SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume7 No.1

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

BL14B2における透過配置遠隔自動XAFSシステムの開発
Development of Remote Auto-XAFS (Transmission mode) System at BL14B2

DOI:10.18957/rr.7.1.79
2015A1677 / BL14B2

高垣 昌史a, 井上 大輔a, 古川 行人a, 西尾 光司b, 本間 徹生a

Masafumi Takagaki a, Daisuke Inoue a, Yukito Furukawa a, Kouji Nishio b, Tetsuo Honma a

a (公財)高輝度光科学研究センター, bスプリングエイトサービス

aJASRI, bSPring-8 Service Co., Ltd.

Abstract

 BL14B2において開発を進めている遠隔XAFSシステムを統括制御するプログラム「Auto-XAFS」の開発を行った。光学調整、試料交換等を含む完全自動測定は概ね良好な動作結果を得た。


Keywords: 遠隔実験、XAFS


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背景と目的:

 産業利用推進室では、制御・情報部門との協力体制のもと、BL14B2のXAFS自動化技術を基盤として、インターネット経由でXAFS測定を可能とする「遠隔XAFSシステム」の開発を進めている。産業利用分野においては、人的、資金的、時間的資源上の制約から、ユーザー実験は少数の熟達した測定担当者が行い、実験結果を真に求めている試料提供者が実験に参加できず、その意見が実験進行に反映されづらいケースが少なくない。遠隔XAFSシステムが完成すれば、ネット接続が可能な環境であれば、どこからでも実験に参加することが可能となるため、試料提供者の意見をリアルタイムにフィードバックすることが可能となり、より商品開発に密着した高品質の実験結果の創出が期待される。

 課題番号2014B1900までの実施課題(*1)により、以下の如く、透過配置による遠隔XAFS実験が可能となった。

 

(1) 自動光学調整プログラム「Auto-Optics」による光学調整

(2) 試料自動搬送ロボット「Sample Catcher」による試料交換

(3) カレントアンプ自動調整プログラム「amptune」によるゲイン調整

(4) Quick XAFS測定プログラム「QXAFS」による透過配置測定

(5) 「SPring-8実験データリポジトリシステム」からのデータのダウンロード

 

 本申請では、上記(1)から(4)を統括する自動連続測定プログラム「Auto-XAFS」の開発を行った。Auto-XAFSは、あらかじめ設定した手順リストに従って、最大80試料を連続的に測定する。手順リストには光学調整等も含まれるため、連続測定中、遠隔地のユーザーがするべき操作は、データのダウンロードのみである。Auto-XAFSの完成をもって、透過配置遠隔XAFSシステムは完成となる。

 

方法と結果:

 ウェブブラウザにより、BL-USER-LAN(*2)の外部(OA-LAN)からWRES(*3)にアクセスし、ログイン認証を経てBL14B2のポータルサーバーマシン上のウェブソケットサーバーに接続した。Auto-XAFSをはじめとする全てのサーバープログラムはポータルサーバーマシンで実行され、ウェブソケットサーバー経由でウェブブラウザと通信を行う。手順リストはCSVファイルとして記述され、これをAuto-XAFSにアップロードすることで、調整/測定手順が認識される。図1にCSVファイルの例を示す。上記(1)から(4)の各項目は「タスク」と呼ばれ、CSVファイルの1行が1タスクにあたる。タスクは上の行から順に実行される。コンマで区切られた第1コラムが「タスク名」であり、(1)「optics」がAuto-Optics、(2)「sample」がSample Catcher、(3)「amptune」がamptune、(4)「qxafs」がQXAFSを制御する。第2コラム以降は、各タスクに付随するパラメータ群である。例えばタスクopticsはパラメータとして「edge」と「netplane」を有する。前者は吸収端、後者はモノクロの結晶面である。図1の第1行目のタスクopticsは、Fe-K端、Si(111)のための光学調整を指示している。アップロードされたCSVファイルの内容は、Auto-XAFSのウェブクライアント上に、タスクごとに色分けされてリスト表示される(図2)。タスク処理の進行状況は、リストの左端にアイコン表示される。アイコンの凡例は、図2のリストの上部の通りである。各タスク内の処理状況は、各々の専用ウェブクライアント画面で確認する。

図1. CSVファイルの例

図2. Auto-XAFSウェブクライアントのタスクリスト表示

 

 本課題は2シフト×3回で実施した。第1回目は、Auto-XAFSから各タスクを呼び出す機能を個別にテストした。また、(5)のデータリポジトリがセキュリティ向上を目指して全面的に改修されたのを受けて、QXAFSおよび付随する各サブシステム群との連携動作の確認を行った。第2回目は、CSVファイルのアップロード機能に重点を置いたテストを行った。これは、CSVファイルの安全なアップロード方式を確立するため、ウェブソケットサーバーをはじめとするインフラレベルでの改造を行ったためである。アップロード機能、およびウェブクライアント上でのタスクリストの視覚化を確認し、タスク呼び出しのテストとして、amptuneを実行した。モノクロの動作を伴うカレントアンプ調整が問題なく実行できることを確認した。第3回目は、4つのタスク「optics」「sample」「amptune」「qxafs」を記述したCSVファイルによる、一連の透過XAFS測定の自動動作をテストした。各タスク間の遷移の安定性が確認され、Auto-XAFSとしての動作テストは良好であった。一方、動作途中にカウンターとの通信不良が発生し、本ビームタイム中における原因解明には至らなかった。今後速やかに改修を進める予定である。なお、QXAFSのデータのクオリティーに関しては、課題番号2014A1520[1]の報告を参照されたい。

 

今後の予定:

 Auto-XAFSの完成をもって、透過配置による遠隔XAFSシステムが完成し、先行してユーザー提供を開始する予定である。次段階として、19素子蛍光X線検出器による蛍光配置遠隔XAFSの開発を予定している。

 

(*1) 2013A1180、2013A1827、2013A1896、2013B1532、2014A1520、2014A1891、2014B1900。

(*2) ビームラインが属するSPring-8内サブネットワーク。同じく事務等を行うOA-LANがある。セキュリティ上、OA-LANからBL-USER-LANには直接アクセスできず、この意味でOA-LANとSPring-8外部のネットワークは同等である。

(*3) Wide-area Remote Experiment System (WRES)。本遠隔システムのうち、唯一SPring-8外部に公開されるサーバー。時限付き認証ファイルによるログイン機能を有する。

 

参考文献:

[1] 高垣昌史ら, SPring-8/SACLA利用研究成果集, 6, 93 (2018).

 

ⒸJASRI

 

(Received: September 6, 2018; Early edition: November 28, 2018; Accepted: December 17, 2018; Published: January 25, 2019)