SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume7 No.2

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

マイクロX線回折による強誘電材料の電極/誘電体界面構造と誘電特性の関係解明
Relevance between a Structure of Electrode-Dielectric Interface and a Dielectric Property in the Practical Ferroelectric Materials using Micro X-ray Diffraction

DOI:10.18957/rr.7.2.301
2018A1545 / BL40XU

木村 宏之a, 坂倉 輝俊a, 坪内 明b, 安田 伸広c

Hiroyuki Kimuraa, Terutoshi Sakakuraa, Akira Tsubouchib, Nobuhiro Yasudac

a東北大学多元物質科学研究所, b(株)村田製作所, c(公財)高輝度光科学研究センター

aIMRAM, Tohoku Univ., bMurata Manufacturing Co., Ltd., cJASRI

Abstract

 積層セラミックキャパシタ(MLCC)の実材料について、サブマイクロX線回折を用いて電極/誘電体界面と誘電体素子部分の構造を調べた。サブマイクロ領域の粉末回折パターンのマッピングに成功した。その結果、界面近傍で、格子定数の変化、あるいは BaTiO3 正方晶ドメイン分布に系統的な変化があることを発見した。Ni 電極からの応力を受けて、誘電体素子が歪んでいることを示す結果である。


Keywords: 積層セラミックキャパシタ,マイクロ領域X線回折


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背景と研究目的:

 MLCC は内部電極とそれに挟まれた誘電体素子を1ユニットとして、多積層化された材料である。現在,MLCC 内の誘電体層及び電極層の厚みはそれぞれ 1 μm、0.5 μm 以下が実現されており、更なる薄膜化を目指してメーカーがしのぎを削っている。しかしながら、この薄層化による電極/誘電体界面の構造・電子状態の影響が、誘電特性の向上を妨げる大きな要因となり、一方で誘電体素子の薄膜化や誘電体粒自身の微小化に伴って誘電率が低下することも古くから知られており[1,2]、MLCC チップの小型大容量化が頭打ちになっている現状がある。この現状を打破するためには、1.誘電体厚と内部電極厚、及び 2.電極/誘電体界面の構造と電子状態、について、情報を得て、特性劣化の微視的機構を明らかにし、新たな物質開発・設計に繋げて行く必要がある。しかし、層内や層間の局所領域の構造や歪み、電子状態についての情報が全く得られていないため、実材料の構造において、ナノスケールで何が起こっているのか、その局所構造あるいは局所歪みがどのように物性発現・特性向上、あるいは特性劣化につながっているか、殆ど明らかにされていない。現状では、仮説・検証を繰り返す試行錯誤と、その結果として得られた知見の積み重ねにより、これらのパラメータの最適化が行われている。従って、MLCC の更なる小型化・高性能化を実現するためには、この現状を打破し、微小領域の構造・歪み解明と、それらを生かした構造制御、すなわち “Materials by Design” の確立が極めて重要な鍵を握っている。

 本課題の目的は、MLCC 実材料における誘電体層の内部(グレイン集合体)の構造と、電極/誘電体界面付近の構造について、それらの空間分布をマッピングし、構造が局所的にどのように変化し、また歪みがどのように入っているかを明らかにすることである。

 

実験:

 実験はSPring-8のBL-40XUに設置されたマイクロX線回折計を用いて行われた。試料架台はXYZ方向のサブマイクロオーダーの位置制御が可能なピエゾモーターステージがあり、μm 領域を高い位置再現性で制御可能である。MLCC 実材料は村田製作所から提供され、BaTiO3 誘電体素子部分の厚みが 9、4、3 μm の3種のものが用いられた。Ni 電極の厚みは全て 1 μm である。

 X線エネルギーは 8 keV に固定し、試料位置でのビームサイズを 1 μm、0.7 μm に集光した。図1に示すように、Ni 電極と BaTiO3 誘電体素子部分にビームを当てて、回折パターンを振動写真で取得し、縦方向(Z 方向)と横方向( X 方向)にスキャンして、回折パターンの2次元マッピングを取得した。BaTiO3 の正方晶ドメインによりピークが分裂する 111 回折と、分裂する 002/200、102/201/210、112/211 回折が観測可能な領域を確保するため、散乱角中心を 45° に固定した。2次元高速検出器を用いることで、35° ≤ 2θ ≤ 55° の範囲の回折パターンを同時に観測することができた。1照射点についての振動写真を図2に示す。低角側からそれぞれ 111、002/200、102/201/210、112/211 回折に対応している。

図1. 回折実験のレイアウト図。黄色部分がビームのフットプリント。縦方向(Z 方向)と横方向( X 方向)にビーム照射位置を変えて、回折パターンをマッピングする。

図2. 1照射点についての粉末回折パターン。ビームサイズとグレインサイズが同程度のため、選択配向がきわめて強く出ている。

 

結果および考察:

 図2の回折パターンを見ると、ビームサイズに対して BaTiO3 の結晶グレインサイズが同程度のため、選択配向がかなり強く出ている。そこで回折パターンの位置依存性を比較するため、X 方向にスキャンしたデータを全て足し合わせて平均化し、さらに4本回折線に対して、Z 方向の最大強度で強度を規格化して回折パターンの Z 方向依存性をマッピングした。図3に、112/211 回折の強度の等高線図について 9、4、3 μm の3種の結果を示す。縦軸が Z 方向、横軸が 2θ 方向に対応している。2θ 方向に水平に走っている強度は,Ni 電極からの蛍光X線であり、Ni 電極の位置にそのまま対応していると考えて良い。回折線のピーク位置は実験精度の範囲内でほとんど変化していないように見えるが、Ni 電極付近で系統的にズレているのが見られる。更に BaTiO3 素子厚が 3 μm に減少すると、線幅が増大しているのも分かる。この傾向は、他の 111、002/200、102/201/210 回折においても観測された。図4に素子厚 3 μm の場合の 112/211 回折の Peak Position と線幅 HWHM の Z 方向依存性を示した。点線位置が Ni 電極の位置に対応しているが、電極付近で Peak Position が減少して格子定数が長くなっていると同時に、線幅が増大している。これは、電極からの応力により BaTiO3 の構造が歪みを受けていることを示唆している。定量解析はこれから行う予定であるが、電極付近で素子の構造が変化していることが分かった。

図3. 112/211 回折の強度マッピング。

図4. 112/211 回折の Peak Position とHWHMのZ方向依存性。

 

今後の課題:

 今後は定量解析を進めるとともに、更に高角領域の反射データを取得して、構造変化、或いは歪みの情報について、より精度の高い情報を引き出すことが必要である。更には電場印加時や温度変化など、よりオペランドに近い状態で MLCC 実材料の構造が微視的にどのように変化しているか、その変化と誘電特性の変化がどのように対応しているか、解明につなげて行くことが必要である。

 

参考文献:

[1] G. Arit et al., Journal of Applied Physics, 58, 1619 (1989).

[2] S. K. Streiffer et al., Journal of Applied Physics, 86, 4565 (1999).

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(Received: December 4, 2018; Early edition: February 26, 2019; Accepted: July 16, 2019; Published: August 29, 2019)