1.概要 超スマート社会の実現に向けて,センサや生体用デバイスといった小型デバイスを,電源系統からの給電が困難な環境下でも使用できるようにするため,環境中のエネルギーから発電できる自立電源の開発が望まれている.光エネルギーで直接充電することができる自立電源として,「光蓄電池」が期待されているが,光照射時に発生する正孔が電解液由来の光腐食反応を引き起こすため,サイクル特性が悪いことが課題であった.我々は,光腐食反応の発生源である電解液に替えて,高い酸化耐性を有する固体電解質Li3PO4に着目し,正極にTi0.95Nb0.05O2エピタキシャル膜電極,および負極にLi金属を用いたLi/Li3PO4/Ti0.95Nb0.05O2電池では課題となっていた光腐食反応を抑制できることを見出した.リチウム電池の正極としてTiO2を用いた場合,放電時にはLiが挿入されたLixTiO2相が生成すること,充電時にはLiが脱離し可逆的にTiO2へと相転移することが知られている.また,Ti0.95Nb0.05O2電極では,光照射時に光充電が進行することを光電気化学測定から確認しており,光充電容量はLixTiO2からLiが脱離し,Lix -δTiO2になることに起因すると考えられている.しかし,光蓄電現象は電極自身にイオンが脱挿入することで反応中に半導体電極の化学組成が変化するため,光充電由来の酸化電流がはっきりと観測できる全固体光蓄電池であっても,従来の光電気化学測定のみによる反応解析には限界があることを認識した.そこで本課題では,紫外光照射下で光電気化学測定を行いながらin situ X線回折測定を行うことで,電極/固体電解質界面構造をその場観察する測定手法を開発し,光充放電中における電極の結晶構造変化を調べることで光蓄電現象を明らかにすることを目的とした.
2.実験方法 パルスレーザー堆積法で,LaSrAlO4(001)単結晶基板上に,集電体CaRuO3(101),正極Ti0.95Nb0.05O2(004)薄膜を合成した.薄膜の配向は,薄膜X線回折測定で同定した.X線反射率データの解析から,Ti0.95Nb0.05O2(004)膜が約44 nmであることを確認した.作製した多層膜上に,マグネトロンスパッタ法で固体電解質Li3PO4,真空蒸着法でLi負極を積層させ,薄膜電池を作製した.In situ X線回折測定は,BL46XUに設置された多軸回折計(HUBER社製)およびNaIシンチレーションカウンター検出器を利用し,薄膜電池が取り付けられた自作真空セルを回折計に固定することで行った.X線のエネルギーは15 keVとした.365 nmの紫外光を発する光充電用LEDと薄膜電池の電流,電圧をハッチ外から制御することで,光電気化学測定を行った.Ti0.95Nb0.05O2(004)膜のout-of-plane 004反射,in-plane 240反射から,光充放電による電極の結晶構造変化を調べた.
3.結果と考察 図1にTi0.95Nb0.05O2のout-of-plane 004反射,図2にin situ X線回折測定中の電気量の時間変化を示す.Out-of-plane 004反射は,3.0 V充電後,4.5 V充電後よりも1.0 V放電後が低角度側に観測されたことから,Ti0.95Nb0.05O2は放電時のLi挿入により,c 軸が膨張することがわかった.TiO2ナノ粒子にLiを挿入した場合,c 軸は収縮することが報告されている[1].単結晶基板に格子が規制されたエピタキシャルTiO2膜では,Li脱挿入時の結晶構造変化が異なることがわかった.3.0 V光充電時,紫外光照射により酸化電流の立ち上がりを観測され,電気量の増加を確認したが,光照射前後でout-of-plane 004反射,in-plane 240反射の変化は観測されなかった.そこで,より大きな光充電容量が確認されている4.5 Vにて光充電を行った.4.5 V光充電時,紫外光照射により3.0 V光充電時よりも大きな酸化電流の立ち上がりが観測され,電気量の増加を確認したが,光照射前後でout-of-plane 004反射,in-plane 240反射の変化は観測されなかった.電気量が増加したにもかかわらず,光照射によるLiの脱離は検出されなかったことから,紫外光照射による光充電容量は,固体電解質Li3PO4の酸化に起因することが明らかとなった.以上より,X線回折法を用いて全固体光蓄電池の界面構造をその場観察できる測定手法の開発に成功し,光充放電中における構造変化から詳細な反応機構解明が達成できることを確認した.
[1] M.Wagemaker et al., J. Am. Chem. Soc., 125, 840-848 (2003). |