SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume7 No.2

SPring-8 Section A: Scientific Research ReportP

高輝度赤外放射光を利用したSiナノワイヤおよびGe/Siコアシェルナノワイヤ中のドーパント不純物の電子状態評価
Characterization of Electronic States of Dopant Atoms in Si Nanowires and Ge/Si Core-Shell Nanowires by Infrared Synchrotron Radiation Beam

DOI:10.18957/rr.7.2.181
2015B1166, 2016A1173 / BL43IR

深田 直樹a, 池本 夕佳b, 森脇 太郎b

Naoki Fukataa, Yuka Ikemotob, Taro Moriwakib

a国立研究開発法人物質・材料研究機構, b(公財)高輝度光科学研究センター

aNIMS, bJASRI

Abstract

 化学気相堆積(CVD)法により成長した Ge/Si コアシェルナノワイヤおよびレーザーアブレーション法で成長した Si ナノワイヤ中の不純物の顕微赤外分光を行った。コアシェルナノワイヤに関しては、Si シェル層に p 型不純物のボロン(B)がドーピングされており、Ge コア領域には不純物がドーピングされていない。B ドープ Si ナノワイヤの場合においては、B の局在振動ピークおよび B の 1s-2p および 1s-3p の電子遷移による吸収を観測できた。通常の赤外分光では観測困難であったが、SPring-8赤外放射光の高輝度性を生かすことで実現できた成果といえる。一方、コアシェルナノワイヤにおいては、ラマン分光により Ge 層へのホールガスの蓄積を観測できていたが、SPring-8の赤外放射光を利用しても観測できなかった。Si シェル層内の B の濃度とコアシェルナノワイヤの密度調整が必要であるといえる。


Keywords: ナノワイヤ、半導体、ヘテロ接合、不純物、赤外吸収分光


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背景と研究目的:

 これまでのトランジスタの性能向上は素子寸法の微細化により推し進められてきたが、従来通りのスケール則に従った微細化による高機能・高集積化には限界が指摘されている。新構造トランジスタでは、半導体のナノワイヤをチャネル材料に応用した縦型立体構造が提案されている[1]。新規トランジスタの実現には、ナノワイヤ中への不純物ドーピングと制御が重要な技術となっている。しかしながら、微小なナノワイヤ中に不純物ドーピングを行うと、ドーピングした不純物自体の散乱により移動度が低下してしまう問題がある。そこで、不純物散乱の問題を解決する構造として、不純物のドーピング領域とキャリアの輸送領域を分離できるコアシェルヘテロ接合をナノワイヤ内部に構築する研究を行っている[2,3]。図1に Ge/Si 界面のエネルギーダイヤグラムを示す。本構造を利用することで、B 不純物のドーピングされていない真性の Ge 側の界面にホールガスの蓄積が生じるため、不純物散乱を抑制できる。ここで重要な点は、シェル層の高い結晶性、B アクセプタ不純物の高い電気的活性化、および Ge/Si の相互拡散抑制である

 これまでに、ラマン分光測定および電子スピン共鳴測定により、Si ナノワイヤ中にドープされたドーパント不純物の結合・電子状態および挙動を明らかにできている[4,5]。今回は、SPring-8 BL43IRビームラインを利用して、CVD法により成長した Ge/Si コアシェルナノワイヤおよびレーザーアブレーション法で成長した Si ナノワイヤ中の不純物の低温顕微赤外分光を行い、ドーパント不純物の状態評価を目指す。

図1. Ge/Si界面の価電子帯上端のエネルギーダイヤグラム.

 

実験:

 本研究ではレーザーアブレーションで成長した Si ナノワイヤを、SiO2 あるいは Si 基板上に膜状で堆積させたものおよびCVD法により成長した Ge/Si コアシェルナノワイヤを用いた。Si ナノワイヤは、金属触媒として Ni およびドーパント不純物として B を含有した Si ターゲット(豊島製作所製:B 含有量 0、1 および 10 at% の3種類を準備)を、Ar ガス(50 ml/min)と H2 ガス(10 ml/min)の混合ガス 500 Torr、1200℃ の雰囲気で、Nd:YAGレーザー(532 nm、10 Hz、1.5 W)によるアブレーションで作製した。Si ナノワイヤの堆積膜厚は通常 1 μm 程度であり、必要に応じてより厚い 8-10 μm 厚のものを作製した。Si ナノワイヤの堆積膜厚はレーザーアブレーションの時間で制御した。1 μm 厚のものは成長時間30分、8-10 μm 厚のものは成長時間4-5時間である。Ge/Si コアシェルナノワイヤに関しては、気相-液相-固相成長により Ge ナノワイヤを GeH4 ガス(10 ml/min)成長温度 320℃、成長時間30分で成長後、ヒーター温度を 700℃ に変更し、SiH4 ガス/B2H6 ガスの混合ガス雰囲気中で p 型 Si シェル層の形成を30秒から2分間で行った。

 Si ナノワイヤおよび Ge/Si コアシェルナノワイヤ中のドーパント不純物の状態を評価するために、低温クライオスタット用いた顕微赤外分光をBL43IRビームラインにて行った。低温クライオスタット用いた理由としては、室温では吸収ピークがブロードになるためであり、測定は液体ヘリウム温度で行った。測定領域は、500-4000 cm-1 の領域であるため、MCT検出器(組成がMercury(水銀)-Cadmium(カドミウム)-Tellurium(テルル)半導体素子からなる検出器)を使用して顕微赤外吸収測定を行った。

 

結果および考察:

 今回の実験では、Ge/Si コアシェルナノワイヤ(図2)中の Si 領域にドーピングされたボロン(B)不純物およびSiナノワイヤ中の B の電子遷移観測に関する実験を行った。B をドーピングした Si ナノワイヤでは、B の 1s-2p および 1s-3p の電子遷移による吸収を 278 cm-1 と 319 cm-1 の位置に観測することができている(図3)。1s-2p および 1s-3p の電子遷移による吸収が観測されたということは、Si ナノワイヤ中で B が Si の置換位置に入り、電気的に活性な状態になることを示している。この Si ナノワイヤは、レーザーアブレーションというナノワイヤを大量合成できる手法で成長を行なった。一方、コアシェルナノワイヤにおいては、構造の精密な制御が必要なため、CVD法で成長を行なった。ナノワイヤ中の不純物の分析においては、ナノワイヤの分析量およびドーピング濃度の調整が重要である。前回の実験では、コアシェルナノワイヤの分析量(成長時間15分)が不足していることが分かった。そこで今回の実験では前回に比べて、コアシェルナノワイヤの分析量を2倍(成長時間30分)にして分析を行なった。しかしながら、吸収配置ではナノワイヤ中の自由キャリア吸収のため測定が困難であった。つまり、ドーピング濃度を低減させる必要が生じた。今回のドーピング濃度に関しては、ラマン分光測定の結果からおおよそ 1019 cm-3 以上になっていると推測される。自由キャリアの吸収の影響を低減させるために、反射配置での低温顕微赤外吸収測定も行なった。その結果、1019 cm-3 以上の濃度でも反射配置では低温顕微赤外分光が可能になることが分かった。ただし、B の電子遷移を観測することはできず、更なる Ge/Si コアシェルナノワイヤの試料調整が必要であることが分かった。

図2. CVD法により成長した Ge/Si コアシェルナノワイヤのTEM像

図3. BドープSiナノワイヤ中の B 電子遷移に関する低温赤外吸収ピーク

 

 本研究により、コアシェルナノワイヤ中の不純物の検出できれば、高移動度・低消費電力な高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor: HEMT)実現のための重要な知見を与えるといえる。また、ナノ構造を利用した新規太陽電池の実現にも繋がる重要な知見が得られるといえる。

 

今後の課題:

ナノワイヤの次世代トランジスタ応用を考えた場合、不純物散乱の影響を解決する必要がある。そこで、Si と Ge のヘテロ接合から形成されるコアシェルナノワイヤ構造の研究を行っている。このコアシェルナノワイヤでは不純物のコア/シェルそれぞれの領域への位置制御ドーピングが重要である。本技術を確立するためには、コアシェルナノワイヤ構造中の不純物分析技術が重要であり、SPring-8のBL43IRビームラインに設置されている顕微赤外吸収分光による不純物局在振動、不純物の電子遷移、自由電子吸収等の観測が一層重要になるといえる。

 

参考文献:

[1] Y. Li, F. Qian, and C. M. Lieber, Mater. Today 9, 18 (2006).

[2] N. Fukata et al., ACS NANO 6, 8887 (2012).

[3] N. Fukata et al., ACS NANO 9, 12182 (2015).

[4] N. Fukata, Adv. Mater. 21, 2829 (2009).

[5] N. Fukata et al., NANO Lett. 11, 651 (2011).

 

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(Received: December 18, 2018; Early edition: May 9, 2019; Accepted: July 16, 2019; Published: August 29, 2019)