SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume8 No.2

SPring-8 Section A: Scientific Research Report

静電浮遊溶解装置を用いたRh融体のX線回折測定
X-ray Diffraction Measurements on Liquid Rh with Electrostatic Levitator

DOI:10.18957/rr.8.2.228
2014A1191 / BL04B2

岡田 純平a、渡辺 康裕b、石川 毅彦c

Junpei Okadaa, Yasuhiro Watanabeb, Takehiko Ishikawac

a東北大学、b東京大学、c宇宙航空研究開発機構

aTohoku University, bThe University of Tokyo, cJapan Aerospace Exploration Agency

Abstract

 構造因子 S(q) は物質の基本的な情報の一つである。近年、高輝度放射光を用いて様々な融体の S(q) が求められているが、高温融体に関しては、液体と保持容器の反応の問題が障害となり、測定が行われていない物質が多い。本研究では、静電浮遊溶解装置を用いて Rh 融体(融点 1966℃)のX線散乱測定を行い S(q) を測定した。


Keywords:液体構造、X線回折、ロジウム、静電浮遊法


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背景と研究目的:

 構造因子 S(q) は融体の基本的な物理量の一つである。構造因子は融体の構造を表すばかりでなく、等温圧縮率など、種々の物理量が構造因子と関連付けて議論される。さらに、最近では、計算によって融体の様々な性質を求めることが可能になっており、第一原理計算や MD 計算が広く行われているが、計算の妥当性をチェックするために S(q) が用いられることが多い。

 通常、融体の測定を行うためには試料保持容器が必要となるため、高温融体の測定を行う際には、融体と保持容器の反応を考慮する必要がある。近年、高輝度放射光と浮遊溶融技術を組み合わせたX線回折測定が可能となり、高温融体や過冷却融体の構造因子が測定されている。一方で、2000℃ 近辺の融点を持つ超高温融体に関しては、測定例のないものがあり、例えばRh融体の構造因子はこれまで報告されていない。本研究では、Rh 融体の構造因子測定について報告する。

 

実験:

 BL04B2 へ静電浮遊溶解装置を設置し、Rh 融体のX線散乱実験を行った。静電浮遊法については文献[1,2]を参照されたい。静電浮遊溶法の模式図を図1に、装置内において試料が浮遊している写真を図2に示す。直径 1.5 mm の金属試料が浮遊しており、試料の下側銅電極がグラウンド、上側銅電極に約 -10 ~ -15 kV の電圧が印可されている。試料を 1000℃ 以上に加熱すると熱電子の放出によって試料表面が正に帯電するので、上側銅電極に負電圧を印加する事によって試料を浮遊できる。試料位置は CCD カメラによってモニターされており、PID 制御によって試料位置と電圧を制御し、試料位置を ±0.1 mm 程度の精度で保持する事ができる。試料加熱は半導体レーザ(100 W, 975 nm)によって行い、試料温度は放射温度計を用いて測定する。試料浮遊のために印可している電圧の放電を防ぐために、チャンバー内部は 10-4 Pa 程度の真空に保たれている。

 

                 

                  図1 静電浮遊法の模式図   

 

             

                 図2 静電浮遊させた金属試料

 

 試料は、純度 3N の粉末試料(高純度科学)をアーク溶解によって直径 1.5 mm の球状に成形したものを用いた。入射X線のエネルギーは 114 keV であり、Ge 半導体検出器を用いて 1810 度の Rh 融体の測定を行った。

 

結果:

 得られたX線回折強度に、吸収、偏光、バックグラウンドおよび非弾性散乱の補正を施す事により、1810 度の Rh 融体について取得した構造因子 S(q) を図3に示す。

 

     

                 図3 1810℃ における Rh 融体

 

まとめ:

 静電浮遊溶解装置を BL04B2 へ設置し、Rh 融体のX線回折測定を行った結果、1810 度の Rh 融体に関する S(q) が得られた。今後、Rh 融体に関する計算機シミュレーションの参照データとして利用されることが期待される。

 

謝辞:

 放射光実験に際し、小原真司博士(NIMS)および尾原幸治博士(JASRI)に、また実験データ解析に際し水野章敏博士(函館高専)に多大にご協力頂きました。ここに深謝いたします。

 

参考文献:

[1]: W. K. Rhim et al., Review of Scientific Instruments 64, 2961 (1993).

[2]: P. F. Paradis et al., Materials Science & Engineering R-Reports 76, 1 (2014).

 

 

 

(Received: September 28, 2019; Early edition: February 27, 2020; Accepted: July 6, 2020; Published: August 21, 2020)