SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume7 No.2

SPring-8 Section A: Scientific Research Report

Al基系1/1-立方近似結晶の構造解析および元素置換による構造と物性への影響の研究
Structure Analysis and Investigation of Substitution Effect on Thermoelectric Properties for Al-based 1/1-Cubic Approximants

DOI:10.18957/rr.7.2.188
2015B1836 / BL02B2

石上 貴大, 木村 薫

Takahiro Ishigami, Kaoru Kimura

東京大学 大学院新領域創成科学研究科

Division of Transdisciplinary Sciences, The University of Tokyo

Abstract

 その構造に、起源が不明瞭である極端に少ない個数の Al 原子によって記述されたクラスターを有し、実際の試料と比較して密度等に矛盾点を示す AlCuRu 系 1/1 結晶の構造モデルが、Sugiyama 等によって提案されていた [1]。粉末X線回折スペクトルを利用した Rietveld 解析の手法を用いることにより、この構造モデルの改良を試みた。実験室系データの解析によって、内殻クラスターあたり 8~9 個の原子によって構成される自然に理解される構造単位を有し、実際の試料の密度を再現する実態に近い構造モデルが得られた。その構造の細部には未だ検証すべき部分が残されているが、構築した構造モデルを基として更に洗練することが可能である。更なる構造モデルの洗練、および4元系の AlCuRuMn 系 1/1 立方晶近似結晶の Mn 置換位置を明らかにするために軌道放射光 (SPring-8) での実験を行い、解析を試みたが、意味のある解析はできていない。


キーワード: 熱電変換材料、準結晶、近似結晶、擬ギャップ


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背景と研究目的:

 本研究では AlCuRuMn 系 1/1 立方晶近似結晶の構造と熱電物性の関連性を明らかにすることを目的とした上で、まずは、実際の試料の物性値との間に矛盾点を持つ、Sugiyama 等の AlCuRu 系 1/1 立方晶近似結晶の構造モデル[1]の改良を試みた。そのための手段として、粉末X線回折パターンに基づく Rietveld 解析によって構造モデルの精密化を行った。解析に用いる粉末回折データの取得には実験室系装置、および、より精密な構造モデルを得るための S/N 比が高く、良質な回折データを得るために軌道放射光 (SPring-8) を利用した。

 

実験:

 

 実験はビームライン BL02B2 で行い、測定試料は、(Al58.5Cu31Ru10.5、Al60.25Cu28Ru8.5Mn3.25、Al62Cu25(Ru1-xMnx)(x=0.4375,0.5,0.5635) の粉末を使用した。試料は選択配向の影響を低減するために数 μm 程度の粒径まで粉砕し、内径 0.3 mm のリンデマンガラスキャピラリーに封入した。波長は 0.58 Å を利用した。実験では S/N 比が高く、統計精度の高い粉末回折データを得るために、大型デバイシェラーカメラとイメージングプレートを利用した。予備測定として用意した試料ごとに5 分間の照射を行い試料の選別および saturation time の見積もりを行った。その後、本測定として見積もられた saturation time の 0.8 倍の時間の照射を実行した。本測定では温度因子の寄与の低減のため、液体 N2 の吹き付けにより 100K で測定を行った。

 

結果および考察:

 実験室系データを用いた Rietveld 解析の結果を図1に示す。初期構造モデルとして Sugiyama 等の構造モデルを利用した[1]。パラメーターの精密化の結果、信頼度因子 Rwp = 4.11 が得られており、構造パラメーターを Sugiyama 等のモデルで固定した解析結果と比較してフィッティングの改善が見られている。表1に解析の結果得られた構造パラメーターを示し、図2にその結晶構造、それを構成するクラスターを描写した。解析の過程で図中に示した Al 原子同士 (Al(14)) が非常に接近し、占有率も 0.20 程度と低い値であったため、この2つの原子サイトを1つのサイトとみなし、Al(14) の原子座標 z を 0.5 に固定した。結果として格子の体心位置のクラスターの形状は正12面体類似の構造から図2の菱形12面体類似の構造に変化した。いずれの描像が真であるかは、本解析の枠組みでは定かではなく、精密化するパラメーターが多いほど R 値が低くなりうるが、非線形最小二乗によるフィッティングにおいては可変パラメーターが少ないほど信頼性が高く物理的に意味のある解析結果を与えやすいとされている。また原子変位パラメーター B は占有率等のパラメーターと相関が強く、またすべてのサイトの B を個別な可変パラメーターとして解析を行うと、負の値や異常に大きな値など物理的に意味のないパラメーターを与えるため、同一元素のサイトで同じ B の値となるように条件を課した。ディスオーダーの強い内殻クラスターの B パラメーターは Sugiyama 等の構造モデルの値で固定した。

 

  図1.実験室系データを用いた AlCuRu 系1/1 近似結晶の Rietveld 解析の結果

 

表1.実験室系データによるリファイン後の AlCuRu 系 1/1 近似結晶の結晶構造パラメーター

 

     

図2.実験室系データによるリファイン後の AlCuRu 系 1/1 近似結晶の構造モデル.

(a) 原点位置,(b) 体心位置,のクラスター

 

 軌道放射光を利用した回折実験の結果得られたデータを用いて、実験室系で構築した三元系 AlCuRu 系 1/1 近似結晶の構造モデルの更なる洗練を試みた。しかし、解析は進行中であり、現時点では物理的に意味のある構造モデルの構築には至っていない。現時点での最も低い R 値を示す Rietveld 解析結果を図3に示す。その R 値は、Rwp = 4.53 と与えられているが、S 値は S = 5.114 である。ここで S 値は RwpRe の比であり、Re はデータの統計精度から予想される有意な R 値を示す。S は解析の妥当性の目安とされており、放射光のデータでは S 値が 1.4~2.0 程度で良好な解析であるとされる。よって図3の解析結果はデータの統計精度に比べて、フィッティングの精度が高くないことが明らかである。放射光で測定したデータには実験室系では観測されなかった不純物のピークが存在し、その不純物が解析の精度を悪化させていると考えられる。また中・ 高角領域の回折強度の再現の精度が悪い。

 

図3.放射光データを利用した AlCuRu 系 1/1 近似結晶の Rietveld 解析の結果

 

今後の課題:

 以上の問題のために現時点では AlCuRu 系 1/1 近似結晶の構造モデルの洗練に至ってないが、問題に対する解決法は提案されている。まず不純物に関しては、そのピーク位置より格子定数の小さい単体金属もしくは2元系合金等の単純な構造であると推測されるため、適切な第2相を考慮した多相解析によって解決が可能である。他方、中・高角領域における強度の不一致は異方性原子変位パラメーター Bij を考慮することによって解決できる可能性がある。通常粉末X線構造解析では異方性の原子変位パラメーターを決定することは困難、さらに言えばほぼ不可能であるとされている。しかし、異方性原子パラメーターは Sugiyama 等のモデルにおいて与えられており、単結晶法においては異方性原子パラメーターを正確に決定することが可能なため、その値の精度は高いと推測される。よって Sugiyama 等のパラメーターを基に異方性原子パラメーターを導入することによって、中・高角領域のフィッティングの精度を改善しうる。

 三元系 AlCuRu 系 1/1 近似結晶の構造モデルの精密化が終われば、Mn 置換試料のデータを解析して、Mn の置換位置を決めることができ、熱電物性の変化と併せて、物性変化の機構を明らかにすることができる可能性がある。

 

参考文献:

[1] K. Sugiyama et al., Journal of Alloys and Compounds 299, 169 (2000).

 

 

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(Received: April 8, 2019; Accepted: July 16, 2019; Published: August 29, 2019)