SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume7 No.2

SPring-8 Section A: Scientific Research Report

X線吸収微細構造法を用いた窒化物系混晶半導体 Al0.82In0.18N における In 原子近傍の局所構造解析
Analysis on Local Structure around In Atoms in Al0.82In0.18N Alloy by X-ray Absorption Fine Structure Measurements

DOI:10.18957/rr.7.2.209
2016B1161 / BL01B1

宮嶋 孝夫a, 清木 良麻a, 小森 大資a, 伊奈 稔哲b, 池山 和希a, 竹内 哲也a

Takao Miyajimaa, Ryoma Seikia, Daisuke Komoria, Toshiaki Inab, Kazuki Ikeyamaa, Tetsuya Takeuchia

a名城大学理工学部, b(公財)高輝度光科学研究センター

aMeijo University, bJASRI

Abstract

 窒化物系面発光レーザの導電性分布ブラック反射鏡材料として期待されている窒化物系混晶半導体 Al0.82In0.18N 中の In 原子近傍の局所構造を、X線吸収微細構造法により解析した。その結果、Al0.82In0.18N を構成する In-N と Al-N のボンド長が 14% も異なることで相分離を起こし易いにもかかわらず、In 原子は理想的な窒化物半導体における III 族 Ga 原子を置換していることが分かった。


Keywords: 窒化物系半導体、面発光レーザ、導電性分布ブラック反射鏡、相分離


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背景と研究目的:

 窒化物系面発光レーザ(VCSEL)は自動車のヘッドライトやヘッドマウントディスプレイの光源として期待され、既に室温連続発振が報告されている[1]。しかしながら、効率的なキャリア注入と光閉じ込めを同時に可能にする導電性分布ブラック反射鏡(DBR)の実現が難しく、その実用化を阻んでいる要因の1つとなっている。最近、竹内らは、n 型 Al0.82In0.18N:Si/GaN を導電性 DBR として採用した窒化物系 VCSEL の室温連続発振に成功した[2]。原理的に、Al0.82In0.18N 混晶半導体は GaN と格子整合するとともに、GaN よりもバンドギャップエネルギーが大きい(屈折率が小さい)ことから、DBR 材料としては最適なものと考えられてきた。しかしながら、Al0.82In0.18N 混晶半導体を構成する In-N (dIn-N = 2.15 Å [3]) と Al-N (dAl-N = 1.89 Å [4]) のボンド長が 14% も異なるため相分離を起こしやすく、高品質な結晶成長が難しい。前述のデバイス特性の改善を目指した Al1-xInxN の結晶性向上には、In 原子近傍の局所構造に関する情報が有用であるが、我々の知る限りその報告はない。そこで、本研究では、窒化物系 VCSEL に利用した n 型 Al0.82In0.18N:Si における In 原子近傍の局所構造をX線吸収微細構造(XAFS)測定により求めた。

 一般に、AC という2元半導体中の A 元素の一部を B 元素に置換した混晶半導体 A1-xBxC を考えると、その内部の A-C 及び B-C のボンド長は混晶組成に大きくは依存せず、2元半導体 AC 及び BC の本来のボンド長をそれぞれ維持し、2種類のボンド長が異なることによって発生する混晶半導体中の歪場はボンド角が変化することで緩和されていると考えられている[5]。このような特徴は、窒化物系混晶半導体である AlxGa1-xN [4]や Ga1-xInxN [3, 6, 7]でも確認されている。特に、我々は、窒化物半導体レーザの活性層に使っている有機金属気相成長(MOCVD)法で成長した窒化物系混晶半導体 Ga1-xInxN[7]において同様な振る舞いが観測されることを報告している。すなわち、Ga1-xInxN 内の In-N のボンド長は In 組成を変えても大きく変化せず、InN 中のボンド長を維持していることが分かっている。また、分子線エピタキシー(MBE)法で成長した InN の XAFS 測定を行い、InN 中の In 原子近傍の局所構造が理想的な窒化物半導体の構造を有し、In が4配位していることも報告している[3]。

 このような実験結果を元に、ここでは、n 型 Al0.82In0.18N:Si 及び InN 中の In 原子近傍の局所構造を XAFS 法により評価し、上述の特徴が、n 型 Al0.82In0.18N:Si でも観測されるかどうかを確認する。

 本実験で行う重元素である In に関する XAFS 測定には 30 keV 以上の高輝度X線源が必要であり、大型放射光施設であるSPring-8を利用することで初めて可能になった。

 

実験:

 測定試料として、GaN 基板上に GaN(厚さ 3 µm)および GaN に格子整合させた n 型 Al0.82In0.18N:Si(厚さ 85 nm)を有機金属気相成長(MOCVD)法により成長させた。XAFS 測定は、SPring-8のビームラインBL01B1において、蛍光法により行った。X線の入射角を 0.6º に設定し、試料から発生した In の Kα1 及び Kα2 の蛍光X線を19素子半導体検出器(SSD)により測定した。この時、試料からの回折X線と非弾性散乱X線の影響を低減させるために、測定中の試料回転と試料に対する19素子 SSD の配置最適化[8]をそれぞれ行った。また、比較試料として、分子線エピタキシー(MBE)法でサファイア基板上に成長した厚さ 300 nm の InN を用意し、転換電子収量法により XAFS 測定を行った[3]。XAFS 測定結果の解析には、Athena 及び Artemis を用いた。

 

結果および考察:

 n 型 Al0.82In0.18N:Si 及び InN より得られた XAFS スペクトルを図1に示した。どちらの XAFS スペクトルにおいても、In の K 吸収端のエネルギーである 27.9 keV より高エネルギー側に EXAFS (Extended X-ray Absorption Fine Structure) 振動が明瞭に観測された。この EXAFS 振動を抽出し、k3k :波数)の重みづけをした EXAFS 振動の波数依存性を図2に示した。

図1.n 型 Al0.82In0.18N:Si 及び InN より得られたXAFSスペクトル

図2.n 型 Al0.82In0.18N:Si 及び InN より得られた k3k:波数)の重みづけをしたEXAFS振動 k3χ(k )の波数依存性

 

 更に、図2に示した EXAFS 振動の中で、ノイズの少ない k = 3.0-14.0 Å-1 の信号を抽出し、フーリエ変換を行うことで、図3に示した In 原子近傍の動径分布関数が得られた。横軸は In 原子からの距離(r)、縦軸は原子の存在確率に対応している。ここでは、位相シフト補正を行っているために、動径分布関数上でより現実に近い位置にピークが出現する。n 型 Al0.82In0.18N:Si と InN のどちらの動径分布関数においても、r = 2.0 Å 近傍に第一近接原子からの明瞭な信号(ピーク A 及び A’)が観測され、その信号強度もほぼ一致した。また、逆フーリエ変換により、どちらの試料においても、In の第一近接原子として4配位した N 原子が存在し、In-N のボンド長は n 型 Al0.82In0.18N:Si において dIn-N = 2.11 Å、InN において dIn-N = 2.12 Å とほぼ一致した値が求められた。したがって、n 型 Al0.82In0.18N 中の In 原子は、InN 中の In 原子と同様に、理想的な窒化物半導体における III 族原子位置を占有していると結論される。更に、n 型 Al0.82In0.18N のX線回折スペクトルには GaN 及び InN 相は観測されず、相分離が起きていないと考えられる。これらの結果より、窒化物系混晶半導体である Al1-xInxN においても、他の混晶半導体同様に、In-N のボンド長が混晶組成には依存せず、ボンド角により格子緩和が起きていると考えられる。

図3.n 型 Al0.82In0.18N:Si と InN における In 原子近傍の位相シフト補正した動径分布関数 第一近接原子である N 原子からの信号である A と A’ の位置が一致している。B と C は、第二近接原子からの信号であるために一致はしないと考えられる。

 

今後の課題:

 本実験では、窒化物系面発光レーザの DBR に用いる GaN 基板に格子整合させて成長した Al0.82In0.18N 中の In 原子近傍の局所構造を評価したが、In 組成を変えた場合の Al1-xInxN でも同様な解析を行い、どのような振る舞いが起きるかを総合的に報告する準備を進めている。

 

参考文献:

[1] Y. Higuchi et al., Appl. Phys. Express 1, 121102 (2008).

[2] K. Ikeyama et al., Appl. Phys. Express 9, 102101 (2016).

[3] T. Miyajima et al., Phys. Stat. Sol. (b) 234, 801 (2002).

[4] K. E. Miyano et al., Appl. Phys. Lett. 70, 2108 (1997).

[5] J. C. Mikkelsen, Jr., J. B. Boyce, Phy. Rev. Lett. 49, 1412 (1982).

[6] N. J. Jeffs et al., Mater. Res. Soc. Symp. Proc. 512, 519 (1998).

[7] T. Miyajima et al., Phys. Stat. Sol. (b) 228, 45 (2002).

[8] 伊奈稔哲 ほか,第28回日本放射光学会年会,立命館大学,2015年,12PO61.

 

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(Received: September 21, 2018; Early edition: June 27, 2019; Accepted: July 16, 2019; Published: August 29, 2019)