(1)実験目的と意義:
厚みの異なるポリプロピレンシートの高次構造を把握し、結晶化と結び付けて理解する。
(2)実験結果:
MFR = 6.7のランダムコポリマー(開発品)を用い、シート成形機にて0.3mmと0.5mm厚のシートを作製した。Through(Th)測定用サンプルはそのまま、Edge(Ed)測定用サンプルはMDに沿って2mm幅に裁断したものを 5枚(0.3mm厚)、3枚(0.5mm厚)重ねて使用した。
測定は、λ=0.1nmのビーム、検出器としてCCD (SAXS、カメラ長:1705mm)、Flat Panel (WAXS、カメラ長:61.7mm) を用い、以下の条件(フィルター/露光時間)で実施した。
WAXS:Ag20μm/500ms(Th 0.3mm)、Au10μm/1000(Ed), 4000 ms(Th 0.5mm)
SAXS:Ag20μm/50(Ed 0.3mm), 100(Ed 0.3mm), 200(Th 0.3mm, Ed), 400(Th, Ed 0.5mm), 800ms(Th 0.5mm)
WAXSについては、2θスキャンのプロファイルより判断し、サンプルフォルダのみの散乱に0.75(0.3mm Th, Ed)、0.62(0.5mm Th)を乗じたものをオリジナルから減じて解析を行った。SAXSでは、EdgeのAg20μm/50, 100ms(以上0.3mm厚)、200, 400ms(以上0.5mm厚)のデータのみがCCDのダイナミックレンジの範囲であったので、これを定量的解析に使用した。
(3)考察:
図1のSAXSプロファイルは、0.3mm厚のシートではラメラが成形方向に対して規則的に並んでいることを示している。 一方、0.5mm厚のシートではラメラの選択的配向はみられない。 非晶部の寄与を含む配向度の目安であるα(040)散乱の方位角スキャンにおける90°と180°の強度比は、0.3mm厚と0.5mm厚のシートで、Though(Edge)の場合に、それぞれ4.2と1.2(5.6と1.5)であった。 一方、SAXSのピーク位置から求めた長周期の長さは、0.3mm厚のシートが約15nmであるのに対し、0.5mm厚のシートでは約16nmとやや長めであった。 これらの結果より、シートが厚くなるに従い冷却効果が小さくなる結果、分子配向が緩和される一方、結晶化温度が高くなると推定される。
今回のシートのプロファイルは、ThroughとEdgeでほぼ同等であったことから、ラメラは成形方向に軸をもつ円筒対称の高次構造を形成していると推定される。この場合、WAXSの2Dデータを円環積分した2θプロファイルから結晶化度を見積もることが可能である。 図2に、0.3mm厚と0.5mm厚のシートのWAXSの円環積分プロファイルを比較して示した。b軸のシート表面に垂直な配向の影響が若干見受けられるものの、両者のプロファイルは凡そ一致した。 この結果は、配向結晶化による核発生の促進(0.3mm厚)と、結晶化温度の上昇(0.5mm厚)の双方の効果により、シートの結晶化度が両者でほぼ同等になった為と思われる。 |