SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume2 No.1

Section B : Industrial Application Report

ファイバ整列基板のCO2レーザ照射耐性強化による融着光ファイバ内部欠陥低減に向けたCT観測に基づく研究
The Study on the Reduction Effect of the Defects in CO2 Laser Fusion Spliced Fiber Based on the Improvement of Laser Damage Durability of the Fiber Alignment Substrate Using Micro-Computed Tomography

DOI:10.18957/rr.2.1.73
2012B1224 / BL47XU

小池 真司a, 柳 秀一a, 高橋 哲夫a, 上杉 健太朗b, 竹内 晃久b, 星野 真人b, 鈴木 芳生b, 渡辺 義夫c

Shinji Koikea, Shuichi Yanagia, Tetsuo Takahashia, Kentaro Uesugib, Akihisa Takeuchib, Masato Hoshinob, Yoshio Suzukib, Yoshio Watanabec

a日本電信電話株式会社 フォトニクス研究所, b(公財)高輝度光科学研究センター, c(独)科学技術振興機構

aNippon Telegraph and Telephone Corporation Photonics Labs., bJASRI, cJST



Abstract

 CO2レーザ照射による光ファイバ融着部の微細構造変化をBL47XU設置のマイクロComputed Tomography(CT)装置により評価している。これまでファイバ整列基板材料のジルコニア含有物の内包が融着界面に観測されてきた。本課題ではファイバ整列V溝基板をCO2レーザの吸収率が小さいシリコン製に置き換えて融着治具を試作し、融着ファイバを観測した。その結果、従来問題であった融着ファイバ界面における内包物による侵食状態が観測されない良好な結果を得た。


キーワード: SPring-8 micro-Computed Tomography (SP-μCT)、レーザ融着ファイバ、基板耐性強化、吸収型μCT


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背景と研究目的:

 益々の低消費電力・高速信号処理の通信装置への要求の高まりとともに、O/E/O変換を必要としない高速・広帯域信号処理用光モジュールの搭載集積が要求された結果[1]、狭わいな空間での光部品間のファイバ接続が望まれている[2]。Fig.1に提案している光ファイバ融着手法を示す。

 2本の光ファイバ同士を突合し、一方の光ファイバを押し込むことでファイバを座屈させた状態で、CO2レーザを両ファイバ界面付近に照射し融着させる。本融着構成によって、従来のアーク放電型融着装置に必要なファイバアライメント制御機構装置が不要となり、ファイバインタフェースの光モジュールが回路基板上に集積搭載時の課題である高密度ファイバ配線下における融着への適用性が考えられる。

 光ファイバの融着部に光ファイバを整列収容するためのジルコニア製V溝基板物質の融着界面への内包を SP-µCT[3,4]によって明らかとした。その内包に伴いその融着部微細構造に変化が起こり、融着品質の劣化を招いていた。本課題では、ジルコニア製基板損傷をディフォーカスレーザ 光の基板照射への影響と考え、CO2レーザ光波長(λ=10.6 µm)で吸収率が小さいシリコン製ファイバ整列V溝基板での融着治具を試作して実現したレーザ融着サンプルの観測を試みた。本提案融着治具を用いたファイバ座屈条件として、ファイバ収容・整列後、座屈を起こすファイバ長さL1を8.5 mm、座屈を発生させるファイバ押し込み量ΔLは10 µmと設定して、ファイバ突合部にCO2レーザ光を3 W照射し融着した。

 Fig.2に従来型ジルコニア製ファイバ整列V溝基板で作製した被試験試料の断面CT観測結果[5]の一例を示す(課題番号2010A1699)。ファイバコア構造も同時測定可能なようにGe吸収端上の11.19 keVの入射X線エネルギーで、SP-µCTにおける投影枚数を3,600枚に増加させ(通常時900枚)、画像のS/N比を向上させた。融着光ファイバの断面CT像とともに、直径5 µmの円内でジルコニウム含有物位置ならびにファイバコア領域で観測された線吸収係数(LAC: Linear absorption coefficient)分布ヒストグラムをFig.2に示している。融着界面の断面CT像が示すようにジルコニウム含有物質は融着界面に内包され、ファイバクラッド部を侵食している様子が分かる。また、その領域のLAC分布はファイバを構成するLAC分布(35〜43 cm-1)と大きく離れ55 cm-1〜70 cm-1の高いLAC分布を示している。本課題では上述のようにジルコニア製ファイバ整列V溝基板を変えてCO2レーザ波長(λ=10.6 µm)において吸収が少ないシリコン製V溝基板に融着治具を設計変更・試作し、その効果をSP-µCTにより評価した。



Fig.1. ファイバ座屈応用CO2レーザ照射融着実験系



Fig.2. ジルコニア製V溝基板使用時の融着界面LAC(Linear Absorption Coefficient)

   ヒストグラム分布


実験:

 今期はサブミクロンオーダに迫る融着光ファイバ間要求位置決め精度ならびにデータ取得数の向上を図るため、Fig.2内のCT画像取得時(課題番号2010A1699)に使用していたCMOS検出系を変更し、scientificCMOSセンサ検出系(浜松ホトニクス社製ORCA FLASH 2.8)ならびに同社製レンズ系AA50(x10)をカメラモニタ[6,7]とし、画素ピクセルサイズをこれまでの0.5 µmから0.313 µmに改善して測定を行った。投影枚数は3,600枚である。また、入射X線エネルギーとして課題番号2010A1699[5]と同様にGe吸収端入射X線エネルギーである11.19 keV付近で、CO2レーザ照射して融着したファイバサンプルのコアと内包物の有無の観測・評価を行った。測定にあたり、未処理光ファイバを標準試料として同様に測定を行い、コア領域のLAC分布測定を行った。


結果および考察:

 Fig.3にはシリコン製ファイバ整列V溝基板に変えた融着治具で作製した典型的な融着光ファイバの融着領域(ファイバ長手(z軸)方向:約62 µm)の3次元ポリゴン画像とその断面CT像を3例示した。本図に示すようにFig.2において見られたような高いLACを示す物質の内包と、それによる侵食を融着界面内部において観測されなかった。

 しかしながら、融着界面内ではなく、ファイバ周縁部にLACが比較的高い微粒子が固着する様子が観測される結果が得られた。本結果はシリコン製ファイバ整列V溝基板での融着光ファイバの作製における特徴的な結果と考えられる。以後、本報告では、この固着微粒子を被融着材料ならびに融着治具からの破損物質の一部と考え、デブリと呼ぶ。



Fig.3. シリコン製V溝基板を用いて製作したレーザ融着ファイバSP-µCT観測例


 Fig.4には未処理の標準光ファイバのコア領域と融着光ファイバの周縁に固着した微粒子(デブリ)のLAC分布ヒストグラムを合せて示した。なお、同図中には、デブリのLAC分布データを取得した融着ファイバ断面CT全体画像(Fig.4(a))と、デブリのLAC分布データ取得位置の拡大図(Fig.4(b):Fig.4(a)矩形部に対応)をあわせて示した。データ取得にあたっては約1.5 µmを直径とする円で囲った領域において、それぞれの断面CT画像にてデータ取得を行った。デブリサイズよりも小さな領域設定とすることによって、デブリ自体のLAC分布取得に努めた。一方、標準ファイバのLACヒストグラムは25 µmを直径とする円でコアを中心に囲んだ領域を1,440枚の画像集積によって得られたものである。それぞれのLAC分布のカウント値の合計が100%となるように規格化しており、特にコア領域のLAC分布ヒストグラムはデブリヒストグラムとの比較を行いやすくするために、100%に規格化後に10倍乗じて表示を行っている。

 本図中のファイバ断面CT画像はFig.3で示したように今回のシリコン製V溝基板で融着されたサンプルの典型的な結果を示している。すなわち、シリコン製V溝基板で作製した観測融着サンプル中ではFig.2で見られた高いLAC分布を有する含有物によってファイバ融着界面が内包・侵食される様子が見られず、図示のようにデブリがファイバ表面に固着する結果が多数を占め、グラフ内のFig.4(a)の断面CT像はその典型的な結果を示すものである。



Fig.4. シリコン製V溝基板を用いて製作したレーザ融着ファイバ周辺部固着微粒子()と

   未照射シングルモード光ファイバコア部()のLACヒストグラム分布

   (a)融着ファイバ断面CT画像(図中矩形部中にデブリ微粒子の存在を示す。)

   (b)(a)図中矩形部の拡大図の断面z方向連続スライス画像 画像間隔は0.313 µm

    各画像中円形部がヒストグラムデータ採取部であり、図中No.はスライス番号を示す。

   (c)LACヒストグラム分布


 一方、デブリと未処理光ファイバのLACヒストグラム分布を比較すると、デブリを構成するLAC分布は双峰であることに加えて、低LAC側のピークは光ファイバのLACヒストグラム分布にほぼ一致する様子が分かる。光ファイバ周辺に固着したデブリは融着時にファイバクラッド材に巻き込まれている様子の観測結果と一致している。一方、高いLAC値を示すピーク側のデブリのヒストグラム分布はファイバのLAC分布領域を超えてはいるものの、50 cm-1までに収束している様子が見られる。本融着治具の構成から、シリコンV溝基板端面から加工不良により剥離したシリコン微粒子が、レーザ照射によってファイバの基板上に付着したデブリに囲まれたものが、ファイバ整列時にファイバ端に付着し、融着時にファイバに固着したものと推察される。


今後の課題:

 これまで観測されてきたジルコニウム含有物に相等するLAC分布はジルコニアからシリコンに整列基板材料を変えて作製したレーザ融着ファイバ観測サンプルで、内包物として検出されることはなかった。従って、ジルコニウムに相等する高いLAC分布を示す融着界面に内包される物質の起源は、ファイバ整列V溝基板であるという推測を補強する結果となった。シリコン製ファイバ整列V溝基板治具により作製した融着ファイバ界面をSP-µCTにより観測を行った結果、融着界面内部への基板材含有物質の内包による構造劣化が低減できることが明らかとなった。

 しかしながら、シリコン含有物と想定される微細粒子がファイバ表面に固着する結果を示し、表面傷の一因となりファイバ破断強度低下が懸念される。今後は、本含有微細粒子の起源[8]を明らかにし、その低減が課題である。


参考文献:

[1] M. Jinno et al., NTT Tech. Rev., 7(5), 1 (2009).

[2] S. Asakawa et al., NTT R&D, 51(3), 211 (2002).

[3] K. Uesugi et al., J. Phys.: Conf. Ser. 186 012050 (3pp) doi: 10.1088/1742-6596/186/1/012050 (2009).

[4] S. Koike et al., IEEE Transactions on CPMT, 1, 100-110 (2011).

[5] 小池真司 他、平成22年度 重点産業利用課題成果報告書(2010A), 21-24, 2010A1699.

[6] K. Uesugi et al., SPIE Developments in X-ray tomography VIII, 8506, 850601-1 (2012).

[7] 上杉健太朗 他、SPring-8年報 2011年度 pp.63-64.

[8] V. M. Marchenko et al., Laser Physics, 10, 576 (2000).



ⒸJASRI


(Received: April 12, 2013; Early edition: March 25, 2014; Accepted: July 3, 2014; Published: July 10, 2014)