SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume3 No.1

SPring-8 Section B: Industrial Application Report

固体酸化物型燃料電池用セラミックス(La, Sr)(Ti, Fe)O3-δの酸化還元雰囲気下の

XAFS解析
XAFS Analysis in Air and Reducing Atmosphere of (La, Sr)(Ti, Fe)O3-δ Ceramics for SOFC

DOI:10.18957/rr.3.1.31
2013A1814 / BL14B2

犬飼 浩之, 岩井 広幸, 高橋 洋祐

Koji Inukai, Hiroyuki Iwai, Yosuke Takahashi

(株)ノリタケカンパニーリミテド

Noritake Co., Limited


Abstract

 固体酸化物形燃料電池(SOFC)に用いるLaSrTiFeO3-δ系材料について、酸化雰囲気と還元雰囲気での材料挙動をXAFSで解析した。260°C以上で、Fe K-edgeのエネルギーシフト量が酸化雰囲気と還元雰囲気で顕著に異なることが分かった。Fe K-edgeにおけるXANESスペクトルから得られるエネルギーシフト量と、熱膨張率との間には比例関係があり、両者に強い相関性があることが示唆された。Fe系ペロブスカイトの熱膨張挙動は酸化雰囲気と還元雰囲気で、Fe元素に強く依存することがわかった。


キーワード: SOFC、ペロブスカイト型酸化物、還元膨張


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背景と研究目的:

 省エネルギー化、二酸化炭素排出抑制を背景に、高効率な固体酸化物形燃料電池(SOFC)の実用化要望が増してきている。また、従来の大規模発電所では実現できない中規模分散型電源が、災害リスク対策の観点からも望まれている。SOFCは、実用化が進んでおり、2015年ごろには普及される予定である。我々は、SOFCの心臓部となる酸素イオン伝導材料及び酸素イオン伝導モジュールの実用化研究を進めてきている。環境・エネルギー分野において、これらの重要性が増してきており、国際的なニーズも増してきている。

 SOFCの空気極材料は、高い導電性をもつペロブスカイト型酸化物(ABO3)が多用される。LaSrCoFeO3-δ系ペロブスカイトは、空気極のひとつとして多用されるが、酸素分圧の変化において熱膨張差が大きい(還元膨張)ことが指摘されている[1]。10万時間程度の耐久性確保のためには、作動条件における酸素分圧変化(例えば、電流負荷に伴う界面の酸素イオン授受による膨張や、供給ガスのクロスリーク)に伴う膨張まで考慮した材料及びセル設計が必要である。

 一方で、我々は遷移金属イオンTiをCo代替とした還元膨張が小さいLaSrTiFeO3-δ系ペロブスカイトを開発し、その熱膨張特性を報告してきた[2]。また、還元膨張メカニズム解明のため、放射光を用いて600°Cから800°CのBサイト原子の挙動を解析し、酸化雰囲気と還元雰囲気でTiのXANESスペクトルには変化は起こらないが、FeのXANESスペクトルには酸素欠損に起因して低エネルギー側にシフトすることを示してきた[3]。本研究では、還元雰囲気で膨張が顕著に起こる200°Cから400°Cの温度範囲でin situ XAFS法により測定し、FeのXANESスペクトル変化から、還元膨張との関連を解明することを目的とする。


実験:

 La0.6Sr0.4TixFe1-xO3-δ(LSTF, x = 0.1, 0.3)及びLa0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3-δ(LSCF)を固相法で合成し、ボールミルで粉砕し粉末とした。粉末を適量の窒化ホウ素(BN)と混合し、プレス成形(φ10 mm×0.1mm)して、XAFS測定試料とした。測定試料は、分光結晶にはSi(111)を用いて、透過法によりFe K-edge in-situ XAFS測定を、酸化雰囲気(O2 21% + N2 79%、100 mL/min)又は還元雰囲気(H2 100%、100 mL/min)のいずれかで行い、XAFSスペクトルを得た。測定温度は、室温、100°C及び200°Cから400°C までは20°C間隔とした。昇温速度は、室温から200°Cまで10°C/min、200°C以上では、20°Cを3 minで上昇させた。XAFS測定時には4 minの保持時間を設けた。XAFSスペクトルの解析にはAthena (version 0.8.056)を用いた。吸収端(E0)は、normalized absorptionが0.5となるときのエネルギーとして定義し、またエネルギーシフト量(ΔE0)は、各雰囲気における室温時のE0の値から対象温度を差し引いて算出した(ΔE0 = E0 (室温測定)-E0 (対象温度))。

 熱膨張測定のために、LSTF及びLSCF粉末をプレス成形(20 mm×4 mm×4 mm)し、LSTFは1200°C、LSCFは1100°Cで1時間焼成し測定試料を作製した。酸化雰囲気と還元雰囲気で10°C/minの昇温速度で、室温から400°Cまで測定を行った。還元雰囲気にはH2ガスを使用し、200 mL/minの流速で測定装置に導入した。


結果および考察:

 図1にLa0.6Sr0.4Ti0.1Fe0.9O3-δ(LSTF(x = 0.1))還元雰囲気でのFe K-edgeにおけるXANESスペクトルを示す。温度の上昇とともに吸収端(E0)が低エネルギー側にシフトした。この現象は、課題番号2010A1855で報告したLa0.6Sr0.4Ti0.1Fe0.9O3-δの還元雰囲気下600°Cから800°Cの場合と同じ傾向となった[3]。室温からの温度上昇において200°Cからエネルギーシフト量が観察される。

 図2にLSTF(x = 0.1)の酸化雰囲気と還元雰囲気の400°CにおけるFe K-edge EXAFSスペクトルk2 × χ(k)を示す。図3にLSTF(x = 0.1)の酸化雰囲気と還元雰囲気の各温度におけるFe K-edge EXAFSスペクトルのフーリエ変換結果を示す。k2の重みづけをし、フーリエ変換の範囲は2−13 Å-1とした。1.5 Å近傍の第1配位圏のピークは鉄原子(Fe)と酸素原子(O)の結合に相当する。酸化雰囲気で温度上昇させると、ピーク最大値が徐々に短距離側にシフトする。一方、還元雰囲気では室温から300°C付近までピークは短距離側にシフトするが、その後、温度上昇に伴い長距離側にシフトする傾向を示す。これは酸化雰囲気と還元雰囲気でFe-O結合距離で変化の仕方が異なっており、還元雰囲気では、結合距離が広がる傾向にあることが示唆される。

 図4に、LSCF、LSTF(x = 0.1, 0.3)のエネルギーシフト量(ΔE0)の温度依存性を示す。図4(a)には酸化雰囲気での依存性を示しており、温度の上昇とともに比例的で増加し、どの材料も同程度であった。一方、(b)には還元雰囲気での依存性を示しており、酸化雰囲気と比べ260°C以上で顕著にエネルギーシフト量が増加した。LSTFはLSCFに比べてその変化は小さく、またLSTFではTi量が多くなるとエネルギーシフトの変化量が減少した。

 図5にFe K-edgeにおけるXANESスペクトルから算出したエネルギーシフト量と熱膨張率(ΔL/L)との相関を示す。両者には比例関係があり、吸収端のエネルギーシフト量と熱膨張率の間に相関があることが示唆された。また、Bサイト元素がCoとTiと異なっても同じ直線上にプロットされることから、Fe系ペロブスカイトの熱膨張挙動は酸化雰囲気と還元雰囲気で、Fe元素に強く依存することがわかった。本試験から、La0.6Sr0.4TixFe1-xO3-δ系で還元膨張が小さくなるのは、Tiの添加によって、Fe K-edgeのエネルギーシフト量が減少することに起因していることが明らかとなった。



図1 La0.6Sr0.4Ti0.1Fe0.9O3-δの還元雰囲気におけるXANESスペクトル (Fe K-edge)

  差込図は7120-7122 eVの範囲の拡大図(温度上昇とともに低エネルギー側にシフト)



図2 La0.6Sr0.4Ti0.1Fe0.9O3-δの酸化雰囲気と還元雰囲気の400°CにおけるFe K-edge EXAFSスペクトルk2 × χ(k)



図3 La0.6Sr0.4Ti0.1Fe0.9O3-δの室温から400°CにおけるFe K-edge EXAFSスペクトルのフーリエ変換

   (a)酸化雰囲気、(b)還元雰囲気



図4 Fe K-edgeのエネルギーシフト量の温度依存性 (a)酸化雰囲気、(b)還元雰囲気



図5 各測定温度におけるFe K-edgeエネルギーのシフト量と熱膨張率との関係


参考文献:

[1] 水崎純一郎, Electrochemistry, 80, 144-149 (2012)

[2] Y. Takahashi, T. Suzuki, A. Kawahara, Y. Ando, M. Hirano, W. Shin, Solid State Ionics, 181,1516-1520, (2010)

[3] 高橋, 西堀, 平成22年度 重点産業利用課題報告書(2010A), 2010A1855



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(Received: September 20, 2013; Early edition: November 28, 2014; Accepted: January 16, 2015; Published: February 10, 2015)