SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume6 No.2

SPring-8 Section A: Scientific Research Report

ビームスプリッター光学素子を利用した オフアクシス型硬X線結像顕微法の開発
Off-Axis-Type Hard-X-ray Imaging Microscopy Using a Beam Splitter

DOI:10.18957/rr.6.2.223
2015A1249 / BL20XU

矢代 航a, 高野 秀和a, 竹内 晃久b

Wataru Yashiroa, Hidekazu Takanoa, Akihira Takeuchib

a東北大学多元物質科学研究所, b(公財)高輝度光科学研究センター

aIMRAM, Tohoku University, bJASRI

Abstract

 ビームスプリッターとミラーを一体化した光学素子を開発し、オフアクシス型のシアリング型硬X線結像顕微法の実現可能性について調べた。ドライエッチング技術により、厚さ約 0.5 μm のビームスプリッターとミラーを同一シリコン基板上に作製した。X線イメージングの実験は 9 keV の単色X線により行った。ビームスプリッターの反射X線と透過X線の強度のバランス、形状精度などの問題から、干渉像を得るには至らなかったが、今後、本研究を進める上での課題と限界が明らかになった。


Keywords: X線イメージング、X線顕微鏡、ビームスプリッタ-


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背景と研究目的:

 硬X線顕微鏡は、不透明な厚い物体の内部を高い空間分解能で観察できるという特長を有しており、これまで物質科学・生命科学の多くの分野で広く用いられてきた。特に近年は、数 nm~数百 nmの空間分解能での観察の需要がますます高まっている。最近のX線結像素子の性能向上により、既に数十 nmの空間分解能が達成されており、さらなる空間分解能の向上が実現できれば、将来強力なツールに発展すると期待される。しかしながら、X線の吸収コントラストを利用する場合には、軽元素で構成される弱吸収物体に対する感度が不十分であるという問題がある。そのため、さらに高い感度が実現できる位相コントラストを利用したいくつかの方法が提案されている。

 我々はそのような方法の一つとして、一枚の位相格子を利用した高感度X線結像顕微鏡を実現した[1,2]。この方法は、従来から広く利用されてきたZernike型X線位相差顕微鏡に比べて、ハローなどのアーティファクトが生じない、強位相物体に対しても定量測定が可能であるなど、数々の特長を有している。また、部分的にコヒーレントなX線の利用も可能で、実験室のノーマルフォーカスX線源を用いても実現できることが既に示されている[3]。しかしながら、回折格子による回折を利用しているため、エネルギーバンド幅の広いX線に対しては、すべてのX線を高効率で利用するのは難しいと考えている。

 そこで本研究では、硬X線用のビームスプリッターを利用したオフアクシス型X線位相差分顕微法を提案した(図1)。この方法は特に広いバンド幅のX線に有効で、Advanced KBミラー[4]を用いた結像光学系などとの組み合わせにより、将来は回折格子型よりも高効率のX線顕微法に発展すると期待された。また、上述の一枚の位相格子を利用したX線結像顕微鏡は、0次、および ±1次回折波が関係する擬似的な二光束干渉計であるため、完全な二光束干渉計に比べ、効率が落ちるという欠点がある[1,2]。本提案は、完全な二光束干渉計であり、効率の改善も期待された。なお、二光束干渉計型のX線結像顕微鏡については、プリズム[5]や、全反射ミラー[6]、あるいは、フレネルゾーンプレート型光学系[7-9]などを用いた先行研究もあるが、本提案は、それらに比べて、空間コヒーレンス長が短くても機能するという利点があると期待された。


実験:

 図1に実験配置を示す。対物レンズ(フレネルゾーンプレート(FZP))の後側焦点面近くにビームスプリッタ-を配置し、反射X線をさらにもう一枚のミラーで反射している。ビームスプリッターとミラーの表面間の距離は数 μm 程度であることが望ましい。ビームスプリッターを透過したX線とミラーを反射したX線の干渉によって、画像検出器上に干渉縞が生じ、干渉計として機能する。この干渉計は一種のシアリング干渉計であり、縞走査法により位相差分像(ツイン像)[2]が得られると期待される。ツイン像のスプリット距離よりも試料が小さい場合には、位相像が得られる(オフアクシスホログラフィと同様)。スプリット距離が大きい場合には、[2]で報告したアダプティブデコンボリューションアルゴリズムから、位相像を再構成できる。


図1.硬X線用ビームスプリッタ-を利用したオフアクシス型X線位相差分顕微法の実験配置(上面図)。


 図2に、本実験のために作製したビームスプリッター+ミラー光学素子のSEM像を示す((a)ビームスプリッター+ミラーを上からみた像、(b)ビームスプリッターエッジ部の拡大像(横からみた像))。両者はドライエッチングにより同じシリコン基板上に作製された。ビームスプリッターについては、厚さ約 0.5 μm、高さ約 40 μm の極薄ブレードの作製に成功した。


図2.作製した一体型ビームスプリッター+ミラー素子のSEM像。(a)全体像(上からみた画像)。(b)約 0.5 μm 厚ビームスプリッターのエッジ部の拡大像(横からみた像)。


結果および考察:

 今回の実験は光学素子(ビームスプリッタ-+ミラー)のデキ(薄さ、傾き制御、表面の平坦性)が結果に大きく影響すると予想された。実際、9 keV の単色放射光を用いて評価した結果、図3のように、ビームスプリッター、ミラーそれぞれからの全反射ビームを撮影することはできたが、反射X線と透過X線の強度バランス、形状精度などの問題により、干渉像を得るには至らなかった。


図3.X線画像検出器で撮影されたビームスプリッター、ミラーそれぞれからの全反射X線ビーム(スケールバー:100 μm)。


今後の課題:

 ビームスプリッターについては、反射ビームと透過ビームの強度バランスを考慮すると、さらに薄いことが望ましい。厚さ 0.5 μm よりもさらに薄くする必要性については認識していたが、今回はまずは現状の技術で可能な厚さで作製した。また、光学素子の設計を再度検討し、高エネルギーのX線を用いることにより、透過X線強度を大きくして実験を行うことも考えられるが、全反射の臨界角が小さくなるため、視野を大きくするために、光学素子を長くしなければならないという問題が発生することが予想される。今回の実験で、現状の微細加工技術の限界と、将来の目標が明らかになった。本顕微法は、回折格子干渉計では不可能な、完全な二光束干渉計を実現できる可能性があり、かつ、入射X線のエネルギーバンド幅を広くできる可能性があることから、実現できれば強力なツールになると期待される。今回の実験で得られた知見を活かして、今後の光学素子設計および微細加工方法の改良につなげていきたいと考えている。


参考文献:

[1] W. Yashiro, et al., Phys. Rev. Lett. 103, 180801 (2009).

[2] W. Yashiro, et al., Phys. Rev. A 82, 043822 (2010).

[3] H. Kuwabara, et al., Appl. Phys. Exp. 4, 062502 (2011).

[4] S. Matsuyama, et al., Opt. Express 20, 10310-10319 (2012).

[5] Y. Suzuki and A. Takeuchi, Rev. Sci. Instrum. 76, 093702 (2005).

[6] Y. Suzuki and A. Takeuchi, Jpn. J. Appl. Phys. 47, 8595–8599 (2008).

[7] T. Koyama, et al., Jpn. J. Appl. Phys. 43, L421–L423 (2004).

[8] N. Watanabe, et al., IPAP Conf. Ser. 7, 372–374 (2006).

[9] T. Koyama, et al., Jpn. J. Appl. Phys. 45, L1159–L1161 (2006).




ⒸJASRI


(Received: May 17, 2018; Accepted: July 3, 2018; Published: August 16, 2018)