SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume7 No.1

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

シリア・土器新石器時代出土の青色ビーズにおける 人類最初の人造青色着色技術の解明
Structural and Chemical Characterization of the First Artificial Blue Beads in the Neolithic Site in Syria

DOI:10.189567/rr.7.1.44
2012B1853 / BL14B2

谷口 陽子a, 沼子 千弥b, 島津 美子c,北原 圭祐b

 

Yoko Taniguchi a, Chiya Numako b, Yoshiko Shimadzu c, Keisuke Kitahara b

a筑波大学, b千葉大学, c国立歴史民俗博物館

a University of Tsukuba, b Chiba University, c National Museum of Japanese History

Abstract

 テル・エル・ケルク遺跡から出土した青色ビーズを対象に、その青の発色機構を明らかにすることを試みている。先行研究により、ビーズの基材は生物由来のフルオロアパタイトであり、青色の発色には Mn が関与している報告があった。マトリクスの状態がやや異なる青色ビーズと、ミタータル遺跡(インド)出土の青色の骨について非破壊で Mn K-XAFS スペクトルを蛍光モードで測定し、さまざまな価数の Mn 標準試料と比較したところ、これら青色の考古試料が共通して5価から6価のマンガンを含むことがわかった。また Mn と P の置換が進んでいると考えられるマストドンの牙化石を加熱して Mn の価数を高めようと試みたがこちらは成功しなかったこともわかった。


Keywords: 土器新石器、ビーズ、青色、Mn5+、アパタイト、XAFS


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背景と研究目的:/

 シリア北西部のテル・エル・ケルク遺跡から出土しているビーズの中に、表面が青色で内部が白色の一群が存在する。これらのビーズは、土器新石器時代中葉から後葉の Rouj 2c、2d期(6500~5800calBC)の層に限定されて出土し、ほとんどが覆土出土であるものの、中には住居址の覆土から出土した例(SB02)や、乳児の埋葬人骨に伴って副葬品として出土した例もある。後者は100点以上の蛇紋岩製等のビーズとともに5点ほどの青色ビーズが出土したものである。このような青色ビーズは、土器新石器時代および中石器時代の墓の副葬品などとして北シリアやトルコを中心に少しずつではあるが識別されるケーズが増えている。ある特定のビーズ製作の拠点で製作されて、交易によって周辺各地に搬入されたものと考えられている。

 これらのビーズは、青水色の外見からトルコ石製として分類されてきたが、内部が白色であることから、筆者らは他の素材ではないかという疑問をもち、これまで青色ビーズに対して、蛍光X線、粉末X線回折、FTIR、可視分光スペクトルの測定、断面のSEM観察等を行ってきた。その結果、青色ビーズは歯牙などの生物由来のテクスチャを示すフルオロアパタイトあるいはハイドロキシアパタイトの基材に着色を施したものであると考えた。これらは、基材を成形加工・穿孔した後になんらかの方法を用いて着色されたと考えられ、トルコ石に類似した青緑色の発色とガラスのような光沢が特徴的である。青色の着色部の中でも色の濃淡や不純物の混入がみられた。これより古い時代の青色・緑色の史物がすべて天然鉱物由来のものであったのに対して、このビーズは、人工的な発色技術を用いて人類が初めて作り出した青色物質として位置づけることができ、考古学的・技術史的に極めて重要なものと考えられる。しかし、どのような材料を用いていかなる方法で青色に着色されたかについては、現在までのところ充分明らかにされていない。

 アパタイト製の青い物質としては、中世ヨーロッパで化石化したマストドンの牙(オドントライト)を用いた工芸品が知られており、PIXE-PIGE、TEM、ANES等を用いたReicheらによる一連の研究により、歯牙が化石化するに伴い、Mn2+ イオンがアパタイトの P5+ のサイトに取り込まれ、およそ 600℃ で焼成することにより Mn5+ へ変化し、発色しているのではないかと推察されている[2,3,4]。しかし、本研究対象の青色ビーズでは、アパタイトのマトリクスが堅牢であるため、数百℃の加熱を用いた発色法は該当しないと考えた。

 BL19B2(課題番号2011A1707)でのX線回折測定により、出土ビーズの青色部分と白色部分の結晶成分が両方ともフルオロアパタイト[Fluorapatite Ca5(PO4)3F]であり、青色発色の有無でマトリクスの結晶成分には差異が認められないことを確認した[5]。次いで、蛍光X線分析の結果、青色ビーズからはマトリクスのリン酸カルシウムのほか共存元素として K、Mg、Al、Si、Ti と Fe、Mn が含まれていた(Mn 濃度は0.13-0.22wt% (as oxide))。青色の発色にはこの Fe と Mn が寄与していると考え[1]、放射線医学総合研究所 静電加速器棟のマイクロPIXE分析装置(PASTA)で二次元元素マッピングを行った(図1、赤の点線は測定範囲(約 1.4×1.1 mm2))。その結果、Fe は青色ビーズの最表層にしか存在しないことから埋没環境によるコンタミネーション、Mn の分布がビーズの青色呈色部と良い相関を示すことから青色の発色要因は Mn であると判断した。そこで本課題では、ビーズの青色部に存在する Mn の化学形の特定と、Reicheらのオドントライトにおける先行研究との比較検討を行うことを目的に、シリアで発掘された青色ビーズ3点(SB1~SB3)に対してBL14B2において Mn K-XAFS 測定を行った。


     図1. 青色ビーズに対するマイクロPIXEを用いた二次元元素マッピング

       (a) 資料の光学顕微鏡写真と測定範囲、(b) Mn、(c) Fe、(d) Cuの二次元分布


測定:

 各試料の Mn K-XAFS 測定はBL14B2に既設のXAFS測定システムを用いて、Io を He 50%+N 2 50% の混合ガスを流したイオンチャンバー、If を19素子SSDで検出する蛍光モードで行った。青色着色部と地の部分を区別して測定を行うため、入射ビームサイズは、良好なS/B、S/Nでスペクトルを得られる蛍光X線強度をチェックしながら可能な限りスリットで小さくすることを試みた。今回の測定では、高さ 50 µm, 幅 500 µm 程度のビームを用いてXAFS測定を行った。

 青色ビーズ(SB1、SB2、SB3)はスコッチテープの粘着面に接着して、そのまま非破壊で測定を行った。標準試料としてEosphorite (Mn(II)Al(PO4)(OH)2·H2O)、Rhodochrosite (Mn(II)CO3)、試薬の Mn(IV)O2, KMn(VII)O4、ホルベイン社製真正マンガニーズブルーを用いた。標準試料はメノウの乳鉢で粉砕し、スコッチテープの粘着面に薄く塗布し、測定試料とした。バルクで散乱の大きな試料の場合には、試料とSSDの検出窓の間にLytle型検出器用の Cr のフィルターを設置して、測定を行った。入射X線を Si(111) 二結晶モノクロメータで 6520-7120 eV の領域をスキャンし、実試料については1試料1時間~1.5時間、標準試料は15分で測定を行った。


結果および考察:

 はじめに、標準試料とテル・エル・ケルク遺跡から出土した青色ビーズ(SYRIA SB1)の Mn K-XANES スペクトルを比較した (図2)。標準試料のうち、EosphoriteとRhodochrositeのマンガンは二価、MnO2 は4価、KMnO4 は七価であり、価数が大きくなるにつれて吸収端が高エネルギー側にシフトし、6540 eV にみられるプレエッジピークの強度が増大する傾向がみられる。このプレエッジピークは、マンガンの価数の上昇やマンガン周りの配位対称性の低下により d 電子密度が低下し、p-d混成軌道中の p 成分が空である確率が高くなるため、ピーク強度が大きくなることが報告されている[6]。


図2.標準試料と真正マンガニーズブル-、テル・エル・ケルク遺跡出土の青色ビーズ(SYRIA SB1)の Mn K-XANES スペクトル


 これに対し、真正マンガニーズブルーとSB1ではプレエッジピークの強度が MnO2 より大きく、KMnO4 よりも小さいという結果を得た。ここで、真正マンガニーズブルーとSB1に含まれるマンガン周りの局所構造が類似していると仮定すると、その配位数は MnO2 の6配位と KMnO4 の4配位の間か、価数が四価と七価の間であることが考えられる。もしReiche達の報告にあるオドントライトと同様に、これらの試料に含まれるマンガンがアパタイトの P5+O4 の4配位サイトに取り込まれ、その後何らかの要因によって酸化を受けたとすると、このスペクトルのプレエッジピーク強度の解釈として妥当である。そこで、真正マンガニーズブルーとSB1に含まれるマンガンの配位数を4、価数を5価または6価として、他の試料のスペクトルの議論を進める。

 また、光学顕微鏡観察により、SB1の表面は、不純物が混在していたり、青色に濃淡があったため、試料の青色部について数カ所でXAFS測定を実施した(図2、SB1 aとSB1 b)。しかし、これらのXANESスペクトルには違いが見られず、SB1の青色部のマンガンは均一に分布していることが示唆された。

 同様に、異なる3つの青色ビーズ試料SB1~SB3の青色部と呈色していない地の部分(白色部)の Mn K-XANES スペクトルを比較した(図3、4)。ビーズ試料間では、青色部・白色部ともにスペクトルにほとんど違いがみられず、このテル・エル・ケルク遺跡から出土した青色ビーズは、同質のものであることがわかった。また、地の部分に含まれるマンガンはプレエッジピークがほとんど観測されず、低価数でマンガン周りの局所構造の対称性が高い化学状態のものであることが示唆されたが、マンガン含有量が低く、良好なXAFSスペクトルを得ることができなかったため、標準試料とのXANESスペクトル比較やEXAFS解析による化学形の推定にまでは至らなかった。


図3.テル・エル・ケルク遺跡出土の3種類の青色ビーズ(SB1、SB2、SB3)の青色部の Mn K-XANES スペクトル


図4.テル・エル・ケルク遺跡出土の3種類の青色ビーズ(SB1、SB2、SB3)の白色部の Mn K-XANES スペクトル


図5.標準試料と真正マンガニーズブル-、テル・エル・ケルク遺跡出土の青色ビーズ(SB3)の Mn K-XANES スペクトル


 ビーズは、ハイドロキシアパタイトを基質とする象牙などを加工して作られているため、青色部にも本来象牙に含まれるマンガン化合物も残っており、青色部のXAFSスペクトルはこれと青色を示すマンガン化合物の和になっていると思われるが、XANESスペクトルのS/N比から、青色成分に対して基質のマンガンはごく微量であると判断し、このスペクトルをマンガンの青色化合物のものであるとみなした。

 青色ビーズの青色マンガン化合物の化学状態について、化学組成・マンガンの酸化状態が既知である標準試料との比較により、考察を行う。


まとめ:

 今回実施したXAFS測定により、様々な形態の青色の考古試料において、いずれもマンガンのスペクトルが 6540 eV に明瞭なプレエッジピークを示すという結果を得ることができた。これから本研究グループが青色ビーズを製造した先史時代の生産技術を明らかにするためには、実験室系で種々の再現実験を実施し、得られた合成品に対して化学的な検証を行うことが必須となる。これまでは、主として色味を根拠に合成実験の結果を判定してきたが、今回の測定によって、もっと信頼性の高い科学的根拠を見いだすことができたことは大きな成果である。

 また、このプレエッジピークのエネルギーや強度からマンガンの d 電子の状態を求め、物質としての特性、特に青色発色のメカニズムと、それを形成する物質の合成法を検討するための情報が得られるのではないかと考えている。本当にこの発色の要因にリンと置換した Mn5+ が関与しているのか、また通常ではあまり例を見ない Mn5+ の化合物がなぜこんなに安定に考古試料に保存されているのか、先史時代にはどのような青色発色技術が施されたのか、これらを解明するための手がかりになることを期待する。


参考文献:

[1] Y. Taniguchi, et al., Studies in Conservation, 47, 175-183, (2002).

[2] I. Reiche, et al., Solid State Science, 2, 625-636, (2000a).

[3] I. Reiche, et al., Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section B, 161-163, 737-742 (2000b).

[4] I. Reiche, et al., American Mineraogist, 86, 1519–1524, (2001).

[5] 谷口陽子 他、平成23年度 重点産業利用課題報告書(2011A), 58-60, 2011A1707.

[6] 山本 孝、X線分析の進歩、38, 47-65 (2007).



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(Received: September 28, 2018; Accepted: December 17, 2018; Published: January 25, 2019)