層セラミックキャパシタ,マイクロ領域X線回折


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背景と研究目的:

 MLCC は内部電極とそれに挟まれた誘電体素子を1ユニットとして、多積層化された材料である。現在、MLCC 内の誘電体層及び電極層の厚みはそれぞれ 1 μm、0.5 μm 以下が実現されており、更なる薄膜化を目指してメーカーがしのぎを削っている。しかしながら、この薄層化による電極/誘電体界面の構造・電子状態の影響が、誘電特性の向上を妨げる大きな要因となり、一方で誘電体素子の薄膜化や誘電体粒自身の微小化に伴って誘電率が低下することも古くから知られており[1,2]、MLCC チップの小型大容量化が頭打ちになっている現状がある。この現状を打破するためには、誘電体厚と内部電極厚、及び電極/誘電体界面の構造と電子状態について、情報を得て、特性劣化の微視的機構を明らかにし、新たな物質開発・設計に繋げて行く必要がある。しかし、層内や層間の局所領域の構造や歪み、電子状態についての情報が全く得られていないため、実材料の構造において、ナノスケールで何が起こっているのか、その局所構造あるいは局所歪みがどのように物性発現・特性向上、あるいは特性劣化につながっているか、殆ど明らかにされていない。現状では、仮説・検証を繰り返す試行錯誤と、その結果として得られた知見の積み重ねにより、これらのパラメータの最適化が行われている。従って、MLCC の更なる小型化・高性能化を実現するためには、この現状を打破し、微小領域の構造・歪み解明と、それらを生かした構造制御、すなわち “Materials by Design” の確立が極めて重要な鍵を握っている。

 本研究の目的は、MLCC 実材料における誘電体層の内部(グレイン集合体)の構造と、電極/誘電体界面付近の構造について、それらの空間分布をマッピングし、構造が局所的にどのように変化し、また歪みがどのように入っているかを明らかにすることである。

 

実験:

 実験は SPring-8 の BL-40XU に設置されたマイクロX線回折計を用いて行った。試料架台は XYZ 方向のナノオーダーでの位置制御が可能なピエゾモーターステージがあり、nm 領域を高い位置再現性で制御可能である。MLCC 実材料は株式会社村田製作所から提供され、BaTiO3 誘電体素子部分の厚みが 9 及び 3 μm の2種を用いた。Ni 電極の厚みは全て 1 μm である。

 X線エネルギーは 8 keV に固定し、試料位置でのビームサイズを前回実験時の経験を生かして更に最適化し、最小で縦方向 375 nm、横方向 335 nm まで集光することに成功した。図1は入射オフセット角 ω = 60° の場合の回折実験のレイアウトである。ビーム照射エリアは縦 375 nm、横 387 nm となっている。Ni 内部電極と BaTiO3 誘電体素子部分にビームを当てて、回折パターンを振動写真で取得し、縦方向(Z方向)と横方向(X方向)にスキャンして、回折パターンの2次元マッピングを取得した。BaTiO3の正方晶ドメインによりピークが分裂する部分としない部分が同時観測可能なように、散乱角中心 2θcen を 82° に固定した。これは前回実験時の 2θcen (= 45°)よりも高角であり、それ故により高い精度で角度、線幅のデータ取得が可能になった。2次元高速検出器を用いることで、74°≤ 2θ ≤ 90° の範囲の回折パターンを同時に観測することができた。観測したブラッグ回折点は、正方晶の定義で低角側から 113/311、222、203/302/320、213/312/321 である。

 

            

図1:回折実験のレイアウト図。赤色部分がビームのフットプリント。縦方向と横方向にビーム照射位置を変えて、回折パターンをマッピングする。

 

結果および考察:

 ビームサイズに対して BaTiO3 の結晶グレインサイズが同程度のため、回折パターンに選択配向がかなり強く出た。そこで回折パターンの位置依存性を比較するため、X方向にスキャンしたデータを全て足し合わせて平均化し、さらに全ての回折線に対して強度を規格化して回折パターンのZ方向依存性をマッピングした。図2に、113/311 回折の強度の等高線図と回折プロファイルについて 3 μm の結果を示す。横軸が 2θ 方向に対応している。2θ 方向に水平に走っている強度は、Ni 電極からの蛍光X線であり、Ni 電極の位置にそのまま対応していると考えて良い。回折線のピーク位置は実験精度の範囲内でほとんど変化していないように見えるが、Ni 電極付近で系統的に低角側にシフトしているのが見られる。更に電極近傍で、2θ 方向の線幅が増大しているのも分かる。線幅及びピーク位置について、定量解析を行ったところ、顕著に上記の傾向が現れた。電極付近で素子の結晶構造が変化していることは間違いない。

 

           

図2:上: 113/311 回折の強度マッピング。縦軸が Z 方向、下: Scan A と Scan B ラインの回折プロファイル。横軸が2θ 方向。

 

今後の課題:

 今後は全ての回折線について定量解析を進め、構造ドメイン分布の変化や歪みの情報について、より精度の高い情報を引き出す予定である。更には電場印加時や温度変化など、よりオペランドに近い状態で MLCC 実材料の構造が微視的にどのように変化しているか、その変化と誘電特性の変化がどのように対応しているか、解明につなげて行くことが必要である。

 

参考文献:

[1] G. Arit et al., J. Appl. Phys. 58, 1619 (1989).

[2] S. K. Streiffer et al., J. Appl. Phys. 86, 4565 (1999).

 

 

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(Received: December 5, 2019; Early edition: January 29, 2020; Accepted: July 6, 2020; Published: August 21, 2020)