• 利用目的 全固体電池は固体電解質の高い電気化学安定性に由来して高電圧動作化が期待されている.正極にLiCoO2(104)エピタキシャル膜電極,電解質に非晶質Li3PO4膜,負極にはLi金属を用いたLi/Li3PO4/LiCoO2モデル電池を作製することで,上限充電電圧4.6Vまで可逆的に充放電することを見いだし,有機電解液を用いた液系リチウムイオン電池よりも高電圧化可能であることを実証できた.一方,充電上限を4.7 Vとすると顕著な劣化が観測される.本申請では,in situ 放射光X線回折から薄膜バルクおよび界面構造を直接観察することで,高電圧充電時の劣化機構を調べることを目的とした. • 試料名、実験方法、使用装置・実験測定条件 RFマグネトロンスパッタリング法で,SrTiO3(001)単結晶基板上に,集電体SrRuO3(001),正極LiCoO2薄膜を積層した.薄膜の配向および膜厚を,実験室における薄膜X線回折・反射率測定で調べ,膜厚約50 nm程度のSrRuO3(001)膜,LiCoO2(104)膜がエピタキシャル成長したことを確認した.さらにRFマグネトロンスパッタリング法で固体電解質Li3PO4,真空蒸着法でLi負極を積層させることで薄膜電池を得た.薄膜電池は封止したうえで,SPring-8 BL22XU側室に設置されているアルゴン置換グローブボックス内に持ち込み,自作のX線透過型真空セルに設置し,プローブと接続した.その後,真空セルをBL22XUハッチ内に移動させ,κ型多軸回折計に設置後,真空ポンプと接続,測定時真空引きすることで,Li負極の大気劣化を抑制した.セル付属のBNC端子を通じて,薄膜電池を電気化学測定装置(SP-200, Biologic)と接続することで,充放電状態を制御した. X線のエネルギーは15 keVであり,NaIシンチレーションカウンター検出器を用いた.各充放電状態におけるout-of-plane 104, 003反射を測定した.電流値1.7 µA,カットオフ電圧3.0 - 4.7 Vで定電流充放電を行いながら,XRD測定を実施した. • 測定内容、結果の概要 Fig. 1に電圧範囲3.0 - 4.7 V(vs. Li+/Li)で測定したLiCoO2/Li3PO4/Li薄膜電池の定電流充放電曲線を示す.初期サイクルでは200 mAh/g以上の高容量を示すものの,サイクルとともに顕著な容量減少,過電圧の増大が観察された.Fig.2に2サイクル充放電前後に測定したLiCoO2正極のin plane 01-4反射のXRD図形を示す.入射角を臨界角θc以下(~0.5θc)およびθc以上で回折測定することで,表面近傍およびバルク領域の結晶構造変化を調べた.4.7 V充電後において,バルク01-4反射は高角シフトし,強度が減少した.Li脱離初期においてはCoO6層間酸素の静電反発増加によるLiCoO2格子は膨張し,さらにLiを脱離することで格子収縮することと一致し,充放電曲線で観測された高容量がLiの脱挿入反応によるものであることが構造変化から確認された.放電3.0 Vにおいて反射位置は4.7 V充電前と同じ角度に戻ったものの,回折強度が減少した.さらに,表面領域においても同様の回折図形変化が観測された.これより構造の不可逆変化は界面副反応ではなく,Li1-xCoO2自身に由来することと考えられる.以上より,全固体電池の高電圧動作時における結晶構造変化のその場観察から,全固体化によるLiCoO2正極の高電位領域反応の利用上限が4.6 Vであることを明らかにした. |