SPring-8 / SACLA Research Report

ISSN 2187-6886

Volume1 No.3

Section B : Industrial Application Report

トバモライト合成へのフライアッシュの利用(1)
Use of Fly Ash for the Synthesis of Tobermorite(1)

DOI:10.18957/rr.1.3.103
2012A1047 / BL19B2

松野 信也a, 東口 光晴a, 石川 哲吏a, 松井 久仁雄b

Shinya Matsunoa, Mitsuharu Higashiguchia, Tetsuji Ishikawaa, Kunio Matsuib

a旭化成㈱, b旭化成建材㈱

aASAHI KASEI. CO. LTD., bASAHI KASEI CONSTRUCTION MATERIALS CO.

Abstract

 軽量気泡コンクリート(ALC)の主成分であるトバモライト(tobermorite 化学組成:5CaO・6SiO2・5H2O)の量と質は、ALCの性能と密接な関係にあり、その反応過程を制御したALCの改良研究が、日本および欧州で活発になされている。そのような中で今回は、我々が2009年および2010年の検討で得た知見(Alの添加効果など)の現場プロセスへの応用を念頭にAlを含有するフライアッシュ(FA、火力発電所から排出される石炭灰)の再利用検討を行っている。今回は、メカニズム深耕のためセメントを使わない高純度試薬原料系による実験を行い、セメントを原料とした場合に比較してカトアイト(KA)生成量が少ないことが明らかになった。また、FA量が多くなるとトバモライト生成タイミングが遅くなることがわかった。


キーワード: 水熱反応、トバモライト、カルシウムシリケート、フライアッシュ、軽量気泡コンクリート、in-situ XRD

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背景と研究目的:

 フライアッシュは石炭火力発電に伴い発生する灰で、日本では石炭利用率の増加に伴いその発生量は年々増加している。2008年の統計では1,230万トンもの量が発生している。フライアッシュ(FA)の大部分は、セメント原料としてリサイクルされているが、セメントの国内生産量は、最盛期の約1億トンから現在4千万トン台まで大きく減少しており、今後もセメントリサイクルへ回されるフライアッシュ量の減少が余儀なくされる。他の用途も建設路盤材等の土木用途が主であり、大きく増加が見込めないことから、フライアッシュの有効利用が環境問題を絡めて大きな課題となっている。フライアッシュは、SiO2を約60%、Al2O3を約20%程度含む非晶質の微粉末である。組成面だけで見ると、軽量気泡コンクリート(ALC)の原料として可能性があると言える。

 しかしながら、目標物性を得るための技術的障壁は高く、反応メカニズムの解明を含めた基礎レベルからの検討が必要不可欠である。幸い我々の研究グループは、今までの検討において得られた珪酸質原料の反応性の水熱反応への寄与、アルミニウム化合物の添加がトバモライト生成を促進する等の知見[1-9]を活かすことにより、フライアッシュを原料とした高品質のALCを実現できる可能性を検討する。また、課題申請時はFAの粒度を変えた実験を考えていたが、その後の実験により粒度の影響は小さいことがわかったので、今回実験時は、セメントを使わない高純度試薬系でFA量を変えた実験を行うことにした。

 

実験:

 実験は、SPring-8産業利用ビームラインBL19B2にて行った。測定X線エネルギーは30 keVであり、検出器はPILATUS-2Mを使った。測定セルは、温度センサー(2個)と圧力センサーを連結した内容積35 mlのX線透過部(Be窓)を持つ角形セルである。Beを窓材に用いることで、窓材からの回折ピークやバックグラウンドの影響を全く受けずに良好な回折パターンを得ることが可能である[1-3]。原料スラリーをセルに入れ、室温から190°C(1°C/min)まで加熱し、最高温度で保持することによりトバモライトの合成反応をその場計測した。フライアッシュ(JIS 2級品)は珪石(SiO2)原料の一部として用いる。すなわち、SiO2量一定の下で、珪石とフライアッシュ(FA)の比率を2水準変え(珪石/FA = 80/20 : FA20, 40/60 : FA60)、混合率によるトバモライト生成反応の違いを評価した。

 今回は、セメントを使わない高純度試薬原料系による実験を行い、FA以外の原料としては、珪石、 高純度酸化カルシウム(純度99.9%)、水、を用いた。

 

結果および考察:

 図1にフライアッシュ(FA)比率20%の場合のX 線回折パターンの時間変化を示す。図2と図3に、それぞれフライアッシュ(FA)が20%, 60%の各系における原料および生成物のX線回折強度の時間変化を示す。ここで、Q:石英、P:水酸化カルシウム、CSH:CSHゲル(カルシウムシリケートの水和物で2θが30°付近のハロー)、T:トバモライト、FA:フライアッシュ、KA:カトアイトである。まず、非晶質FAの減少を検出できたことが重要である。


図1 フライアッシュ(FA)比率20%の場合のX線回折パターンの時間変化

(横軸はCu Kα線で測定した場合の角度に変換 Q : Quartz, T : Tobermorite)

 

 また、図2および図3からFA量が増加するとトバモライト生成タイミングが遅くなる。この結果は、セメントを原料とした系[10]では、フライアッシュ添加によりトバモライト生成タイミング早くなることと逆である。これは、以前の実験で明らかになったフライアッシュ中に存在するAlの影響(セメント系ではT生成を早くするが高純度試薬系では遅くする影響)と同じであると推定される。

 今回注目すべきは、フライアッシュ比率が60%の場合のトバモライトの回折強度の時間変化を見ると、トバモライト生成が通常は飽和する実験後半でもまだ継続しており、何故トバモライト生成が継続するのか今後注目して検討していく予定である。

 また、今回の高純度試薬系においては、不要なカトアイトがほとんど生成しなかったことも重要な結果である。


図2 FA比率20%の系における原料および生成物のX線回折強度の時間変化


図3 FA比率60%の系における原料および生成物のX線回折強度の時間変化

 

今後の課題:

 今後、フライアッシュの利用を検討していくために、その溶解挙動と中間生成物(特にカトアイト)の挙動、そしてトバモライト生成の関係を明らかにしていく。一つの視点として、セメント原料系と高純度原料系における反応挙動の違いを考察することにより、フライアッシュ利用系における反応メカニズムを深耕し、今までなされていないフライアッシュを使ったALC生産プロセス確立を図っていきたい。

 

参考文献:

[1] J. Kikuma, S. Matsuno, et. al., J. Synchrotron Rad. 16, 683-686 (2009).

[2] 菊間 淳、松野 信也、分析化学, 4, 287-291 (2010).

[3] 菊間 淳、松野 信也、分析化学, 6, 489-498 (2010).

[4] J. Kikuma, S. Matsuno, et. al., J. Am. Ceram. Soc. 93[9] 2667-2674 (2010).

[5] K. Matsui, S. Matsuno ,et. al., Cement and Concrete Research, 41, 510-519 (2011).

[6] J. Kikuma, S. Matsuno, et. al., J. Solid State Chemistry, 184, 2066-2074 (2011).

[7] 松野 他、平成20年度重点産業利用課題成果報告書(2008B)2008B1864.

[8] 松野 他、平成20年度重点産業利用課題成果報告書(2008B)2008B2031.

[9] 松野 他、平成21年度重点産業利用課題成果報告書(2008B)2009B1788.

[10] 松野 他、SPring-8利用研究成果集 1 (1), B-6,2011B1942 (2013).

 

ⒸJASRI

 

(Received: November 16, 2012; Early edition: August 30, 2013; Accepted: November 1, 2013; Published: December 10, 2013)