SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume7 No.1

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

In situ XAFSによるPd/CZO2 触媒の劣化解析
Degradation Analysis of Pd/CZO2 Catalyst by in situ XAFS

DOI:10.18957/rr.7.1.55
2014B3325, 2015A3325, 2016A3325 / BL08B2

東 遥介, 高橋 照央, 藤本 智成, 末広 省吾

Yosuke Azuma, Teruo Takahashi, Tomonari Fujimoto, Shogo Suehiro

(株)住化分析センター 技術開発センター

Sumika Chemical Analysis Service, Ltd. Technology Innovation Center

Abstract

 Pd/CeZrO2 に代表される環境浄化触媒は、XAFSによる in situ 分析が近年盛んに行われており、価数や局所構造による評価事例が多数報告されている。近年当社は、ラボでガス流通・加熱試験が可能な in situ XRD を導入し、ビームタイムを待つことなく in situ 実験が提供できる環境を整備した。本課題ではSPring-8 BL08B2における in situ XAFS とラボで実施可能な in situ XRD を併用・比較して Pd/CeZrO2 の劣化解析を行うことで、触媒の挙動および in situ XRD の有用性を考察した。


Keywords: 環境浄化触媒,in situ分析


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背景と研究目的:

 国際的に環境意識が高まるなか、環境浄化触媒の高性能化が社会的に要請されている。XAFSは触媒に対して有益な分析手法である。XANESによる価数評価やEXAFSによる局所構造解析事例が多数報告されている[1]。特に、反応環境中の挙動が解析可能な in situ 分析は強力なツールである。一方で、SPring-8をはじめとする各放射光施設のビームタイムは依然として貴重であり、頻繁に利用することは難しく、よりタイムリーに評価可能な環境が望まれている。

 近年当社では、ラボXRD装置で触媒の in situ XRD 分析が可能な環境を構築した。XRDにおいても金属・酸化物のピークから価数・構造に関する知見が得られると期待される。そこで本研究では、代表的な環境浄化触媒である Pd/CeZrO2 触媒の劣化解析を in situ XAFS、XRD により行うことで、当該分析手法の有用性を調査した。

 

実験:

 試料として 3 wt% Pd/Ce0.2Zr0.8O2 を用いた。担持体として用いた Ce0.2Zr0.8O2 はオキシ硝酸ジルコニウム二水和物とヘキサニトラトセリウム(Ⅳ)酸アンモニウムを原料とし、共沈法により Ce:Zr = 2:8 となるよう作製した。そこに、ジニトラジアミンパラジウム(Ⅱ)を含浸法により、Pdが 3 wt% となるよう担持した。作製後、900°C で5時間追加焼成して試料とした。また、上記合成法で得た触媒を水蒸気共存のもと 1000°C で10時間加熱し劣化処理を実施した。

 XAFSはSPring-8 BL08B2にて、分光結晶としてSi(111)を用い、PdのK吸収端を対象として、透過法の専用セル(京和真空製ASPF-20-03)に径 7 mm のペレット状サンプルを導入して測定した。なお、当該セルのデッドボリュームは 1 mL 以下である。XRDはCuKαを線源とするリガク製SmartLabおよび専用の in situ セルを用いて測定を実施した。in situ XRD 用のセルは、13 mm × 20 mm × 0.3 mm (深さ)の溝にサンプルを充填する形状であり、デッドボリュームは約 100 mL である。また、ガスの導入や加熱による試料面の変動を考慮し、測定は平行ビーム法を用いた。

 反応性ガスの組成はHeをバランスガスとして、CO 0.7%、O2 0.75%、NO 0.1%、C3H6 0.04% (リーン条件)および CO 0.7%、O2 0.25%、NO 0.1%、C3H6 0.04% (リッチ条件)とし、流量は合計で 100 mL/min. とした。試料を測定セルに装填後、400°C あるいは 600°C まで昇温した後、1% H2 を 400°C で5分間流入し、試料中のPdを還元させた。その後、反応性ガスをセルに流入させ、十分に時間が経過した後にXAFSおよびXRDを測定した。

 

結果および考察:

 合成後および劣化処理後の4触媒に対して活性試験および、試料に対して一定量のガスをパルス状に繰り返し導入させ、吸着量を評価する CO パルス法、ガス分子の吸着量から試料の比表面積を評価するBET法、TEM、酸化状態の触媒に対し、CO ガスを流入させながら昇温させ、反応を追跡するCO-TPR法によるキャラクタリゼーション[2]を実施した。なお、CO パルス法は本系を室温で実施した場合、担持体への CO 吸着の効果により正確に評価できない可能性があるため[3]、-20°C で評価を行った。

 図1に劣化処理前後の触媒の活性試験の結果を示した。点線部分は C3H6 の転換率が 50% となる温度を示したものであるが、これが示すように劣化処理に伴い C3H6 および CO の酸化反応がより高温で生じることが確認できた。また、リーン条件において青線で示す NO 還元特性が顕著に低下することがわかった。一方で、活性曲線形状に大きな変化は少なく、劣化処理に伴う触媒特性への影響は少ないと考えられる。


図1. 活性試験の結果

 

 CO パルス法およびBETで評価した CO 吸着量と触媒の表面積を表1に示した。合成後に比べ、劣化処理後は CO 吸着量が減少していることが確認できた。これはシンタリングによる Pd 粒径の増加によると考えられる。また、BETの結果からは触媒の比表面積の低下も示唆された。



表1. 各種物性試験の結果
  合成後 劣化処理後
CO吸着量 0.235 cm3/g 0.235 cm3/g
比表面積 18.7 m2/g 4.2 m2/g



 シンタリングの様子を確認するため、TEM測定を行った結果を図2に示した。図2(a)および図2(d)に Ce のL端におけるEELS像を、図2(b)および図2(e)にTEM像を、図2(c)および図2(f)にPdのEDX信号のマッピング像をそれぞれ示した。図2(a)、(b)、(d)、(e)の像からは、特に図2(c)と2(f)を見比べた場合、劣化処理後のTEM像では約 100 nm に肥大化した粒子が高い頻度で観察され、シンタリングが進行している様子が確認できた。


図2. 合成後および劣化処理後の触媒のTEM像

 

 図3にはCO-TPR測定の結果を示した。200°C、350°C、500°C 付近に3つのピークが観測されたが、担持体のみのプロファイルと比較すると、低温側から2つのピークが PdO の還元に由来すると考えられる。いずれのピークも劣化処理触媒のピークが高温側にシフトすることが確認できる。これは、劣化処理に伴い触媒の還元特性が低下していることを示唆している。


図3. CO-TPR 測定結果

 

 いずれの測定においても、水蒸気共存下で加熱処理を行うことで性能的な劣化を生じ、その原因がPd粒子の肥大化や比表面積の低下に起因することが示唆された。

 上記のようにキャラクタリゼーションされた試料に対して、in situ XAFS および in situ XRD 測定を実施した。各条件におけるXANESスペクトルを図4(a)、(b)に示した。400°C においては、合成後触媒のリーン条件において、600°C においては、合成後および劣化処理後のリーン条件において、24.37 keV 付近の吸収ピークが増加しており、酸化パラジウムの成分を含むスペクトルであることが示唆された。


図4. (a) 400°C (b) 600°C における in situ XAFS 測定結果

 

 XRDプロファイルは図5(a)、(b)に示した。また、特に着目している 2θ = 40° 付近の Pd111 ピークの拡大図も併せて示した。特に合成後触媒に関しては、雰囲気や温度の変動に伴い、ピーク強度が変化していることが確認できた。一方で、また、いずれの条件・試料に対しても PdO のピークは観測されなかった。最も強いピークが観測される PdO101 のピークが Ce0.2Zr0.8O2 のピークと重複していることが原因と推察される。


図5. (a) 400°C (b) 600°C における in situ XRD 測定結果

 

 以上の結果を比較・考察するため、各試料・条件における Pd および PdO の比率を次のように算出した。XANESスペクトルでは、還元後の Pd/Ce0.2Zr0.8O2 と標準試料の PdO のスペクトルを足し合わせた際の比率として計算した。一部のフィッティング結果を図6に示したが、いずれの条件でも精度よくフィッティング出来ていることが確認できた。


図6. XANESスペクトルのフィッティング結果

 

 XRDでは,RIR(Reference Intensity Ratio)法を用い、リファレンスの Al2O3 のデータと比較することにより、定量評価を試みた。H2 により還元処理した後および、反応ガスを流した際の Pd111 ピーク強度を算出した。XAFS測定の結果を鑑み、その差分を PdO の生成量と仮定して比率を算出した。金属 Pd のRIR法計算時の分母は、金属 Pd および PdO の積分強度の和とした。また、シェラーの式から結晶子サイズを算出した。これら結果をまとめて表2に示した。

 

表2. XAFSおよびXRDの解析結果

試料名温度 / ℃雰囲気Pd/PdO
(XAFS)Pd/PdO
(XRD)結晶粒子サイズ
(Pd)/ nm合成後 Pd/CZO400リーン0.756 / 0.2440.804 / 0.19617.6同上同上リッチ1.00 / 0.001.00 / 0.0018.3劣化 Pd/CZO同上リーン0.954 / 0.0460.973 / 0.02737.8同上同上リッチ1.00 / 0.001.00 / 0.0034.7合成後 Pd/CZO600リーン0.412 / 0.5880.808 / 0.19221.3同上同上リッチ1.00 / 0.000.743 / 0.26821.2劣化 Pd/CZO同上リーン0.675 / 0.3250.989 / 0.01136.1同上同上リッチ1.00 / 0.000.968 / 0.03233.0



 各試料においてリッチ条件では、Pd は金属 Pd と同じ状態であると算出された。一方、リーン条件では一部 PdO が生成していると考えられる。各試料・条件において、XAFSとXRDから算出される Pd/PdO の増減傾向は概ね一致していることが確認できた。しかし、定量的な一致は確認できなかった。原因として、試料厚みやデッドボリュームの異なるセルで実験を行っており、サンプルの本来置かれている環境が厳密には一致していないことが考えられる。そのため、今回測定対象としたような比較的高濃度に担持されている触媒の場合、ビームタイムの限られるXAFS試験の前に条件を探索する等の利用法が期待される。

 

謝辞:

 Pd/Ce0.2Zr0.8O2 触媒は名古屋工業大学 羽田政明教授から提供頂き、また活性試験も実施して頂きました。厚く御礼申し上げます。

 

参考文献:

[1]例えば,Y. Nagai et al., Catal. Today, 145, 279 (2009). など

[2]菊地英一ら, 新版 新しい触媒化学 198-203

[3]特開2004-320637



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(Received: March 23, 2018; Early edition: October 30, 2018; Accepted: December 17, 2018; Published: January 25, 2019)