SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume7 No.1

SPring-8 Section A: Scientific Research Report

多発肺転移モデルマウスを用いたマイクロビーム放射線治療における抗腫瘍効果の検討
Assessment of Microbeam Radiation Therapy with Lung Metastasis Mouse Model

DOI:10.189567/rr.7.1.27
2014B1497 / BL28B2

椋本 成俊a, 赤坂 浩亮a, 中山 雅央a, 宮脇 大輔a, 佐々木 良平a, 梅谷 啓二b

Naritoshi Mukumotoa, Hiroaki Akasakaa, Masao Nakayamaa, Daisuke Miyawakia, Ryohei Sasakia, Keiji Umetanib

a神戸大学, b(公財)高輝度光科学研究センター

aKobe University, bJASRI

Abstract

 本研究では、通常X線照射(Broad beam irradiation)とすだれ状照射(Slit beam irradiation)の肺転移の抑制および呼吸性移動がある部位への照射精度を検討した。ビーム幅 25 μm、ビーム間隔 200 μm のすだれ状ビームを用いて、肺転移モデルマウスへの照射実験を行い、照射による肺転移の抑制を組織学的評価から行い、マウスの生存率に関しても検討した。


Keywords: 多発肺転移モデル、マイクロビーム放射線治療、すだれ状照射


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背景と研究目的:

 微小平板ビーム放射線療法(MRT: microplanar beam radiation therapy)は放射光のような高い指向性を持つX線をビーム幅数十 µm、ビーム間隔数百 µm のすだれ状の細い平板ビームにして患部に照射する方法であり、ビーム内のピーク線量が1回線量で数百 Gy という極めて高線量を照射しても組織壊死は発生せず、従来のX線治療、粒子線治療では達成できない極めて優れた生物学的特性があることが報告されている。このようなマイクロビームを多方向から組み合わせて照射することにより、腫瘍組織に高線量を集中させ、今まで根治照射が難しいとされてきた腫瘍の放射線治療に有用であると考えられる。本研究では、マイクロスリットビームX線照射における、腫瘍細胞への抗腫瘍効果を多発肺転移モデルマウスを用いた実験系で評価し、マイクロスリットビーム放射線治療の体幹部への応用の一助とする。


実験:

 肺転移モデルマウスの作成は以下の手順で行った。8週齢のDBA/2JclマウスにKLN205細胞を尾静脈注射にて注入した。細胞数は 2.5×106 cells/100µl/匹 とし、各照射線量ごとに5匹のマウスを準備した。SPring-8での照射前に神戸大学の動物用CT装置にて腫瘍の生着を確認し以下の手順にてマイクロビームの照射を行った。14週齢オスのDBA/2Jclマウスを麻酔下で固定し、右肺に、前方からSPring-8共用ビームラインから取り出した放射光X線を照射した(図1)。照射系は以下に示すとおりである。BL28B2の第2光学ハッチに、線量測定用イオンチャンバー、マイクロスリットとこれの位置合わせ機構、ハッチ据え付けのメインゴニオメータの上に載せた実験動物(固定具使用)の順で配置し照射を行った。


図1. 照射範囲の設定図


 ビーム幅 25 μm、ビーム間隔 200 μm、ピーク線量 120 Gy/sec のマイクロビームを創出し、照射時間を変化させ照射を行った。また、ブロード照射は線量率 120 Gy/sec で照射時間を変化させ照射を行った。照射線量はNariyamaらの報告[1]をもとに決定し、ガフクロミックフィルムにて照射時に確認を行った。呼吸性移動を考慮し、ビーム間隔 400 μm のスリット照射に関しても検討した。人道的エンドポイントは3日間で20%以上の体重減少とし、それらがみられた場合安楽死を行った。

 動物実験に関しては公益財団法人高輝度光科学研究センター動物実験委員会および神戸大学楠地区動物実験委員会(承認番号:P140109)にて承認を得て実験を行っている。


結果および考察:

 各照射条件における生存率の結果を図2に示す。生存率の結果ではBroad照射 36 Gy の中央生存期間は20.5日であり、すだれ状照射 120 Gy の19.0日とほぼ差はなかった。しかしながら、組織学的評価(図3)においては、すだれ状照射 120 Gy の右肺の腫瘍は顕著に減少しており、照射していない左肺の腫瘍が生存率に影響した可能性が考えられる。腫瘍の減少率は表1に示すとおりである。


図2. 各照射条件における生存率の評価


図3. HE染色による組織像


表1. 組織学的評価における正常肺面積に対する腫瘍の占拠率


 脳腫瘍での抗腫瘍効果の報告と同様に、より高線量の照射が有用であると考えられる[2][3]。またビーム間隔に関してもビーム間隔が狭いほど高い抗腫瘍効果が得られると考えられるが、正常組織への障害も検討し最適なビーム間隔を決定する必要があると考えられる。

 マイクロスリットX線照射では、極めて大線量の照射が可能であり、約1か月の短期間の経過観察では明らかな放射線肺障害は認められなかった。


今後の課題:

 正常肺への照射による有害事象の検討が必要である。また、両側肺への照射を検討することで生存率に差を見出せる可能性があると思われる。


参考文献:

[1] Nariyama N., et al., Appl. Radiat. Isot., 67, 155–159 (2009)

[2] Dilmanian F. A., et al., PNAS, 103, 9709 (2006)

[3] Slatkin D. N., et al., PNAS, 92, 8783 (1995)


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ⒸJASRI


(Received: March 31, 2018; Early edition: November 28, 2018; Accepted: December 17, 2018; Published: January 25, 2019)