1.概要(Summary) 不燃性固体電解質を用いた全固体電池は,安全性や出力特性が高いと期待される一方,電極と電解質の界面抵抗が大きい課題があるために,界面現象理解が重要となっている.我々はこれまでに薄膜モデル界面と放射光X線表面散乱回折を用いた界面構造のその場観察手法を確立してきた.本申請では,電極/硫化物固体電解質の界面構造変化をその場観察する計画であったが,COVID-19の影響でin situ X線回折測定を断念し,ex situ X線回折測定を代行実験で実施した.Ex situ測定では試料搬送に時間がかかり,硫化物固体電解質の劣化が懸念されるため,比較的安定な酸化物固体電解質Li3PO4を用いた薄膜電池の界面測定をした.正極にはTi0.95Nb0.05O2エピタキシャル膜電極,負極にはLi金属を用いたLi/Li3PO4/ Ti0.95Nb0.05O2電池を作製し,全固体光蓄電池反応前後におけるTi0.95Nb0.05O2電極の結晶構造変化を観察した.この系では光照射時にLiが脱離する光充電が生じることが光電気化学測定から示されており,光照射前後のX線回折図形の構造変化による実証したうえで,反応深さを明らかにすることを目的とした. 2.実験(Experimental) パルスレーザー堆積法で,LaSrAlO4(001)単結晶基板上に,集電体CaRuO3(101),正極Ti0.95Nb0.05O2(004)薄膜を合成した.薄膜の配向は,薄膜X線回折装置によるX線回折測定で同定した.X線反射率測定から,CaRuO3(101)膜が約34 nm,Ti0.95Nb0.05O2(004)膜が約56 nmと評価した.作製した多層膜上に,マグネトロンスパッタ法で固体電解質Li3PO4,真空蒸着法でLi負極を積層させ,薄膜電池を3つ作製した.試料は,光充放電を行った後,SPring-8に持ち込んだ.光充放電サイクルの終了は,試料ごとに異なる点で止め,1) 暗所3.0 V充電後,2) 3.0 V光充電後,3) 暗所1.0 V放電後の3点で行った. Ex situ X線測定は,BL22XUに設置されたκ型多軸回折計およびNaIシンチレーションカウンター検出器を利用し,薄膜電池が取り付けられた自作真空セルを回折計に固定することで行った.X線のエネルギーは15 keVとした.Ti0.95Nb0.05O2(004)膜のOut-of-plane 004反射,in-plane400反射から,光充放電による電極構造変化を観測した. 3.結果と考察(Results and Discussion) 図1にTi0.95Nb0.05O2のout-of-plane 004反射,図2にin-plane 400反射のX線回折図形を示す.Out-of-plane 004反射は,暗所3.0 V充電後よりも暗所1.0 V放電後が低角度側に観測されたことから,Ti0.95Nb0.05O2は放電時のLi挿入により,c軸が膨張した.In-plane 400反射は,暗所3.0 V充電後よりも暗所1.0 V放電後が高角度側に観測されたことから,Ti0.95Nb0.05O2は放電時のLi挿入により,a,b軸が収縮した. TiO2ナノ粒子にLiを挿入した場合,c軸は収縮,a,b軸は膨張することが報告されている[1].単結晶基板に格子が規制されたエピタキシャル膜TiO2では,Li脱挿入時の結晶構造変化が異なることが分かった.3.0 V光充電後のout-of-plane 004反射は,暗所3.0 V充電後よりもLi挿入方向の低角度側に観測された.非照射3 Vと比べてc軸方向に膨張し,Li量が多いことが示唆された. In-plane回折からも同様に多くのLiが格子内に存在することが示唆されており,光充電によるLiの脱離を確認することができなかった.入射角を変化させた表面回折測定も同様の結果であった.原因としては,試料搬送時に電池が自己放電してしまい,Li電圧が保てなかったと考えられる.以上より,酸化物系全固体電池の界面構造を観察し,Li脱挿入前後における構造変化から現象解析できることを確認した.光照射前後の構造変化,正極/硫化物固体電解質界面の現象解明に向けては,次回以降にin situ測定を実施することで,新たな知見が得られることが期待される.
[1] M.wagemaker et al., J. Am. Ceram. Soc., 123, 840-848 (2003). |