SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume6 No.2

SPring-8 Section A: Scientific Research Report

ニセアカシア(Robinia pseudoacacia)のカドミウム蓄積機構
Cadmium Accumulation Mechanism in Robinia pseudoacacia

DOI:10.18957/rr.6.2.212
2014B1723 / BL37XU

若林 昌嘉, 堤 祐司

Masayoshi Wakabayashi, Yuji Tsutsumi

九州大学大学院生物資源環境科学府

Graduate School of Bioresource and Bioenvironmental Sciences, Kyushu University

Abstract

 ニセアカシアは高濃度のCdを地上部に蓄積することができるため、Cd汚染土壌の浄化に有用な植物と言える。加えて木本植物であるニセアカシアは、既往の研究で主に用いられていた草本植物と異なり肥大成長することから、草本植物よりも多量のCdを肥大成長部位に蓄積できる可能性がある。本研究で、BL37XUにおいて蛍光X線分析によりニセアカシアの根におけるCdの局在を分析した結果、Cdが根の肥大成長部位である二次師部および二次木部に存在しており、木本植物の肥大成長に伴うCd吸収量の増加が見込まれた。


Keywords: ファイトレメディエーション、環境修復、重金属汚染、植物浄化


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背景と研究目的:

 植物を用いて環境浄化を行うファイトレメディエーションは主に重金属を対象物質とした土壌汚染浄化技術である。汚染土壌に植えられた植物が、根から汚染物質を吸収して体内に蓄積する性質を利用することで、環境負荷を抑えて汚染土壌を浄化することができる。

 我々の研究により、ニセアカシア( Robinia Pseudoacacia )は乾燥バイオマス重量当たり 100 μg/dwg 以上と高濃度のCdを地上部に蓄積可能な木本植物であることが明らかとなった[1]。ファイトレメディエーションの既往研究の多くは草本植物を対象としているが、ニセアカシアは木本植物でありバイオマス量が大きくなるため、草本植物と比較して多量のCdを蓄積できる可能性がある。


 一方で、植物体のバイオマス量とCd吸収量の関係は明らかとなっていない。特に木本植物は二次成長と呼ばれる肥大成長を行うため、草本植物とは茎や根の組織構造が大きく異なる。肥大成長が起こる部分は、根では内皮の内側の二次師部や二次木部という組織である。Cdを高濃度で蓄積する草本植物である Thlaspi caerulescens では、Cdを根の皮層や内皮に蓄積することによって中心柱への侵入を防ぎ、地上部への輸送を妨げる機構が確認されている[2]。木本植物であるニセアカシアでも同様の機構が存在する可能性はあるが、内皮内側の二次師部や二次木部にCdの蓄積が確認された場合は、肥大成長部位にCdが蓄積されることを意味しており、草本植物よりも圧倒的に多量のCdを吸収できることが期待される。

 我々はこれまでにSEM-EDSを用いて根におけるCd局在の観察を試みたが、元素の励起効率が悪いため満足にCdが検出されなかった[2]。また、SEM-EDSでの観察では、試料を乾燥状態で測定する必要があるため植物試料に脱水やアルコール置換を施す必要があり、分析可能な試料の組織形状を実際に生育している植物と同様に保つことも難しかった。

 そこで本研究では、放射光マイクロビーム蛍光X線分析(SR-µ-XRF)によりCdを効率的に励起し、根における二次元分布を測定することを試みた。また、植物の凍結状態を維持しながら分析を行うことにより、生きた状態に近い試料のXRF分析を試みた。本研究では、これらの分析を通じ、木本植物特有の組織へのCd蓄積の有無を確認し、将来的な木本植物のファイトレメディエーション利用の可能性を探ることを目的とした。


実験:

 ニセアカシア種子を 1/2 MS 培地で2週間、土壌で6週間の前培養後、Cdを 300 ppm 含む土壌に植栽しさらに6週間栽培した。栽培後に根を液体窒素で凍結させ、根の根端部から 20 µm 厚の切片を作成した。作成した切片を凍結保存したものを凍結サンプルとし、さらに、凍結サンプルを一晩凍結乾燥させた試料を凍結乾燥サンプルとした。凍結サンプルは、植物が生きている状態に近い状態を維持できることから、生存時のCd局在の把握に適していると考えられた。

 これらのサンプルを厚さ 2.5 µm のマイラー膜で封入保持し、中央にビーム通過用の穴を空けたアクリル板に貼り付けたうえで、BL37XU装置にセットした。凍結サンプルは融解を防ぐため窒素ガスを吹き付けながら測定し、凍結乾燥サンプルは常温で測定した。サンプルの分析範囲は縦 100 µm × 横 2.5~3.0 mm とし、根の両端が収まり、かつ中心柱を含むように設定した。


結果および考察:

 凍結乾燥サンプルのCd分布と顕微鏡観察写真と重ね合わせた様子を図1に示す。図1より、表皮に高濃度のCd蓄積が確認された。また、内皮を境にして中心柱と皮相のCd濃度を比較した結果、内皮の内側の中心柱においてCdの蓄積が観察された。

 中心柱は木本植物の肥大成長箇所であり、成長に伴い二次師部や二次木部を形成する組織である。これより、木本植物であるニセアカシアの肥大成長に伴ってCd吸収量が増加することが見込まれた。また、根の表皮にCdが蓄積しており、その蓄積量は内側の部分と比較して圧倒的に多いことが確認された。

 一方で、凍結サンプルではCdが試料全体にほぼ均一に分布し、極端な局在は観察されなかった。両試料におけるCdの分布観察結果が異なったことについての原因は明らかではないが、凍結サンプルの運搬やハンドリングにおける短時間の融解と再凍結が繰り返され、Cdの拡散が生じたかもしれない。


図1. ニセアカシア根におけるCd分布と組織観察像


今後の課題:

 凍結サンプルにおいてCdの局在は確認されず、生きた状態に近い試料を観察するための、試料調整ならびにハンドリング方法を確立することが今後の重要課題として示された。

 また、他のビームライン施設(九州大学シンクロトロン光利用研究センター)を利用した我々の実験でCdは硫黄原子と結合していることが強く示唆されたことから、凍結乾燥サンプルにおける表皮のCdはCd-Sの状態で存在していると推測された。Cdと結合した硫黄原子の存在形態としてファイトケラチンやグルタチオンが考えられたが、詳細は明らかとなっておらず、今後の解明が望まれる。


参考文献:

[1] Y. Kawaguchi「緑化樹種ニセアカシアの重金属蓄積能の解析」九州大学農学部卒業論文 (2009)

[2] M. Wójcik. “Cadmium tolerance in Thlaspi caerulescens: II. Localization of cadmium in Thlaspi caerulescens.” (2005)

[3] T. Hamaguchi「ニセアカシアのカドミウム蓄積機構」九州大学生物資源環境科学府修士論文 (2012)



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(Received: March 30, 2018; Accepted: July 3, 2018; Published: August 16, 2018 )