SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume7 No.1

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

リチウムイオン電池のオペランドX線回折計測
In-Operand X-ray Diffraction Measurement of Lithium-Ion Batteries

DOI:10.189567/rr.7.1.73
2015A1671 / BL46XU

平野 辰巳, 高松 大郊, 春名 博史, 本蔵 耕平

Tatsumi Hirano, Daiko Takamatsu, Hiroshi Haruna, Kouhei Honkura

(株)日立製作所

Hitachi, Ltd.

Abstract

 リチウムイオン二次電池の放電曲線解析による正負極利用率の減少と実際の劣化現象との対応を検証することを目的として、充放電サイクル試験後の18650型電池の充電中におけるX線回折を測定した。その結果、オペランドX線回折により、内周部ほど劣化が進行していることが明らかとなった。さらに、オペランドX線回折線の積分強度比から算出した導電ネットワークからの活物質粒子の孤立化率が、放電曲線解析による正負極利用率の減少に相当することを検証した。


Keywords: リチウムイオン電池、オペランド計測、放電曲線解析、劣化、孤立化


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背景と研究目的:

 リチウムイオン二次電池(LIB)は携帯電話などの民生用から車載・蓄電などの産業応用まで幅広く利用されている。特に、エネルギー・環境問題などの社会的要請から、高容量、長寿命、安全、低コストな産業用二次電池の実現に向けて、電池寿命の制御、反応機構を解明する技術開発などが進められている。

 産業用LIB開発に向けて、密封された18650型LIB(18 mm⌀ × 65 mm サイズ)を用いてLIBの長期保存、サイクルによる劣化試験が実施されている。従来、劣化試験後の 18650LIB を解体して、劣化の要因を解明してきた。一方、劣化試験中の 18650LIB の放電曲線から正負極の劣化率や正負極間の容量ずれが解析可能である[1]。正極劣化率は、充放電に寄与しない相への変態、結晶欠陥、カチオンミキシング、金属溶出などの構造変化、負極劣化率は、体積膨張収縮による導電ネットワークからの孤立化、結晶欠陥、非晶質化などの構造変化、容量ずれの増加は、正負極表面上の固体電解質膜(SEI)の形成によるものと考えられている。また、保存条件やサイクル条件における正負極の劣化率や正負極間の容量ずれの依存性を考慮することで、放電曲線解析に基づく寿命予測は精度が高くなる[1]。放電曲線の詳細解析はLIB開発に極めて有用な手法であるが、正負極劣化率や容量ずれと実際の劣化現象との対応を検証してみる必要がある。

 そこで、本報告ではサイクル試験後の放電曲線から解析した劣化率と実際の劣化現象との対応の検証、電池内部における劣化分布評価を目的とした。


実験:

 正極材料は LiNiCoMnO2、負極材料は黒鉛である。18650LIB の初期容量は 1.4 Ah で、電圧範囲:3-4.2 V 間を繰返し充放電した300サイクル、1000サイクル後の 18650LIB を評価した。サイクル後の容量維持率は各々 89%、58% であった。

 二端子の電池の容量は、端子間の容量-電圧特性(Q-V特性)と上下限電圧で決定される。端子間のQ-V特性は、正負極のQ-V特性の差分を反映しているため、電池の内部抵抗が無視できるほどの低レート放電によるQ-V曲線を正負極毎の放電Q-V特性に分解することができる。この低レート放電による放電曲線の解析により正負極毎の利用率と正負極間の容量ずれが算出できる[1]。最初に正負極毎に単極の低レート(1/50 C、1 C は1時間で充電もしくは放電する電流に相当)での放電Q-V特性を測定した。次に、 18650LIB の低レート(1/50 C)放電Q-V特性を測定した。正負極利用率と正負極の放電開始位置を変数として、単極でのQ-V特性から 18650LIB のQ-V特性をフィッティングする。その際に、放電曲線と放電微分曲線(dV/dQ)の両者をフィッティングで一致させる。利用率は 18650LIB の総活物質量に対する放電に寄与する有効活物質量の比率となる。容量ずれは正負極の放電開始位置となる。低レート(1/50 C)放電曲線の測定には、東洋システム株式会社製の充放電装置を使用した。

 充電中のオペランドX線回折計測はSPring-8のBL46XUで実施した。エネルギー:72 keV、ビームサイズ:0.5 mm(水平)× 0.2 mm(鉛直)に制限したX線を 18650LIB に照射し、CdTe 検出器で測定した。図1に 18650LIB 断面におけるX線照射領域を示す。中心部から 6 mm(場所①)、3 mm(場所②)の部位からのX線回折をSOC(充電状態):0%、100% および 0.6 C の充電中で測定した。


図1. 18650LIBの断面図


結果および考察:

 サイクル試験による劣化要因を評価するために、300サイクル後、1000サイクル後の 18650LIB の放電曲線を解析した。図2に300サイクル後(a)、1000サイクル後(b)の放電曲線解析の結果を示す。上段がQ-V曲線、下段がQ-dV/dQ曲線である。各図中、 18650LIB の実測値(赤丸)、解析後の正極成分(緑実線)、負極成分(橙実線)、正負極成分から算出したセル成分(青実線)である。300サイクル後のQ-V曲線、Q-dV/dQ曲線において、18650LIB の実測値と解析後セル成分とはよく一致しており、放電曲線解析によりdV/dQおよびVは実測値を良好に再現できていることが確認できる。一方、1000サイクル後のQ-V曲線においては、18650LIB の実測値と解析後セル成分とはよく一致しているが、Q-dV/dQ曲線においては、0.6 Ah 近傍で実測値と解析後セル成分の解離がみられる。これは、1000サイクル後 18650LIB で黒鉛負極の反応が不均一化した影響でdV/dQ曲線がブロード化したためと考えられる。表1に 18650LIB の放電曲線解析の結果を示す。容量ずれ率は、放電開始位置のずれを初期容量で規格化した値である。300サイクル後、1000サイクル後とも正極に比べて負極の利用率の低下、負極の容量ずれ率の増加が顕著で、これらが容量劣化の主要因である。さらに、300サイクル後に比べて1000サイクル後では、負極の容量ずれ率が 19% も増大しており、これが1000サイクル後の容量低下の主要因である。即ち、サイクル試験により黒鉛負極の繰り返し膨張収縮による導電ネットワークからの粒子の孤立化(利用率の減少)と、黒鉛表面のSEI形成(容量ずれ率の増加)により容量が低下したと推測される。


図2. 放電曲線解析。300サイクル後(a)および1000サイクル後(b)。


表1. 18650LIB のサイクル試験結果、放電曲線解析の結果
サイクル数 容積維持率
(%)
正極利用率
(%)
負極利用率
(%)
正極の容量ずれ
(%)
負極の容量ずれ
(%)
300 89 96 67 4 19
1000 58 90 64 2 38

 図3に充電中に測定した負極の{002}回折(G002と略記)、正極の{113}回折(NCM113と略記)の結果を示す。上下段が各々300サイクル、1000サイクル、左側半分が黒鉛G002近傍の各場所(①、②)、右側半分が正極NCM113の各場所(①、②)の充電中(縦軸方向)のX線回折像(横軸回折角)である。300サイクル、場所①のG002は充電とともに LiC12、LiC6 にステージが移行している。充電により黒鉛にLiが挿入され、Li24、Li18 などがG002と LiC12 の間に存在するが連続的に変化するため、それらを LiCx と表記する。また、LiCx はLiが挿入されているためG002とは異なる。場所②では各ステージに移行しないG002が存在する。1000サイクル、場所②では充電中でもG002、LiCx、LiC6 が存在する。サイクル時、Liの挿入脱離により黒鉛は膨張・収縮を繰り返すため、導電ネットワークから黒鉛は孤立化すると考えられる。孤立化した場合、充放電しても変化しないG002、LiCx などが存在する。即ち、充電中でも存在するG002、LiCx、LiC6 は、導電ネットワークからの黒鉛の孤立化を示している。一方、1000サイクル、正極NCM113の充電による回折角の変化は300サイクルに比べて小さくなっており(場所②で顕著)、充電により正極から負極に移動するLi量が減少していることがわかる。この充電に寄与しない失活したLiは負極側に形成されるSEIに取り込まれたLiに相当すると考えられる。以上の結果から、18650LIB の内周部は外周部に比べて黒鉛の孤立化や負極SEI形成によるLiの失活による劣化が顕著であることがわかった。


図3. 充電中の18650LIBのX線回折像。上下段が各々300サイクル、1000サイクル、左側半分が黒鉛 G002 近傍の各場所(①、②)、右側半分が正極 NCM113 の各場所(①、②)のX線回折像。


 充電中のG002近傍、NCM113の回折ピーク位置、回折強度を詳細に調べるために、X線回折プロファイルを図4に示す。図中、赤点が測定データ、青線がVoight関数でフィッティングした結果である。上半分が300サイクル、下半分が1000サイクルで、上下が各々SOC:0%、100% である。左半分が黒鉛G002の各場所(①、②)、右半分が正極NCM113の各場所(①、②)である。SOC:0%→100% で G→LiC12 と LiC6 にステージが移行しているのがわかる(特に300サイクル後の場所①)。1000サイクル後、場所②の●で示したピークはSOC:0%→100% でも存在しており、黒鉛粒子の孤立化による劣化を顕著に示している。一方、正極のNCM113の回折プロファイルは非対称で、▼で示した低角度成分が存在している。この成分は LixNiCoMnO2 のLi量(x)が多い粒子に対応しており、Li量が異なる2成分が存在していることを示している。


図4. 18650LIBのX線回折プロファイル。上半分が300サイクル、下半分が1000サイクル、上下が各々 SOC:0%、100%、左半分が黒鉛 G002 の各場所(①、②)、右半分が正極 NCM113 の各場所(①、②)。


 充電中のX線回折プロファイルを Voght 関数でフィッティングし、各回折線の積分強度比率を算出した。図5にG002、LiCx、LiC12、LiC6 の各比率を示す。(a)は300サイクル、場所①、(b)は300サイクル、場所②、(c)は1000サイクル、場所①、(d)は1000サイクル、場所②である。横軸はX線回折を測定した充電中の容量である。300サイクル後の場所①(図5 (a) )では、充電により G→LiCx→LiC12→LiC6 に順次ステージが移行しているのがわかる。一方、300サイクル後の場所②(図5 (b) )では、充電による G→LiCx→LiC12→LiC6 へのステージ移行量が場所①に比べて少ない。また、充電中の未反応のG002の比率は場所①、②で 11% から 53% に増加している。これらは、G002の孤立化や充電で移動する Li+ 量の低下(負極SEI形成によるLiの失活)によると考えられる。1000サイクル後の場所①(図5 (c) )では、充電により G→LiCx→LiC12 までステージが移行している。LiC6 までステージが移行しないのは、負極SEI形成によるLiの失活により負極に移動する Li+ 量が減少したためである。一方、1000サイクル後の場所②(図5 (d) )では、充電により G→LiCx→LiC12 までステージが移行するものの、LiC12 の比率は場所①に比べて少なかった(81%→27%)。更に、LiCx、LiC6 は充電中に常時存在する成分が存在する。また、G002の充電中の比率は場所①、②で 14% から 35% に増加していた。これらは、G002、LiCx、LiC12、LiC6 の孤立化や充電で移動する Li+ 量の低下(負極SEI形成による Li+ の失活)によると考えられる。


図5. G002、LiCx、LiC12、LiC6 の各比率。(a):300サイクル、場所①、(b):300サイクル、場所②、(c):1000サイクル、場所①、(d):1000サイクル、場所②


 以上の結果から、18650LIB の内周部は外周部に比べて黒鉛の孤立化や負極SEI形成によるLiの失活による劣化が顕著であることがわかった。これは、内周部が外周部に比べて放熱量が小さく、サイクルにより温度が上昇することに起因すると推測される。一方、放電曲線解析はLIB全体の平均であるため劣化の分布までは解析できない。即ち、その場X線回折により内周部ほど劣化が進行していることが明らかとなった。

 更に、負極の劣化率は充放電に寄与しないG002、LiCx、LiC12、LiC6 の各成分の比率の総和と考えることができる。そこで、上記で説明したX線回折の積分強度比率の結果から、下記に従って負極の劣化率を算出した。

  (1):放電状態であるSOC:0% におけるLiCx、LiC12、LiC6 の積分強度比率の総和(各成分の孤立化

      に相当)

  (2):充電中のG002の積分強度比率(充電に寄与しない孤立化した黒鉛粒子に相当)

  X線回折による負極の劣化率:(1)+(2)

 正極のX線回折プロファイル(図4参照)は低角度側にテールが存在するため、2本の Voigt 関数でフィッティングし、各回折線の面間隔、積分強度比率を算出した。図6に各回折線の面間隔を示す。(a)は300サイクル、場所①、(b)は300サイクル、場所②、(c)は1000サイクル、場所①、(d)は1000サイクル、場所②である。青線が主成分、赤線が強度が低い副成分である。また、1000サイクル、場所①で、充電中に副成分が主成分と重なり分離できなかった。図6の各図において、主成分、副成分の面間隔は充電に伴い減少する。これは、充電による Li+ 脱離のためである。主成分、副成分とも充電により面間隔は変化しているため正極の劣化の兆候は見られない。1000サイクル後の面間隔の変化範囲は300サイクル後に比べて小さい。これは充電で移動する Li+ 量の減少(負極SEI形成によるLiの失活)によるものである。但し、1000サイクル後、場所②(図6 (d) )の副成分の面間隔は充電によりほとんど変化していない。これは、充電により劣化した Li+ が移動しない正極粒子に相当すると考えられる。そこで、1000サイクル後、場所②の副成分のみが劣化しているとした(積分強度比率~劣化率:26%)。即ち、その場X線回折により正極においても内周部ほど劣化が進行していることが明らかとなった。


図6. NCM113 の各成分の面間隔。(a):300サイクル、場所①、(b):300サイクル、場所②、(c):1000サイクル、場所①、(d):1000サイクル、場所②


 18650LIB 中のX線照射位置は図1に示したように①と②であり、18650LIB の劣化率を算出するためには、体積で補正する必要がある。場所①、②の測定位置は中心部から各々 6 mm、3 mm である。中心から、その中間の 4.5 mm までの領域を場所②が、それ以外の領域を場所①が代表とすると、その体積は各々 25%、75% 程度と概算できる。この体積で補正した正負極の劣化率を表2にまとめた。併せて放電曲線解析から算出した劣化率(1-利用率)を記載した。放電曲線解析から算出した劣化率はX線回折から算出した劣化率に比べて 3~8% 大きい傾向にあるが、ほぼ一致している。即ち、18650LIB の充電中のオペランドX線回折により、放電曲線解析による利用率の減少(劣化率)を実際の劣化現象(導電ネットワークからの孤立化)として検証できた。


表2. 18650LIB の容量、各手法による正負極の孤立化の解析結果
サイクル数 容積維持率
(%)
放電曲線
正極劣化率
(%)
X線回折
正極劣化率
(%)
放電曲線
負極劣化率
(%)
X線回折
負極劣化率
(%)
300 89 4 0 33 25
1000 58 10 7 36 33

今後の課題:

 本報告では、18650LIB を対象としたが、今後は角型LIBや大型の円筒型LIBへの適用が期待される。


参考文献:

[1] K. Honkura et al., J. Power Sources 196, 10141 (2011) .



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ⒸJASRI


(Received: July 25, 2018; Early edition: October 30, 2018; Accepted: December 17, 2018; Published: January 25, 2019)