SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume2 No.1

Section B : Industrial Application Report

加硫過程におけるゴム中の気泡の発生/拡散機構の解明
Analysis of Appearing/Dispersing Mechanism of Bubbles in the Rubber under Vulcanization

DOI:10.18957/rr.2.1.142
2013B1522 / BL19B2

佐藤 有二, 平井 秀憲, 広田 孝司, 戸田 博美

Yuji Sato, Hidenori Hirai, Takashi Hirota, Hiromi Toda

横浜ゴム株式会社

THE YOKOHAMA RUBBER CO., LTD.

 


Abstract

 ゴム製品の品質・生産性の向上を目的として、加硫中のゴム内部での発泡及び消泡のメカニズムを解明すべく、X線イメージングによる加硫中のゴム内部での発泡/消泡過程のリアルタイム観察を行った。その結果、発泡はゴムの剛性が増加する事よりも架橋密度の上昇により顕著に抑制される事を、消泡のスピードはゴムの空気透過係数と相関する事を見出した。


キーワード: ゴム、発泡、消泡、X線イメージング


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背景と研究目的:

 ゴム製品の内部に気泡が存在すると、そこを起点とした破壊が生じ、ひいては重大な品質トラブルにつながる危険性が生じる。そのため加硫(加熱・加圧)工程の段階で気泡を作らない、残さない事はゴム製品の品質上非常に重要な要素といえる。

 そこで、課題番号2012B1157にてX線イメージングを用いた加硫中のゴム中の気泡の発泡/消泡過程のリアルタイム観察を実施し、大きな成果を得た[1]。また同時に、

①加硫中の空気の分散性が、ゴムの配合と関係している可能性がある事

②成長する泡、成長しない泡が存在し、その違いが何に起因するものか

③加硫時間を変化させても発泡するときのプレス圧は一定であり、仮説と異なる事

といった新たな課題も多く見つかり、今回は課題①と課題③について更に詳細な検討を行う。

 

課題① ゴム内気泡消滅速度と空気透過係数の関連性について

 ゴムへの空気の拡散度合い指標としては、一般的に気体透過度試験(JIS K 7126)が用いられており、比較的容易に評価が可能であり、実際に空気の分散性を向上される配合開発を行う上ではこの気体透過度試験結果とX線イメージングにより観察した気泡の分散速度との関係を明らかにしておくことは非常に有用である。そこで今回は、気体透過度試験により空気透過性に差がある複数のゴムを用いて気泡の分散速度を測定し、分散メカニズムの検討の手がかりをつかむと共に両者の関係を検証する。

 

課題③ ゴムが発泡する時のプレス圧について

 課題番号2012B1157では、加硫時間の延長によりゴムの剛性が増加することで発泡を抑え込み、発泡時のプレス圧が時間の延長と共に減少するという仮説が否定された[1]。そこで、加硫時間の延長により架橋密度が増加し、それにより発泡源が発泡する機会を失うと考察して、架橋密度と剛性を独立に変量した試料を用いてこの仮説を検証する。

 

実験:

 実験装置は、厚さ10 mmの未加硫ゴムサンプルを厚さ2 mmの石英ガラス窓の付いたメス金型(図1 Mold1-1, 1-2)に入れ、上からオス金型(図1 Mold 2)でふたをする。エアシリンダーでオス金型をプレスすることでサンプルに圧力(~1.3 MPa相当)をかけられるようになっている。圧力源はエアコンプレッサを用いた。またメス金型にヒーターを埋め込むことで温度調節できるようにした。これにより任意の加硫条件(圧力、温度)を設定可能にしている。なお、サンプルにかかる圧力はエアシリンダーにかける圧力から、サンプルの温度は金型に熱電対(図1 T/C)を設けることで計測している。

 X線イメージングカメラは、ビームモニタ(浜松ホトニクス製、BM2)とCCDカメラ(浜松ホトニクス製、C11440-10C)で構成した。イメージングの条件は、X線のエネルギーを30 keV、サンプルとカメラとの距離を900 mmとした。このとき10 mm × 4 mm (10.4 μm/pix)の画像を得ることができた。また露光時間(フレームレート)は、ゴム内部の時間変化を詳細に捉える事を優先に画質とのバランスから約100 ms(10 fps)とした。

 実験① 消泡現象の観察

 空気透過係数の異なる5種のゴムコンパウンド(4種は加硫剤未配合、1種は加硫剤配合)を用いて、予めゴム内に設けた空隙が、加熱・加圧中に消滅する時間を観測した。

 実験② 発泡現象の観察

 フィラー及び加硫剤の配合量を変量した4種のゴムコンパウンドにより、ゴムの剛性は低いが架橋密度が高い状態と、剛性は高いが架橋密度が低い状態を作り出し、その時の発泡状態を観察した。

図1. 装置のレイアウト(全体図と金型分解図)

 

結果および考察:

1)ゴム内気泡消滅速度と空気透過係数の関連性について

 測定サンプルは、厚さ3 mmのゴムシートを3枚重ねてモールド内にセットした。この時中央のゴムシートに直径2 mmの貫通穴を開けておく事で、ゴムサンプル内部に空隙を設けた。このサンプルを加熱・加圧しながらX線イメージングで内部を観察する事で、空隙が徐々に小さくなり最終的に消滅する挙動が観察できる[1]。図2は、5種のゴムサンプル(4種は加硫剤未配合◆、1種は加硫剤配合◇)の空気透過係数と160°C、0.9 MPaで加熱・加圧した時に空隙が消滅するまでの時間の関係を示す。なお、空気透過係数は、測定の都合上加硫サンプルにて測定した結果である。加硫剤の入っていないサンプルにおいて、空気透過係数が高いほど空隙が消滅するまでの時間が短い傾向を示している。また、加硫剤が入っているサンプルは、加硫剤が入っていないサンプルよりも空隙が消滅する時間が短い傾向を示した。つまり、ゴム中の気泡の消滅速度(ゴム内での空気のミクロ分散速度)は、ゴムの空気透過係数と相関する事が確認できた。但し、その速度は加硫の進行、または加硫剤の配合により影響を受けることも新たに分かった。

図2. 空隙消滅時間とゴムサンプルの気体透過係数の関係

 

2) ゴムが発泡する時のプレス圧について

 フィラー及び加硫剤の配合量を変量した4種のゴムコンパウンドにより、剛性は低いが架橋密度が高い状態と、剛性が高いが架橋密度が低い状態を作り出し、その時の発泡現象を観察した。サンプル配合量の変量組合せを表1に示す。フィラー有,架橋剤を標準量(×1)配合した標準サンプルとフィラー無,架橋剤を標準の3倍(×3)の量配合したサンプルにおける発泡状態を比較することにより、ゴムの剛性は低いが、架橋密度が上がっていれば発泡は起きなくなるかを検証でき、フィラー有,架橋剤を標準の1/3に減量した(×1/3)サンプルとフィラー無,架橋剤を標準量(×1)配合したサンプルにおける発泡状態を比較することにより、ゴムの剛性が高くても架橋密度が上がってこないと発泡が起きるかを検証できる。

 

表1. サンプル配合量の変量組合せ

 図3に各試料の発泡状態を示す。フィラー有,架橋剤×1のサンプルとフィラー無,架橋剤×3のサンプルにおける発泡状態を比較すると、フィラーが配合されゴムの剛性は高いが架橋剤の配合量が少ないフィラー有,架橋剤×1のサンプルの方が、発泡が顕著である事が分かる。また、フィラー有,架橋剤×1/3 のサンプルとフィラー無,架橋剤×1のサンプルにおける発泡状態を比較しても、フィラーが配合されゴムの剛性は高いが架橋剤の配合量が少ないフィラー有,架橋剤×1/3のサンプルの方が、発泡が顕著であった。以上の結果より、フィラーを配合する効果よりは加硫剤を増量した方が発泡を抑制できており、定性的には仮説を肯定する結果を得た。但し、今回の実験では加硫剤を3倍配合したサンプルで架橋の進行が早すぎるために、発泡状況の加硫時間依存性を定量的に観測する事ができなかった。

図3. 各試料の発泡状態

 

今後の課題:

 今回の”2) ゴムが発泡する時のプレス圧について”の測定において、発泡が加硫圧力の減圧中ではなく完全に除圧が終わってから始まり、発泡時加硫圧力の測定はできなかった。この事で再測定を繰返したため、一部予定していた条件での測定ができなかった。その原因についてもさらに考察を加え、次回以降の実験に生かしたい。

 

参考文献:

[1] 松田健太 他,利用課題実験報告書, 2012B1157.

  松田 他, SPring-8 利用研究成果集, 2, 64-68 (2014).

 

ⒸJASRI

 

(Received: April 25, 2014; Accepted: July 3, 2014; Published: July 10, 2014)