SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume7 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

ブロックコポリマーの加熱延伸処理によって形成されるグレインサイズ評価
Evaluation of the Grain Size for Heat-stretched Block-copolymer with Ultra-small Sngle X-ray Scattering

DOI:10.18957/rr.7.2.272
2016A1500 / BL19B2

笹川 直樹a, 櫻井 伸一b

Naoki Sasagawaa, Shinichi Sakuraib

a積水化学工業株式会社, b京都工芸繊維大学

aSEKISUI CHEMICAL CO., LTD, bKyoto Institute of Technology

Abstract

 本実験では、新規な異方性材料の開発に向けたブロックコポリマーの構造解析を行った。ブロックコポリマー中ではミクロ相分離と呼ばれるナノスケールの規則構造から、グレインと呼ばれる配向の方位が揃った領域が無数に形成される。しかし、学術的にもグレインサイズの定量評価法が未確立のため、産業応用が進んでいないのが現状である。そこで、極小角X線散乱(USAXS)および小角X線散乱(SAXS)測定による定量評価法の確立と、それを用いたグレインサイズの追跡によるグレイン成長のメカニズム解明を目指した。得られた USAXS パターンには、薄膜試料からの全反射によるストリークが生じた。このストリーク強度の散乱ベクトルの大きさ q 依存性を調べたところ、q = 6.41 μm-1 に明確なピークが観察され、そのピーク位置から球状領域の半径を求めたところ 0.90 μm となり、USAXS 測定によってグレインが捉えられたものと結論された。


Keywords: グレイン、ブロックコポリマー、ミクロ相分離、極小角X線散乱


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背景と研究目的:

 ブロックコポリマー中ではミクロ相分離と呼ばれるナノスケールの規則構造が形成されるが、グレインと呼ばれる配向の方位が揃った領域が無数に形成され、巨視的なスケールではグレインの配向はランダムである。これをより大きなスケールで配向させることで、新規な異方性材料の開発が期待される。例えば、剛性(硬さ)と靭性(強さ)を併せ持った材料の開発である。樹脂は金属と比較して大幅な軽量化が可能であるため、エネルギー効率の観点から様々な分野で注目されている材料である。しかし、剛性(硬さ)と靭性(強さ)がトレードオフの関係にあるため、現在の材料設計では樹脂の応用範囲は限定的である。そこで、ブロックコポリマーの配向制御による上述のトレードオフ解消に向けた材料設計指針を得ることが産業的に重要である。そのためには、グレインの成長メカニズムを正確に解析し、明らかにすることが必要である。しかし、学術的にもグレインサイズの定量評価法が未確立のため、産業応用が進んでいないのが現状である。そこで本研究では、USAXS 測定および SAXS 測定による定量評価法の確立と、それを用いたグレインサイズの追跡によるグレイン成長のメカニズム解明を目指した。

 

実験:

 本実験で用いた試料は、スチレン-エチレンブチレン-スチレン(SEBS)トリブロックコポリマー、スチレン-イソプレン-スチレン(SIS)トリブロックコポリマー、メタクリル酸メチル-アクリル酸ブチル-メタクリル酸メチル(MAM)トリブロックコポリマーである。SEBS 試料のキャラクタリゼーションは数平均分子量(Mn)が 6.7×104、分子量分布の多分散指数(Mw/Mn)が 1.04、ポリスチレン(PS)の体積分率(ϕPS)が 0.084、秩序-無秩序転移温度が 150℃ である[1]。この試料をトルエンに溶解させてポリマー濃度1、5、10 wt%の 溶液を作製し、試料作製に供した。他の2種類の試料についても同様の操作を行なった。なお、SIS 試料、MAM 試料のキャラクタリゼーションは、各々、Mn = 220000、Mw/Mn = 1.01、ϕPS = 0.14 および、Mn = 16500、Mw/Mn = 1.09、ϕPS = 0.20 である。

 USAXS 測定はBL19B2にて、X線エネルギー:15 keV、カメラ長:42 m、露光時間:300 秒の条件で行なった。また、SAXS 測定もBL19B2にて、X線エネルギー:15 keV、カメラ長:1 m、露光時間:10 秒の条件で行なった。はじめに標準試料としてコラーゲンの測定を実施した(図1)[2]。コラーゲンの規則的構造周期(d = 65.3 nm)によって、散乱ベクトルの大きさ q を校正した。

        

図1. コラーゲンの2次元 SAXS パターンと対応する1次元 SAXS プロフィール

 

 延伸処理した試料には、延伸方向、延伸方向と垂直で試料面に対して平行な方向、そして、延伸方向と垂直で試料面に対しても垂直な方向(試料の法線方向)で形成されるグレインに異方性が生じることが予想される。そのため、図2に示すように、3方向からX線を入射して2次元 USAXS ならびに2次元 SAXS 測定を実施した。

          

  図2. 一軸延伸した試料に対する3種類の測定方法を表す模式図

 

結果と考察:

 図3に、用いた2種類の試料(SEBS と MAM)を溶液キャストして得られた膜状試料のエッジ像とスルー像 SAXS 測定結果を示す。なお、キャスト試料のエッジ像とエンド像の区別はないため、エンド測定は行なっていない。両試料とも、エッジ像は縦長のパターンであるのに対して、スルー像は等方的である。これは、溶液キャストの影響で膜厚方向にのみ、ミクロ相分離構造の重心間距離(面間隔)が減少したためである[3]。

            

        図3. キャスト試料に対する2次元 SAXS パターン

 

 図3の結果からは、モルホロジーが判定できないため、熱処理を施した。その結果を図4に示した。SEBS 試料を 140℃ で10時間熱処理した試料のエッジ像では、回折ピークがスポット化している。また、スルー像は回折ピークがシャープになっており、高次の回折ピークが現れている。これらの高次にわたる回折ピークが出現している位置(散乱ベクトルの大きさ q [= (4π/λ) sin (θ/2); λ はX線の波長で θ は散乱角]の相対関係)は、1 : √2 : √3 で表すことができることがわかった(図5)。MAM試料やSIS試料でも同様な現象が確認され、特に、エッジ像では同じ方位角にスポットが出現しているとともに、スルー像でも明確に高次の回折ピークが確認されている。つまり、全ての試料中に形成されたミクロ相分離構造のモルホロジーは球状であることを示している。

         

          図4. 熱処理試料に対する2次元 SAXS パターン

               

    図5. SEBS 試料のスルー像の円環平均により得られた1次元 SAXS プロフィール

 

 そこで、熱処理した SEBS 薄膜について、水平方向からX線が入射できるように、サンプルホルダーに試料を固定し、300秒かけて USAXS パターンを測定した。図3に示すように全反射によるストリークが生じるので、このストリーク強度の散乱ベクトルの大きさ q 依存性を調べたところ、q = 6.41 μm-1 に明確なピークが観察された(図6)。ここで、測定対象は未延伸の試料なので、以前に櫻井らが報告している[4]ポリウレタンウレアの一軸延伸による破壊過程におけるクレーズには該当しない。USAXS 測定で得られたピーク位置から、球状の物体を仮定[5]して、その半径を求めたところ 0.90 μm となった。また、図5の結果(1次ピークのピーク位置の値 q)から、ミクロ相分離構造の BCC 格子(110)の面間隔は d = 23.8 nm であることが算出される。このため半径が 0.90 μm の球状の領域内に BCC 格子が 104 個程度納まっていることを示唆される。つまり、そのような領域はグレインであることがと推測される。現状の結果だけでは、確定的な議論には至らないが、作製条件の異なる試料の解析と、原子間力顕微鏡や偏光顕微鏡を用いた多角的な評価を進めることで、USAXS 測定によるグレインサイズ評価の指針が得られると考えられる。

               

          図6. 熱処理した SEBS 試料の USAXS プロフィール

 

 SAXS 測定と原子間力顕微鏡観察によるグレインの定量評価の研究が進展し、SEBS 試料中に形成されるグレインを定量評価した結果、140℃ で10時間熱処理した試料には、直径 3~4μm 程度の大きさのグレインが形成されていることが結論されている[1]。したがって、本研究で得られた上述の成果(グレインの半径が 0.90 μm 程度であること)は、定量的に支持されたと言える。

 

今後の課題:

 一軸延伸した測定結果については、定量的な結果が得られなかった。延伸と平行方向に細長く伸びたような異方的形状のグレインへと変化することが予想される。すなわち、延伸固定状態で2次元 USAXS パターンを測定すると、延伸と平行な方向の q ベクトル方向と、延伸と垂直な方向の q ベクトル方向には、異なる位置にピークが現れるものと予想される。しかしながら、一軸延伸すると試料の厚みが減少するため、異方的な2次元 USAXS 測定を長時間行なわない限り延伸と平行、ならびに垂直な方向のピークを明確に捉えることができないことが判明し、今後の課題となった。

 

参考文献:

[1] R. A. H. Bayomi et al., Polym. J., 50, 1029-1042 (2018).

[2] H. Ohnogi , S. Sasaki, S. Sakurai, Macromol. Symp., 366, 35–41 (2016).

[3] S. Sakurai et al., Macromolecules, 26, 485-491 (1993).

[4] S. Sakurai et al., Polymer, 50, 1566-1576 (2009).

[5] S. Sakurai et al., Macromolecules, 26, 5796-5802 (1993).

 

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(Received: August 2, 2018; Early edition: May 9, 2019; Accepted: July 16, 2019; Published: August 29, 2019)