[実験課題名]
高分子・ソフトマター計測技術高度化に向けた試験的実験(第三回目)
[Title of Experiment]
The 3rd trial experiments to develop advanced experimental technique of X-ray scattering for polymers and soft matter
[実験責任者 / Project Leader]
佐々木 園 / Sasaki Sono (0006545)
[ビームライン / Beamline]
BL40B2
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利用目的:
佐々木園(0006545)、増永啓康(0013361)、小川紘樹(0015960)、八木直人(0001129)、高田昌樹(0003167)(その他の共同実験者はグループ毎に下記に記載)
本課題は、BL40B2ビームラインにおける高分子・ソフトマターのための階層構造評価法の高度化に有用な知見を得ること目的として実施した。小角X線散乱測定(SAXS測定およびGISAXS測定)あるいは小角・広角X線散乱同時測定 (SAXS/WAXS測定およびGISAXS/GIWAXS測定)により、薄膜、繊維、フィルム、塊状、粉末状など様々な形状の高分子・ソフトマター試料の階層構造を評価した。以下に本課題の実験結果をまとめて報告する。
利用方法及び利用の結果および考察:
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実験[1]
彦坂正道(0007421)・岡田聖香(0009475)/広島大学大学院総合科学、
小椎尾 謙(0018301)/長崎大学工学部材料工学科、
田頭克春(0024705)/サンアロマー株式会社、新井敏弘(0023145)・木村和弥(0023175)・加治亘章(0018289)・今瀬達也(0024685)・下平祥貴(0024246)、飯塚誠(0022558)/昭和電工株式会社
実験Ⅰ ポリプロピレンの解析
(1)実験目的と意義:
ポリプロピレン(PP)は従来から広く用いられ、また用途に応じて原料PPや成形方法が多様である。このようなPPシートの物性はその高次構造によって左右されるため、これを理解し、原料や成形方法へのフィードバックを図る。
(2)実験結果:
サンプル
MFR = 2.3のランダムコポリマー(サンアロマー製)を用い、シート成形機にて0.3mm厚のシートを作製した。Through測定用サンプルはそのまま、Edge測定用サンプルはMDに沿って2mm幅に裁断したものを9枚重ねて使用した。
測定(室温にて実施)
ビームライン:BL40B2 (λ=0.1nm)
測定法:透過法
検出器:CCD (SAXS)、Flat Panel (WAXS)
測定時間:
Though 20秒, Edge 3秒 (SAXS)、Though 5秒, Edge 1.25秒(WAXS)
結果
図1と図2にThroughにおける、WAXSとSAXSプロファイルを示す。いずれのプロファイルも分子軸(c軸)がMDに配向していることを示唆している。また、WAXSの(110)反射(最も内側)よりMDへのa*配向もみられた。一方SAXSでは、MD(子午線方向)に長周期に相当する高強度のピーク、MDと垂直な方向(赤道方向)には、長周期に相当する微弱なピークとストリークが観察された。
Edgeのプロファイルも、SAXSの散漫散乱(サンプル作製上生じたと思われる)を除き、基本的にThroughと同等であった。c軸およびa*配向の目安であるWAXSの(040)反射(内側から2番目)の方位角0度と90度の強度比は、Throughで2.9、Edgeで1.8であった。MDとそれに垂直な方向のSAXSピークの中心位置から求めた長周期は、Throughで15.7nmと12.9nm、Edgeで15.7nmと13.2nmであった。
(3)考察:
今回解析したシートでは、ThroughとEdgeでほぼ同等なMDに配向したプロファイルを示す事から、MDに軸を有する所謂Row structureを形成していると推察される。観察されたa*配向およびMDに垂直な方向の長周期の存在は、PPα晶特有の結晶化機構が関与していると解釈される。MDの長周期の方が長いのは、分子鎖が流動方向に引き伸ばされた影響と考えられる。
実験Ⅱ ポリウレタンの解析
(1)実験目的と意義
熱硬化性ポリウレタンのモノマー構成による高次構造発現を確認する。また、硬化剤の存在が、前記高次構造に与える影響も確認する。これらを通して熱硬化性ポリウレタンの硬化性制御の基礎を明らかにする。
(2)実験結果
樹脂溶液を塗布後、溶媒除去により成膜したポリウレタンフィルムのSAXSの結果から、10nm程度の周期構造の存在が示唆された。(図3a)
上記ポリウレタンに硬化剤を添加し塗布した後、溶媒除去により成膜したフィルムのSAXSの結果から、上記周期構造由来のピーク強度が低下した。(図3b)
(3)考察
ポリウレタンのモノマー構成により、ソフトセグメントとハードセグメントによる周期的なミクロ相分離構造を形成していることが示唆される。今後、温度を変更することにより、表面凹凸や物性の変化との相関について検証が必要である。
ポリウレタンに硬化剤を添加することにより、周期構造由来のピーク強度が低下した。硬化剤が、ポリウレタン内のソフトセグメント/ハードセグメントの相溶化剤として作用している可能性があり、高次構造が硬化性に影響を与える可能性があることを示唆していると思われる。
実験Ⅲ ポリアミンの解析
(1)実験目的と意義
ポリアミンの薄膜について、成膜条件の高次構造に与える影響を把握することにより、物性制御の基礎を明らかにしたい。特に、置換基の違いによる高次構造の変化を把握する。
(2)実験結果
ポリアミン三種類(図4の化学構造式のR, R’の異なるポリアミン三種類)について、透過型SAXS/WAXD測定を行った。SAXSはポリアミン三種類ともピークが見られなかったが、WAXDの結果は低角側に二つのブロードなピークが観測された。
(3)考察
WAXD測定にてブロードなピークが観測されたが、SAXSでピークが見られないことから、このピークはサンプル膜厚のばらつきに由来する可能性がある。
上記ポリアミン類似体の薄膜測定において、サンプル準備の段階で、膜厚を揃えることが重要であることがわかった。
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実験[2]
佐藤和彦(0008089)・杉本健二(0021999)/帝人(株)
(1)実験目的と意義:
高分子材料の成形加工プロセスによる力学物性と高次構造の相関を評価していく上で、SAXS/WAXD同時測定による構造解析は極めて有用な手法である。今回は、高分子量ポリエチレンを対象として、SAXS/WAXDにより延伸シートの構造情報を取得するための測定および解析手法の確立を目的とした実験を実施した。
(2)実験結果:
延伸倍率の異なるPEシートについて、SAXS/WAXD同時測定を行った。検出器はII-CCD(SAXS)およびFlat Panel(WAXD)を用い、露光時間は1~10秒とした。WAXDについては、検出器が2象限を撮影する配置としたため、延伸試料のMD/TDの各方向について露光を行った。得られた二次元散乱パターンのデータ処理と解析には、’fit2d’、’ImageJ’、’IGOR Pro’を用いた。
図5と図6に得られたSAXS/WAXDパターンを方位角と散乱角で展開処理した一例を示す。小角散乱では赤道方向に典型的な長周期構造による散乱ピークが検出された。広角回折では配向により子午方向に強い回折線が現れ、広角側の微小な回折線まで明瞭に観測することができた。
(3)考察:
延伸PEをモデル試料として放射光BLにおけるSAXS/WAXDの測定・解析の基本技術を習得することができた。本手法で得られる二次元データを詳細に解析することにより、ラメラ長周期構造、フィブリル/ボイド形成、結晶配向、結晶サイズ等を総合的に評価できると期待される。今後、延伸や加熱可での構造変化を時間分解で追跡する実験に適用を図る。
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実験[3]
桜井 孝至(0015968)・濱 久勝(0005557)・須藤 拓也(0023599)/住友化学株式会社 石油化学品研究所、田代 孝二(0005503)/豊田工業大学
(1)実験目的と意義:
本検討では、タイヤの特に路面と接するトレッド部に使用されるSBR(スチレンブタジエンゴム)に関するものであり、充填剤を配合し架橋を施したものを対象としている。さて、近年、タイヤの基本性能としての「走る、曲がる、止まる」といった走行安定性能に加えて、省燃費性能の向上の必要性が増している。各社で、これらタイヤ性能の向上を目的としたタイヤの開発を行っている。
そこで、タイヤ性能と充填剤の分散構造との比較を行うため、1次構造の異なるSBRが与えるタイヤ性能と、それぞれの小角X線散乱(SAXS)測定で得られる構造情報との比較を行うためBL40B2でのSAXS測定を試みた。
(2)実験結果:
試料には充填剤を配合し架橋を施した3種の1次構造の異なるSBRシート(0.6mm厚)を用いた。SAXS測定条件は、カメラ長150mm、X線波長1Åとし、アテネーターによって入射X線強度を適度に弱め、室温で測定を行った。検出器として2次元X線CCD検出器を用い、50ms露光して測定を行った。
(3)考察:
結果、これまでの報告例*1,2と比較した場合、フィラーの凝集体の大きさと思われる構造情報までを引き出すことができた。凝集塊の大きさなどのより高次な構造情報は得られなかった。
今後は解析を進めるとともに、さらなる小角領域のデータを収集し、様々な手法を組み合わせて測定を行うことで、より詳細なデータを収集したい。
参考文献 *1 Y. Shinohara et al. J. Appl. Cryst. 2007, 40, s397
*2 T. Koga et al. Macromolecules 2008, 41, 453
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実験[4]
川面哲司(0023200)・知野圭介(0023207)・今崎善正(0024843)/横浜ゴム株式会社、
吉田 博久(0023917)/首都大学東京
(1)実験目的と意義:
天然ゴムは、今日においても最も多く使用されるゴムであり、また、理想的なバイオポリマーでもある。天然ゴムの主成分はシスポリイソプレンであるが、合成シスポリイソプレンには見られない特性を持つ。これは、天然ゴムが生来含む数%の非ゴム成分の効果であることが分かってきた。非ゴム成分は、天然ゴムのゲルの生成に深く関与しており、その力学特性に大きく影響している。天然ゴムの力学特性の解明や制御のために不可欠であるゲル構造の解明の一環としてSAXS測定を行った。
(2)実験結果:
精製方法の異なる天然ゴムの未配向ならびに1軸延伸試料の小角ならびに広角散乱を測定した。代表的な例として、パラゴムノキより採取した天然ゴムラテックスを遠心分離装置で濃縮した後、ガラス板上で常温乾燥して得たフィルム(KZ1)の二次元プロファイルを図7に円環平均プロファイルを図8に示す。
(3)考察:
図7の二次元プロファイルは延伸試料に異方性を示す構造がq < 0.1 nm-1の領域に存在することを示している。この領域は使用した光学系の測定範囲よりも大きな構造で延伸により1軸配向する。TEM観察では0.5~1 μmの粒子状構造(一次粒子)があり、これが延伸によって変形配向すると考えられる。図8の円環平均ではこの構造からの散乱は認められない。
図8の一次元強度プロファイルではq = 1.6 nm-1付近に小さい散乱ピークが観察された。このピークは試料の精製方法に依存するので、天然ゴムの一次構造に関係すると考えられる。今後、化学構造との関係からこの散乱ピークの起源を解析する予定である。
図8のプロファイルは傾きの異なる二成分で構成されていることから、サイズの異なる二つの密度ゆらぎが天然ゴムには存在していると考えられる。この二つの構造パラメータが精製方法に依存しているように観察されることから、一次粒子内部の構造を反映していると考えている。
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実験[5]
角谷 和宣(0008249)・小林 貴幸(0022800)/三菱レイヨン株式会社中央技術研究所、
田代 孝二(0005503)/豊田工業大学
(1)実験目的と意義:
高分子の溶融状態からの結晶化は、その結晶化過程での熱履歴によって異なる結晶型を有し、その物性にも影響を及ぼすことが知られている。高分子物性を考える上で、結晶化過程の構造変化の様子を明らかにすることは非常に重要である。
そこでPE繊維のWAXD-SAXS測定を行い、異なる結晶化過程をたどることで、得られる繊維構造にどのような影響が現れるかを確認することにした。
(2)実験結果:
紡糸条件の異なるPE繊維(条件Aおよび条件B)について、WAXD-SAXS測定を行った。照射時間はWAXD:1秒、SAXS:0.5秒であった。
図9に条件A、Bの二次元WAXD像、および(110)と(200)反射の方位角(β)積分強度を示す。条件Aでは(110)と(200)がβ=0°(赤道方向)に観測されたのに対して、条件Bでは(110)がβ=±20°、(200)がβ=±40°に観測された。また図10のSAXS結果では、長周期由来のピーク形状が異なるのに加え、条件Aは赤道方向にストリーク散乱が観測されたのに対し、条件Bではストリーク散乱は観測されなかった。
(3)考察:
条件Aではシシカバブ構造、条件Bではカバブ構造がねじれた構造(ツイストカバブ構造)を形成していると考えられ、溶融結晶化過程の結晶構造差を確認することができた。
これらの結果は数時間要すればラボの装置でも得られるが、非常に短時間の測定で同様の結果が得られたことは非常に有意義である。
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実験[6]
村瀬浩貴(0005459)・船城健一(0009180)・北河 享 (0013750)・平尾 公一(0022691)・大亀 敬史(0018309)・前田 卓郎(0024812)・早川 章太(0024810)・原 彰太 (0024811)・今井 徹 (0024820)/東洋紡績株式会社
(1)実験目的と意義:
小角X線散乱および広角X線を用いて高分子の成形加工における構造形成を解明することは極めて重要である。これまで放射光の強力な光源を用いて、繊維の紡糸過程の直接観測を試みてきた。紡糸過程を直接観測することで、非等温環境下での伸張流動結晶化の過程が詳細に明らかにされつつある。一方、紡糸中の構造形成過程を明らかにする手段として、紡糸中の繊維を急冷することにより構造固定を行い、固定後の構造を観測する方法がある。この方法では、紡糸中の構造を直接観測することはできないものの、散乱手法に加えて、顕微鏡を用いた実空間構造の観察ができるメリットがある。今回、高密度ポリエチレン繊維の溶融紡糸過程の繊維を、液体窒素温度に冷却した金属ブロックで挟み込むことによる構造固定を試みた。構造固定化繊維を、小角X線散乱を用いて観察した結果を報告する。
(2)実験結果:
高密度ポリエチレンを230℃に加熱したノズルから常温の大気雰囲気中に吐出し、紡糸速度8.4m/minで巻き取った。巻き取り繊維(As spun fiber)を、小角X線散乱の観測に供した。さらに、ノズルから吐出後の繊維を液体窒素温度に冷却した金属ブロックで瞬時に挟み取ることでサンプリングした。紡糸過程で発現している構造を、急冷による結晶化・ガラス化によって固定することを期待した実験である。急冷するサンプリング位置を、ノズルから10、15、25cmと変えることにより紡糸での構造形成過程の追跡を試みた。図11は、挟み取りサンプルと、巻き取り糸の小角X線散乱パターンである。X線は、繊維軸に垂直な方向から入射させ、イメージインテシファイア付きCCDカメラで記録した。露光時間は3秒である。巻き取り糸(d)に比較して、挟み取りサンプルの散乱パターン(a)-(c)は異なっていることがわかる。特に興味深いのは、繊維軸に垂直方向のストリークパターン(図中に矢印Sで示した)がノズルから10cm(a)では明確に観測されるのに対して、ノズルから下流に向かうに従って散乱強度が減少し、巻き取り糸では完全に消失していることである。また、繊維軸に平行方向(子午線方向)の散乱強度分布の散乱ベクトルq依存性を比較すると(図12)、q=0.2 nm-1近傍の散乱ピークがノズルからの距離に従って小角シフトしていることが認められる。
(3)考察:
ポリエチレンの結晶化速度は極めて早いため、一般的には急冷によるガラス化は困難であることは良く知られている。従って、今回の急冷サンプルにおいても、紡糸過程で発現した構造がガラス化によって固定されることは無く、急冷過程に結晶化が進行すると考えられる。さらに、急冷後のサンプルは直ちに常温に戻すため、その昇温過程あるいは常温保管時にも結晶化が進行する可能性がある。しかしながら、急冷前にすでに発現していた結晶構造はそのまま保存されるとともに、急冷過程あるいは急冷後の昇温・保管過程での結晶化構造は、紡糸過程で発現していた構造を反映したものとなるであろう。今回の急冷サンプルの小角X線散乱パターンとその散乱強度分布には、サンプリング位置に依存した系統的変化が認められる。このことは、急冷サンプルの構造は、紡糸過程にて発現していた構造を反映していることを示唆している。今回得られたデータと、紡糸中の繊維から直接得た小角X線散乱との比較を行うことにより、紡糸過程の構造をより詳細に明らかにすることができると考えており、現在詳細な解析を実施中である。また、流動と垂直方法のストリーク散乱が、ノズル吐出直後には観察されるが、紡糸後の巻き取り繊維には観察されない現象が今回の急冷サンプリング試料において認められた。この現象は、紡糸中に直接得た散乱においても観察されている現象である。この原因に関して、これまで不明であったが、今回の急冷サンプルを電子顕微鏡で観察することにより解明できる可能性がある。今後、是非検討してポリエチレンの流動結晶化機構を解明してゆきたい。
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実験[7]
岡本泰志(0015288)・青木孝司・加藤和生/株式会社デンソー、
高原淳(0007745)・天本義史(0018231)・寺山友規(0017637)/九州大学
(1)実験目的と意義:
実用樹脂材料は、強度や機能の付与を目的として種々の添加材が混合されており、これら添加材の分散性やベースポリマーとの密着性が強度や機能の発現に大きな影響を与えると考えられる。今回は実用樹脂材料の構造解析のために樹脂純品および添加材を1種類ずつ加えたサンプルのWAXS/SAXS測定を行い回折/散乱パターンを比較検討した。
(2)実験結果:
樹脂材料にはポリフェニレンスルフィド(PPS)を用いた。PPS実用材料にはブレンドポリマー、ガラスファイバー、ガラスビーズ、炭酸カルシウム等の有機/無機添加材が混合されている。今回はPPS純品および添加材1種類を加えたサンプル(熱処理温度:120℃、190℃)を調製してWAXS/SAXS測定を行った。
結果を図13にまとめた。WAXS測定では炭酸カルシウムを加えたサンプルで添加材の回折が見られた他はいずれのサンプルもPPSの回折パターンが確認された。ピーク分離後ピーク位置を確認したが、サンプル、温度で差は見られなかった。SAXS測定ではPPS単品でラメラの周期構造に由来すると考えられるピークが確認されたが、添加材を加えるとこのピークは消失し、添加材に特徴的な散乱も認められなかった。
(3)考察:
今回の測定ではPPS純品と添加材を加えたサンプルとの差、あるいはアニーリング温度による差を検出することはできなかった。ブレンドポリマーの分散度やガラスファイバー、ガラスビーズ、炭酸カルシウムの大きさはサブミクロンからミクロンでありSAXS測定領域には合わなかったことが考えられる。今後は超小角散乱(USAXS)測定や中性子散乱等を組み合わせて、また温度可変での測定を行って実用樹脂材料の構造解析を進めていく予定である。
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実験[8]
木下祥尚(0017450)/関西学院大学理工学研究科、加藤知(0008789)/関西学院大学理学部
(1)実験目的と意義:
酸性リン脂質ジミリストイルホスファチジルグリセロール(DMPG)を水和することで形成する二重層膜の低温領域における相挙動は複雑であり、キネティクスは報告ごとに一致していない。この原因の一つとして、試料の調製方法の違いが挙げられる。DMPG二重層膜の相挙動はその構造に依存することを考慮すると、このキネティクスの相違は、試料調製方法の違いにより生じる構造の相違に起因していることが推測される。本研究では、十分に水和することで調製された試料と水和が不十分な試料との間に生じる膜構造の違いについて小角X線散乱(SAXD)を用いて調べた。
(2)実験結果:
図14はDMPG結晶に生理的濃度(200 mM)のNaClを含む10 mM HEPES緩衝液を加えたものを10ºCから昇温したときのDSCサーモグラムである、40.5ºCに~70 kJ/molのエンタルピーを持つ水和に対応する熱異常が現れた。図15aは200 mM NaClを含むDMPG結晶を48ºCで保温/攪拌した直後のSAXDパターンである。DMPG二重層膜がそれぞれ独立に存在すること(ユニラメラ)を示唆するブロードなピーク(0.20 nm-1)が現れた。一方、40ºC以上で保温しても攪拌しない場合は、二重層膜が周期的に積層していること(マルチラメラ)を示唆するピーク(0.10 nm-1)がブロードなピークと共存することが分かった(図15b, 矢印)。
(3)考察:
以上を基に我々は、形成される試料の構造は作製手順(特に水和)により異なり、そのためDMPG二重層膜の低温領域での相挙動が異なるのではないかと推測した。このように安定(ユニラメラ)なDMPG二重層膜を調製するには、40ºC以上の温度に短時間放置するだけでは不十分であり、試料調製法の観点から過去のデータを見直す必要がある。
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実験[9]
金属/ゴム接着界面のWAXS/GI-SAXS同時測定
大月正珠(0022583)・中村智(0023142)・北村祐二(0023117)・小山内圭太(0025479)・
和田由紀子(0024743)/(株)ブリヂストン
彦坂正道(0007421)・岡田聖香(0009475)/広島大学大学院 総合科学研究科
(1)実験目的と意義:
タイヤに使用されるスチールコード/ゴム界面は、加硫時に形成された特殊層(薄膜)によって接着強度を発現している。接着強度や劣化の特性は、その界面層の状態によって大きく影響を受ける。しかしながらこの界面の生成および劣化挙動に関しては十分な知見がない。一般的な分析法では、静的挙動しか知見が得られないため、本質把握が困難である。そこで、今回の試験研究では、将来の当該界面の動的解析の可能性を見極めるための予備試験として、静的な界面分析が可能か否かを確認するために行なった。実施した内容は、高輝度放射光施設に於けるゴム・金属界面の構造解析の可能性検討である。
(2)実験結果:
表1に、今回測定用として持参したサンプルを示す。用意したサンプルからはGI-SAXS、WAXSともに充分な情報を得ることはできなかった。
(3)考察:
測定は困難であると予想していたが、モデルサンプルとして持参した全ての金属板及びゴム付き金属板も全反射が見られなかった。基板として用いた金属板の表面粗度(Ra=200nm程度)が大きく、これが原因で全反射が得られなかったこと、表面粗度に加え平滑性が小さいために、焦点が合わなかったものと推測している。
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実験[10]
宮崎 司(0013648)・荻野 慈子(0006404)・武田 雄希(0019620)/日東電工株式会社
(1)実験目的と意義:
Si基板上のポリフッ化ビニリデン(PVDF)薄膜のGISAXS/GIWAXS同時測定による高次配向構造評価を目的とした。
PVDFは圧電材料や焦電材料として、また最近では燃料電池電解質膜として広く検討されている。PVDFは主にα、β、γ晶という3つの結晶多形が存在する。たとえばβ晶は電気的性質が特異であるし、γ晶は耐熱性が高いといった特長がある。これらの結晶多形を作り分けかつ、配向性を制御することでさらなる高付加価値製品への応用が可能となる。そこで基板や成膜法を変えることでPVDF薄膜の結晶多形、配向性を制御することを検討している。
膜の結晶性、配向性はGIWAXS/GISAXSで詳細に解析できると期待している。前回の実験で、Si基板上のPVDF薄膜のGISAXS/GIWAXS測定をおこなった。その結果、2μm厚のPVDF膜は基板上にedge-onラメラ成長していることが示唆された。今回はさらに薄膜にした時にラメラの配向がどう変化するのか詳細に調べた。
(2)実験結果:
前回よりも薄い1.2μmと0.2μmのPVDF薄膜を用意した。いずれもSiウエハ上にジメチルホルムアミドを溶剤にしてスピンコートにより成膜した。GIWAXS/GISAXS同時測定はBL40B2で実施した。波長は0.1nmを用い、カメラ長はGIWAXSが104mmでGISAXSが1930mmである。
図16aに1.2μm厚の薄膜の2次元GISAXS像を、図16bに同じく0.2μm厚試料の2次元GISAXSの結果を示す。基板面内方向にストリークのように散乱が出ていることがわかる。これはいわゆる長周期に起因する散乱に対応していると考えられる。基板面内にストリーク状に散乱が出ていることから、基板上にラメラがedge-on成長していると考えられる。図16a・図16bより膜厚が薄い0.2μm厚の試料の方がストリーク散乱の強度が強いことから、膜厚が薄いほどedge-on成長しているラメラが多い、すなわち配向性が高いことが示唆された。この結果は透過のFT-IRによりPVDFの結晶配向を調べた結果と一致している。
(3)考察:
Siウエハ上のPVDF薄膜の結晶配向性をSPring-8のGISAXS/GIWAXS同時測定により調べた。その結果、膜厚が小さくなるほど結晶配向性が高くなることがわかった。原因はPVDF薄膜の表面効果の影響なのか、基板界面の影響なのかは現時点ではわからない。しかしながら我々は基板を変えることで、膜内の結晶配向性や、結晶多形を変えることができることを見出している。これは基板表面の結晶性とPVDF結晶の間のエピタキシーなどが原因と考えている。今後基板の種類と膜厚を変えて薄膜を作製し、結晶の配向性や結晶多形の評価をおこない、基板表面と薄膜表面の結晶配向に与える影響について調べたい。
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実験[11]
笹川知由(0015276)・菅野宏明(0015868)/株式会社三井化学分析センター、
寺山友規(0017637)・山口央基(0019445)・高原 淳(0007745)/九州大学先導物質化学研究所
(1)実験目的と意義:
高分子材料の表面構造は材料の表面物性を支配する重要な因子の一つである。GISAXS/GIWAXDはμm以下の表面構造を解析する重要な手法であるが、通常はシリコンウエハー、ガラス等の平坦な基板を用いて測定されている。一方、高分子材料が実際に使用される場合は、射出成型物、押出しシート、延伸フィルム等各種の方法により成型された形で用いられる。実用的にはこれらの成型物そのものの表面構造を測定することが望ましいが、一般に平坦性が悪いため理想的なGISAXS/GIWAXD測定は困難でありあまり報告例は無い。今回は、これらの成型物でどこまでGISAXS/GIWAXDが可能か、どのような問題点があるかを明確にするために、射出成型物、押出しシート、延伸フィルム等の各種実用高分子材料の測定を試みた。
(2)実験結果:
実験には、ポリプロピレンの射出成型物(厚さ3mm)、押出しシート(厚さ1mm)、延伸フィルム(厚さ0.1mm)を用いた。それぞれの試料はシリコンウエハー上に固定し、試料ステージ上に固定した。
表面の平坦性が不十分であること、表面反射率が低いため必ずしも反射X線が観測されないことなどから、どこまで正確な測定ができているかは不明ではあるものの上記すべてのサンプルでGISAXS/GIWAXDを測定することができた。図17にPP射出成型物について最表面部の結晶構造に与える結晶化核剤の効果を検討した例を示す。
(3)考察:
図17の左は結晶化核剤が無い場合、右側が結晶化核剤を加えた場合の結果である。左側の図は結晶化度が低く信号強度が弱いため、信号を約10倍増幅している。図17からわかるように核剤を用いた場合は最表面部でも結晶化度が高いことがわかる。詳細については現在検討中であるが、成型条件を変更した場合や、成型時の樹脂の流れ方向による差も見られており。実用材料表面においてもGISAXS/GIWAXD測定が有用であることが示唆された。
一部の試料では入射X線の反射光が観察されていた。何らかの形でX線反射率を測定できるようになれば、入射角の正確な決定や試料表面の粗さの推定が可能になり、より精密な実験が可能になるものと期待している。
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実験[12]
小池淳一郎(0024758)・田村雄児(0024849)・魚田将史(0025051)/DIC株式会社、
高原淳(0007745)・寺山友規(0017637)・山口央基(0019445) /九州大学先導物質化学研、星野大樹(0024731)/(独)科学技術振興機構
(1)実験目的と意義:
当社製品であるフィルムやインキ塗膜の物性評価を行う上で、SPring-8における高輝度、高分解能でその場観察も可能なX線散乱測定による構造解析が重要だと考えている。とくに深さ方向の階層構造の情報が得られる点は有効である。今回はGI-SAXS/WAXDのトライアル実験として初めて利用させていただくにあたり、ポリマーフィルム試料とインキ塗膜について分散粒子の粒径や高次構造が評価可能かどうか測定を試みた。
(2)実験結果:
実験1:金属粒子の分散状態が異なるポリマーフィルム試料2点について測定することができた。GI-SAXS/WAXDともに2次元散乱像で見る限り試料間に大きな違いは見られなかった。GI-WAXD のOut-of-plane方向にオングストロームオーダーの周期構造を示唆する散乱像(図18)が見られたが試料のもつ構造との関連性は見いだせていない。
実験2:顔料分散状態が異なるインキ塗膜試料4点について測定することができた。2次元散乱像では試料間の違いは見られなかった。
(3)考察:
実験1:In-planeおよびOut-of-plane方向の一次元化プロファイルを算出して比較したが、試料間の違いは明確にはなっていない。さらに詳細な解析を進める予定。
実験2:一次元化プロファイルではわずかに試料間の違いが見られるが顔料凝集構造などに関連するものかどうか現在解析中。
実験1、2ともにガラス基板を用いた試料を用いたため試料面からの散乱像が適切に得られているか判断が難しい場合が多かった。GI測定で有効な実験データを得るためにはシリコン基板のほうが適切であり、測定サンプル作成において基板や試料形状のなど点で必要な改善点がわかったので今後の実験に活かしていく。
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実験[13]
妹尾 政宣 (0006158)・和泉 篤士 (0023881)・堀元 章弘 (0025462)・大塚 渉 (0025461)/住友ベークライト株式会社、
小寺 賢 (0005836)/神戸大学大学院工学研究科
(1)実験目的と意義:
結晶性ポリスチレン薄膜の基礎的知見としてGI-SWAXS測定を行った。結晶性ポリスチレンは最も新しいエンジニアリングプラスチックの一つであり、その比較的早い結晶性と特異な表面特性のため様々なアプリケーションに用いられつつある。今回Siウェハ上に結晶性ポリスチレンキシレン溶液をスピンコートすることにより厚さ数10nmの薄膜を得た。事前の反射率測定、ロッキング測定から、薄膜表面の臨界角は測定条件の0.06°より大きく0.12°より小さい範囲であり、かつ、表面はSiウェハと同様にスムーズであることが確かめられた。測定は室温及びポリスチレンのTg以上140℃、220℃で行った。
(2)実験結果:
GI-SAXSから得られた2次元画像の米田ラインをY軸に投影し、ピークトップを確認した後、ピーク幅およそ1ピクセルをX軸に投影することによりSAXS一次元図を得た(図19)。数10nmの薄膜フィルムではSAXS,WAXDともに再現性良くプロファイルが得られたが、アニール温度での保持時間が取れなかったため大きな変化は観察できなかった。一方、比較的厚いサンプル(フィルムサンプル)では入射角の違いによりSAXSプロファイルに明確な違いが観察され、予め与えた表面熱履歴に対して長周期が62.8nmから72.8nmまで変化し、与えた熱履歴と関連することが分かった。
(3)考察:
結晶性のポリスチレンは多様な結晶形態が知られており、GI-SAXSと同時にGI-WAXDを測定することにより、薄膜表面の結晶構造が内部に比べて異なるコンフォメーションを有していることが確認された。また深さが増すにつれて結晶化度が増加し、同時に長周期が増加することが確認された。これらはアプリケーションだけでなく観測しやすい結晶成長のモデルケースとして重要な特性であると考えられる。
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実験[14]
福田一徳(0006085)・野間敬(0007329)/キヤノン株式会社
(1)実験目的と意義:
ガラス系ポーラス構造体の構造評価を行う。
(2)実験結果:
散乱パターンを短時間で明瞭に観察することができた。
(3)考察:
本実験で利用したビームラインの光源はベンディングマグネットによるものであるが、十分な散乱強度を持って観察できた。検出器の位置分解能も高く、微細な散乱パターンの変化を観測できると考えられる。
より強力な光源によるフロンティアソフトマタービームラインは、同種試料の形成過程における散乱パターンの変化の追跡など、動的な測定を行う上で有用なツールとして期待される。
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実験[15]
岡田 一幸(0003679)/株式会社東レリサーチセンター、東大路 卓司(0023243)・小林 定之(0023283)/東レ株式会社、
金谷 利治(0008153)/京都大学
(1)実験目的と意義:
PET延伸フィルムは、様々な用途で使用されており、表面処理などに伴うフィルム表層の構造を調べることは、フィルムの特性との相関を調べる上で重要である。
そこで、GI-SAXS-WAXS同時測定により、フィルム表層の構造評価が可能であるのかを調べるため、X線の入射角を変えて測定を行った。
(2)実験結果:
測定試料は二軸延伸されたPETフィルム(厚さ約20μm)で、フィルム1枚をSi基板にできるだけ平坦になるように固定して測定した。
GI-SAXS-WAXSの測定は、波長0.1nmで、WAXSの検出器にFlat Panelを、SAXSにはII+CCDを用いた。試料を入射X線ビームの中心に設置するため、試料の測定面を入射ビームと平行にして、II+CCDで試料の影がダイレクトビームの位置を通るように調整した。また、入射角は、試料面での反射X線とゴニオメータの角度の関係から割り出した。測定時間は、WAXDは2秒、SAXSは10秒である。測定は、試料フィルムのMD方向と平行にX線を入射させた場合とTD方向と平行に入射された場合の二通りを行った。
図20に入射角を変えて測定したGI-SAXS像を、図21にGI-WAXS像を示す。フィルムに対する臨界角は、およそ0.1°くらいである。
PETの100面は、フィルムの法線方向に配向していることがわかる。また、分子鎖はTD方向への配向が強いため、GI-SAXSではMD方向に平行にX線を入射させたときに、長周期構造による四点散乱が観察された。
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実験[16]
鎌田洋平(0007353)・三原一郎(0025282)・勝部勝義(0008093)・浅田光則(0020114)・大倉守(0023439)/株式会社クラレ、
秋葉勇(0007693)・櫻井和朗(0005075)/北九州市立大学
(1)実験目的と意義:
(a)フィルム試料の表面構造を評価する目的でポリビニルアルコールフィルムのGIWAXS/SAXS測定を、また(b)異なる処理により形成されたブロックコポリマー薄膜の相分離構造を評価する目的でSiウエハ上にコートしたポリスチレン-ポリ(エチレン/ブチレン)ブロック-ポリスチレンブロックコポリマー(SEBS)のGISAXS測定を実施した。
(2)実験結果:
(a)平滑なポリビニルアルコールフィルム表面を得るために、フィルム試料をSiウエハ基板上に密着させた試料を準備した。事前に株式会社リガク製SmartLab装置を用いてX線反射率測定を実施し、十分な平滑性が得られていることを確認した。しかし、GIWAXS/SAXS同時測定の検討においては、光学調整で試料面が動くような挙動が見られ精密に入射角を調整した測定は困難であった。測定後の試料を見ると、X線が照射された領域近傍で、Siウエハ基板上とフィルムの間に気泡が発生していた。入射角を精密に調整できていないものの、30秒の測定でWAXS、SAXSともに十分な強度の結晶由来、長周期由来の回折ピークが得られた。
(b)SEBS薄膜(~100nm)に対して、入射角αを臨界角前後で変化させて二次元GISAXS像を取得した。得られた面内方向の一次元プロファイルにおけるピーク位置から、ミクロ相分離構造はバルクと同様にヘキサゴナルシリンダーであることが判明し、その長周期は入射角によらず一定であった。また得られた長周期はAFMによる表面の周期構造と一致するものであった。異なる処理を施した薄膜を比較すると、形成される相分離構造こそ同一ではあったが、高次ピークの減衰からその規則性は大きく異なっていることが判明した。
(3)考察:
(a)ビーム照射により観察されたSiウエハ基板とフィルム間の気泡については、高強度なX線照射により試料からガスが発生したか、あるいはフィルムが熱により変形し隙間ができてしまったものではないかと推測している。今後、フィルムの固定方法を再検討すると共に、X線照射による試料のダメージの有無についても検討を進めたい。
(b)入射角を臨界角前後で変化させて得られた長周期は入射角によらずに一定であったため、薄膜は表面と内部で周期構造の長さは変化していないものと考えている。また異なる処理によりミクロ相分離構造の規則性が変化することが確認できた。
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実験[17]
山本 諭(0015118)・三輪 洋平(0009849)・二宮 直哉(0024751)/株式会社三菱化学科学技術研究センター
竹中 幹人(0004540)/京都大学大学院工学研究科
(1)実験目的と意義:
薄膜中の結晶構造は、界面自由エネルギーの影響を強く受けるために、厚みの変化に伴って、その構造及び配向などが大きく変化すると考えられる。本実験は、GISAXS、GIWAXS実験より構造・配向の厚み依存性を解析することが目的である。
(2)実験結果:
測定試料は、分子量6000のポリエチレングリコール(以下PEGと省略)/トルエンの5 wt%溶液をSiウエハー上にスピンキャストしたものである。スピンコーターの回転数は500、2000、7000rpm(以下#rpmと表記)とした。試料厚はAFMで測定した結果、それぞれ、360 ± 40 nm、150 ± 15 nm、50 ± 15 nmであった(表2参照)。
GISAXS測定から得られたqz方向のプロファイル解析を行ったところ、#500において長周期構造由来とする散乱が高次まで確認され、D = 13 nmであった(図22)。が、#2000、#7000では同様の散乱は確認できなかった。また、GIWAXS測定では方位角方向に(210)面由来と思われるアーク状の回折が観察された(図23)。これらの回折は入射角0°の場合では#500のみ観察できたが、入射をつけることによってどの薄膜においても観察された。
(3)考察:
今回の結果から考えられる構造としては、Si基板面に対してラメラ結晶が平行に積層していると予想された(図24)。補足データとして顕微鏡観察の結果、どの試料でも結晶化していることが確認された。またGIWAXS からは、c軸平行である結晶面が赤道方向に検出できたことから、基板面に平行な成分の割合はかなり高いことが考えられる。入射角の増加によって、より薄い膜でも結晶由来の散乱が確認できたため、照射面積の増加で散乱の検出が可能であったと推測される。さらに、FT-IR解析の結果から、回転数の多い膜になる程、つまり膜が薄くなる程にPEG分子鎖が基板垂直方向に並んだ構造をとっていることが分かった。
GISAXS・GIWAXS及びFT-IR解析と併せた結論として、薄膜試料においては上記で示した構造モデルを形成していることが推測されたが、150nm厚以下の薄膜試料では異なる結晶形態を形成している、もしくは膜が薄いため散乱強度が十分でなかったためにGISAXSでは検出できなかったと考えられる。 |